#067 信じよう/裏切れ
予告していた通り、わかりやすく解説する回。
初投稿作品で初めていただいた感想は内容を理解しているのか怪しいものでした。あとはもう内輪だけ。嬉しいと言えば嬉しいのですが、新規開拓とかそういうのはないんですかね……。感想が欲しくて書いているわけではないのだといくら力説しても、深さのわからない川に延々と小石を投げ入れるようなのはつらい。
どうぞ。
カフェーローズはいつものように静かだ。
という表現をしてしまうと閑散としているかのように思われてしまうかもしれない。静かな雰囲気でお茶を楽しめるのだよと言わなければ、額面通りに受け取る砂山君には言葉足らずだと思われるかもしれないな、と城島成昭は思った。
「やあ、久しぶりだね。元気かな」
「体の方はな。Jか?」
「そうだよ。まあ口調が一緒だから、なんてのは判断基準にならないんだろうが」
「まあ、名前を知ってるだけでありがたいよ」
ところで何の話をしに来たんだい、と城島が尋ねると、伊吹俊御はそのことなんだけどな、と前置きをするように言う。
「あんたは警察的なあれ、ってことでいいのか?」
「そうだ。警察庁サイバー犯罪監視局所属、城島成昭。名刺を渡しておこう」
「こんなこと言ってもあんまりなんだが……」
「警察の人に捜査を頼みたい、ということかな? 内容にもよるが、可能だよ」
そうか、と言った伊吹は、恐ろしく気をもんでいる様子だ。
「クラスメイトが誘拐された」
「ほう。誰に?」
真剣な表情になった城島に、伊吹はぽつりと漏らすように言った。
「アウルムのプレイヤー、ギルド「プログレス」の一員に」
「時系列を整理して詳しく話してくれるかな」
「ああ、分かった」
入学式のときに電話番号とメールアドレスを交換してたんだよ。だからって学校に一日来ないくらいでメール送ったりはしないんだけどな。まあいいんだよ、それは。
入学式から一週間くらいして、急に三日くらい学校を休むなんて、なかなかないことだと思うんだよ。急に職員室に呼び出されて、親御さんが「利世を知りませんか」なんて言うもんだからおかしいなと思ったら、誘拐されてたんだ。
……。
クズだって言うなら言ってほしいとこなんだが、現実の俺は警察官じゃないし、有力な情報があるわけじゃない。だからいつもと同じようにアウルムオンラインにログインしたんだよ。そしたら、急に変なメッセージが届いたんだよ。
小海利世の居場所を知ってるって。
我々が彼女を誘拐した、知りたければ各地に配置されたヒントを探り当て、それを倒せって。指示された内容が実行されなければ、彼女は死ぬ、みたいな。
幸いって言うべきなのかは分からないけど、あいつらも一枚岩じゃないんだ。良心の残ってるやつが、預けた場所は安全を保障してくれる場所じゃなかった、猶予は一か月くらいしかないから、早くヒントを探すんだって言ってくれたんだけどな。
現実じゃ何もできない。でも、ゲームの中でヒントを探すなんてことが役に立つんなら、俺は何でもするよ。一人で防衛戦だってやる。だから、
「ふむ、誘拐。親戚の子供だったら礼儀を叩き直すところだが、まあそれはいいんだ。もしかしたらこの間にあれがうだうだ言ってたことと関係があるかもしれない」
伊吹はそれには答えず、心配そうな表情のままでいる。
「それでヒントはどのくらい集まったんだい?」
「イリジオスを目指せ、ファリアーを全プレイヤーに解放しろ、ぐらいだ。ファリアーはもうすぐ解放される。イリジオスはそのあとになるな…… イリジオスを解放しろ、とも言われるんだろうから、それも考えとかないとな」
「ふん。あまり先回りするものじゃないよ」
少しでも条件と違えば難癖をつけてくるかもしれないだろう、というと準備するだけだよと伊吹は言った。
「それでもやめておくべきなんだよ。言われた以上のことはしなくていい」
「警戒するに越したことないか……」
城島はあまりその手の犯罪を知らないが、人質が危険な立場だと言うならば警戒は最大にしておいた方がいいだろう。
