#088 aquellos delicada
血が燃え上がるようなバトルが書きたい! とか思ったんですが、一対一の熱いのは話の都合からして無理そうですね。どうやってその状況を…… あ、思いついた。
そろそろ知識がうろ覚えになってきました。レジェンド(はっきりとは申し上げませんが)のごときネタになるような大きな間違いはないつもりですが、あいまいにすることで避ける、というのもそれで情けないですね。頑張って再習得しないと。
どうぞ。
全員の消耗が激しすぎて、2日目はそれ以上戦うことができなかった。俺の投げ武器の数もかなり減ってしまっていたし、このあいだ気付いた裏技を安定して成功させる契機だったので、嬉しいところだ。
というわけで、そろそろおやつの時間なのに、俺はあんまり明るくない貸し錬成床で一人こもって、ひたすら残った素材と壊れた投げ武器の錬成に励んでいた。残った素材はもちろん全部バリエーションはあれど投げ武器に変えるし、壊れて「○○のくず」になった投げ武器はもとの投げ武器に戻す。
「そうそう、これだ……」
明らかに投げ回数が減っている投げ武器は、金属素材が魔力で汚染されていた。要するに、濃い魔力が「固体になっている」状態だと言える。まさかと思った俺の推測はどうやら間違っていなかったようで、ここから「錬成」と「錬金」の複合作用で魔結晶を取り出すことができるのだ。
もちろんエンチャントにも使えるし、自由素材のところに突っ込むこともできるだろう。そんな素材を生産に集中しているだけで手に入れられるのだから、なんともお得なものだ。とはいえ作るときの魔力消費も決して少なくない。
こんな感じの「併せ技」はアウルムオンラインには数多くあるらしく、公開されたMPポーションのレシピを多くの人がコピーできているわけではないのも、そういう理由からなんだそうだ。戦闘に生産にとスキルホルダーがそこまで多いわけじゃない。いろいろなスキルを一緒に上げられるのはありがたいことだが、全てがある水準まで達してからしかそれを利用できないのも確かだった。どうやっても単なる便利ワザでは終わらない。
ちょっとした、拳に隠せそうな魔結晶を作っただけでも三十分くらい休憩しなくてはならない。もっとでかいのとなると、数個作っただけで一日の半分は休憩になってしまうだろう。素材を収穫できない以上は硬度7.8さんのMP回復薬もいまの手持ちが限界であるわけで、あんまり頼るとすぐなくなってしまってあの人を困らせることになる。
素材の手持ちは当然あるに決まっているが、MPを回復するアイテムを作るためにMPを枯渇させたのじゃお笑いにもならない。
「お姉ちゃん、調子どう?」
「まーまーだぜ。ちょっとした修理の依頼とかが入ってくるけど、スキル上げの美味いエサだしな。鍛冶スキル使ってる間はMP消費しないから回復するし、バランスよくやってるよ。ただ、消費が多くて釣り合ってねえがな」
ミサが入ってきたが、別にいい調子でもない。
鎧の修理は専用の布で磨いて汚れを落とすだけのものが多い。大がかりな作り直しでもないのでMPはいらないが、時間だけはかかる。一方の剣の補修はというと砥石に当ててしゃりしゃりやるだけだ。時間はかからないしとくに大変でもない。楽と言えばものすごーく楽なのだが、燃えないのだ。
「なんか刺激ほしいって顔してるよ」
「おいおい察しがいいな、だが無理だろうぜ」
あ、そういやにゃんさんが槍作ってとか言ってたな。
「にゃんさんが早く新しい槍ちょうだいって」
「おう…… いま素材見るからちょっと待て」
いろいろな素材があるし、生き物の素材を混ぜてそれっぽいデザインにするなんてことももちろん可能だ。ちょっとしたファンタジーなので、そこそこ変な形の武器もある。とは言ったものの、だからどういう武器にすればいいのかは考え中だ。
主に俺が得意とする相手である爬虫類系のモンスターからは、鱗やら骨といった生き物丸出しのものが取れる。苦戦はしないが嫌な目に遭うゴーレムからは金属素材がたくさん取れるうえに宝石やレシピ、特殊な素材も出てくれる。かろうじて倒した、ボスであると同時に限定エネミーのエニグマ種からは、性質上数が揃えられないためにエンチャント用の素材しか出ない。限定エンチャントはかなり強力で、それこそ低級武器には絶対に使いたくないようなものばかりだ。
ということが分かっているので、正直に言って残しておいたすごそうな素材は絶対に使いたくない。純粋なエニグマ種の素材はレアレーティングがケタ違いで、鑑定価格も異様な額のものばかりだった。エンドコンテンツが出始めてから加工するつもりでいたそれを、いまここで使ってしまうと言うのか。
