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Aurum Online [Shooter]  作者: 亜空間会話(以下略)
第五章 Señorita
92/120

#092 pescador de caña

 昔「いつか絶対殺す」と言った相手がいるのをにわかに思い出しました。今でも見かけるから、いつも凶器を準備していれば殺せるっちゃ殺せるんだよな……。どすっと刺してぐりっとえぐる。


 そこに向かって「サイコパスには倫理的、感情的な話題は通じない。効率的な、平穏に暮らす手段を教えればよい」と書いてあって、それを参考にして考えを改めました。なんでも「殺すと刑務所に入ることになり、人生を損する。生かしておけば利用の機会がある」だそうで。一理あるな。効率の計算って大事ですね。


 どうぞ。

「用意が良すぎるぜ……!」


 晴れない疑問はともかくとして、俺はさらに疑問を重ねてしまったので、さっきの「もう一人の黒い俺」を忘れかけていた。


「なんでキャンプ用品が揃ってんだよ!?」


「こういう事態を予測していたからです。戦闘に時間がかかりすぎましたし、おあつらえ向きに用意しておいてキャンプできないことではないだろう、と思いましたからね」


 はいはい有能。三ヶ日さんは奥さんになっても有能だろうな、すごい。


「食材を取れそうな人はいますか?」

「食材? ってどんな?」


 解析スキルがあれば、キノコやら木の実やら拾うことができる。


「ある程度は持ち込んでいるのですが、それ以上はちょっと……。ミサちゃん、何か足りなさそうな食材はありますか? それをこれから取ろうと思いますが」


「え、うん…… 魚かな? あと果物が欲しいよ」

「魚……。ゼルムさん」


 三ヶ日さんが「頼りにしてるよ」というトーンでこっちを向く。


「ん? 釣りスキルなら持ってねえぞ」

「ピックで魚を仕留めてください」


 ……できるのかなあ。






 キャンプ用のテントを張る作業をJと三ヶ日さんに任せて、俺は解析スキルをフル活用しながら食材を探していた。ほかのみんなが何をやっているのかは分からないが、俺と同じように外に出て何かをしているらしい。ミサは食材っぽいアイテムを並べていたし、コードさんは何かのビンをたくさん取り出していた。ジュースみたいなものなんだろうか。


 俺はというとまともに食べられそうなものは持っていない。食べ物っぽいアイテムはインベントリに入れている限り消費期限が存在しないことになっているものの、いつだったかミサに渡してしまった。


「……どこだ」


 こういうことにも投げ武器スキルが使えるなんて知らなかった。というか誰も使わないんじゃねえのと思ってしまう。普通に釣った方が早いはずだ。それに、魚が倒れてアイテムに変わったものを回収する必要がある。


「あ、そういや……」


 ミサに「魚ってどこが弱点?」とメールした。すると数秒で「首の後ろを狙うと活〆できるよ。新鮮第一です♪」と返ってくる。いけじめなのかいきじめなのか知らんが、とりあえず一撃で首を貫けばいいんだな。モンスター扱いになるのかならないのかは別としても、倒せるはずだ。


 めぼしい岩の上で待機し、仕留めたら即座に横の河原に降りて回収できるようにと準備を整える。AGIが高いほど足音は軽減されるが、プレイヤースキルと併せればほとんど生き物にも気付かれないことができるだろう。Jにコツを聞いてきてよかった。


 そう思いながら、ピックを持ち、静かに待つ。


「あ」


 いた。


 そこまで大きな魚ではないが、ピックは釘ほどの太さしかない。一匹だけなので、これを逃がしてしまうとまたしばらく待つことになる。アユよりは大きくてアマゴよりは小さいかな、というくらいの魚へ、俺はピックを構えた。


 狙いすました一撃は、過たず首元を通り川底に魚を縫い付けた。派手に血が流れることもなく、俺は河原に降りてそれを回収する。インベントリに入れると「コガタナアユ」という名前が出た。アユなのか、これ。


「いい腕だねえ」


 ばっと振り返ると、おじいさんがいた。戦いとかできるのかな、というくらいおじいさんだ。手に持っている長いものは、長物(ぶき)じゃなくて釣竿(どうぐ)だった。


「な、なんすか」

「いや、釣り人。ハイエンドの」


 なんかおじいさんらしくないな。ハイエンド釣り人ってなんだよ。


「ここじゃ美味しいのが釣れる。野趣あふれる河原で焚き火ってのもある、ゲームだから生でも美味しい。うん、相談なんだがね、きみ」


 口調がおじさんとおじいさんのボーダーラインだな。


「釣った魚はあげよう。すでに海釣りでいいのを釣ったから、食うぶんには困らないんだね。こっちには趣味で来てる。そういうことだから、あまり乱暴に魚をとられるとね、こっちが困るんだね。釣りがしにくい」


