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Aurum Online [Shooter]  作者: 亜空間会話(以下略)
第一章 ヴァーチャル事始め
7/120

#007 筒蛇

 前回はきれいに終わらないどころか続いたので、解説回です。


 ……どうぞ。

 とうとうインベントリから尽きたいがぐりを手元に戻さず、俺は投げナイフをターマイトに飛ばした。先ほどから体力の低下で回避力も下がっているし、疲労も蓄積しているのか、HPは減るばかりだ。その原因は見れば分かる。


 壁一面にくっついた、針だらけの球体。それは「戻す」コマンドを選択するまでそこに張り付いたまま移動させることはできなくなってしまう。これが検証された瞬間に、いわゆる「投げ武器」カテゴリは戻ってくるブーメラン以外いわゆる産廃と化した。一瞬を争う状況で、大量の使用中投げナイフのウィンドウをすべて回収だけタッチするなど、職人芸だからだ。


 だが、狭い部屋に高い回避能力を持った敵がいて、しかも攻撃している本人はその場から一歩も動かないとなれば、部屋の壁には投げ武器が張り付いたままの状態になり、少なからずぶつかった分のダメージが計上されることになる。


 それが投げナイフであれば、持ち手に当たっただけでは微々たるダメージだったろう。属性が付いているならまだしも、低級な金属で作った、ほとんど紛い物か安物にも等しいようなものだ。投げられる回数は少ないしダメージも少ない。


 だが、使用者以外は手に持つだけでダメージを受けることになる、とげだらけの球体には、そんな生やさしい理屈は通用しなかった。触れればダメージ。かすればダメージ。避けても、着地した瞬間にもう一度飛び上がろうと踏み込めばダメージ増大。突進を回避されて頭から突っ込めば大ダメージ。


 トラップという正直に言って卑怯なものを使っての勝ちだが、勝つことは間違いないのだから満足しておこう。


 ガシッ、とターマイトの頭に投げナイフが命中した。






 もうすぐ昼ご飯の時間だということが胃袋に障ったが、プラチナ・ターマイトを倒した後も俺は快調のまま進み、とうとうボスの部屋らしい大きなものが見える部屋にたどり着いた。


「あの白いの、全部お腹なの?」

「白蟻の女王アリは腹ボテなんだよ。現実でも親指くらいはある」


 ただでかいだけのシルエットだが、威圧感がある、などというものではない。周りにはまんべんなくガーディアンが集っているし、卵を幼虫の部屋に運んで行く係も常駐している。尋常ではない数の白アリが集った、正真正銘の中心部。


 兵隊も、王も、働きアリも、次代の女王も、こいつが生み出すのだ。腹ボテは母なるものの基本と言えるのかもしれない。と言いつつ俺は投げナイフを耐久度順に入れ替えていた。いくつかはすでに折れて「鉄くず」に変わってしまっている。錬成床じゃないと修理することはできないし、携帯の錬成床も高くて買えない。


「ち、とっとと金貯めて携帯用の錬成床と店が欲しいぜ」

「ちょっと時間かかると思うよー……」


 知っての通り投げナイフは売り物にしていない。だから狩りで儲けるしかないのだ。だがそれはそれでスキル上げの効率はいいものの金銭的な効率は悪くなる。


 だから無茶狩りをするのだ。いや、せざるを得ないと言うべきか。


「それじゃ行くよ、お兄ちゃん!」

「おいバカ、話し声が大きいってば!」


 さっそく辺りにいた別のターマイトがキイイッと警戒させるような音をあごをこすり合わせて出した。さすがと言わざるを得ないが、六発連続で頭にいがぐりをぶち込んでスタンさせ、強制的に音を停止させる。


「ミサ、適当に剣の特技!」

「分かった!」


 ズバズバッ! と大きな音で「チャイム・ターマイト」は腹部を幾度も切り裂かれてHPゲージがゼロになり、くずおれて光に変わった。


 ひゅううううう、と空気を吸い込む音。見れば女王アリすらも飲み込むような大きさの巨大な蛇が、胸を膨らませて息を吸い込んでいた。


「なんだよこのカオスは!」

「分かんない!」


 まだ属性防御なんて高級なものはない。風属性の魔法らしきものが女王アリを大きく傷つけて体力を半分近く減らし、安心するとともに、俺たちが喰らったら一瞬で死ぬことを思い知らせた。



 ブラインド・クロウラー

 ドラゴン/クロウラー種   推奨人数:三十人~


 メクラヘビが進化し、地面に穴を掘って潜む地竜と化したもの。数々の種類の魔法を行使する。その寿命は長く、気に入った洞窟に宝物を際限なく蓄えるため、倒せば巨万の富を蓄えた巣穴へと入れると言う。強い。


 !注意:推奨人数が足りません。!



