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Aurum Online [Shooter]  作者: 亜空間会話(以下略)
第五章 Señorita
99/120

#099 Naturaleza dual

 youtubeで私が怪人好きをこじらせた原因であること間違いない「仮面ライダーファイズ」が配信されていたので見ました。そこで大きな影響を受けた「フライングフィッシュオルフェノク」(トビウオの怪人、スーツは3,4話あたりの怪人の改造らしい)が登場! これは来たヤバいうおおお!


 と思ったら、ただの肝っ玉小さい不審者だった。なんでやねんッッ!?!? 影響を受けて「ボウガン持ってる魚怪人」は絶対外せんと思ったのに(理不尽


 どうぞ。

「晩飯はどこで食うんだ?」

「ツラ付き合わせて飯食うのはごめんだぞ」


「ひどいな、お前は」

「周り見ろボケナス。同じに見られてーか」


 かなり強そうな装備を着た男と、守られるタイプの女がにこにこしながら一緒に歩いている。夏のイベントで七日間も一緒に過ごすのだ、かなり親密なのだろう。


「……あの中に、お前と同じのが……」

「ちげーよアホ。男女が連れだってっと恋人同士に見えるだろうが」


 こいつ、本物のアホか。いや、守り守られるのが性別で逆になっているカップルもいるので、俺と同じようにデジタルTSしているやつもまあいるのだろう。もしくは最初から逆なのかもしれないが。


「まあ、そういうことなら仕方ないな」

「おう。俺も適当に一人で食うから。店くらい紹介しようか」


「イベントマップだったろう、ここ」

「ああ、そうだっけな」


 まあ、一通り街巡りはして、飲食店っぽいところも見つけてはいるのだ。ざざっと掻き込めるものがいいので、晩ご飯はそれっぽい麺類にでもしようと思っている。以前Jが食べていた牡蠣ちゃんぽんとかどうだろう。……ちょっと濃いかもしれない。普通の暖かい蕎麦とかどうだろう、美味しいんじゃ…… いや、夏には微妙に合わないような気がする。


 とりあえず灰朝真に役立ちそうな(つまり俺には必要ない)アイテムを渡して、俺は街中をほっつき歩く。今のこの姿で大丈夫かなとは思うが、決闘を挑まれてもPKCとかのバケモノ相手じゃなければ勝てるだろう。


「おいっす?」

「誰だお前ら」


 いやいや見たら分かるでしょ見たら、とエンブレムっぽいものが刻まれた鎧の紋章っぽいものを指さす。特に見たことのない紋章だが、まあその筋で有名とか、裏社会で幅を利かせてるとか言い出すんだろう。知らんが。


「……誰だ、だから。そんな紋章は見たことないな」


「初対面の人には自己紹介しましょうってことね、はい。ギルド「紅蓮隊」のテツマっすよろしくぅ。今回のキャンプで意図せずネカマが大量に出たじゃん? それを利用して一人歩きしちゃおうという女の子がいま釣りどきなのよ。口調だけ似せてもまる分かりだからさ、ついてきてくんない?」


「……俺、マジもんの男なんだが?」

「いやいや、だからね! 話聞いてた?」


「うん、お前らの思考には限界があるって分かった。まず女が女である保証がないのに女を漁ってる時点でアレだろ。そこの美人さんも釣ったんだろうけど、自信なげで妙にどきどきしてるのは…… マジで女とは思えないが」


 都合いいから寄生してやろうくらいしか考えていないんだろう。他人が服を脱がせるのは不可能だし、男女が同じベッドに寝ることはできてもできないこともある。


「なあ、中身男ならさ…… 装備破壊でむりやり裸にできるっつったら、やめといた方がいいの分かるんじゃねえの?」


「え、マジ!?」


 どうやら女っぽい。が、こいつはあんまり考えてなかったらしい。


 決闘で、ルールを決める前に攻撃が始まると無法地帯になってしまう、とかいうガバガバすぎるモードがあったりするのだ。装備を丁寧に破壊して本体にあんまり傷を付けなかった場合、少なくとも嫌がらせくらいにはなるだろう。できないことはできないので心配ないと言えばまあそうでもあるのだが、かなりくるものがあると思う。こういうところでゲームがめんどくさくなるのは嫌だ。


「愚連隊って意味知ってるか? 馬鹿の集まりってことだぞ」

「いやいやそこは紅蓮の炎的な熱い心を持った青年たちの集まりでしょ」


「イベントだからって女釣るような、か。見下げ果ててんな」

「うーんこの。も、力尽くでやっちゃうか」


 決闘の申請が飛んでくる。と同時に、攻撃も飛んでくる。大きめの剣を振り下ろしたのはいいが、特技でもないのに避けられないはずがない。


「おお、知ってんのか」


「そりゃもう抜け穴探しまくってるし? 何なら例のプレイヤーキラー・カウンシルも相手取れるし? 大剣ぶん回すだけのアホもいるって話だし?」


 わざと攻撃を避け続けてみる。体力を消費する、ということ自体は起こらないが「疲労度の蓄積」という現象があるのだ。ゆっくり歩いたりちょっと休憩するだけですぐに回復するから、普段ならそんなに心配はいらない。ダンジョンに潜っているときも、回復アイテムを山ほど持っていくのでなおさら心配いらない。


