表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Aurum Online [Shooter]  作者: 亜空間会話(以下略)
第一章 ヴァーチャル事始め
2/120

#002 コロ詩

 タイトルは、いつものように趣向を凝らしたそれではなくて、適当にやってるだけです。本当のところもっとできてから出したかったのですが、何となく近頃有名な承認欲求が騒ぎ出したのか、出しました。


 ゲームはじまっちゃいましたね。

「いや別に。妹が怯えてますんで、そこまで大人数で囲まれるとちょっと」

「これはすまなかったな。嘘だった時は、一回死んでもらう」


 剣の柄に手をかけられたが、俺は言い逃れのために詭弁を弄することにした。


「威圧感ヤバいんですけどね…… 証明する方法は?」


「ない。インベントリの中身を他人に見せる方法はない。嘘をついている場合、初期装備だし、武器しか入っていないと言って武器だけ出すこともできるからな」


 全身を鈍い鉄色の鎧兜で固めている。声が籠っているので、男か女かすら分からない。まあ男だとは思うが。エロゲ展開にはならんでしょう。


「失礼した。いずれまた会おう」

「ええ、またいつか」


 嘘だと見抜いてはいるが、状況証拠もないから、ということだろう。


「おい、固まってないで」

「うー、お兄ちゃんのパソコンのログ見てる最中に誰か帰ってきた気分だよ」


「見んな! ってかそこまで怖かったか?」

「街中でもPKできるかもしれないよ?」


 ああ、そりゃ怖い。ログイン当日にトラウマを残したんじゃやる気も失せようってものだろうな。顔面思いっきりぶつけたのすんごい痛かったし。


 ……なんとなく道筋が描かれているので、美沙の手を引っ張って連れていく。適度に汚れたホワイトグレーの煉瓦敷きの道を一分も歩かないうちに、俺は壁にぶち当たらずにそれをすり抜け、真っ暗な道をゆっくりと上がっていった。


「すごい、ホロ偽装ってゲームでもできるんだ?」

「静かにな。先にいる人がヤバいやつだったらどうするんだよ」


 暗い階段を上っていたら、またしてもぶつけた。美沙も俺の背中にぶつかって、少しだけ文句を言った。だが行き止まりではないだろう。


「えっと、えーっと…… こっちだ」


 右に曲がる。すると弱い光が見えた。


「あ、来ましたね」

「来たよ、届けにな」


 顔がよく見えなかったが、


「お兄ちゃん、これってさっきの人?」

「顔が違うのか?」


「そうじゃなくて…… ほら、幅が違う」


 そう言った瞬間にふわっと、特徴のない女の顔が仮面に変わった。


「肩幅ね。それで見抜くのね、すごいわ」

「あと胸がさっきより小さいです」


「うっ…… そうね」


 声も少し違う。


「ちなみにさっきの男ども、NPCよ。リアルすぎて気付かなかった?」

「え、そうだったんすか!?」


 さすがにそれは驚いた。


「だから、レベル1でも努力すれば倒せるわ。そういう設定だもの」

「じゃあ、女の人は誰なんですか?」


 美沙の質問に、とうてい普通とは言えない美しさの女は嫣然と微笑んだ。


「犯罪者よ。ゲーム上の、プレイヤー」

「犯罪者……? どういうことなんですか」


「小さなビンのようなものを預かったんじゃない?」

「お兄ちゃん」


 美沙が警戒している。しかし、何が起きているのか把握するのも悪くない。


「いい」


「アンプルは、中級のクリスタルソード・ゴーレムを呼び出す媒介ね。それだけ聞くとちっともすごくないでしょう?」


 確かに、中級ならすごいどころか終盤になればいらないくらいだ。


「それを作成したプレイヤーが、試しに使おうとしたところを奪われたのよ。現在の持ち主を追跡できるアイテムは、被害届のようなものも出せるの」


「なるほど。問題になるわけだ、ということはあれは警察みたいなものか」


 そのものね、とうなずく。美沙は未だに警戒しているようなので、俺の後ろにいさせておこう。昔からこうして守ってきた気がするし。


「現在のレベルキャップは100。それがどこまで上がるのかは分からない。でも現在一番レベルが高い人でも34なのよ。それに45から60までのレベルの、攻防共に優秀なゴーレムが呼び出せるとなれば、取り合いになるに決まっているわ、それは分かるわね?」