 強いだけじゃ分からんわい! と突っ込みたいことやまやまだったのだが、それをしていたら魔法を回避し損ねて死ぬのは分かっている。だがモーションは大きい、タイミングさえ分かれば簡単に避けられる。


 だがモーションを止められない。いがぐりをぶつければだいたいは止められたが、これだけ強いモンスターに通常のスタン値で足りるなどと、思い上がってはいけないのだ。そもそも普通ならハンマーなどでスタンを入れるべきなのだから。


 クロウラーが女王アリを倒してくれることを期待しつつ、俺たちもそれに加勢する。


「〈フォールアイス〉!」

「〈トリプルシュート〉」


 ミサの氷魔法が女王アリのHPを少しだけ削り、三本連続で飛ぶ鉄の投げナイフも、初撃と特技とクリティカルを合わせて、しょぼい武器にしてはかなりのダメージを与える。どれだけ行ってもサブでしかないと言われた投げ武器がこれだけのダメージを出しているのだから喜ぶべきかもしれなかったが、ちょうど女王アリが盾になる位置からドラゴンブレスが放たれる。


 それは絶対的な炎だった。


 一瞬で女王アリは光の塊になって吹き飛ばされ、そして俺たちも炎の中に包まれてしまい、瞬時に意識が暗転した。



 ◇



 デス・ペナルティーとして経験値の一パーセントを失いました、という表示が目の前に見えた。そして、失ったアイテム一覧が表示される。ずいぶん親切なゲームじゃないか、なんてのんきなことを考えてから、ミサがいまだに気絶したままなのに気付いた。


「ミサ、おいミサ。大丈夫か?」


 気絶していたミサは、すぐに起きた。そしてすぐに、顔をぐしゃぐしゃにして俺にすがりつく。すすり泣く声は耳に痛くて、やはり、と後悔を呼び覚ました。


「お兄ちゃん! 痛かった、怖かったよ」


 さっきまで勇ましく、自分と同じような大きさの、デフォルメされているとはいえシロアリなどと互角に戦っていたミサのセリフとは思えなかった。しかし、どちらも本当ではあるのだろう。確かに巨大シロアリは化け物に違いない、だが自分だけの力でも太刀打ちできるような代物なのだ。


 間違ってもさっきのクロウラーのような巨大さはなかったし、一瞬で俺たちを焼き尽くすような火炎ブレスを持っていたわけでもない。不気味でもなかった。


「大丈夫だ。生きてる」

「……うん」


 痛覚を下げとけ、と俺が言ったので、ミサは痛覚を下げたらしかった。


 VRMMOでネックになるのは「死」の怖さだ。実際に死ぬわけでもないし、システム的に見ても大した打撃になることは少ない。レベルの低いうちなら、デス・ペナルティーだってすぐに取り返せる。


 だがそういう感情で割り切れる問題ではないのだ。実際的に痛みはあり、そして意識を失うほどの痛みを覚えた時、やっと「死亡」する。


 始めてすぐにやめたやつは、そういう理由が多い。痛覚をゼロにすることは仕様上できないので、わずかなりとも痛みがある。でも死ぬ瞬間ですら意識を保っていることはできるだろうし、死をイメージさせる灰色のフェードアウトも、ちっとも怖くないやつだっているはずだ。


「怖いか?」

「うん。でも、死ななきゃ怖くない」


「そうか。んじゃ死なないように、強くなろうぜ」

「……うん」


 涙声ながらも、ミサは立ち上がった。


「失ったものを見てもしゃあねえ。入手したものを見ようか」

「……すごいよ、蒼玉の甲翅だって」


「盾に使えるんじゃないか?」


 あっちには貴重なものがたくさんドロップしているらしく何度も歓声が上がるが、俺の方にはそこまでモンスターの素材は落ちてきていない。と思ったが、レアレーティングが段違いの「蒼天玉翅」などというものがあったので、ひそかにほくそ笑む。


「鉱石、たくさんあった?」

「ああ、すごい量だぜ。エアルプラティンもたっくさんだ」


 銀の投げナイフは、情報によると銅の投げナイフと同じ程度の耐久度で、アンデッドに対して特攻であるだけらしい。だが特攻武器はそれだけでありがたい、何しろ属性を帯びさせるのは未だに無理なのだ。


 空白金鉱(エアルプラティン)はどうやら一撃の威力アップとスピードアップ補正がかかっているらしいので投げナイフを作るには絶好の素材だが、レシピが開放されていない。


「ぬあああ! 早くもっと強い敵ぶっ倒して強い投げナイフ作りたーい!」

「お兄ちゃん、駄々っ子みたいなこと言わないの!」


 投げナイフの場合、銅は初期にふさわしく平均的に性能は低め、鉄は完全な上位互換。そして銀はアンデッドに特別に攻撃力が高まるが耐久値は低め。金は一発の威力が高いが耐久値は最低クラス、十回投げたらスクラップに変わる。


