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Aurum Online [Shooter]  作者: 亜空間会話(以下略)
第四章 Sを殺せ/Rを探せ
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#071 恐怖と狂気/歓喜と恐怖

 洞窟の生き物は洞窟にしかいないわけではなく、人間が入ることのできない、地下の狭い隙間にもいる、ということが確認されたんだそうです。というわけで「洞窟性生物」(どうくつせい・せいぶつ)から「地下浅層性生物」(ちか・せんそうせい・せいぶつ)に呼び方が変わったのだとか。まあ何でも人間サマ基準で考えるのは押しつけがましくて愚かしいモノのすることですよね。そこを考えると科学者はおかしなところはあっても実に「人間」的だと言えます。


 そんなマッドさを機関銃のように前面に押し出しまくった今回も、当然のように閲覧注意。精神に悪影響を及ぼす恐れがある、というのは冗談や比喩ではありません。慣れていらっしゃらない方や読むのが怖い方は作者に内容をたずねるのもオーケーですので、遠慮なくどうぞ。


 どうぞ。

 静かな部屋だ。そう思った瞬間に、電子音声のような悲鳴が響き渡った。


『ギィァアアアアアッッ!!』


「な、なに、これ」


 暗い部屋ではない。即座に、それは目に入った。


「何ですか、これ……」


「ヴァーチャルリアリティー・インカーネーティングデヴァイスの一部を改造した機械です。より正確に言えば同じ部品を使ってより正確な感覚の再現を目的に構築されたものですね。人体のうち、脳と脊髄さえあればこれを使用できます。というよりも残りのパーツが邪魔なので、除去するわけですが」




 いやあ神経細胞が死なないための培養液の合成にはとても苦労したんですよ何せ血流が止まって2分以内にこの培養液に浸けなければならないわけですから動脈を切断するのは最後になるよう術式を調整しなければなりませんでしたしおまけにブドウ糖の補給が長いあいだ途絶えると脳のレスポンスが非常に悪くなりますからねそうそう脊髄反射はこの状態でも生きているんですがどうでしょう見てみますか顔色が悪いですね酸素の問題も解決するためにかなりかかりましたなにせ血液のガス交換に使われているヘモグロビンに似た構造を薬剤で作るのは本当に大変だったんですからいやまったくこれは我々の英知の結晶と言って差し支えありませんよ薬学に外科医学そして脳神経科学我々がチームで本当に良かった大学時代からの研究したことのナンバーワンでしたからどうですこのデータ素晴らしいでしょうどこをいじればどうなるのかすべてを判明させることができたのですよここをいじると骨折したのと同等の痛みを与えることができますほら悲鳴を上げたでしょう相当痛いのでしょうねそれでは次に




 そんな言葉は、二人には届いていなかった。


「こ、これ、ほんとに人間の」


「そうですよ。うつぶせにして背中を切り開き、内部を傷付けないよう慎重に脊椎を割るんですね。同時に頭蓋骨の方も割って脳を取り出さなければならないので、外科医としての天才的な手技が必要になります。髄液の処理については割愛しますが、神経を持ち上げるのはなかなかに大変ですよ。ちぎれればお終いですから」


「なんでこんなこと……」


「ですから説明して差し上げたでしょう、脳と脊髄、この二つの主な神経を使用して人体への感覚の再現を行うんです。触られていないのに触られたように、痛くないのに痛いように、何もされていないのに何かされたように感じさせる実験ですよ。これをあなた方にも体験していただき、何をされたらどのように感じるのか、という感想を言っていただくわけですね。男性では耐えられない苦痛や快楽に対して、女性であるあなた方がどのように感じるのかということを我々は知りたいのです。それが理由です」


 この男は人間ではないのではないだろうか、と日野は思った。


「悪魔……」


「失敬な。どのようなことでもできるのですよ、人間は。悪魔やら鬼やら、その手の文句は聞いてきました。ですがいるのですか、鬼や悪魔が? バラバラにした遺体を吊り下げるような凄惨な殺人事件を起こすのは鬼ですか? 第一次反抗期が始まったと言うだけの子供を殺す親は悪魔に憑りつかれているのですか。私はそうではないと思っている。人間こそが悪の塊であり、鬼や悪魔の正体であると。我々は戯れに殺人を行っているのではありません。暴力装置がこの世からなくなる、そのような崇高な目的のために実験を行っているのです。実験がある程度の段階にまで達すれば我々はこのデータを企業に提出しようと考えています」


 小海は、腰が抜けてしまい、男に肩で支えられている。


「あなた方が我々を罵ろうと、恐怖のために失禁しようと、究極的に我々の誰かが被検体によって殺されようと、我々は実験のため邁進する所存です。周りからどのように感じられたとしても、我々にとってこの実験は悪ではない。あなた方には、尊い犠牲となって頂く。だからおいしいご飯を提供するし、温かな寝床も用意するのです。そうでなければ良い結果を得ることができないと知っていればこそ、我々は被検体に安静に死んでいただくのです」


