#078 R-救出成功/S-殺害失敗
自分で読んでてつまらんなと思ったときって、どうすればいいんでしょうか。打ち切る気はないものの、ほかにも選択の余地があるように思える。というか書き直ししないといけないけど、普通に展開とかキャラクターとかガラッと変わるんですよね。どうすればいいのだ。
よくわからないコメントがあったのですが、本当によくわかりませんでした。真摯に回答したつもりではあるのですが、向こうはそう思っていないだろうな……。言葉選びとか死ぬほど気を遣っているんです、漢字だってルビだって、動詞を付けるというただそれだけに深夜の二時くらいまでかかるんです。修正するときはしますので、意見や文句があればどうぞ。つまらないものは一蹴しますけどね。
どうぞ。
手に何かを持っている。
城島の最初の印象はそれだった。
「久しぶりだな、立木。もう少し顔が変わっているかと思ったんだが」
「城島こそ、こんな仕事に就くなんて、変わったな」
旧友の再会と見えないのは、片手に拳銃を持った男、片手に爆弾のスイッチを握った男がそれぞれにらみ合っているからだろう。笑顔でも、ぶつかり合う視線の鋭さは刀に勝るとも劣らない。
「崇高な目的のつもりか?」
「そうだろう? 違うのか」
肉体に苦痛を与える刑罰はじきに終わる、と立木は真顔で言い切る。
「誰がそんなことをするんだ。なぜしなければならないんだ。与える方も与えられる方も等しく傷付く、刑罰と言うものを。刑務所は必要だ、だが刑罰で肉体を傷付けるということは人間の尊厳を奪うことにほかならない…… 人間を人間が傷付ける時代は終わる。監視のための刑務官がいればいい」
立木は困ったように苦笑し、続けた。
「ロープを首にかけるスイッチを押す? 馬鹿馬鹿しい。人間は罪咎を背負いきれないじゃないか。耐え切れないのなら代わりを作ればいいのだ。人間に背負いきれない罪を裁くにはどうすればいいのか。答えは簡単だ、痛みをプログラムした機械にかければいい。一日のうち一定時間刑務機械にかければそれでいいのだ。命令する必要もない、ただ機械に入れるだけのそれに変えてみせる」
「……腐ったまま放置された脳を見た。あれがお前の理想か、立木」
「あれは崇高なる犠牲に過ぎない。人間一人にどれだけの価値があると言うのだ? すべてのために身を捧げる人間がどれほどいる。来たるべき至高の未来社会の礎になる、ただそれだけで彼らは幸福だろう。苦痛のみが彼らに与えられたものではない、彼らは天国の如き快楽を与えられていた。飴と鞭の要領で。彼らは、我々に感謝すべきだろう? あのまま生きていて誰の役に立ったと言うのだ」
「もう聞きたくないよ、立木。お前の考えはよく分かった」
生きるべき人間などいない。死ぬべき人間もだ。
「さて、口上は終わりだ。データの転送はそろそろ終わっているだろう。要所のフロアに爆弾が仕掛けてある、このスイッチを押せば上から順に炸裂し、この研究所は跡形もなく消え去る。分かっていて来たんだろう?」
「まあ、な。こんなものをこちらも用意しているわけだが」
どんな製品でも、もっとも分かりやすい場所にメーカーのロゴや商品名を書くものではない、というのが鉄則だ。警察の使用するものであればなおさら。
「ジャミングの機械か…… とはいえ、そんなに遠くまで機能するわけじゃないらしい。上で爆発音がしたぞ」
「そうか」
ボタンがかちりと押された瞬間に、ここから退避する準備をすべきだった。だがそうしなかったのは、せめてもの城島の情けだろう。
瞬間、立木の上に天井の梁が落下した。火の付いた何かが一緒にどさどさと落ちて、とうてい消し止められない強さの火の手が上がる。
「うわああああああっっ!? 城島っ、助けてくれ!! いま、いまここで死ぬわけにはいかないんだッ! 痛い、痛い…… 城島、見てないで助けてくれ!」
城島は動かない。
「おい!! 仮にも昔の…… あ、熱っ、足に火が……! そんなに力持ちそうな二人を連れているんだ、助けられるだろう!! がれきをどけてくれ! 火を消し止めて、俺をここから出せッ! おい城島ァッ!!!!」
城島は一歩たりとも動かないままに、低く冷たい声で言った。
「下司は死ね。お前は人間以下だ、助ける価値なんてないよ」
そしてがらりと変わったトーンで「総員退避! 階段を一気に下りてマイクロバスで安全な場所まで避難する!」と、部下に命令する。