「いいっすよ」


 俺はぴょんと跳んで、おじいさんに近付いた。


「うん、君は女の子になったのかな、イベントで」

「はい、そうっす。ここでキャンプとかしようと思いまして」


 あ、言ってよかったのかな、これは。


「若いというのはいいねえ。まあ、わしも寝袋で野宿するんだけども。どうにも戦いには向かんけども、釣りが好きでね。こっちでもやっとるわけだね」


 ぱらっと散らした何かは撒き餌だったらしく、魚が一匹ついっと寄ってくる。何が何やらさっぱり分からないが、魚がはむっと食いついた瞬間にずばぁっと力技で揚げてしまい魚が一匹釣れた。


「……えっと、釣りってもうちょっと繊細じゃなかったすか」


「ゲームだからねえ。わしのスキルレベル136に対して、こっちは要求レベルが50前後みたいだから、力技でも大丈夫なんだね。ちょびっと経験値が入るだけありがたいかね」


 このおじいさん何者だ。




 はむっずばぁ、ひゃふっざばぁ、というふうに魚はガンガン釣れた。


「底の方にいる魚はなかなか釣れないから、狙ってみたらどうかね?」

「どうやって見つけるんですか、そういうの」


「そうだねえ、解析スキルで見たらいいんじゃないかねえ」


 アバウトなもんだ。しかし、川底にぺたっと貼り付いているカジカって魚はすごくうまいと聞いたことがある。釣りで採れないならピックでやるまでだ。


 釣りの邪魔になってはいけないので、少し離れた石底になっているところで解析を使ってみる。なんだかいろいろ反応があるが、どれもアイテムばかりだ。めぼしいアイテムはあとで回収するとして、形が魚っぽいシルエットに目を凝らす。


 と言いたいところだが、解析で出てくるアイテムの形はどれもぼんやりしていて、しかもそれなりの時間見つめ続けていないと名前までは出てこない。細長いような、ずんぐりしたような形のが底生の魚のはずなので、そういうのを探す。


「いた、けど……」


 アイテムごとの色分けをする「視界マーカー」を付けると、食材系アイテムの緑の手前に重なって青い鉱石系アイテムが見えた。まっすぐにピックを投げると、鉱石に弾かれる。とはいえ尻尾の方らしい細い方に投げると新鮮さが失われるだろう。じたばた暴れるだろうし、シメるのがミサの仕事になってしまう。


 そっと手近な石ころを左手に持って、右手にはピックを持つ。利き手ではなくてもDEXがそれなりにあれば狙ったところに投げられる。俺は鉱石の真上を狙って、適当に投げた。ちゃぽ、と石ころが川に入った瞬間、神速で魚が動く。スピードが緩まったとき、俺の方も容赦せずにピックを投げ込み、太めの魚を仕留めた。解析で見ていて動きがまったくないところを見ると、一撃で活〆の状態になったらしい。靴が濡れるのをかまわずに川に入って「カクレカジカ」を回収する。


「いい腕前だねえ。魚もこっちに追い込んでくれる。とてもいいね」

「どうも……」


 いや、そんなつもりはないんだが。そんなつもりがないことというのは意外に多いらしいが、どうやら釣れる数が少しばかり増えたらしい。


「それじゃ、時間も経ったからわしは移動するよ。はい、この魚籠に入っているから。みんな美味しい魚ばかりだから。保証するよ」


「どもっす」


 おじいさんはどこかに行った。






「お姉ちゃん、早かったね」


 ミサが言ったのでいやいや早くねえだろと思ったのだが、他のみんなはあんまり帰ってきていなかった。他のみんながどういう手段で何をしているのかさっぱり分からないのだが、それぞれ努力しているんだろう。マジで何やってるんだろうか。


「ただいまー、強かったー」

「え、何が!?」


「肉」

「いや肉じゃなくて、何の肉ですか!」


 肉が強いってどういうことだよ。


「鳥」

「どんな?」


「んー、いろいろ」

「私が説明しますよ」


 コードさんとにゃんさんのコンビって珍しいな、と思ったのだがそれは特に関係なく、俺は硬度7.8さんの話を聞いた。ちなみにコンビじゃなく、なすこさんもいた。


 肉を探していたが、要するにモンスターの肉だという話になり出会ったモンスターを片っ端からぶっ倒していたらしい。と言っても「おいしそうな」モンスターはあまりおらずそもそもこいつ肉じゃねえというやつばかりで、素材はたまるが肝心の美味しそうな食材が手に入りません、ということだった。


