#089 lanza roja
しばらくポイントが増えなかったので、こいつも限界か切るかなと思ったりしていました。でもあと数日でなんと20000pvに達しますね。ランキング上位だと億単位言っててマジ笑えないです。ようやっと数万分の一に達したのかと思うと、漏れの実力こんなんじゃねえ! とか言いたくなります…… が、現実に劣っているんだよなあ。
連投に切り替えたら伸びるのは分かっているんですが、読者の数にも限界があるし、そもそも万人に好かれるような作風ではないし、むしろ嫌われそうだし。伸び方にもいろいろあるからなあ。読者とか評価なんて気にしないぜと言った俺は死んだ……
どうぞ。
木材にもいろいろあると知ってはいるが、実践的な知識はない。同じようなものが並んでいるのに退屈したのか、ミサはどっかに行ってしまった。
「こっちがチェリーでこれがオークでこっちは」
「武器に向いたのはどれだ?」
「うん、耐火性があり丈夫で繊細な彫刻を施すこともできる燃料としても有用な」
「おう、それをもらうぜ」
長い。耐火性があるのに燃料として有用、というのは備長炭と同じで火が付きにくいが燃えだしたら止まらないのだそうだ。びんちょーたんとか言われても、炭使って料理とかしないから詳しい性質は知らない。
「ケヤキ材1メートル武器用棒、800チルン」
「……おう」
木材の相場からすると高そうにも思えたが、まあいいだろう。彫刻を施すこともできると言うところが受けているのかもしれない。とすると、ちょっと三ヶ日さんに頼んできれいにデザインしてもらうのもいいな。
「彫刻してもらうオプションとかは?」
「いまそっちの店員が出払ってますので、別料金になりますね」
「じゃあ知り合いに頼むよ」
「さいですか」
少しばかり腹立たしい店員だ。とは言っても必要なものが買えたからなんでもいいだろう、俺はとっとと市場から空中に浮かぶ島にもなぜかある貸し錬成床に戻った。するとまるでご都合展開の寵児のように、そこに三ヶ日さんがいて何かしている。手に道具を持っているので、細工スキルの修行中なのだろう。
「あ、三ヶ日さん。ちょっと頼み事したいんすけど」
「可愛らしいのに、口調で台無しですよ」
「いや小言とかいいっすから。この棒に、彫刻とかできます?」
「ええ、いいですよ。代金はどうしますか」
え。考えてなかった。
という答えが通用するように思えないわけではないが、小言が三倍くらいになりそうな気がして怖い。別にいいが、時間を失うのが嫌だ。
「なんかあげますか、それともお手伝いでもします?」
「そうですね…… 体で払う、というのは?」
「え、 ……え?」
「冗談ですよ。別に何もいただきません、スキル上げのいい口実ですから」
けっこう細かい細工が続いて退屈していたらしい。手元には、なるほど退屈するはずだ、金属でレースでも作ってんのかと思うような緻密すぎるものがある。
「三ヶ日さん、これなんです」
「ガラス窓に付ける金細工がいくつか欲しいそうで、ここで作っているんです」
なんじゃそりゃという気持ちが顔に出たのか、三ヶ日さんが笑う。
「細工もののクエストはこういうものばかりなんですよ。ちょっとしたアクセサリーを家に置きたいから作ってくれとか、小さいものに細かい細工をしてくれ、なんていうのが普通です。細かい仕事だったり変な姿勢でやらないといけなかったり、けっこう大変なんですけど…… 面白いんです。扱える素材も、トップクラスで多いですから」
今の俺も金属素材と石と薬草と、わりに多い数の素材を扱えると思っている。しかし、三ヶ日さんはそれ以上に多いのだろうか。
「細工スキルは布と金属と石と木材を加工できるんです」
「負けた……」
なんて数だ。
「もちろん、どれも小さいですけど」
「なんだよかった」
なにを安心してるんですか、と三ヶ日さんは不思議そうにしている。いやいや、たったひとつのスキルが四種類のカテゴリの素材を扱えるなんてすごすぎないか。どれも小さいとは言っているが、おそらく欠かせない手工業ってポジションだ。職人とか少なくなってそうなイメージがある。レースかよおい。
