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Aurum Online [Shooter]  作者: 亜空間会話(以下略)
第三章 Weiswald
59/120

#059  Gesicht der Angst

 今回はホラー? とはいえ下手なのでぜんぜん怖くないと思います。


 どうぞ。

『ははは、これはすごい!』


 ダニエルとミシェル、「サイバーセイヴァー」というテロリストたちのうちVRIDを利用することにした彼らは、感嘆していた。


『プログラムに入り込む、ただそれだけでここまで凶悪なものに成り果てるとは!』

『個別にしか改造できないのが弱点ですが…… しかし、これは素晴らしいですね!』


 簡単なセキュリティーやファイアウォールを突破してしまうというこのデヴァイスの利点は、もちろん侵入してきたウイルス類を除去するにあたって特別なソフトウェアのインストールが必要ないということであるが、対外的にはそうではない。演算能力の許す限りの素早さで強固なファイアウォールを突破してしまうのだ。


 そのままでは有害な機能を発揮しないVRIDだったが、ダニエルとミシェルはこれを改造し、インターネットにアクセスする際の強力なアクセス能力を個人の所有するコンピュータや企業のサーバーに向けさせた。


 日本企業は新手のウイルスがそう簡単に開発されるなどとは考えていない。最近は復古的に、対策法が必要なくなったと思われる古いウイルスをばらまくのがクラッカーたちの手法となっていた。そのためこの奇妙なアクセスには対応しきれていなかったのだ。クラッカーたちですら翻弄される「グレイ・モンスター」には、世界が手をこまねいていた。


『たった二つのデヴァイスだとは思わないでしょうね』

『まったくだ。これだけが集まれば、ことを起こすのもそう遠くあるまい』


 ハッカー集団の目的は様々だ。


 セキュリティーの脆弱性を指摘し、危機意識の向上を狙う、善性を持つもの。


 企業スパイとして不正アクセスの結果、企業機密を盗む悪性のかたまり。


 無論、サイバーセイヴァーは自分の首絞めだの小金稼ぎだの、そんなことを目的とした団体ではない。今やすべてのインフラをまとめ上げることとなった電脳、それを乗っ取ることにより、世界をその手に握る、壮大な目標を胸に活動しているのだ。首絞めどもはその邪魔をしようとしているし、小金稼ぎどもは金で動いている。どちらにしても、救世主(セイヴァー)たちにとっては愚か者であることに違いなかった。


 無論、まとめたのちの世界を掌握する術も整えてある。フィクションに登場する適当に作られた団体とは違う、凄まじい力と大きさを誇る団体であった。


『さて、一つの国をまとめてみるか』

『いいですね。どこをやります?』


『小さい国がいいだろうな…… セキュリティーの甘いところを優先で』


 たった二つのデヴァイスでは力不足だ。それを分かってはいても、なお人間の手によるものを信頼している彼らは、難しいところを人間に、時間がかかりそうなところを機械に任せる方針でハッキングを行っている。


 しかし、もはや人間の力など必要ないのではないかと思わせるほどに、デヴァイスの力は恐ろしいものだった。数々の難関であると思われる場所に挑戦させ、学習したデヴァイスはまさにモンスターとして猛威を振るっている。


『ペアー社の機密、ユニオンマーケットの顧客名簿……。不必要なものばかりだが、結果としては上々だろう』


 電子機器メーカーの機密なら、産業スパイには垂涎の的どころか今まさに買い取りたいものだろうし、世界的な貿易会社の個人的顧客の名簿は本来なら世界一の銀行にでも預けるべき情報だ。そのどちらも、人間の手なら一週間、機械による補助を使っても破るのに三日はかかるとされている。それらをあっさりと破棄して、彼らは次の目標に移るためにさらにデヴァイスを求めた。


『アルフレッドと平塚にもデヴァイスを改造させるぞ』

『はい』


 VRIDを趣味で購入していた残りの二人にも、悪魔の装置を製造させようと言うのだ。使用後の違法な改造はパニッシュメントを招く可能性があったが、これ以後は頭にかぶって使用しないと言うのであれば問題はない。


 黙々と、作業は進んでいった。






 ウイルスを破壊し、ファイアウォールすらも砕く怪物「グレイ・モンスター」の噂が業界に広まるのはそう遅くはなく、これに対抗する手段がないということもあって全世界のコンピュータを所持する人間は恐怖のどん底に叩き落とされた。


