お姫様はお姉ちゃんだよ
コーヒーカップに移り、ゆっくりとクルクル回っている。
回しているのは私です。
「ねぇねぇ、いろはさん。これからはいろはお姉ちゃんって呼んでいいですか~」
「あらいいわよ」
「わぁい、ありがとうございま~す」
対面に座っているいろはちゃんとバニラが先ほどからラブラブなんです。
あの、今回はいろはちゃんが私のとこにくるんじゃ……。
「あ、お姉ちゃん回すの変わりましょうか?」
バニラがハンドルに手を伸ばす。
なんとなくやりたいことはわかったので牽制しておく。
「バニラ、高速回転はダメだよ?」
「えへっ」
やっぱりか。
「あなたは私の腕の中にいなさい」
そしていろはちゃんの元へ連れ去られる。
頬ずりとかして幸せそう。
私もモフモフしたいよ~。
そのままクルクル回って、そろそろ終わりの時間が近づいてくる。
あいかわらずむこうのふたりはラブラブしている。
「いろはお姉ちゃんもあんまりおっぱいないですね」
「私まだ10歳よ? これから大きくなるんだから!」
「私が揉んであげましょうか?」
「だ、だめよっ。私、初めてはかなでさんって決めてるんだから」
「君たち何の話してるの!」
けしからんな、まったく。
私が揉んであげようじゃないか。
「そろそろ終わると思うから、次何乗るか考えといたら?」
「そうですね」
「いろはお姉ちゃん、お城行きたいです~」
「お城? あれのこと?」
話の軌道修正完了。
ふたりはお城のほうを見ながら、あれこれ話を進めている。
しかしお城がいっぱいあるテーマパークなのと、
コーヒーカップが回転しているせいで場所が定まらないようだ。
「あぁ、目が回ってきました……」
「いろはお姉ちゃんっ、弱すぎですっ!」
……。
コーヒーカップが終わってから、ベンチへ移動。
「大丈夫?」
「はい、もう大丈夫ですよ」
たいしたことないみたいでよかった。
「次はストーリ仕立てのアトラクションなので平気だと思いますよ」
「あ、どこ行くか決めたの?」
「この2番のお城です」
バニラがパンフレットを見せながら、アトラクションを指さす。
お姫様がお城から脱出するゲームか。
さっそくお城のほうへ歩き出す私たち。
いままで入り口のほうにいたので、
中に入っていくと本当にいろんなものがある。
「あそこでクレープ売ってますよっ」
「ソフトクリームもありますね」
「寄っていく?」
スイーツに目を奪われるバニラをみて、
私は寄り道を提案する。
「ううん、みんな揃ってからにします」
バニラは首を横に振り、誘惑を断ち切る。
我慢するバニラも可愛かった。
しばらく進むとカート乗り場が目に入った。
私たちがその隣の道を進んでいると、
カートが1台、柵のむこうに止まり、聞きなれた声がした。
「やっほ!」
「ユウキ! カートに乗ってるんだ?」
ユウキ、最近なかなかアクティブだね。
ヒッキーなのに。
「マロンに付き合って乗ってみたら結構おもしろんだよね、これ」
「へぇ」
「じゃあね、また後で」
「うん、気をつけてね」
ユウキは敬礼するとカートを発進させる。
結構なスピードでてるなぁ。
「あっちもちゃんと楽しめてるみたいだね」
「私たちも行きましょう」
「お姉ちゃん、あそこですよっ」
指さすほうにお城の門が見える。
近くまで来るとさすがの大きさ。圧倒される。
中に入るとお姉さんにお姫様役を決めるよう指示される。
それ以外の人は護衛の魔法使い役になるらしい。
お姫様ってこっちでやるんだ。
ぼっちだったらお姫様ひとりの脱出になるんだろうか。
「どっちがお姫様やる?」
私が問うと、ふたりは顔を見合わせ笑い、
「お姫様はお姉ちゃんだよ」
とバニラが言った。
予想していなかった答えに少し戸惑ってしまう。
「かなでさんっていつも王子さまみたいな立場になりますから」
「お姉ちゃんってしっかりしてるから、みんな甘えちゃうんですよね」
「そ、そうだっけ?」
なんだか褒められるとくすぐったい。
「お姉ちゃん、見た目は可愛いし、ふんわりボーっとしてるし、
背も低いし、ノーマウンテンだし」
最後のいらなくない?
私たち三人とも大差ないから、チームノーマウンテンだから!。
「お姉ちゃんは本来、守られる側の人ですよ」
「なので今回は私たちがかなでさんを守ります」
そっか、いつのまにか保護者みたいになってたけど、
本当は誰かに甘えたいんだ。
だからあの時……。
「よし、ふたりに甘えてお姫様やっちゃおうかな」
『はいっ!』