「いや、普通は2カテゴリくらいでしょ、多くて5カテゴリくらいだろうけど、カテゴリの中でもそれ専用なんて嫌なのがあるんすよ」
がさつな鍛冶スキルじゃ扱えない繊細なものは、より細かい錬金スキルや細工スキルでしか扱うことができない。もちろん複合効果のようにさらに扱いやすくなるなんてこともあるし、扱えなかった素材を加工することもできる。だがそれだと経験値が両方に分けられてしまって、スキルレベルはふたつ同時に上げられるものの、単体として考えると上がりにくくなるのだ。
薬草だの合金だの宝石だの扱える錬金スキルは優秀な方だろうし、ちょっとした家具ならちょちょいのちょいだろう細工スキルはもはや神がかっている。
「おい本題はどうしたよ」
「そうでした、すっかり忘れていましたね」
若そうでもあり落ち着いてもいる声で言われると、なんだか変な気分だ。いつもの俺が落ち着いていて、いつもの三ヶ日さんが荒っぽい言葉をしゃべっているような、ちょうど声を交換でもしたような感じに思える。
「どんな風に彫りますか、道具できれいに?」
「それで。持つ邪魔にはならない場所に頼んますね」
分かりました、と仕事人か何かのように即座にうなずき、作業が開始された。新しく取り出した彫刻刀は、ナイフのようにも見える。それをとん、とんと木槌で叩きつつ大胆な細かい模様を刻んでいく。現実でこういうの得意なんじゃないかと言いたくなるような、すらすらとよどみない美しい手際だ。これでいつもの美人な三ヶ日さんだったらなおイイのになあ、とか馬鹿らしいことを考えた。少し経って終わりましたと言ってかれ…… 彼女、いやどっちか分からないが銀髪イケメンの三ヶ日さんが棒を差し出す。
「おお、なんか豪邸の手すりみてえな……」
「そうですか…… ゼルムさん」
「なんだよ、別料金を支払う時間ですとか言わないでしょうね」
「もっときちんとしたボキャブラリがあった方がいいですよ」
「……すいませんでした」
なんだもっと怖いこと言われるかと思ったよ、とか考えてしまった。いや、でも何気なくすごいひどいことを言われていないか。しかし俺の記憶にはそういうのしか「彫刻が施された木の棒」というものの姿がない。三ヶ日さんはもっとすごい木の棒を見たことがあると言うんだろうか、聞いてみたいところだ。
「木の棒なんて、何に使うんです? しかも彫刻まで」
「言い方気付いてるでしょ、槍作るんすよ」
ああ、にゃんさんが注文していましたね、とさすがの記憶力でうなずいている。ちょっとした投げナイフを作れそうな量の玉銀と小さいアリアルのインゴット、それからエニグマ種「プレート」の素材で耐久値吸収の特殊効果を付ける。それが槍の穂先だ。
「穂先の方は出来上がっているんですか」
「これからっす。でも冷えてからじゃ付けるのめんどくさいんで」
俺が作るのはもっぱら剣、剣、剣ばかりでたまに鎧、売り物じゃないものは数えないとしても客に出すものでも作るのが簡単なものしかやらない。ハルバートみたいな究極的にめんどくさいやつは、専門の野郎に任せている、というか要求素材が多いのでそうそう作れるもんじゃない。ギルドに入っていれば素材がそれなりに入ってきたり譲ってもらえたりするのだろうが、俺みたいな日常的に金属をゴミに変えるやつは鉄くずひとかけらも客に出す分としてやるわけにはいかない。ケチなのだ。
それに長柄武器はだいたいめんどくさい工程がある。それに金属だけじゃ作れない。木材の目利きはないので、敬遠していた。だがまあ、今度ばかりはそうも言っていられない。
俺は貸し錬成床の近くにある貸し金床に移動し、用意した素材をぜんぶ取り出した。ねっとりした色気のある光沢を放つバロック真珠のような玉銀、そして白っぽいアルミにも似た輝きを放つアリアルのインゴット。影も青く見えるほどまばゆく白い「薄板の剥片」もそこに置いて、俺はしばし考え込む。
が、それはたぶん無駄だと思ったので、とっとと始めることにした。どんなデザインになるかはシステムが半自動的に決めてくれることで、俺が考えることじゃない。