 ヴィールス・クラッシャー等のセキュリティーソフトが機能を破壊されるという凄まじい事態に陥っても、なお誰も対抗策を発見できないという時点で、世界の終焉にも等しい現象である。そのような事態を引き起こしたのがたった四人の人間、四つの機械であるということは誰もが知らなかった。だが、その恐怖は、どうやら数日で終わりを迎えることになる。






 笑いが止まらないとはこのことだ。ダニエル・フロードは笑いながらそう思った。精神的な充足感はもちろん、サイバー世界を握ったということはそれに頼り切っている現実世界を掌握したに等しい。つまり、お膳立てさえ整えればいつだって世界征服が可能になったのである。世界をどのようにもできる、その全能感は彼らを麻痺させてしまった。


『グレイ・モンスターがかくも凄まじいものだとはな』

『まったくですよ』


 浸食される箇所の監視カメラをハックし、それから本命に侵入すると言うお遊びを思いついたのは平塚だが、面白おかしく実況して見せるのはミシェルとアルフレッドだ。


『おっと混乱しています…… ケーブル切断来るか!?』

『はっは、そこまで思い切りませんて。馬鹿だもの』


 電源を切られたサーバーは、再起動にとてつもない時間と電力を使うことになる。ケーブルの物理的切断は至高にして最終手段ではあるが、同時に最悪の選択でもあるのだ。


『いいねいいねー…… そーよもっと混乱してちょ』

『ミシェル、俺日本語分かんねえんだけど?』


 浸食され、破壊されていくデータを目の前にしてついに技術者たちは思い切り、電源ケーブルを切断してしまった。カメラの中ですさまじい量の火花が吹き上げる。


『いやっほーい! 大勝利!』

『おまえ、省エネって言葉知ってる?』


『あっは、忘れてたわ』

『相手の丸損だし、まあいいか』


 無敵。絶対。


 そう言った強い言葉が彼らを包んでいた。




『お?』


 スカートをまくり上げているメイドという訳の分からない背景の平塚のパソコンが、不意にノイズで満たされた。次いでアルフレッドの宝石箱の背景もノイズに満たされる。


『あっちゃー、ボス、まずいっすわ』

『逆ハックされたとでもいうのか』


 グレイ・モンスターを送り込めば解決する問題だろう、とそう言おうとしたダニエルだったが、ザアザアと砂嵐が岩にぶち当たるような音が途切れないのは平塚のパソコンだけではなくなっていることに気付く。


『全員、か? どうしたんだ』


 音量がゆっくりと上がっていく。


 激しい雨が降っているような、そんな音になったノイズは、止まないままだ。どうしたんだとダニエルが聞いても、具体的に何が起こっているのか説明できるものはいなかった。新手のウイルスにでも感染したのだろうか。そのような推測をすることはできたのだが、それ以外に可能性がないわけでもなく、また全世界から恨みを買っているぶん心当たりが多すぎた。まさか世界中から個人にサイバー攻撃を仕掛けているわけではあるまい。そう考えはしても、何が起こっているのかという重要課題(クエスチョン)に対して明確な答えはないのだ。


 ノイズが止むことはなかったが、画面の中の灰色の砂嵐は一種奇妙で不可解な、あるものを描いていく。


『人の…… 顔?』


 ホラー映画で見るような、ノイズで構成された不気味な塊があった。確かに目に見える二つの黒い穴と、口のような大きな穴があり、鼻梁にも見える白い何かが存在する。輪郭の上側には髪の毛に見えないこともない半円形の先が伸びた黒い塊があり、それは幽霊のような恐ろしげな顔に見えた。


「わるいひとなんだね」

『わっけわからねえこと言いやがって、なんなんだよてめーは』


 アルフレッドが言ったが、返答はない。もしかしたら英語が分からないのかもしれなかったが、それはこの際たいした問題ではなかった。


『何が目的だ? 金か、それとも情報か? それなりのものがあるが、どうだ』

「わるいひとなんだね」


 壊れたスピーカーが同じ音楽を流し続けるのと同じような感覚で、おかしな女性の声は繰り返される。画面の中の画像はゆっくりと洗練されてゆき、年ごろと言うにはまだ少し幼い少女のような顔が浮かび上がった。