 男が鬼や悪魔でないという保証はどこにもない。これが夢でないとは言えない。幻覚を見ていないと証明することはできない。私と言う人格が存在し、人生を送っていると誰かに保証されたわけではない。


 だから目の前の光景が、一秒でも早く消え去ってほしいと、二人は望んだ。


「出ましょう。ずいぶん傷付かれたようだ」

「はい」


 男も研究者も、紳士的な態度を崩さなかった。それが、じりじりと忍び寄るあの空間を意識させ、二人を恐怖させる。


「あと三週間、ことによると二週間ほどの猶予があります。死ぬときのメッセージでも残しておかれたらどうですか。助かる保証などどこにもありませんよ」


 誰か。


 誰かとは誰だ。名前を言っていない時点で誰でもないようなものなのに。


 その名前のない誰かが助けてくれることを、二人とも、期待していた。誰も助けてくれないのか、誰も気付いていないのか。姿を消した自分を、誰かが覚えていて、誰かが探していて、見つけてくれるのはいつだろう。


 一部だけを取り出された残りを見て泣くのか。あの場所に置かれた「本質」を、どうにかして救うのか。いや、不可能だ。外科的な知識がなくても、脳を取り出された人体が生きていられるわけがないことくらい、分かる。


「……ぶき、くん」


 分かっている。現実での彼は非力だ。刑事でもなく、特殊部隊の一員でもない。飽くまで年齢と社会的地位と体格に見合った力しか持っていないことくらい、小海にも分かっている。それが現実だ。彼には小海利世(じぶん)を助けることはできない。


 そうと分かっていても。


 誰かが、知っている人であればいいのに。


 彼女らは、そう望むことしかできなかった。



 ◇



「まさかことごとく弱点を衝くとは、貴様、侮れぬな……」

「たまたまだろ」


 ほんとにたまたまだ。LUKを上げていたから起きたステキナグウゼンではなくて、いやそうとしか思えないのだが、まあ偶然なのだろう。なんと便利な言葉なんだろーわーすてきとか言いたくなってくる。


「ともあれ貴様は迷宮へ挑む資格を得た。喜べ、スキルを返してやる」

「当たり前だよしょうがねえ」


 全部のスキルが帰ってきた。おかえり、と言うわけでもないが、何となく安心する。


「迷宮の奥には龍が潜んでいる。ここで実力を示したものどもさえあっけなく屠られるほどの力を持った、な。ゆめゆめ侮らぬことだ、洞窟だということを忘れるな」


 地下のフィールドボスみたいなものもいるんだろう。まあフィールドボスの出てくる場所はだいたい決まっているから警戒するほどのこともない。


「幸運を祈っているぞ」

「ああ」


 俺は洞窟に入った。




 しばらくはファリアーの延長のようなきれいな洞窟だったが、それを過ぎると土くさい地味な色の洞窟に変わる。出てくるモンスターも結晶の塊みたいなきれいなものから、だんだん地味で洞窟性生物っぽいものに変わっていく。確か洞窟性じゃない名前があったと思うが、忘れた。まあ要するに白っぽかったり複眼が白く平らになっていたり、洞窟の生き物っぽい感じのやつだ。


 茶色くて丸い、何の虫か分からないような昆虫をぶっ倒して、俺はやっと一息ついた。リンクするわけでもないが、閉鎖的な場所というのは想像以上に気が滅入るものなのだ。壁から突き出た石が光っている謎の明かりのおかげで目が見えるだけの明るさはあるし、視界が確保できる分だけのスペースもある。


 でもちょっとした不安とか、マッピングした分しか拡大縮小可能な地図に浮かばないせいで、先行きがよく分からない。悪くないとは思うのだが、どうやら次の街があるのだろうしるしとはまだまだ距離があるようだ。直線距離にして地図ものさしで見るとおよそ5キロメートルほど、遠いと言うか、迷宮なのでもうあかんと思ったほうがいい。


 さて、道が二つに分かれているが、どちらに進むべきだろうか。残念ながら鉛筆を持っていないので…… いや似たような形のものはいくらでも持っている。ここは重くて倒れやすいザラルダイト鉱石の投げナイフで試すことにしよう。


 とふざけたことをしてみると、右側の結果が出た。


 まあ右利きだし右側に倒れやすいのかもしれんとか根拠のないことを考えていると、不意に変な地鳴りが聞こえた。いやいや、いくら洞窟の中だからといっても落盤が起きたりはしないだろう。落盤が起きやすいのは鉱山だと聞いたことがあるが、ここは天然の洞窟のはずだ。まあゲームなので天然もなにもないのだが。


