あ~あ、お姫様タイムが終わっちゃいましたね~
いろはちゃんとバニラの希望でメリーゴーランドにむかう私達。
お客さんが多い割にあまり待たされることなく乗ることができた。
しかし私の悪いところなのかも知れないけど、
こういうのって楽しいより恥ずかしいかな……。
乗り物にまたがってしばらくそんなことを考えていると。
「んしょ」
バニラが当然のように私の前に座った。
「バニラ、何してるの?」
「バニラ~、さっきから何なの~」
いろはちゃんがめずらしく怒っている。
そういえば前まではこういうのって、いろはちゃんがやってたなぁ。
懐かしい。最近は大人になったというか、甘えてくることが少なくなったんだよね。
なんかさみしい。
「ここは私の番です、次はいろはさんの番でダメですか?」
「むぅ~、わかりました……」
いや、私の意志は?
「さあ動きますよ」
ゆっくりと動き始めるメリーゴーランド。
私はバニラが落ちないように片腕で抱き寄せる。
腕の中で、もそもそ動いてくすぐったい。
ちっちゃいなぁ、可愛い可愛い。
ふと、いろはちゃんが気になり振り返ると、
後ろの乗り物にいなかった。
あれ、確かこの乗り物にいたはず……あっ!
いろはちゃんはわざわざ大きな馬車の乗り物に移動して、
端っこのほうにちょこんと座っていた。
しかもスマートフォンをいじってるし。
と、いろはちゃんの方をずっと見ていたら、
バニラがぐりぐりと頭を押し付けてくる。
「お姉ちゃんっ、よそ見禁止です!」
「ご、ごめんね」
いけないいけない。
今はバニラをお姫様にしないとね。
よそ見禁止と言われたばかりで、
まわりを見回すと、みんな楽しそうに笑っている。
その雰囲気が私にも伝わってきて、
不思議と楽しいと思えてきた。
入場前にも感じたこの気持ち。
これが人が人を必要とする理由なのかもしれない。
「お姉ちゃん、楽しいですか~」
そうバニラに聞かれる。
今なら本心で答えられるよ。
「そうだね。バニラと一緒だから楽しいよ」
私が答えると、バニラは今日一番の笑顔を見せてくれた。
「私もお姉ちゃんと一緒だから楽しいですよ~」
「あ~あ、お姫様タイムが終わっちゃいましたね~」
メリーゴーランドから戻り、少し休憩。
バニラは名残惜しそうにしながら、ベンチに腰を下ろす。
そしていろはちゃんにもたれかかる。
「あら、どうしたの、バニラ?」
「なんか私だけ楽しんじゃったかなって」
「そんなことないわよ、私も楽しかったわ」
「でも、ケータイいじってたし」
「あれはお母さんからメールが来てたのよ」
あれ、そうだったんだ。
「じゃあちゃんと楽しかった?」
「うんっ」
いろはちゃんの言葉に安心できたのか、
ぱっと笑顔にもどるバニラ。
「よかったぁ」
「優しいのね、バニラは」
いろはちゃんはバニラの頭をなで始めた。
バニラも気持ちよさそうにしている。
「えへへ~」
「バニラ、やわらかいのね」
バニラは人の姿でもモフモフしてて気持ちいいんだよね。
すっごくやわらかくて、抱き枕代わりにしたいくらい。
そのやわらかさの虜になったのか、
いろはちゃんはバニラを抱きしめ、なでなでを続けている。
「いろはさんっ、ちょっと、ダメです~」
バニラが声をあげると、はっと我に返ったようで。
「あら私ったらいけないわ」
解放されたバニラはぐったりとしている。
私もモフモフしたいけど今はやめておこう。
今夜抱き枕になってもらお~っと。
「はぁ、それより次はいろはさんが行きたいとこ決めていいですよ」
バニラに言われてまわりを見回すいろはちゃん。
あの、私には聞いてくれないの?
「じゃあコーヒーカップにします」
といって、私のほうに視線を送ってくる。
私は頷いて返事をする。
立ち上がりコーヒーカップのほうへむかう。
ふたりが私に寄り添ってくる。
両サイドにやわらかいぬくもりを感じて
幸せな気持ちになりながら歩いていった。