「ほら、これは食材じゃないじゃん?」

「うわっ、確かに」


 でかい虫の肢だ。いちおうカテゴリは「食材/素材」となっているものの、これをどう調理すれば一般的、常識的に食べられそうなものになるのかはぜんぜん分からない。殻を取り除いて肉を取り出して、いや、虫だと分かっていると食えなさそうだが。何の虫かは聞きたくない。聞いて美味しそうでも嫌だ。いや、日本人の清潔好きからして「虫を食べる」ということに抵抗を感じるのが普通そうだと俺は思う。


「というわけで、ボスモンスターやらその取り巻きの肉が最もおいしそうだと思ったんです。鳥だったので。ゼルムさんは、魚は取れたんですか?」


「ああ、まあね。なんかおじいさんに会って、ちょっともらったんすよ」


 名前も聞かなかったし、イベントどうこうなのでおばあさんだった可能性もあるのだがそんなことはいい。旨そうな川魚をいっぱい採れてもらってしたのだ。


「食材は集まった? 時間かなり遅いけど、料理始めるね」

「すまない、遅くなったね。死にかけていた」


 Jが満身創痍だ。


「〈スペリオル・ケア〉…… どうしたんだよ」


「いや、ちょっとね。木々の間を三角飛びで登っていたら何回か落ちたんだ。モンスターにも何回か遭遇して、それはノーダメージで倒したんだがね。痛かったなあ、さすがに」


 なんでこいつは生きていられるんだ。


「ああ、果物はしっかり取ってきたよ。ほら」

「ありがと、Jさん。じゃ、揃ったね」


 めんどくさい料理をするわけではなく、焼くだけらしい。でもキャンプっぽくていいなと俺は思った。俺が取ったりもらってきた魚を焼き、コードさんとにゃんさん、なすこさんが取ってきた肉を焼いている。


「串あって良かったっすね」

「用意していたんです」


「三ヶ日さんさすがっす」


 有能すぎて怖いんだが。この人は未来視能力でも持ってるのか。そう思って三ヶ日さんを見ているとちょっと首をかしげられた。イケメンは何をやっても絵になるな。美人だったらなお良かったが、まあ仕方がない。


「お姉ちゃん、はい!」

「お、おう。ありがとな」


 いわゆるあーんなのだが、スプーンとかお箸じゃなくて串が差し出されているのでうかつにかぶりつくとケガをしそうだ。横からかぶりつき、顔を横にスライドするように動かして肉を串から抜く。ボスの肉なのか取り巻きの肉なのかはさておき、とても美味しい。いつだったかミサにあげたはずのエビっぽいものが刺さっていた。


「これ、俺がミサにあげたやつだっけ?」

「うん。すごく美味しいから、お姉ちゃんにもちょっとあげようかなって」


「へえ、確かにいい匂いだな」

「ほら、食べてみて」


 がぶっとかぶりつくと、カニのような触感なのにエビのような味というずいぶん謎なものだった。でもとてもおいしい。何かふんわりといい香りまでする。


「うまいなあ。こういうキャンプってぜんぜん経験ないよな」

「中学でしなかったっけ」


「あー、あれ黒歴史だから。S級の」


 ほかのやつがうるさくてろくに寝られなかったり、寝静まった後に俺だけ起きてしまったり残飯処理を任されたり、女子が料理を担当したので洗い物をぜんぶ押し付けられたりと、ヤバいことがいろいろあったのだ。ちなみに燃料を提供したのは主に俺だ。やったことに対して報酬もらえない確率の高さは異常。吐き気をこらえつつ洗い物を済ませ、これじゃダメと言われて洗い直したこともよーく覚えている。覚えてるよー、いつか復讐してやんよー。


「すごい嫌な顔してたよ」

「悪い、思い出させないでくれ。泣くから」


 黒歴史の片鱗を味わいつつ、俺は夜を過ごした。

 そろそろ投稿作品のうちひとつくらいは終わらせたいなと思っているのですが、なかなか展開とか読者への気遣いなんかもあって簡単には終わらせられませんね。それに勢いに乗って始めた責任もありますし。書く目的のこともありますが、自分が面白いと思わなくなったら切ってもいいんじゃ……? とたまに思います。読者と作者に共通に飽きられているのなら、別に消してもいいのでは。

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