#040 Bless of ******
やっと二章終わり。今回は伏せ字が多かったなー。言語学能力がやばいので毎回のようにグーグル大先生に教えを請うことになってしもうた。予定によると次はドイツ語、中二の本場。
突っ込む人すらいないまま間違いが放っておかれる未来しか見えぬ。
どうぞ。
朝から部屋に突撃して起こすような真似をするのは美沙だけだ。
春らしくブラウスに桜色のセーターを重ね着した美沙は「どう、可愛いよね」となぜかポーズをとりながら答えを強制してくる。よねってなんだ。
「まだ冬休みだろ、ミニスカートとか寒くねえか」
「家の中だけだし。タイツはいたら寒くないよ」
「そんなもんか」
「そんなものです」
どうなんだこいつ。
「何も服のカタログは冬に春のやつを送ってくるからって、冬に春のかっこすることないだろ。体冷やしたらよくないぞ」
「むう。かわいくない?」
「優先順位ってものがあんだろうが、健康優先」
「かわいくないの?」
「かわいいけど、風邪ひいて鼻垂れた可愛くない姿さらしたくねーだろ」
着替えてくるーとすんごい適当な口調で言って美沙は部屋に戻った。まったくなんてしょうがないやつだ。といって着替えてきたかっこうがミニスカートがロングスカートに変わっただけだというのはまあ、怒らないことにしよう。
「正しいアプローチをしてるつもりなんだけど……」
「兄を攻略しようとする妹はなかなかいないと思うぜ」
いない…… よな? 誰か、誰でもいいから、いないって言ってくれ。
まあ、最近妹が俺を攻略しようとしているということを除けば普通っぽい俺の一日は、ちゃんと勉強したり適当にネットサーフィンして萌え画像とかを保存して夜になった。早くも夜ご飯の時間だ。
「ご飯よー」
「はーい!」
ちゃんと元気よく返事したものの、最近は晩ご飯でゲームの話題にならないかということが心配でならない。ゲームで何をやってるの? と聞かれて専門用語なしでかみ砕いて説明できる自信がないのと、プレイヤーキラー・トーナメントに参加したことがばれたらどうなるのかということが怖い。
だから先に席に着いていた父さんがこっちを見て「トシ、ゲームのことなんだが」と言った瞬間は、冤罪で死刑宣告を受けたような表情でもしていたんじゃないかと思う。
「違反ユーザーを追い出せたのはどうやら一人、ギミックという名前のやつだけらしい。ついてはアウルムオンラインゲームスが学校に表彰状を預けたんだそうだ」
「え? な、何で」
人を殺したことがばれる。
現実のそれには及ばないだろう。でもそれは、新たな殺人に結びつく衝動を呼び覚ますために必要な恐ろしさの臨界点を軽々と突破して見せた。どうすればいい、という選択肢の中に「それ」が混じっていることに、俺は叫びそうだった。
「座れ。食べながら話そう」
「あ、うん」
俺は席に座る。
料理上手な母さんが腕を振るって作ったメニューが目を引く、はずだった。でも今の俺はそれをちゃんと見ることができず、わずかに震えながら父さんの方を見る。
「もともとVRIDの盗難事件はそれなりにあったんだ。防犯カメラの合間をくぐるだけじゃない、ユーザー認証が完全に終わっていない段階のものを盗み出すようなやつもいたみたいだ。正規ユーザーではないプレイヤーを追い出すためにはかなりきつい仕置きが必要だったらしいが、出てこなかったらしい」
VRIDの呪い、という都市伝説は聞いていた。正規の機能だ。
「もちろん会社はリアルマネー・トレードの温床になることを避けるために違反ユーザーは撲滅したい考えなんだが、認証をくぐられた後だと難しい。だからトシ、お前に頼んだんだよ。そして見事にやってみせた、こりゃすごいことだ」
「あら、そんなに?」
母さんがにっこりしてこちらを見たことが、俺にとっては死ぬより怖かった。
「すごいぞ。対策チームの誰も、精神スキャンすら違反ユーザーを弾けなかったのに。初の違反ユーザー追放は大きな業績だ。学校で祝われるくらいにな」
「でも、俺は…… あいつは無事?」
直接殺してはいない。でも過程でたくさん殺したし、死に導いたのは俺だ。
「無事だ、無事。ショック症状で入院してるが、問題ない」
「……うん」
「倒したことを気に病む必要なんてないぞ、そういうゲームなんだから。「それ」を利用して利益を得ようとしたから、裁かれただけのことだ。警察官みたいなもんだ」
俺は泣きそうになって、ご飯の味がよく分からないまま食事を終えた。
エイルン中央部の貸し錬成床に移動した俺は、ため息をついた。