「いろいろあるよね、これなに?」
「えーと、「偽命玉の細片」らしいぜ、こっちは「薄板の剥片」って」
オリガミのコアとプレートのかけらってところだろう。にせものの命がたった一個の宝玉なんぞでできるとは大したものだ。プレートも、よく考えれば中身は石油のような黒い液体だったので、そういうものが付いていない破片はかなり貴重らしい。とはいっても別にそれ以外の素材があるわけでもないので、期待すべきところでもないのだが。
どうやら耐久値自動回復がオリガミのほうの効果、プレートは耐久値吸収がお家芸なので武器にはそれがそのまま付くんだそうだ。戦っていて耐久値が減らないわけではなく、減りがかなり遅くなる、というだけらしいが、それでも特に問題ない。結果的に丈夫になるのだったらいいのだ。
が、まあ普通のゲームをやっていたらわかることだが、宝玉だのなんだのという力が凝縮されたエッセンスのみを溶かしても大した量にはならないので、それだけでは何も作ることができない。もとになる丈夫な土台があってこそ特殊な効果が活きてくるのだ。要するにちゃんとした金属みたいなものが欲しい、ということになる。
「ミサ、なんか強そうな金属ないか、丈夫じゃなくてもいいから」
「じゃあ玉銀はどう? あれわりと使えるみたいだよ」
「ああ、俺のいま装備してる防具と同じ素材のことか」
そうそう、とミサはうなずいた。
「鈴青石とか緑鱗石とか黒毒鉱とか、錬金スキルで加工する鉱石ってけっこうあるんだよね。なんだっけ、お姉ちゃんが言ってた「ファジーな鉱物」じゃない? お姉ちゃんは最近いろいろスキル持ってるんでしょ、加工できるよね?」
最初から持っているのが「投げ武器」に「解析」「クリティカルアップ」「阻害魔法」「錬成」で、次に「鍛冶」を覚えて「支援魔法」「回復魔法」を追加し、最新のものは「錬金」だ。かたくなに魔法を拒否しているんじゃなくてそれ以外のスキルが取りたいだけなので分かってほしい。
「ファジーな…… ああ、ジジミウムとかか」
性質が似すぎていて分離が難しく、しかし似ているから混ざっていても使えるとかいう本当に別物なのかというような金属があるらしいのだ。よく覚えてるもんだな。
「それはそうと、玉銀って耐久値は大丈夫か?」
「お姉ちゃんの鎧も玉銀だよね?」
ああ、そうだっけ。錬金スキルで作ったらしい鎧もどきだから耐久値は期待するほどないと思っていたが、それでも中級の鎧くらいはある。玉銀は意外に優秀なのだろう。とはいえ鎧と言うほどの面積でもない気がする。
いや、このデカい胸を守れている時点でなかなかすごいと言わざるを得ないのだろうか。かっちりした形なので内側で胸が暴れたりもするが、戦うなら仕方ない。まさか胸と同じ形の鎧を作れなんていうわけにもいかない、そんなんなら痴女的な胸覆いだけで戦っているあのスタイルがいちばん合理的ってことになってしまう。
「あれ、確かめちゃくちゃ鉱石が小さいだろ? 製錬超めんどくさそうだぞ」
「鍛冶スキル上がるよ」
「……そうだな」
まあいい、どうしてもというわけではないし、そもそも槍の穂先は意外に小さい。ミサは鉱石の加工ができなかったはずだから、製錬が終わっていないのも納得できる話だ。ミサに言って玉銀の鉱石を「必要そうな分」もらうと、なんだかひどい数だった。
「ミサ、どういうことだこりゃ」
「玉銀って貴重なんだよ。クエストにもめったに出てこないし、採掘してもあんまり出てこないらしいし。その鎧、ひと財産したでしょ? 全身ぶん揃えられるなんてすごいよ。スキル上げにはちょうどいいらしいけど、数が少ないのが悩みの種だって」
ミオンはもしかして優しいのかと思ったが、レベル制限があるので装備できないだけだと考えると、不用品の押し付けとも取れる。
「でも説明文からして珍しそうだよね、真珠の化石が魔力と金属を吸ったものって」
「そんなもんあるわけ…… だから珍しいんだな、うん」
真珠の化石ってなんだよ。というか置換化石か。珍しいのも納得がいく。
「どれが鎧なの、そういえば」
「イヤリングとプレートだろ、それから手袋とベルトとレガースだ」
「へえ、すごいね」
「作った人、どんだけ努力したんだろうな」
クエスト報酬なので誰が作ったという設定すらないのだが、仮に誰かが作ったのだとしたら素材集めが死ぬほどきつかったことだろう。
「いま高騰してる素材とか、分かるか?」
「プラチナがすっごい高いかな、それとザラルダイト鉱石も安定して高いよ。あと玉銀はもちろんだけどレニオルメタルが最初の高騰起こしてるみたい」