 ただ、攻撃を弾かれると疲労度はかなり蓄積する。それが原因でスタンが起こったり、一時的な疲労状態になったりするのだ。これだけ地面を叩きまくっていては、疲労度の蓄積も普段の倍以上の速度になってくるだろう。


「どうした? キリストみたいに壁に磔けてやろうか」

「うっさい。んなに乳揺れ連発されたらもうこれ我慢限界っすわ」


 分かっちゃいるんだが、避けるときの急制動は髪の毛がばさばさ流れるうえにでかい胸もかなり揺れる。相手の男的な本能のナニを刺激したのかもしれない。


 そして振り下ろされた一撃が俺の肩を掠め。


 剣が大きく弾き返される。


「……バグ扱いだったんだな」

「マジでクソゲーだわ…… 死ねよ運営」


 さっき言ったガバガバすぎる「無法地帯決闘」がどうやら今しがた修正されたらしい。都合が良すぎると思うのだが、攻撃してない俺は責められる理由がないのか。うん、卑怯。


「ひゃっほーい!!!」


 紅蓮隊のテツ…… なんだったか、てつ何とかが押しつぶされる。


「なにこの俺ルール!? クソゲーだよクソゲー、運営仕事しろよ!?」

「ルール破ってないもん♪ 俺は「押してる」だけ♪」


 それはまさに鉄塊だった―― というか監獄のドアを剣っぽい形に切り出したんじゃないかというような、とにかく分厚くて切れ味ゼロで切られたらぐっしゃぐしゃに潰れて死にそうな馬鹿デカい大剣だ。わりと凝ったデザインに見えるし監獄っぽさもあるのだが、それよりなによりデカくて分厚い。厚さ20センチくらいの鉄板というところだろうか。


「押してるだけ?」


「そー押してるだけ。でも重くて動けない、決闘状態じゃないからダメージなくて運営に通報される心配もなし! STR極振りじゃないと持てない剣だから、まーこんなちゃっちい鎧装備する程度のステじゃ無理だよ、くっふっふ」


 笑い方とか口調がなすこさんと似ているが、凶器の度合いが…… いや狂気の度合いが違う。なすこさんが作るのはドウテイころしだが、こいつが持っているのは間違いなくドラゴンころしだ。何なら狂戦士の鎧をしらふで使いこなせそうなくらい、めちゃくちゃ強そうだった。


「あ、「切らあ」って言うんだけどね。面白そうだったからつい。おれ悪いことしちゃったかな、こいつ殺したかった?」


「いや、いいんですけど。その剣どうやって作ったんですか?」

「おっ、さぁすが、目が高いね。来る?」


「あ、見学とかしていいんですか?」

「見ちゃっていいとも」


 はあ、と眉を引きつらせつつ、俺は切らあという人に着いていった。


 夕方というより夜っぽい街をそれなりに歩くと、普通の貸し金床がある。


「あれ……」


「いや、ここイベントマップだからアジトとかないよ。設営するのけっこう手間なんだよね、あれ。つーわけでここが拠点です、どうぞー」


 謎のテンションすぎてマジでついていけない。最初のリセイとかこんな感じだったような気もするが、あれは本当になんだったのだろう。


「ん? あ、ゼルムさんだ」

「ですですさんっすか」


「うんそう。どしたの」

「いんやぁ、彼がおれのこの剣をいたく気に入ったみたいでさっ♪」


 それ力作だもんねとですですさんが言う。


「切らあさんが作ったんですか」

「そーだよ、すごいだろ」


 確かにすごい。というか自分好みの武器を自分で作れるとかロマンに溢れすぎている。俺は武器を持つ予定はないが、いいなあと思った。


「もの欲しそうな顔だなぁ、一本くらいあげようか?」

「い、いや好きなもの自分で作れるっていいなと」


「いいよいいよ、投げるための軽めのやつ作ったげるよ」


 いい人なのかもしれんと思ったが、たぶんJと同じでデミ・サイコパス的な「ごく少数の仲良し以外は容赦なく殺す」だろう。Jは俺でも殺しに来るが、まあスキンシップ過剰なアニメの女の子が刃物を持っていると思えば大して怖くない…… いや、怖いか。


「おっ、ここが拠点……? カウンシルの弱点みっけ!?」

「あー、うっぜェ。ですですちゃん、頼める?」


 仮面がばきっと割れて中身が出てきた切らあさんが、超低い声で言った。君子は豹変すというが、それは謝るときの話だ。この人は君子じゃない、果てしない悪を心の底に持っているんだということがよく分かる顔だった。


「だって、変態みんな出てきてー」

「ちっすうっす、はいっす」


 驚くような人数がどばっと出てきた。たぶん隠密スキルの修行を地味に地味に続けていたのだろうと思うのだが、こんな人数がいたとは。


「街の外に引きずっていって、グチャ味噌にすりおろしちゃって」


「ぼたもち風?」

「五平餅風で」


 ぼたもちって「半殺し」って言うんだっけ。五平餅が何なのか分からないが、確か何かをすりおろして混ぜた味噌を塗るんだったような気がする。全員ぐちゃぐちゃにして混ぜ合わせてしまえ、とでも言っているのだろうか。


