これでこちらの世界は救えたんですね
モカさんの転移魔法でお姉ちゃんの家まで戻ってきた。
空間を越えて転移できるこのすごさ。
私も何度か挑戦したけど、魔法自体が発動しなかった。
モカさんにだけは、一生かかっても追いつけない気がする。
「かなでさん!」
「ハノちゃん! ごめんね、ひとりにして」
「さみしかったです~」
甘えん坊さんな嫁がすり寄ってきた。
そんな嫁をぎゅっと抱き寄せて頭をなでる。
「あれ~? 私も一緒にいたんだけどな~」
後ろからさくらさんのつぶやくような声が聞こえた。
そうだった、すっかり忘れてた。
ハノちゃんとふたりきりだったなんて、危険極まりないよ。
「かなでさん、ちょっとこっちに来て」
「あ、は~い」
バルコニーからモカさんが私を呼んでいる。
ハノちゃんをソファに座らせてモカさんのもとへむかう。
「まずはこの世界の結界を新しく張り替えてしまうわね」
「はいっ」
といっても、私は何をすればいいのかわからないんだけどね。
「モカさん、私はどうすれば?」
「翼をだして、私の手を握っていて」
言われた通り翼をだして、モカさんの正面に立つ。
そしてむき合いながらお互いの手を重ねる。
モカさんは目を閉じ深呼吸をする。
その瞬間から少しずつまわりの空気が澄んでいくような感覚がした。
私とモカさんの体が光り始める。
前にも同じようなことがあった。
お風呂場でお姉ちゃんを助けた時だ。
モカさんの背中に翼が現れる。
それは私やいろはちゃんとは少し違い、青紫に輝いていた。
私の翼も青白く光り、モカさんのものと一体化していく。
まわりを魔力が渦巻いている。
そして一気に辺りが真っ白になるほどの強烈な光が放たれた。
「……ふぅ、うまくいったわ」
モカさんはつないでいた手を放し、小さく息を吐いた。
私の中に今起きたことや結界の張り方などの情報が流れてくる。
「これでこちらの世界は救えたんですね」
「そうね、次はあなたたちの世界よ」
「はいっ!」
バルコニーから部屋に戻ると、みんながぼうぜんとこちらを見ていた。
「どうしたの?」
私は一番近くにいたいろはちゃんに声をかける。
「いえ、何かすごいことをあっさりと終わらせたなって」
「そうだよね、まぁ私はほとんど何もしてないけど」
私はモカさんの言うとおりにしてただけだ。
なにもすごいことはしていない。
「これで終わりなの?」
さくらさんが、信じられないといった顔でモカさんの前に立つ。
「そうですね、これで少なくとも滅びはしません」
「そっか……」
モカさんの言葉を聞いて、さくらさんは少し寂し気な表情を浮かべていた。
なんでだろう、喜ばしいことじゃないのかな。
この後5分ほど休憩をして私たちの世界へ転移した。
むかった先は、あの山の上の神社。
不思議な感じのする場所だとは思ってたけど。
「さあ、攻め込まれる前に終わらせましょう」
「時間止まったままで大丈夫なんですか?」
「ええ、問題ないわ」
私たちの世界は、まだ時間が止まったままでセピア色だった。
モカさんを先頭に、その後ろをみんながついて歩いていく。
その先にはまわりよりも少しだけ大きい鳥居がある。
でもそのむこうには何の建物もない。
もしかして山の方に入っていくのかな?
そう思いながら鳥居をくぐった瞬間、目の前に突然建物が現れた。
おそらく神社の本殿だ。
「わわっ」
「ここが本物よ」
本物?
ということは、前にチョコたちと一緒に入ったのは偽物だったってことか。
「今、鍵を開けるわ」
モカさんは錠の前に立ち、ローブの内側から何かを取り出し鍵穴に入れた。
私は見てしまった。
みんなそれを鍵だと思っているだろう。
しかしそれはただの針金だった。
いや、多分ここの鍵はそれでは開かないと思う。
魔法とかもかかってるだろうし。
「さあ、どうぞ」
開いちゃったよ!
私たちはモカさんとともに本殿の中に足を踏み入れた。
「なんじゃこりゃ~!」
そしてみんな固まった。