もうきっぱりゲームなんてやめちまうか、とそれをログインしたゲームの中で言っても仕方がないことだとは分かっている。だが俺はその方がいいことを何となく悟っていた。この件だけでものちのちトラブルを招くだろうし、そうじゃなくてもまずいのは確かだ。そもそも担任が何と言っていたか。
(学業がおろそかになったりしませんように、か)
口の中でつぶやいたセリフに「どうしたんですかー」と後ろから背中を叩いた声がある。
「この間くれた小太刀すっごい使い勝手いいんですよ、ありがとうございます」
「お、おう。もう俺投げナイフ作りさんになろうかな」
「んー? どういう心境の変化なんですかそれ」
「あ、実はだな」
プレイヤーキラー・トーナメントで三位になったうえ、違反ユーザーを追い出して表彰されることになったと俺が言うと、すごいじゃないですかとリセイははしゃいだ。
「バーチャルで表彰、リアルで表彰…… 嬉しいこと三昧ですよ!」
「嬉しかねーやい、人殺して手に入れるモンなんてよ」
贅沢ですねーとリセイは俺を見る。
「リアルでさらし者になるくらいなんでもないでしょ、ゼルムさんなら。望みってもののほとんどがぜいたくなのは知ってますけど、素直に喜んでくださいよ」
「そう言われてもな、喜べることと喜べないことがあるんだよ」
ふんっとそっぽを向いてから発したリセイの言葉は、なんだか弱かった。
「希望の星がそれじゃ、いけませんよ」
「希望の星ぃ? 俺がか」
そうですよとリセイは怒ったような顔でいう。
「テンプレと地雷、ネトゲにはこの二つしかないと思われてました。それはこのゲームでもぜんぜん例外じゃないんです。下手したら現実より人間関係大事なこのゲームで何のスキルを取って戦うかって、聞いちゃいけないけど答えなきゃいけないんですよ。そんな中で一人だけで突き進んでいける強さ! すごいんですよ。もしもゼルムさんがナルシストで俺すげえ俺つぅえええいや最強だわとか言ってても、誰も批判しないくらい」
「んなこと言わねーよ」
普通なら弱いというのは限定的な状況で強いということでもあるが、ひねくれたものの言い方をしなかった場合は汎用性がないということだ。なんて言おうとしたが、続けさせることなくリセイは嘲笑うような口調で言った。
「正直言っちゃうと、嫉妬深い人に襲われても別に文句言えないくらいゼルムさんって輝いてるんですよ。なーんにも惜しげなく鑑定価格で装備品売っちゃうし、情報は共有しなきゃなあとか言ってすぐに提供するし。攻略サイトにどれだけ嘘が書いてあるか知ってます? 嘘八百じゃないですよ、八万くらいですよ。水晶の泉に行って死にかけたって聞きました。なんで信じちゃうんですか、ゼルムさん」
アイテムの値段を吊り上げんのは金が欲しいからだろと言うと、そんなこと誰も思っちゃいませんってばと突っ込まれてしまう。
「俺の作ったアイテムだ、価値があるんだ、さあ買え、この値段で。こういうことです。自分の価値を示したいんですよ。おまけにですよ、誰も真似できないビルド? どういうチートなんだって話じゃないですか。どれだけの人が真似をしようとして失敗したと思ってるんです? 誰も真似できなかったんですよ、すごいでしょ。もっと、もっと誇っていいんですよ? 唯一の存在として」
もう黙れよと俺が言うといいえ黙りませんとリセイは突っかかってくる。
「そんな話が聞きたいんじゃねえよ。もっと楽しい話しろ」
「楽しくない話しかできませんよ」
「ちぇっ」
「想像してみてください、突如出現した新星が学校中の女子をさらって行くなんてことがおきたとして、誰もそれを止められないなんて図を。元からいたイケメンも同じスペックを持つ人すらも対抗できない、完全無欠の怪物が現れて、どんな気分になったと思いますか? あなたはどんな気分になりますか」
「いい加減にしろよつまらねえ」
俺は一喝して、黙って金属くずを取り出して錬成を始めた。
褒められても、これに関しては嬉しいことではないのだ。他人に汚染されたやつから見れば真っ当な人間に「見える」というだけのことで、俺自身はちっとも真っ当な人間じゃない。それを知っているから俺はミサを野良パーティーへと送り出したわけで、それは当然いい結果になった。
「俺のことを褒めてるのかけなしてるのか知らないけどな、どうでもいいんだよそんなことは。大事なことは今やらなきゃいけないことができるかどうか、そんだけだろ」
「うーん、しびれますねえ。惚れてもいいですか?」
「ああ、お前が女だって分かったらな」
適当に流しつつ投げナイフもピックもソーピックも復活させる。いがぐりを大量生産するのはちょっと難しいが、ボーラも紐が必要だ。あと特別に投げ回数を多くしておきたいものは、錬成でもいいものができる。それはそれでいいのだが、鍛冶スキルとの併用で作らないとよりよい最高ランクのものはできない。