 攻略サイトでこれだけ調べたのはいいが、それぞれの特性の活かし方はすでに考えてあるので、ほとんど心配いらない。もしくは自由な形を作れるようになったらどんな形がよく飛ぶか、威力が高くなるかも研究できる。


「レベルももう9だよ? ステータスもちょっとは上がったでしょ?」

「そ、そうだな。でもこんだけの無茶狩りだったのにな…… 惜しいな」


 出会ったら殲滅くらいの心持ちで倒しまくっていたが、生産の経験値も以外にバカにならないようだ。レベルはけっこう上がってしまっている。だがミサには負けて8だ。無茶狩りと生産を繰り返せば、かなりのペースでレベルが上がるかもしれない。


 レベルが上がるとステータスも上がるし、ボーナスポイントも多めにもらえる。


 それを四回分かなりのハイペースで、と来たもんだから、爆上げと言ってもいいくらいにステータスは上がったはずだ。もちろんひとケタはひとケタ、それはその通りだが、これだけのハイペースはちょっとこれからは無理だろう。


「いつか倒す。それでいいだろ」

「うん。タッグじゃなくて、仲間作って、みんなで倒しにいこ」


 俺は珍しく、兄らしくうなずくことができた。




 俺は、時が来たか、と悟った。


 時が来た、と言っても、タイミングがいいわけでもなんでもない。むしろ最悪のタイミングだろう。少なくとも俺にとっては、いいやミサにとっても。


「ミサ」


 俺が優しく呼びかけることなんて滅多にない。その不吉さを嗅ぎ取ってのことなのか、ヴァーチャルリアリティーはミサの顔にとてつもない不安を表して見せた。いくら現実的(リアル)だとはいっても現実とは違うと言う認識が崩れてしまいそうなほどに、それは限りなく現実に近い不安の表情だった。現実にミサは不安を抱いているのだ。そうでなければこんな表情にはならない、それは分かっていた。


「そろそろ俺以外の仲間を作れ。俺と離れて」

「え? な、何言ってるの、お兄ちゃん」


 予想通りだったらしく、不安の表情は深くなりはしない。だが保たれている。


「パーティープレイに慣れとかないと、あとあと苦労するからな。ミサ」

「やだよ、お兄ちゃんを助けられないし、お兄ちゃんに助けてもらえない」


「……ミサ。お互いに依存するのはよくないことだ。もう少しだけ、一緒にいる。でもそれが過ぎたら、お互いに違う道に行こう。生きる間ずっと一緒にいたら、お互いがしたいことを、お互いが邪魔してしまうんだ」


「私が、邪魔なの?」


 ミサは今にも泣きだしそうだった。もう泣いているところを必死に我慢しているのかもしれなかった。だが俺は残酷な刃物を、その柔らかな心に突き立てるほかない。


「違う。俺が、お前にとって邪魔なんだ」

「どう、して……?」


「待つ時間が長い。そうは思わなかったか」

「あ……」


「最初から無茶をし過ぎだ、そう思わなかったか。あげく無茶狩りに巻き込まれて、あんなに怖い死に方をした。あんな死に方をしたそもそもの原因は俺だ。答えてくれ、ミサ。どうしてお前は、俺に一言も文句を言わないんだ」


「それは、それは…… だって、お兄ちゃんだよ」

「誰が、兄には絶対に逆らっちゃいけないなんて決めたんだ」


 ミサは、必死に涙を止めようとしたが、無理だったようだ。


「自由にしたいことはなかったか、ミサ。剣も役に立たないし魔法も役に立たないなんて意味ないって思わなかったか。いっつもダメなのに偉ぶってる俺を、嫌に思わないか」


「分かったよ! いつ、いつから別れるの?」


「冬休みが終わったら、かな。準備期間だよ、ミサ。友達作るのは、お前には難しくないだろう? 性別を偽るのはVRゲームじゃほぼ無理だから、女の子は女の子だ。友達と一緒に行きたいところに行って、したいことを目いっぱいするんだ! 楽しいぜ」


 ミサは涙を止め、うつむけていた視線を俺に向けてくれた。


「……うん。冬休み終わったら…… でも、ときどきは遊びに行くよ?」

「分かってる。投げ武器ならただにしとくぜ。ミサだけだけどな」


「お兄ちゃん…… 楽しいことって、いっぱいあるかな」

「俺と一緒じゃ見つけられないものを、いっぱい見つけて来いよ」


 うなずいたミサの頭をよしよしと撫でて、俺たちはログアウトした。

 どこかのキリトさんは、そろそろソロプレイし始めるんですかね。なんだかんだで最初から夫婦していますが、どちらから言いだすのやら。


 読んでいると、味方の攻撃が当たる仕様だったみたいです。モンスターの同士討ちで相手が倒れるなんて、モンハンでしか見たことない……。敵味方入り乱れることもあるMMOならまずない仕様ですよね。


 いつかクロウラーをソロで倒す!

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