 なるほどね。


「召喚生物は多くの場合はかませ犬。でも今回は違う。それを渡して」

「プレイヤーに返すのか?」


「ええ。そうしたいわね」

「そうか。それじゃ渡そう」


 ミサが俺の初期装備の、ただの服のすそをつかんだ。


「大丈夫だ、ミサ。 ……そうだな、対価は「安全な帰還、これからの安全の保障」でどうだ? これに比べれば高いものじゃないだろう?」


「そうね…… こっちに悪気はないんだけどね。あなたたちが安全でいられる保障はできない、でもこちらからの働き掛けはしない。どうかしら」


「そうだな、それでいい。 ……これだ」


 俺はアンプルを差し出した。女が歩み寄り、手を伸ばしてつかみ取った。そしてそれを近くの机に置き、俺の肩をぽんと叩く。


「ここへもう一度来られるかどうかは分からない。でも歓迎するわよ」

「じゃあ、帰るよ」


「あらあら。はい、ワープの魔法」


 ふ、と俺たちはさっきの噴水の前に転移する。


「なんだったの?」

「うーん…… 俺が背負い込むには重い荷物かな」


 お兄ちゃんの手に余るんだ、と美沙は感心している。美沙、俺の手に余るってことは、お前を押し潰すかもしれないってことなんだぞ。


「さ、切り替えて行こうぜ。スキルは何取った?」

「えーっとね、剣、盾装備で二つ、調理、それから体術と氷魔法!」


「俺は投げ武器、クリティカルアップ、解析、錬成、阻害魔法」


 美沙はしばらく考え込んだ後、俺に一撃でとどめを刺した。


「武器持てないの?」

「……え?」


 やべえ、俺としたことが完全に趣味プレイのゴミ地雷になってる。


「でも初期装備は無限投げナイフか。いいじゃないか」

「こっちは錆びた剣。ちょっとうらやましいかも」


「ダメージ小さいって知ってのことか!? 嫌がらせか、ああん!?」

「そうじゃないってば、ごく普通の剣、じゃなくて錆びたぼろの剣ってところ」


「うんまあ、そうだな」


 ただし、一回の戦闘では千回までしか投げられないらしい。マジか。


「ダメージ高めのやつも売ってるんじゃない?」

「いやだ、お金を使うくらいなら死ぬぞ俺は!」




 とりあえず俺たちは、夜だけあってけっこう暗いフィールドに出た。街中だとふんわり白いのが綺麗だった美沙の鎧と服も、ただの灰色になっている。俺はただの服。


「……モンスターいないね?」

「いない、な」


 壊滅的にモンスターがいない。


 そう思いつつ街の城壁の外周を回っていると、木々に囲まれた小さな空間があった。そこに、ほのかに煌めく、小さなアリみたいなものがいる。


「おっ、小さいやつがいるぞ!」

「え、どこどこ?」


 すすっ! とすごい速度でスライドする影。早いが、どうにか「解析」で追える。


「解析…… プラチナターマイト、か」


 解析って便利。名前が分かるだけじゃない、ドロップアイテムの種類まで書いてある。これはドロップしたら確率が開放されるパターンだな。


「いちにのさん、で俺が投げナイフを投げるからな。逃げたら全力で追いかける」

「分かった、お兄ちゃん」


 タイミングを計って、こっちを向いた瞬間に、投げナイフが光り、鋼色の軌跡を空中に描きながら、微妙な軌道で飛んだ。ターマイトは飛んでくるナイフに数瞬遅く気付き、逃げ出そうとした。


「あ、あれ?」


 ターマイトが飛び上がり、ナイフの狙う軌道に入る。ほぼ同時に進んでいる、これでどこかに着地すれば絶対にヒットする!