素材が出始めで性質がよく分かっていないときは、誰もが実験とか珍しいもの買いでそれにお金をつぎ込むものだ。新しい街で取れるレニオルメタルはそれなりに高い値段になるだろう、投げ武器としての価値に誰かが気付いてくれれば暴騰するおそれもある。もちろん誰も投げて使わないとは思うが。
プラチナは防具としての高い属性耐性が期待されているのだろう。ザラルダイトは武器にすると耐久値も鋭さもなかなかいいものになるので、高価くて当然だ。
「んじゃ、製錬始めるか……」
れんせいは簡単だが、せいれんは難しい。平仮名で書くとほとんど違いもないことが分かろうと言うものだが、鉱石の選り分けとインゴットづくりを一緒にやっていた昔の日本みたいな高度な炉はない。砕いたあとの石から必要な部分を取り分け、不必要なものは岩レンガにでもしてNPCに売り払うのが常道だ。石材と同じくらいよい値段で売れるので、石屋さんに売った帰りに鉱石を買って帰ることもできる。
「あ、玉銀は砕いたら壊れちゃうよ」
「あ? え、じゃどうするんだ」
「たがね? で叩き出すんだって」
「タガネ、ってあれか」
のみみたいな形の。化石掘りとか岩砕きに使うやつね。いちおう持っているが、まさかバーチャルでここまで面倒なことがあるとは思わなかった。
「ちくしょうちくしょう、こんちくしょう」
「音頭取りおかしいよー」
「こんちくしょこんにゃろ、ちくしょうちくしょう」
「おかしいってば……」
見てるだけじゃこの繊細さとめんどくささは分かるはずもない。がんがんごつごつ音がしてるだけだから、まあうるさい以上の感想はないと思う。手に神経を集中させて、いちおう解析スキルでどこまでが玉銀の結晶なのかを見つつ、それを傷付けないように慎重に周りの岩を割っていく。
「くそ……」
「汚いよお姉ちゃん」
机の上にごろごろ並んだかなり多い数の「玉銀鉱石」を砕き終わったころには、すでに日が暮れていた。製錬が終わったのはいい、鍛冶スキルのレベルが2も上がったのには驚いたが、MPはそんなに回復していない。どちらかというとじっと休んでいた方が回復は早いので、ずっと動いていたせいだろう。
「見た目完全にバロック真珠だよな、これ」
「きれいだよね」
クリーム色っぽいもの、緑が踊るもの、青が揺れるものやオレンジと赤がたゆたうものもある。紫がちらつくものもあれば桃色が流れるのもあった。若干桃色がかったそれが俺の装備しているものだが、エンチャントに色が関係あるのだろう。そこに関しては突っ込むつもりはない。
だが。
「基材、用意するか……」
おそらく持っているほとんどを出してくれたのだろうが、ミサの出した分だけではちっとも槍の穂先に使えそうな量にならなかった。より正確に言うならば、その半分くらいだろう。俺は短剣にでもしようと思っていたアリアルの中サイズインゴットを選ぶ。
「んじゃ、ちょっと市場のぞきにいこうぜ」
「え、うん、持ち手の部分探すの?」
「そうだ。槍は全部金属製にはできないだろ」
「そうだっけ」
軽口をたたき合いながら、俺とミサは市場へと向かった。
石ころの使い道ってありますかね? 投げる以外の使い道だと別に思い浮かびません。ネトゲだとゴミは買い取ってもらうかそもそも拾わないのが普通だろうけど、石ころにおかしな使い道を作っているゲームなんてモンハンくらいですよね。
やっぱり投げるしかないのか……?
スキルノート
「素早さアップ」
ステータスアップ系はおしなべて地雷とされており、上がるのが遅いうえに大した寄与もなく、こんなものを取るくらいなら、と言われる。だが魔法使いのテンプレとされる「MPアップ」とこれだけは例外。日常生活を送る(MPを消費し戦う、手足を使って移動する)だけでスキルレベルの上昇が見込めるうえにある一定の閾値を超えると戦闘や移動が非常に楽になるためである。
上げる方法がはっきりしていない「HPアップ」「防御力アップ」や武器を替えたほうが早いと言われる「攻撃力アップ」、装備を替えると変動するためスキルホルダーを使うのがもったいない「クリティカルアップ」など結果を見てからでないと突っ込みどころしかないものがステータスアップ系の大半を占めている。そのためこれらは地雷と言われているが、上げている途中のプレイヤーからは「なかなかすごい」という意見が出ている。実際のところは不明。
素早さを上げると回避速度、移動速度、体感体重が変わるため移動が尋常ではなく便利になる。とある人の言うところによると「人が風に乗って飛んでいくのを見た」そうで、建物の窓から飛び出し屋根から屋根を伝ってとんでもないところに行けるとされている。噂の真偽は不明だが、一考の余地があると見ていいだろう。