「城島ぁあああッッッ!! うらんでやる、一生呪い続けてやるッ!!」
「足元に迫ってるそれをなんとかしたらどうだ?」
そう言い捨てて、城島は退避した。
◇
監視カメラの映像をハックしていた下呂魁斗ことフールと伊吹は、響き渡る悲鳴をやり過ごし、保護された少女たちを安心した目で見ていた。
「あwww」
「どうしたんすかフールさん」
「この子らの服どこ?www」
「あ……」
悪霊に襲われてでもいるかのような切れ切れの悲鳴。死に際に自分で抱えていた罪の意識が噴出し、責め立てられる悪夢でも見ているのだろう。それだけが分かればフールにとっても罪は裁かれたようなものだった。
「ぶっちゃけ友達でも何でもなかったけどさ(泣)、あいつを殺したやつだし、死んでよかったのかな。漏れにとっちゃ仇だし。地獄に落ちるでしょ(`・ω・´)」
「そっすかね」
何人も殺したのだ。日本的な宗教観に従っていえば、それは地獄に落ちるに値する罪である。ささいな罪でさえ厳重に、何千年もかけて裁かれるのだ、調べれば殺人に関する裁きは何兆年という単位になっていることだろう。地獄で叫び続けることは間違いない。
『二人とも、よく任務を果たしてくれた。今からそこに戻れる。建物を爆破するので離れることになる。後部に乗り込んだ今の状態で、衝撃に備えろ』
「うっすwww」
「分かった」
さっきも上の階が爆発して禿げた男が爆発に巻き込まれていた。おそらく死んだのだろう。とはいえ爆破解体を行うのとはまた勝手が違うことだ、おそらくとんでもない衝撃が来るだろう。
「爆発ってどんな感じかな?www」
「高性能爆薬だと車に乗っていてもこけますよ」
「へえ…… ちゃんと備えないと」
隊員がざっ、ざっと車に乗り込む。そして立木製薬のそれに偽装されたマイクロバスは発進した。さきに周りで待機していた人も、内部からの爆破スイッチが手に入ったことで狙撃する必要がなくなったのだそうだ、と伊吹は聞いた。
「ずいぶん早く終わるんですね……」
「十階建てのホテルにたった六人しかいませんでしたから、制圧には手間取りませんでしたよ。ただ、彼女らの衣服は爆破とともになくなってしまいそうですが」
「え……」
「仕方ありませんよ。人命が最優先でしたから」
それもそうだろう。服など探している暇があれば一分でも早く制圧することを選ぶだろうし、一人でも多く逮捕できる時間を確保できるはずだ。
「お二方のご両親に連絡できますか?」
「小海の方はいけます。日野さんの方は、そっちで調べてください」
伊吹はさっそく電話をかけることにした。
「もしもし、伊吹っす。学校で会った伊吹です」
『あら、伊吹さん!? どうかされたの?』
「利世さん、保護されました! 着替えとか持ってきてあげてください」
『ああ…… 本当なの? 声は聴けるかしら』
「えっと…… ちょっと寝てます」
「起きたよ、伊吹くん」
『あ、本当に…… 本当に、ああ』
「電話、代わります」
親子の会話もあるだろう。ひと月も会えなかったのだから。
「伊吹くん、制服どこか知りませんか?」
その瞬間、ドヅンン、と地面が揺れ猛烈な土埃が押し寄せた。神の起こしたもうた奇跡か、手ひどく破れ焦げた白いシャツと途中で裂けて燃え上がった紺のスカートが窓の外を吹き抜けていく。スカートは道路に落ち、そのまま炎上してしまった。シャツの方は木の枝に引っかかったものの、繊維が熱で変質していたのか、ぼそりと崩れ落ちる。
「……見えたよな」
「はい…… あれですか? 人命優先?」
「そうそう人命。服は二の次だよな?」
「ばかやろーっっ!!」
伊吹が小海を慰めるのに、15分を要した。
「マジでごめん、服のある場所も監視カメラで見とくべきだった」
「いいです、命が助かったので制服が爆発で燃えてもぜんぜん残念じゃないです」
「悪かったってば……」
「下着なしで服を着せられてても平気ですぜんぜん」
「ごめん……」
小海はちょっと怒っていたが、不意に表情を和らげた。
「あんまり謝らないでください。これでも命の恩人じゃないですか。ほんとにもう、助からないかなって……。このマイクロバスも、次の人が来たんだって思いました」
