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Aurum Online [Shooter]  作者: 亜空間会話(以下略)
第五章 Señorita
82/120

#082 cambio de ropa

 水着回はしっかりやらないとな……。


 どうぞ。

 なぜかそのままの姿でいるミサが髪の毛を肩あたりでまとめてくれた。編んでるわけじゃないがこれはこれでばさばさゆらゆらしなくて便利だろう。


「変化してないやつもいるんだな」

「うん。モニターしてた心理状態のうちで変化を怖がる人がいたんじゃない?」


 他人事みたいに言いやがって。


「運営に関わりでもあるのかよ」

「このまえGMの人にお話を聞いたの」


 なんてコネだ。


「ってか変化してるやつの方が少ないぞ?」

「パーティーのうちで数人だけ、変化を望む人に変わったのかも」


「俺は変化を望んでたんだな…… こういう形じゃないと思うんだが」

「そうだよね」


 停車駅から電車が消失し、本格的にイベントが引き返せない場所に来たことを感じた。でも周りの人は、微妙に見た目が変わっている。現実くさいわけでもないが、どこか違和感があるような気もする。


「でもお兄ちゃんと私って本当に兄弟かもしれないよね。こんなにおっぱいあるし」

「ひゃめろっ」


 めちゃくちゃ変な声が出た。


「んっ、揉むなっ」

「表情もいいよ、お兄ちゃん…… お姉ちゃん」


 どっちなんだ、なんて突っ込む余裕はない。もみゅもみゅと胸が揉まれているしそのせいで妙な気持ちよさが生まれ、体中がびくっとはねている。揉まれるだけあるのかなんて突っ込みをする前に俺はミサを背負い投げの要領で投げて、呼び出したナイフを構えた。


「次揉んだらナイフを刺す。予告しとくぞ」

「はあはあ言いながらナイフ構える女の子っていいよね!」


 隣にいたやつに話しかけている。刺すぞこら。


「私です、硬度7.8です」

「え? こんな女の子が?」


 硬度7.8って大学生のくせに渋い顔と声した見た目おっさんのひとだった。一人称が私だったが正直言ってぜんぜん似合ってない…… と思っていたが。


 年増と言う言葉がむしろ褒め言葉になるのではないかと思うような妖艶極まる女子だ。年齢が分からないことが魅力に化けているということが素直に恐ろしい。いつものローブの上からでも体型が見て取れる。なんてグラマラスなダイナマイトセクシーボンバー。


「TSっていいなと思い出したのは錯覚だな」

「錯覚じゃないよ。涙目でナイフ構えてジト目の女の子もすっごくいい」


「ミサ、お前は変態だったんだな……」

「お兄ちゃんと趣味を同一にしてるので!」


 そういや俺の画像フォルダに武器っ娘の画像もあったな。ジト目の。


「でもあったかいよね」

「それはまあ、うん」


 後ろからお腹に手を回されているのは、手の上の面で胸を感じているのだ。でも不思議と、抱きしめられているのが妙に暖かい。ちょっと眠くなってくるような心地よさだ。


「百合ってるねー」

「あ、なすこさん。お兄ちゃんが女の子になったので揉んでるんです」


「揉んだら刺すっつったろ」

「いいねー、かわいい」


 どうやら三ヶ日さんパーティーで変化してる人は三ヶ日さんだけだ。銀髪のイケメンというのは、月の光に冴えそうな感じに見える。


「変化してる人の方が少ないんじゃねえのか?」


「ミサちゃんから聞きましたが、変化を望まない人の方が多いんでしょうね。でもそんな中で少しだけの人が変化していると、素晴らしいものだと思いますよ」


「そうかもな。あんたは変化を望んでたらしいが」

「……どうやら、私が望んでいる類の変化は起きないみたいですけど」


 意味深だが聞き流す。分からないなら分からないまま徹すまでだ。


「さてと、イベント進行はまだあるんだろ」


 胸がとくんとくんと暖かく動いているのを無視しながら声を聞く。


『みなさん、指を伸ばしてください』


 言われたとおりに目の前に指を伸ばす。


『写真のポーズをとってみてください』


 はい、チーズのポーズをとると、画面に照準らしい十字が浮き上がった。


『これはスクリーンショット機能。これまでには面倒な手続きが必要でしたが、これからはこのように簡単に撮影することができます。 ……それでは、新技術のお披露目、およびイベントの説明はこれで終わりとさせていただきます。皆さん、お楽しみください!』