 ところが俺は、ナイフの軌道の先に何かがいるのに気付いた。


「え、あ! すみません!」


 俺の大声に驚いたのか、ナイフがヒットする瞬間に大きな盾をすっと振り上げた。吸い込まれるようにナイフが盾に思いっきり弾かれ、ターマイトが一緒に飛ばされた。


「しまった、逃がして…… あれっ?」


 ターマイトがどん、と地面に落ち、その関節にナイフが刺さった。ご丁寧にカァン、とクリティカルの表示が出た。


「あ」

「え」


 しゅわっと白金白蟻(ターマイト)が消え、経験値が増えてレベルが3になったのと、プラチナム・スピードの称号、それからアイテムが二個ほど追加された。



 [Platinum Speed]

  高速で動くプラチナ・ターマイトを倒した証。



 どうやらプラチナは、いわゆるメタル系の最強クラスの化け物だったようだ。


「初心者に見えたけど…… なかなか高度な連携を取るね。これは相手にしないほうがいいのかな、どう思うお前ら」


「いや、バリ初心者だと思うんすけど…… これは、意外といいかも知れないっすね」


 夜でもその重厚そうな感じが伝わる、なのに薄くて軽そうなプレートを体の前面に付けただけの細い男と、頑丈そうな革鎧でモヒカンというヒャッハースタイルの巨漢。


 そこで、盾を持った重戦士スタイルの人が何事か叫んで逃げ出したが、うめき声と共に何かあったような音がして、それきり静かになった。


「お兄ちゃん、この人たちPKだよ」

「ん、なんで?」


「なんで、か。正解、と言う前に説明しておくよ」


 やたら装備が整っている細い男がわざわざ説明してくれる。


「このモブは出現率がすごく低い。だから高価なものをドロップするだろうと思った。普通の考えでいけばこうだけどね、そうじゃない、違うんだよ。さっきの盾の男、もういないだろう? 逃げたんだよ。そして死んだ。これでもう分かったはずさ」


 顔の知られたプレイヤーキラー、ということか。


「三十分釣れなかったら僕らが殺すつもりだったんだ。わざわざ近くにまで追い立ててきたから、刺激的な殺しが楽しめると思った…… でも君たちは、ビギナーズラック、そういうものに免じて見逃してあげるよ。名前、聞いてもいいかな」


「妹の名前は伏せとくぜ、俺はZelum、ゼルム」


「いい名前だ! ではいつか、モブかプレイヤーか分からないが…… 殺しを楽しもう」


 去って行った。二人だけではなく、木々が揺れているのと、壁の表面から溶けだすようにぬるりと現れたのと、地面からすっと身を起こしたのと、かなりの人数がいたらしい。


「ああ、僕はJと呼んでくれたらいいよ。次に外で会ったら、今持っているものを聞かせてくれ。価値のあるものが無かったら、殺す」


「待ってるぜ」


 街には戻らず、時間を確認する。


「ミサ、もう夜の一時だぜ。落ちて寝よう」

「うん。今日いろいろありすぎたよ」


 まったくだ。ログインしたらすぐにトラブルに巻き込まれるわ、運よくモンスターを倒したと思ったらPKの罠で、何とか見逃してもらえるわ、と。これで落ちた後にお母さんに怒られたりしたらトラブルありすぎて漫画レベルだぞ。


 俺は街に戻りつつ、普通のターマイトや芋虫型のモンスター「キャタピラー」を倒したりして経験値やアイテムをたくさん稼いだ。たくさんと言うほどでもなかったが、まともな手段で得るものはおおむね達成感を伴うもんだ。


「ふー…… おっさんくさいけど、もう今日はガチで疲れた」

「私もため息つきたいよ…… それじゃ、ログアウトだよね」


 ここでログアウトできないとか言う展開はあまりない。ほら、コンソールにちゃんとあるじゃないか。これだけフラグが立ったんだから大丈夫、いける!


 ぽんと押すと、俺の周りがゆっくりとフェードアウト、そして体感覚のカットアウトがもとに戻り始めた。


「う…… 背中痛え」


 この前のことだから、治りきっていない。医者にも行ったし湿布も貼っているが、三日やそこらで治るような再生力は持ち合わせてません。ゲームじゃないんだからな。


「お兄ちゃーん! ありがと、ゲーム楽しかったー!」

「お前、楽な格好ってのがどういうもんなのか分かってないのかー!?」


 カオスな一日が、ようやく終わろうとしていた。

 スライムは今のところ出てくる予定はありませんが、メタル系はどんなモンスターでもいるのではないかと予想しています。メタルな虫がいっぱいとか、なんだか嫌だなあ。


 明日も更新します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