「サイクルが短かったころは処理が始まる前に次を確保していたようだが、最近はどうやら処理が終わってから次をさらってきていたようだね。タイミング的には合っていたんだろうが、次の確保はどうやら今日やる予定だったんだろうね。本物のマイクロバスは監視カメラで探している途中だが…… おっと、見つかったようだ」
「え、どこどこ?(*´▽`*)」
「ここじゃない、石民だ。はっは、声をかける段階でか。笑えるねえ」
マイクロバスを停めて、さらう対象に声をかけた段階でマイクロバスが発見され、特に武装していなかった犯人たちは即座に両手を挙げたのだそうだ。
「しかし、これほどの大犯罪を見逃していたとは……。僕はなんと愚かだったのだろう。身近にこんな怪物が潜んでいるとは思わなかった。堂々と誘拐してそのまま立ち去るなどということがあるなんて…… 考えてもいなかったよ」
悪辣な犯罪だ。堂々としていた。
だが、そのどこにも気付ける要素はなかったのだ。人体実験の募集をインターネットでやっているなどと誰が考えるだろう。足りなくなったから街で適当にさらおうと考える神経も理解しがたい。
「なにが人権だ……。ひとを殺すやつに人権を語る口なんてないさ」
「なんて言ってたんだよ、あいつは」
「肉体への暴力は人権侵害だ、だから苦痛だけがあるようにする、とね。たった傷があるかないかと言うそれだけがそんなに重要かな。まあ、あいつの過去に何かあったのかもしれないがね……。死んだ今になっちゃ知りようもないことさ」
そう吐き捨てるように言い放つ城島は、伊吹の目に、少しだけ寂しそうに映った。
「伊吹くん、大人にそんなになれなれしくしていいんですか」
「アウルムオンラインのJ、知ってるだろ。こいつだよ」
「君には口の聞き方を教えるべきかもしれないな……」
そろそろ城島が怒りそうなのを察知して「いや城島さんやっぱすげえ」などと伊吹はふざける。小海はそんな様子を見て、少しだけ笑った。
「帰ってきたよ、伊吹くん」
「おかえり、小海。またしゃべったり、一緒に帰ったりできるな」
「そう…… ですね」
仮面が半分剥がれている。
「なにいちゃついてんの小海。カレシじゃないんじゃないの」
「えっ、自分を助けてくれた人ですよ? 惚れてもいいですよね?」
「めっちゃ言い訳くさいんだけど……」
「言い訳ですよ、もちろん」
小海は、やはり笑った。
◇
「すべては終わった」
そう言った男の鎧と盾は金で縁取られている。困難な処理だが、重量の増加と言う意味ではまったくの無駄な処理というわけではない。
「おいヒュマさん、マジどうするんだよ!? 俺らみんな追放されちまったじゃんかよ! 倒せねーし追放されちまうし、意味ねえじゃんよ!?」
「ヤツの学校にいる生徒を向かわせる。リアルを追い込んでやればいい」
ギルド「プログレス」は実質的に半壊した。
幹部の「ヒュマ」が通称「未来厨」と呼ばれるプレイヤーたちに腹を立てたメンバーを煽動し、見るからに邪魔なたった一人のプレイヤーを排除、もしくは都合よく動かそうとしたのだ。途中までは成功したが、その後の目論見はすべて破れ、こうしてギルドをすら追われることとなった。
おかしなスキル構成で強いというゼルムに、未来厨と呼ばれた彼らは純粋に憧れ、ヒュマたちプログレス過激派は嫉妬していただけなのだろう。
どちらも最悪の結果だけを残して、消えていった。
マナーに鑑みずにでたらめに配列したスキルを、いつか役に立つと言い張って自滅していったのだろう。それを真面目に育てる気持ちなどなく。
過激なプレイヤーたちはマナーの悪い彼らの責任がゼルムにあるかのように煽動されて彼を手にかけようとしたが、バーチャルでもリアルでも、彼らの手は最後までは届かなかった。禍根だけを残し、貴重な財産を無駄にして。
「すべては終わったと思っているだろう、ゼルム……」
ヒュマは彼の名前を知っていた。しかし、リアルネームを呼ばなかったのは情けでも何でもない。彼の名前が、ヒュマにとって特別でも何でもない、ただの文字列だからだ。文字列を読み上げる意味などない。
「貴様は破壊される」
ヒュマは、無為に笑った。
じ、じかいはどうなってしまうんだ(棒
次回予告考えないとなあ……。次の章はなんとあれを用意しているんですあれ。みなさんが好きそうなあれ。しかし絵がないとつまらんよな。人間の絵は描けないので(というか絵は全般的に苦手なので)どんな感じなのかというイメージを脳内で自分に最適化して楽しんでくだせえ。