 地形を貫通する「魔力視覚化」を使うと、視界全体が真っ青に染まった。いや、青と言うよりも高い山から見た空の色に似ている。濃紺だ。


 いったい何がいるんだろう。というよりも、高さの違う場所なんてあったのか。いやそれよりも、大きいのか数が多いだけなのか、ちっとも分からない。視界全体を覆い尽くすほどの数がいるなら絶対に死ぬ。それだけは避けたかった。ファリアーで復活するのだろうということは分かるが、ゴーレムをもう一度倒すとか巫女さんになんだ負けたのか的なことを言われるのはまっぴらごめんだ。


 天井が砕けて吹き飛び俺は何者かに捕らえられた。熱くて臭い、ひどい場所だ。急激に移動するので白い格子にどかどか当たって痛いことこの上ない。ジェットコースターと留置所を狭くして合体したようなはちゃめちゃな動きで移動する。そして俺は、放り投げられて受け身も取れないまま、体力を二割も地面と摩擦させてしまった。


「ぐ…… なんだ、こりゃ」


 金貨だ。


「どこだここ……」


 色の付いた石の大半はくず石だろうし、解析スキルを使わなくても分かるような見た目に価値があるものもたくさん転がっている。ひとことで表すなら、宝物殿だ。大した知能を持たないような生物が、なんとなくきれいだと思って集めたような。


「ゥウウウ……」


 風が喉の奥を通っていく、ただそれだけを声にしたような、ばかでかい音量を持ったそれが空洞の中にわんわんと響き渡る。風というキーワードに、俺はあることを思い出した。初めて向かった洞窟で、俺たちは大変な目に遭った。地下を自在に移動するのだろう、突然ダンジョンに現れた闖入者にぶっ殺されたのだ。


 あれは、とても大きくて白いものだった。


 ごりごりごり、と地面を削るような音をさせながら、白いシルエットが迫る。地面に足をついていないから、削るように移動するしかないのだろう。となれば、だいたい種別として蛇の仲間か。


 俺は解析スキルを使って、巨大な怪物の正体を見た。



 ブラインド・クロウラー

 ドラゴン:クロウラー種   推奨人数:三十人~


 メクラヘビが進化し、地面に穴を掘って潜む地竜と化したもの。数々の種類の魔法を行使する。その寿命は長く、気に入った洞窟に宝物を際限なく蓄えるため、倒せば巨万の富を蓄えた巣穴へと入れると言う。強い。


 !注意:推奨人数が足りません。!



 やはりか、と思うと同時に、俺は少しだけ嬉しかった。負けるだけ負けてリベンジの機会がないなんて嫌だったのだ。相手から、自分から、勝負を投げているみたいに思えてしまうじゃないか。もう二度と勝てないんじゃないかなんて、俺が言うような言葉じゃない。情けないとか無理だとか、俺にはもう言えないのだ。


「来いよ…… この前みたいに吸って吐いてで終わるなんて考えんじゃねえぞ。前と同じようには行かない。〈ショックアップ〉」


「ォオオオオ……!!」


 全力でのけぞって息を吸っている。


「だから、それが!」


 技名を叫ばなくても、言わなくても、特技自体は発動する。モーションを検知されればそれだけで問題ないのだ。


「なめてるって、言ってんだよッ!!」


 一番重い〈金球〉で〈アイアン・マッシャー〉を決める。あごの先、一番固いところにぶち当たった瞬間、クロウラーは大きくのけぞった。俺のお家芸であるモーション潰しだ。打撃武器なので威力と衝撃だけは大きい。金のいがぐりを作ろうとした俺は結局のところ諦めてしまったが、今の様子を見ていればそれが正解だったとよく分かる。多機能は本来の機能を鈍らせるだけで、長所を活かしきるものではなかったのだ。


「ァアアアアアア……!!」


 炎でなくても、風のように吹いたそれは激しい熱を帯びている。


 相手の命を感じ取った俺は、それがずいぶんと皮肉に思えた。これまで何度も人間と戦ってきたし、倒してきた。そのどいつからも、確かな命を感じたことはなかったのだ。あいつらは現実で生きていて、クロウラーには命などないと言うのに。


「だとしても一緒だな」


 人間でも。モンスターでも。


「倒す。あのときのリベンジだ」

 ステータスの不条理さ、というものがありまして、まあ確かにそうだよなと思います。よくある主人公だけ強すぎるやつとかインフレしすぎてそれに振り回されめちゃくちゃになる、なんてことも少なくありませんからね。持ち上げる理由が数字とかどうなんだろう。


 この作品においては「強い」「まあまあ」「普通」「やや弱い」「全然だめ」くらいが基準になるんでしょうが…… ステータスを表記する、とは言っても所持スキルくらいしか書かなかったような気が。カウンターストップしている人もいませんし、スタイルを書けばゲーム好きな人にはだいたいどういうステータスなのか察してもらえますからね。知らない人はご質問でもなんでもしていただいてけっこうです。


 ステータスがどうあれ首を飛ばされたら死ぬゲームなんで、あんまり意味ないと思いますが。

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