「そこまで言うのだから、大切な人なんだろう? 大事にするつもりで戦わなくては、君が先走れば先走るほどに危なくなるかもしれないよ」
誘拐事件がどうなるかは分からないが、一か月の猶予があるという話も不可解だ。あるのならある、ないのならないと言えばいいのに、半端な期間を用意してしまっては解決されてしまうかもしれないではないか。
「ふむ、ゲームをやらせて何の得になるって言うのかな?」
「新しい街が解放されると何やらもらえるとか、そういうのがあると思ってるんだろ? ぶっちゃけあいつらが何を考えてるかなんてわからねえよ」
「特にこれと言って得することはないんだけどね。愚にもつかない集団だよ、まったく。まあだいたい分かった。ただ僕にも自分の仕事がある、関連しそうなところだけを調べることにするが、いいね? ちょうど似たような事件を聞いたところだから」
フールの事件と関連があるのかもしれない。
が、ないかもしれない。
そもそもこちらの方は悪辣な実験との関連が不明だ。一概に関連付けるわけにはいかない。もしも城島の、たったいま思いついた最悪な推測が当たっていれば彼女は危険にさらされているのだろうし、一か月の猶予があると言う言葉にもうなずける。飽くまで推測だからそうそう現実に口に出すわけにもいかないが、当たっていれば気鬱の種が増える。
とても嫌だ。
城島はため息をついた。自分を勘のいい人間だとは思っているが、推理したことが何もかも当たっているとは思っていない。そんなに自分を過信できる人間であれば、とっくにこの仕事を辞めているに違いなかった。
しかし、今回ばかりは間違っているように思えないのだ。
誰彼かまわずサンプルが欲しい「預かる」研究団体、そして誘拐してしまったことに対して「困っている」団体が結託すれば、すなわち「その結果」を生み出すのではないか。サンプルを集めることに対し報酬が出る、というようなことが起これば事態はさらに恐ろしい方向に向かうだろう。その推測は当たっていてほしくない。
本当に、嫌だ。みゆりにも心配されてしまうだろうな。
城島は、少しばかり場違いな感想を抱いていた。
◇
「どういうことだよおい! 誰も殺せてねえじゃんかよ、あ?」
「まだ二人だ…… あと三人、残ってるんだ。焦るな」
「どうやったら殺せんだよ、あの化けモンを!? 真剣に考えたことあんのか!!」
「焦るな、と言ってるんだよ」
魔術師らしい(その実、火魔法に威力ボーナスが付く実用的な)ローブの男は、静かな声を荒げないまま威圧を増した。威圧された暗殺者風の地味な服を着た男は、さすがに相手が怒っていることに気付いたのか、おとなしくなる。
「確かにこれまでの二人は失敗した。でも失敗の理由は明白だ」
「ダメージが低いからか?」
ため息をついた魔術師風の男「KF」は、諭すように言った。
「相手の戦い方の異常さを充分把握してなかったからだ」
「どういうことだよ?」
いいか、とKFは要点を押さえて話すことにする。暗殺者風の「ガレオン」はあまりにも幼稚すぎて、複雑な説明をしてしまうと理解できないからだ。
「まず、相手のステータスはおかしい」
俗に特化型と呼ばれるような「こんな職業」をイメージして作られるようなステータスの形は決まっていて、苦手なことは非常に苦手だ。重い金属鎧を装備できない「魔術師スタイル」は一人で敵に囲まれるとすぐさま死ぬが、誰かがモンスターを止めてくれさえすれば爆発的なダメージで敵をすばやく倒すことができる。そんなふうに「○○スタイル」ができることはだいたい決まっているのだ。
「ところがあいつはそうじゃない。全部のステータスを平等に上げているって話だ。特別な長所がない代わりに、目立った短所がない」
防御力やHPは高いが、攻撃力はあまり高くなく、魔法となるとてんで使えない「騎士スタイル」のように、長所があれば欠点は決まっている。シューターはそうではない。体力がそこそこあり、攻撃力も低いとはいえず、防御性能はまあまあ、素早い回避を解析スキルで補強している。