 ゲームマスターの影が消え、大歓声が巻き起こり、イベントが始まった。




「じゃあお兄ちゃん、さっそく行くよ! まずは海!」

「海か……」


「私もご一緒しますよ」


 硬度7.8さんがなぜか便乗している。


 大丈夫なんだろうなと聞きそうになって、聞いても無駄だと俺はあきらめた。ヴァイスヴァルトに一緒に挑んだときもキラートーナメントのときも、どこかに壁を作っているのがミサだったのだ。いちばん近しい相手のようで、絶対的な壁を持っている、最も理解しがたい部分を持つ相手でもある。


 駅のような場所から海にはけっこう近いらしく、少し歩いただけで海が見えてきた。


「そうそう、料理スキルも上げたから、おいしいもの作れるかも」

「そりゃ楽しみだな」


 けっけっけとなすこさんが恐ろしい笑い方をしているのは、まあ何か笑えることがあるんだろう、と俺は思っていた。


 ビーチには人がたくさんいる。それ自体はそうなのだが、全員が水着を着ているのは一体どういうことなのだろう。


「お嬢さんがた、泳ぎに来なさったのだろう? 脱ぎなさい」

「ど……」


 とくに特徴もなく俺たちに何か出来そうもないおばあさんが右手をひと振りすると、装備がインベントリにしまわれ、俺たちは下着だけになった。


「な、な…… なんじゃこりゃっ!?」

「ど、どうしましょう」


「二人ともかわいいよっっ」


 突撃されて押し倒されてこれからどうなるんだおいやめろやめろって!


「これじゃ戦えないだろ!」


 脇腹をふみゅふみゅされながらおばあさんに文句を言うと、しかめつらをされる。


「浜辺で暑っ苦しい恰好しとるのは海に失礼さね。海にふさわしい格好をしなさい」

「くそ…… いくらいつも紙装甲だとはいえ、これじゃまともに戦えねえぞ」


 まともな戦いなどしたためしはないが、だとしてもこれで戦うのは恥ずかしすぎる。硬度7.8さんなんかひざを抱えて丸くなっちゃっているし。


「大ジョ夫だよ水着作れるからァア」

「なすこさん、禍々しいから……」


 どうやら女性陣は下に水着を着てきたという例のあれらしい。用意のいいことだが、先に情報を得ていたということもあるのだろう。


「それにしても二人ともええのう、げへへへへ」

「怖いってなすこさん、戻ってきて!」




 ちゃちゃっと手際よく作られた水着を手渡された俺は、とりあえず突き返す。


「なんで黒ビキニ!? 挑戦しすぎだろ!?」

「ワンピースタイプでは体型が活かしきれないかと思うんですが……」


「ほら硬度7.8さんも言ってる! 交換すべきだろ!?」

「ん、そう?」


 それを見ていた三ヶ日さん(銀髪イケメンバージョン)がミサの肩をぽんと叩いた。それを受けてかミサがとうとうと語り出す。


「よく考えてみて、二人とも巨乳、というか爆乳だよ? しっかり見て」

「気恥ずかしくて見られません……」


「それじゃ変態にはなれないよ?」

「そ、そうですね……」


「ならなくていいってば!」


 がんばって自分の胸を見ようとしている硬度7.8さんに突っ込みを入れつつミサを説得してみる。


「とは言うけど、さすがに恥ずかしいだろうぜ、どうかしてくれ」

「人類の損失だよ?」


「真面目な顔で言うなって…… 面積増やすとか、パレオだったか? あれをだな」

「うん。なすこさん、素材は後でとるから別バージョンお願い」


「りょーかいー」

「こらファッションショーじゃねえんだぞ!?」


 五回くらい着替えて新機能のスクリーンショットを試されたあとようやく戦いに出ることになった。紫のチェック柄の上下…… の上から円筒形のガウンを着ている。これはこれで一つのスタイルとして許されるらしく、なすこさんも最初は舌打ちをしたが「着てないように見えるのもいいね!」と謎の納得をして許してくれた。