 この事態は、要するにウイルスの仕業だと思われた。画面にホラー映画などの恐怖画像を画面に表示して恐怖を煽る、という手法はありふれたものであり、珍しくもなんともない。普通のウイルスソフトだと思われた。


『誰だよこんなちゃっちいのに引っかかったやつは? ランサムだろこれ』

『それにしちゃあ言ってることがおかしいぜ?』


『日本語だろ、訳せよ平塚』

『You are evil men, aren’t you? だとさ』


『はーあ、深いねえ。お子様には分からんことだろーさ』


 何が正義で何が悪なのか、ということは人間には判断しがたいことであるし、人工知能が人間並みに賢くなったとしても、何かを捨てる決断なしには判断しがたいことだろう。要するに機械的な処理以外には善悪を簡単に決めることはできないということである。昆虫的な知能しか持たない人工知能同士の争いなどと言うものがあれば、人間の争いよりは対処しやすいのかもしれないが。


『こんな症状は聞いたことないけどねー…… パソコン捨てるよりしゃーねーわ』

『そうだな…… アジトを捨てるか』


 決断するとなれば彼らは素早かった。




「すみません、懸餅(かけもち)までタクシー願います」

「はい。どうなすったんです、真っ青な顔で」


 外国人だからという理由の質問をするタクシードライバーはずいぶん減ったが、客の心配をするような、要するにあまり聞かれたくないたぐいの質問をするドライバーが減ったわけではない。


「いえ、なんでもないですよ」

「そうですか。まだ寒いんで、お大事になすってくださいね」


 タクシーが発車する。拠点の片付けにはずいぶんと手間取りそうだが、あらかた済んでいるので、あとはストレージのデータを消去すればいいだけの話だ。復元対策は困難だが、企業が勝手に圧力をかけて復元などさせないだろう。そう思うとダニエルは気が楽になった。不気味極まりないウイルスだが、自動で人間を追跡するものなどない。そんな不気味なソフトウェアなど見たことも聞いたこともなかった。


 まるでストーカーのために作られたソフトではないか。


 人間の追跡がどれほど難しいことか、わからない道理はない。独立したソフトウェアひとつではそんなことはできないのだ。監視カメラや様々な機器をハックする、と一言で表すことはできるが、決して簡単なことではない。千差万別の通信機器やパーソナルコンピュータ、それらは簡単な相手ではなく、他に活動している機関と足の引っ張り合いを演じなければならないのだ。追跡している本人に気付かれないのは容易だが、他の機関に気付かれないのは不可能に等しい。


 何が起こっていたのだろう。改めて自問自答しても、答えは出そうになかった。悪質なウイルスに感染したのだ、と考えても、あのスクリーンの変化と全操作の凍結に明確な意味を見つけることができなかった。


 もしかしたら前代未聞の怪物を相手にしてしまったのかもしれない。そう思うとダニエルはもともと白い顔をいっそう青ざめさせるよりほかに反応のしようがなかった。


「あれっ、カーナビが……? お客さん、すいません、ちょっと調子悪いみたいで」

「いえ、問題ない、大丈夫ですよ」


 調子が悪いと言うカーナビの画面をのぞき込んだ瞬間、ダニエルは悲鳴を上げた。


 ザアザアと荒れ狂う、灰色の砂嵐。それはある種の前兆で、悪夢そのものだ。やがて砂嵐は集束して、ある形を描き出す。限りなく純粋で、美しさと瑞々しさの象徴になる、あるものの形を。


「わるいひとなんだね」

「うわああああああっっ!!!!」


 鳥は、獲物を捕らえた。

 あと二回。先は長いですね。次の一回をどこに入れるかというそれで全体が決まってしまうような気がする…… というより中間段階のようにも見えますし……


 いえ、作者側の話ですが。


 次には次回予告をしなくてはならないんですが、その次回予告の内容がまだ固まらないんです。というのも、時系列的に空きがありすぎるということで無理やり挿入した箇所なので、具体的にどうするということは決まっていてあとは書くだけの状況でもそれっぽい(次回予告の)イメージが浮かんでこない。そんなわけでかなり困っています。


 内容もえぐいしグロいし気持ち悪いし。フラグが回収されてしまうのはやむを得ないこととしても、もしかしたら作者として悲しいことが起こるかもしれませんね。それは別に構わないのですが、そこから先を楽しんでいただけないのは苦痛だ……。


 精進します。

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