「投げ武器を盾で防ぐのは難しいから、ということもある。他には目立った投げ武器使いがいないから、対策方法はぶっつけ本番になるしかないんだ」
そこそこのステータスで飛んでくる投げ武器は、その痛みは無視するにしても凶悪だ。ロジックは不明なれど100パーセントのクリティカルを叩き出す投げナイフやピックが連続で命中すれば、ドラゴンの尻尾など気にもならないほどの凄まじいダメージが叩き出されてしまう。
そして「鎧を着込んだ相手」に対してもそれは有効であることが、プレイヤーキラー・トーナメントで示されている。そうなれば積みだと思わざるを得ない。そのうえ投げ武器使いが少なすぎて特技の対策もできないのだ。補助的に投げ武器を使うのなら救いはあっても、日常が投げ武器だと言うならどうしようもない。
「だが、投げ武器を防ぐ手段がないわけじゃない。防具を着込めばいいんだ」
「いや、さっき着込んでもダメだっていったじゃねえか!? どうなんだよ?」
「相手が意味不明なもので来るなら、こっちも意味不明にするまでだ」
「ああ? 説明しろよ、なあ」
これだからガキは嫌いなんだ。意味不明なコンビネーションなんて決まってるだろうが。これまでやらなかったことをやっている相手に対して、同じようなことを返す、というのだからもはや決まったようなものなのに。
それを完璧に殺し、KFは冷たく言い放つ。
「鎖帷子に革鎧を重ねる。衝撃吸収力は革鎧の方が上だ。一見してそれとは分からないくらい面積の大きい革鎧がある、それを装備させよう。エンチャントで強化すれば、さらに強力になるからな」
このギルドではモンスタードロップの優秀な品物は共有財産とされ、誰かが必要となる時期までは保存されている。これまではうっとうしく感じた、というよりも上位メンバーの身勝手だと思っていたシステムだが、こんな場所で役に立つとは思っていなかった。
「魔術師は一対一の戦いに向いていないからな……」
あんな狂人の相手は、たとえ暗殺者スタイルだったとしてもごめんだ。
「さて、どうなるのやら」
作戦を嬉々として報告しに行っているあのバカはもう放っておこう。かろうじて最後に義理立てをしたが、どうせ負けるだろう。このギルドも抜け時だ。メンバーを使い捨てるようなギルドにいても、いっこうにプラスにならない。稼ぎから少なくない額を抜かれ、優秀な装備品は盗られていく、そんな有様では自壊も近い。
いや。
上位メンバーを粛清させればいいのか。不可能だと分かってはいても、試したくなるような案だ。もっとも、そこまでこのギルドに思い入れがあるわけでもない。
試したくなるような言葉を、不満を持っているやつにぶつければいいのか。
KFは、ちょっとした思いつきに、にやりと笑った。
むかし「小説サークルに入るのもいいだろうけど、中心となる人物に迎合したものしか書けないから、独特の作風を持った人にはきついね」とか言われたことがあります。まんまなろうのことじゃないか。私の好きな作品ジャンルはぜんぜんないうえに、作者が読者になってしまうからどんどん縮こまっていくし。好きなものは自分で書けとか誰が言った。
父親には「小説家を目指すのはやめたほうがいい」と言われているのですが、主に使っている言い訳である「働きながら新人賞に応募してみようと思っている」というのが半ば以上あきらめムードに入っているのをわかってはもらえないようです。「絶対に受かってみせる」だの「おれには才能がある」なんて言っていないし、そもそも「みようと」というあたりで、もはやヤル気はひとけたパーセントですよね。
具体的に新人賞の名前を上げるわけでもない愚息が文字通り愚かなのは知っているのでしょうが、小説家になる前提でお話をしている以上、夢を追ってほしいのだか現実に生きてほしいのだか、ブレブレですね。横にいる人の悪口を書くのもあんまりいい気はしませんが。