「こんなおしゃれな布、どこにあったんだ?」

「ギンガムチェックの布って言う低級素材。何を入れてもできるやつだよ」


 それって高級にも化けるやつだ。


「硬度7.8さんのやつは?」

「これは濡れるとステータスが上がるやつだよ」


 そっちを回してほしかったな、と思いはしたが、通常の装備に比べるとかなり頼りない数字らしい。半裸だから当然だが、戦うに足る数字が欲しいものだ。


「この恥じらい…… はいてない疑惑…… くっくっくいいですねえ」

「でしょ? 水着ガウンっていいよね」


 この変態どもめ。


 そう思いつつも、みんなの水着姿はやはりきれいだと言わざるを得ない。


 なすこさんのスレンダーな体型にはやはり茄子紺のワンピースタイプの水着が似合っているし、銀髪の三ヶ日さんになぜか小学校の水泳スパッツのような水着が似合っている。男をじろじろ見る趣味はないが、これがいつもの姿だったらかなり良かったのではないだろうか。胸が溢れそうなスクール水着と考えると…… いや、頭の中がおかしなことになっているような気がする。性別はどこにいったんだ。


 ミサはいつもの白い姿ではなく、俺のと似た青いチェックの水着だ。にゃんさんはワインレッドのビキニで、髪の色ともよく合っている。いつも通りの武骨なポニーテールだが水辺だと似合っていて、それもまたいい。なんだか急に魅力を感じる女性が増えて来たような気がするが、よく考えると今の俺は体だけ仮想の女だった。


「あれ、そういや……」

「なに?」


「いや、なんでもねえ」


 リセイはどうしたのだろう。


「おお、美しきかな兄弟愛。素晴らしいね、ゼルム君」

「まさか……」


 後ろから投げかけられた妖しい声に振り向くと、黒いビキニの女性が立っていた。妖しい笑みを浮かべたその立ち姿は、それを追求したかのように妖艶だ。ただし胸の方はそんなに大きいわけじゃなく、まあ普通かなというくらいだろう。


「そう僕だ。合い言葉は?」

「〈良い殺しを〉」


「〈良い殺しを〉。一対一(タイマン)でやろうじゃないか、どうだい?」

「いいな。ほえ面かくなよ」


 ちょっとおおげさだが、今の俺に勝てると思ったら大間違いだ。いくら胸が邪魔そうに見えても、現実に反射神経を鍛え上げた俺は格段に強くなっている。


「そんなに肌さらしまくった格好でやる気かよ?」

「君に言われたくはないね。それ、腕を動かしたら全部見えるやつだろう」


 ……切れ目、前だったな。見えるんじゃないかバカ野郎これ作ったの誰だよ!


「まあ、殺し合いたいところなんだが…… 死ぬと強制ログアウト、しかもこの天穹の花園には戻って来られないんだよ。というわけで、殺さない程度に痛めつける、ということでいいかな? 部位欠損も起こらないように調整するよ」


「さすがプロはいうことが違うな……。まあ、ありがたいからなんでもいいぜ」


 Jの声も女になってねっとり色っぽい声だったが、俺の声もかなり違和感のある女の子の声だ。まあしょうがないとは思うんだが、俺が求めている変化とはかなり違うものだろう。俺が求めているものとは、いったい何なのだろう?


「さあ、まともな決闘はこれが初めてだね」

「考えてみりゃ、そうだな」


 そもそもJと戦ったことは一回しかない。しかもぼろ負けだ。解析スキルを使っても避け切れない連続攻撃、そして人体の急所を知りつくしていること、そして現実世界で鍛えたとしか思えない素晴らしく冴えた体術。


「決闘の前に、リセイを助けてくれて、ありがとな」

「役割だからさ。役割に当てはまれば、何だってするよ」


 誘拐されたリセイを直接的に救出してくれたのは、この男…… おん…… 男だ。照れくさいのか何なのか、はぐらかしていっこうにありがとうという言葉を受け取ってくれない。だが今だけは、決闘の前に因縁をはらっておきたかった。


「悪の組織から女の子を救った報酬は、いつも通りだよ。それでいいのさ。僕はヒーローじゃあない、一介の民間人だ。君だって多くの人間を救っているのだから、少しくらい感謝の言葉を聞いてみたらどうだい?」


「む…… そういうのはいいんだよ。やるぜ」


 俺はエアルプラティンの投げナイフを取り出す。



 ――決闘開始



 たった四文字の表示だけを見て、俺とJは動いた。

 八話まではできあがっているのですが、それ以上はまだです。というか話の中身を詰めるのにちょっと時間がかかっていて、骨格だけはあるものの肉や内臓がなさそうな感じ。


 そういえば時系列と登場する場面的にあのひととあのひとを入れ替えられるなあ、と思ったんですが、話がややこしくなるのでやめました。伏線でも何でもないし、作者としての力不足をそうじゃないようにごまかすのはみっともないように思えますし。


 ……あ、いまよく考えたら無理だな。よかった。

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