神様~! おいでませ~!
「え、あれ? ここモカさんの部屋ですか?」
「違うわよ、借りてるだけ」
「いやいやいやいや」
御神体を安置する神聖な領域であるはずの本殿内部。
そこに広がる、無数の私のグッズ。
モカさんの部屋と同等、いやそれ以上だ。
怖いよ~、もうやだよ~。
「こんなことして大丈夫なんですか~?」
「大丈夫よ、なにも祀ってない神社だから」
そういうことじゃないんだが……。
「さあ、神様にお祈りしましょうか」
「祀ってないんじゃないの?」
もういいよ。
もういいや。
私たちはモカさんの指示に従い、それぞれ配置につく。
本来なら御神体が入っているはずの御扉の前に5人が並ぶ。
私が真ん中で、左にいろはちゃんとお姉ちゃん。
右にハノちゃん、モカさん。
「あの……、私は?」
何も指示がなかったさくらさんがモカさんに尋ねる。
「さくらさんは見張りをお願いします」
「え~」
ちょっと不満そうだったけど、ちゃんと見張りのため外に出て行った。
私たちは隣同士で手をつないでいく。
「神様~! おいでませ~!」
つっこまない、つっこまないぞ……。
モカさんの変な声に反応し、巻物のようなものが垂れてきた。
扉の中じゃないのか……。
垂れてきたものは、なんと私のグッズ。
ちょっぴりエッチな巨大タペストリーだった。
どんな感じでエッチなのかはここでは伏せておこう。
しかし、なんだこれは……。
私のグッズはどこかで流通してるんだろうか。
「さあ、祈をささげましょう」
モカさんがやさしい声で言った。
目を閉じてお祈りする。
きっと知らない人が見たらおかしな奴らだと思うことだろう。
私がこれに出くわしたら、間違いなく逃げる。
ハノちゃんやいろはちゃんはどう感じてるんだろうか。
ちらっと隣のいろはちゃんを見てみる。
……へ?
なんと涙を流している。
なにがあったの?
そんなに恥ずかしかったの?
反対側のハノちゃんを見る。
……ええ!?
こちらも同じく、いやもっと強く涙を流している。
どうしよう、もう帰りたい。
「さあ、帰りましょうか」
やった~!
祈りが通じたよ~!
というか、これだけですか?
世界はどうなったの?
「世界、救っちゃいましたね、私たち」
やりきった感のある顔でハノちゃんが言った。
え!?
もう終わったの?
いつの間に救っちゃったの?
みんな満足そうな顔で本殿を出る。
モカさんが鍵を閉めて一言。
「かわいいは世界を救う、かなでさんは神様ね」
その言葉にみんなが「うんうん」と頷いている。
何なの?
わかってないの私だけ?
でもどうやら私は世界を救っちゃったらしい。
……いや、おかしいでしょ。
だって魔力を一度も感じなかったし、世界は変わらずセピア色だ。
つまりセツナさんはまだ魔法を維持する必要があると思っているんだ。
「ふふふ」
その時、お姉ちゃんが突然小さく笑い出した。
それが他の者たちにも広がっていく。
「かなで様! かなで様! かなで様!」
突然、謎の掛け声が始まる。
やばいやばいやばいやばい!
「あ、そ~れ! あ、そ~れ! あ、そ~れ!」
あ、そ~れ! じゃないよいろはちゃん!
みんながおかしくなってる~!
手遅れだったのか……。
みんなは、世界は、壊れちゃったの?
あまりの恐怖で私の心も壊れそうだよ。
境内の真ん中で手を取り合い、輪になって踊っている。
「かなで様! あ、そ~れ! かなで様!」
怖いよ~!
私は目の前の現実からいったん逃げることにした。
気付かれないように走り出し、神社入り口の鳥居をくぐる。
『待って!』
その時どこからか不思議な声が聞こえた。
だがしかし、今は待てないよ。
『待って!』
さっきよりもはっきりと聞き取れる。
それと同時に地面が揺れ、視界が歪む。
めまいのような症状だ。
これはまずい……。
そのまま意識が飛んだ。




