かなで、私と一緒に新しい世界を作ろう!
「……お~い、生きてる~?」
「……」
どこかの誰かにほっぺたをつんつんされている。
体がまったく動いてくれない。
私は地面に倒れこんでいるようだ。
少しずつ感覚が戻ってきて指が動くようになった。
頭がじんじんと痛む。
「生きてる……のかな」
ようやく声を出すことができた。
「起きれる? つかまって?」
「もうちょっとだけ待って……」
私はまだ姿も見てない相手と会話をしている。
どこかで聞いた声だなと思った。
でも誰のものなのか思い出せない。
体が少しずつ動くようになっていく。
「ごめん、手を貸してもらっていいかな」
「うん、どうぞ」
誰かの手を借りながら、なんとか体を起こしていく。
そこで初めて声の主の顔を見た。
見たというか、見えていたのに認識できなかった。
頭が回っていなかったのだろうか。
その女の子の顔はなんと私だった。
「あなたは一体……」
「私はルナだよ」
「あ、私はかなでです」
私が名乗ると、ニコッと笑顔を返してくれた。
無邪気ないい笑顔だと思った。
私の笑顔もあんな風に見えるのだろうか。
「ルナって、もしかして私の分身だったりする?」
同じ顔なので、失礼とは思いつつ気になったことを聞いてみた。
「う~ん、どちらかというとかなでが私の分身かな」
「そっか……」
まあ、今更傷ついたりはしないよ。
でもどれだけ複雑なんだろうか、私の生まれは。
つまりはこの子を元にして、お姉ちゃんから生み出されたのか。
それとも生まれた後にふたつに分かれたのか。
「そういえば私のこと呼んだよね?」
鳥居のところで聞こえた声はこの子のものだと思う。
自分の声と同じわけだけど、なかなかわからないものだ。
「呼んだよ、助けて欲しそうだったから」
「何が起きてたのかわかる?」
「世界が生き残るために、みんなから魔力を吸い上げてるんだよ」
「え……」
じゃあみんなは魔力をどんどん失って、自分が壊れたまま消えていくってこと?
「あの世界はもう少しで消えてなくなる」
「そんな、せっかくここまで頑張ってきたのに、間に合わなかったんだ……」
「かなで、私と一緒に新しい世界を作ろう!」
「へ?」
新しい世界を作る?
「君が夢見た世界を作るんだよ、それが君の生まれてきた本当の理由なんだから」
「生まれてきた、本当の理由……」
困惑する私の手をルナがそっと握ってくれた。
すごく不思議な感覚がする。
でも、とても落ち着いていった。
「私は何をしたらいいの?」
よくわからないけど、選択肢なんて初めから存在しないようなものだ。
新しい世界を作るか、消えてなくなるか、どちらかしかない。
なら、やるしかないよね。
「かなでは何もしなくていいよ」
「あれ、そうなの?」
何もしなくても世界が作れちゃうのか。
「もっと世界をイメージしたりとか、そういうのがあるのかと」
「かなでの中にある理想の世界を作り上げていくんだよ」
「それはちょっと怖いね」
「安心していいよ、心のきれいな人にしかできないようになってるから」
心がきれい?
それ、自信ないんだけどなぁ。
「じゃあ、始めるよ!」
「うん!」
ルナの合図で新しい世界作りが始まる。
と思った。
しかし始まったのは熱い口づけだった。
また体が動かなくなっていく。
意識がぼんやりとしてきて、そこに他の意識が混ざってくる感覚。
ルナとひとつになろうとしている。
そんな気がした。
私たちふたりのまわりを魔力が渦巻いている。
そして虹色の光があたりを染めていく。
モカさんと結界を張った時に似ている。
しかし今回のは規模が桁違いだ。
光がどんどん強くなり、私の目にはもう真っ白な世界しか映らなくなった。
地面も何もわからない浮遊感に包まれる。
ルナとひとつになった感覚がある。
そのルナの声が、直接頭の中に聞こえてきた。
『うまくいったよ、かなで』
「そっか、よかった……」
『きっと君にとっての楽園だよ』
「それは楽しそうだね、ところで一緒に胸がボインになるように祈っておいたんだけど叶ってるかな……」
『あはは、安心して、かなでは一生平地のままだよ』
「そっか、それはすごく残念だね……」
『……じゃあ、お別れだね、かなで』
「もう会えないのかな……」
『一生一緒にいるよ、私たちはふたりでひとりだから』
「うん、ありがとね、ルナ……」
そして私の意識は光の中に溶けていった。