「さて、まずは錬成だよな」
「雑ですね」
「突っ込みいいから……」
まあ、雑なのは俺自身がいちばんよく分かっている。炉にちょっとだけ入れて温度を高くすることはそうなのだが、それ以上に玉銀を加熱すると構造が壊れるようだ。二度と再生できない「石ころ」になるので要注意、だがアリアルは赤くなるまで火に入れておく。
「そんなに赤くして大丈夫なんですか」
「金属は溶けなきゃ大丈夫だからな。溶けたら合金にしなきゃいけねえ」
まあ、そんなことをしたら玉銀がゴミになるだけだが。
アリアルが真っ赤になったところを見計らい、ちょいちょい火に入れては出してを繰り返して保温していた玉銀を一緒に金床に置いた。どうしたらいいか分からなかった剥片を一緒に近付け、錬成してなじませる。
「……もうちょっと…… ここだ」
「職人ですね」
温度が下がってきて、玉銀の構造を破壊しないくらいの温度になったアリアルを、玉銀に剥片を混ぜたものとさらに混成させた。MPの注ぎ込み加減を間違えるとぐっちゃぐちゃのものになってしまうので、想像力的な何かでちょうどいい様子をイメージする。槍の穂先っぽい形をイメージすると、自動的に変形し、残った魔力を全消費してそれは完成した。
「おお、これは……」
「あとこれを棒の先にくっつけるだけだな」
材木と金属をなじませるのは死ぬほど難しいから錬成で変形させるときに穴を作っておけ、という先人の忠告もあった。俺はそれに従ってきちんとはめ込み用の穴を作っておいたつもりだったのだが、ちょっと小さかったようだ。仕方なく、はめ込みを明日に見送ることにした。
「…………」
「どうしたんですか」
「…………泣きそう」
「そうですか」
三ヶ日さん冷たい。イケメンならそこは肩ぽんぽんして慰めてくれるところでしょう。とは思ったが別に俺は男が好きではないので、男に慰められても大して嬉しくない。褒められたということ自体は嬉しいものの、相手がむさ苦しくて二秒くらい見ていたら心が壊れそうな相手になんか言われても俺は聞き流す。視覚と聴覚の無駄だ。脳をその時間ほかのことに使った方が有意義な人生を送れる。
なんで三ヶ日さんは美人じゃなくなってしまったのか。いやまったく凄まじい疑問であるところである。今も美しいと言える顔だけれども。
「そーいやなんで変化したんすか三ヶ日さん」
「そう、ですね、 ……変わりたかったからでしょうか」
「変わりたかったって、どういうふうに」
「うまくは言えないですけど…… 言わない方がいいでしょうか」
けっこういい家柄の娘さん的なことを言っていたが、なにか闇があるんだろうか。ちょっとばかり邪推したくもなるが、闇にずぶずぶ踏み入れるのは怖い。
「被支配者、というと分かりますか」
「ああ、ちっとは。そんなに支配されてんすか三ヶ日さんって」
ええ、とまつげを伏せて三ヶ日さんはぽつりと言った。
「父にも母にも、下のはずの人にも…… 制限されるんです。それは私のためを思ってのことだと、分かってはいます。でもがんじがらめに感じてしまうんです。何も言われることのない自由な『からだ』、それがこれなんですよ。だからこうなったんでしょうね」
あんまりにも抽象的すぎて意味が分からない。彼女は自分のことを分かっていて、そのうえで相手もそれを分かっている、という前提で話しているかのように思われた。
「なにか問題でもあるんすか、『からだ』に」
「はた目には、何も問題はありません。だから問題なんです」
「きちんと説明しなきゃぜんぜん分かんないんすよ」
「……すみません。もう、この話はやめておきましょう」
俺たちはそのまま別れ、話もしないまま宿屋に戻って、翌朝まで寝た。
仲間が投稿も更新もしないのが(安否がどうのではないが)寂しいですね。アイデアを思いつくペースが速い仲間や面白いものを書く人などいろいろいるんですが、そのどれもが現実での忙しさに潰されてしまっている模様。私だけが空回りしているようでただただ涙。いや涙なんて一滴も出ませんが、寂しい。
おいてけぼりはどっちなんでしょうね。