金属くず、というよりボロボロになっていくつかの破片に分かれたブーメランを一度溶かして一体化させ、もう一度ブーメランとしての形を取り戻させる。最近は生産だけならあまりMPを食わないようになってきたし、戦闘にも慣れて少ないMPで戦えるようになった。レシピが快く配布されたとはいえMP丸薬やらMPポーションはまだまだかなりの金額で取り引きされている。そうそう日常的に買えるものでもないのだ。
「リセイはどうやって戦うんだ?」
「ダガーです。もっとも逆手持ちなんて器用なこと、特技以外じゃできませんけど」
そりゃ誰だってそうだ。
「そういえばこれってなんていうんですか?」
「あ? これがボーラだよ」
そう言っても分からなかったらしい。
「鉄球と鉄球をひもでつなげたやつで、現実でどう投げるかは忘れたけど。当たってもまだ一つ打撃部分があるのが強みだ。うまくいけば当たらなかったところがぐるんぐるん回って相手をひもでくくれるし、打撃を二回も当てればかなりダメージになるだろ」
まあ、現実じゃ失神程度ではすまない傷になるだろう。対人戦でもかなり有効な武器だった。ただし丸いという点で表面積が大きいので、剣で受け止められると斬られてしまう可能性がある。
「もともとはスリングショットってのが発祥なんだったかな? 紡錘形に切った布の膨らんだ部分につぶてを入れて、回してから一気に投げるんだ。小石くらいなら戦場でも拾えるし、俺の戦い方に合ってるかもしれない」
「へえ。ちなみにこの連結したやつは?」
「これがソーピックだってば。あれ、説明しなかったっけ」
「聞いてませんね」
そういえば投げ武器は普通のプレイヤーには全然縁のない話なんだったな。リセイに分かりやすいように説明しつつ、俺は店を持ったら余った投げ武器を売ろうと決心した。まあコレクターとかそういう変わった人にしか売れないだろうが、価値はある。
「んじゃ狩り出ようぜ。スキルレベル上げるには、洞窟に潜るしかねえな」
「ええー、洞窟はちょっと……」
リセイがうだうだ言っているのを、俺はこの際聞かないことにした。
「にしても、さらし者か…… 絶対めんどくさいじゃねーか」
「いいんじゃないですか、人の前に出て表彰されるくらいが。下手に褒められるだけだと罪悪感残りますし、怒られるだけだとやった意味なかったなって思うんでしょ」
それもそうか。
何をしたって、それ相応の結果が付いてくるだけなのだろう。殺人で勝ち上がった俺に渡された結果は、大きな感謝と全校集会でさらし者にされる末路だった。いいことなのか悪いことなのかも分からないくらいに俺が麻痺するなんてことも起こらないとは思うが、美沙にはまだその危険がなくなったわけではない。
そして美沙は、決定的な歪みがなくなっていなかった。というよりも元からあったものが助長されたように感じる。
「あ、なんでいるんだあいつ」
「敵ですか?」
「ちげーよ」
でも。
どうせと言う言葉を使っちゃいけないかもしれないが、俺たちには日常に戻ってしまうのだ。たとえどんなことが起きたとしても、明確な終わりが訪れるまでは。終わりが訪れたとしても、また新たな日常が始まるに違いない。
悩む必要なんてない。悩む時間だってそんなに長くは取れないのだ。進んだ方がずっと早い。今はそれでいいだろう。
「リセイ、あれ別に敵じゃないから」
「えー、信用できませんねー」
平和は戻ったのだから。
俺は律儀に待っていたソードマンゴーレムに手を振りつつ、そっちへ歩いて行った。
あとがきに書く、というか書けることがありません。ひとつふたつはスキルも思いついたけど、そいつをここで消費してしまうともう、あとで涙目になるのが分かり切っているわけでありまして。
最近は頭がすかっすかになってきていることもあって、思いつくことも少なめでしてきついのです。モンスターの種類もそんなに考えてあるわけじゃない(というか本編には登場しない詐欺は作者としてどうかと思う)ので。キャラクターのスキルを全部そろえるのもものすごく面倒くさいんです。装備もね。
つーわけで思わせぶりな予告でもしておくか!
予告
「第三章 Weiswald」
エイルンより東2キロメートル、攻略不可能とされるフィールドダンジョン「ヴァイスヴァルト」。すべての集団が攻略に失敗し、絶対に攻略不可能とされたかの地に降り立つゼルム。彼の魂は絶望と屈辱に喰らい尽くされる。
時を同じくして成長を始める「紫色の卵」。命すらすべて幻に沈んだ地下結晶都市ファリアー。形の見えない友誼。
時間が彼を祝福し、時間は彼女を染めていく。