「さぁみんな集まってー、ぐっちゃタイムだよー」

「わーい!!」


 よっぽど血に飢えた怪物の群れとでも表現したくなるほど、怖い。一人の人間が連れ去られて行ったかと思うとすぐさま次の誰かが吹っ飛ばされてゆき、空中でリレーされている。三人、四人と続いて五人目で最後尾が追いかけ始めた。


「いやー、楽しそうだし混じりたいけど。アリアルとデルクの合金でいいかな…… それなりに重くて鋭い感じ。一撃の威力に特化して、衝撃力ボーナス……」


 職人の世界に入ってしまっている。


「男だったよね? ちなみにビルドちょっと聞いてもいい?」

「完璧バランス型です」


「ふーんむ…… んじゃもうちょっと軽くしようかな」


 こうやっているといい人に思えるのだが、P.K.Cに入っているという時点でもうダメだ。そうするとJ以外の人はあんまり胡散臭くないが怖い、という大きな二面性を持っているのが特徴だとも言えるだろう。


「あーあ…… いまごろどうやってんだろ。「ひたひた」も楽しいけどやっぱし「ハンバーグ」がいいんだよなぁ。生のやつ……。焼くのも好きだけどさ。素材がくそだから楽しめないよね…… はあ。イベントだし公共の福祉考えて我慢するか」


 案外難しいことを考えているようだ。


「やる方法に名前とかあるんですか?」

「おっ、興味あるの?」


「いや、料理っぽいなって」


 水を浸るまで入れるのが「ひたひた」だったと思うし、ミンチを丸めて焼いたものが「ハンバーグ」だ。


「最初に言った「ひたひた」は、錬成&土魔法でバケツっぽいのを作ってから水をどばーっと入れるんだ。魔法で補強してるから壁は破れないし、金属鎧を付けてるやつはふつう水から出るなんてムリ」


「へえ……」


 硬度7.8さんの魔法を参考にしているのか、あるいは硬度7.8さんがこれを参考にしたのかというところだ。


「あ、「ハンバーグ」は分かるよね。ひたっすらぐっちゃぐちゃにする。受傷規制部位(ダメージングゾーン)の視覚補正をオフにしてるとこれが楽しいんだなぁ…… あ、ごめん。君にはよく分からないよね。でも楽しいんだよ…… すごく」


 おまわりさんこの人、この人早くつかまえてください。


「はい、できたよ。いい感じだろ?」

「すごい…… ですね」


 さっきおまわりさんに来てほしいと思ったのが嘘のように、感謝の気持ちが湧いてきた。いや、騙されちゃいかん。


 清潔感のある白だが、透き通っている部分はほんのり緑色だ。素材同士がきっちり混じり合っていて、お互いを食っていない。ホルダーにはめ込まれた宝石が燦然と輝いている。デザイン性もさることながら、性能もすごかった。重さは俺が持てるくらいだからやや頼りないものの、耐久値も攻撃力も一級品だ。衝撃力ボーナスが付いているくらいだから、走っていって一撃食らわせ、そこにほかの人が攻撃を重ねてとどめを刺す、といった戦闘ができそうな感じだった。


「ほんとにもらっちゃっていいんですか?」


「俺が持ってるこれ、もっと強いから。それにこれ、徹底して俺好みの性能になってるから君には使いにくいと思うんだ。要求STRもバカ高いからね。俺も君と同じスキルを持ってるから、親近感からの贈り物だよ」


 やっぱり俺の持っているスキルは晒されているらしい。


「同じスキル……」


「ほら、「クリティカルアップ」。一発叩き込めばだいたいスタンするからすごい便利だよ。君も、あのクリティカル率から見て取ってるだろ? 「初撃クリティカル」だっけ」


「あはは…… 俺のスキルってそんなに知られてるんですか」

「そりゃね、投げナイフさんだから。有名だよ、君は」


 こうやってるといい人にしか見えないのにな、と思いつつ、俺は貸し金床をあとにした。

 心理学の「病理がうんぬん」という本をよく読んでいるのですが、どうしても最後まで理解できない。こういう人ってよくいるよね→あいつ病気かなってなる流れだと思うんですが、ありふれている症状が多すぎてこいつら大丈夫なんだろうかと思ってしまいます。もちろん自分もそうなのですが、病気な自分かっけえになるアホを多く見てきているので、同化したくない。ぴしぴしぱりーん。


 主人公の持っているクソスキルにみんなの認める使い道ができあがってきて、嬉しいような悲しいような感じですね。まあでも投げナイフさん差別がなくなりそうな気もする。万人の英雄は最大多数の英雄に変わっていくのだ……。悲しい流れ。まあ万人の英雄は存在しえないわけで、しょうがないと言えばそうなんですよね。最大多数の英雄になることが唯一の救いですから。

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