#016 例の人(2)
新年明けまして、おめでとうございます。このような形で失礼します。
新年の抱負は特にありませんが、強いて申し上げますなら「求桃花源」を終わらせること、そしてずっと書いてるのに全く進まなくてネット上にあげることもできずにいるものを瞬間的に終わらせることでしょうか。
主人公くんが例の人になってしまうようです。
どうぞ。
これが俺の戦っている姿かと思わざるを得ないものすごい戦闘シーンだった。
「これを公開するのか」
「キャラネームは出さないわよ、いずれ気付くだろうけど内緒にしとけばいいわ」
「おいおい…… まあいいけどな」
「すごいでしょ」
すごいな、と言わざるを得ない。てかこれは自画自賛しちゃうレベルですごい。
トカゲが高速で突進してくるのを目を緑色に光らせながら回避し、ソーピックを打ち込んだかと思った瞬間にソーピックと針のようなピックが三本背中に突き立っている。そして手に呼び出した投げナイフで〈ポイズンシュート〉を決めて「パラシュート・リザード」に毒の継続ダメージを入れた。と思ったらふっと手を広げていがぐりを二つも頭にぶつけてトカゲをスタンさせるが、そのダメージでトカゲは光の粒になって風に吹き消される。
「ほんとにこんなに早くやってたか?」
「解析は時間が遅く感じる機能も付いてるみたいだし、そう思うわよね。でもこれって時間を見たらわかると思うけど5秒間のことなのよ。しかも全部クリティカル」
「明らかに異様だよな……」
「ネタ集団ってギルドがあるんだけど、入らない? 入っちゃう?」
たぶん、クソビルドで無双できるくらい強い人を集めた集団なんだろう。
「いや、遠慮しとくよ。俗世間から離れてゲーム廃人になるつもりはないしな。それにまだ注文をさばききれてないんだよ」
「注文?」
セントラルから鎧の注文を受けていたし、がんばってはいるものの錬成の方に時間をとられて鎧づくりは進んでいない。
鎧づくりで大切なのは合金ですよと先生に言われていろいろ試しているのだが、銅と鉄を混ぜたらゴミになって、鉄と金を混ぜたらゴミになって、銅と銀を混ぜたらゴミになるというセンスがないんだろうとしか慰めようのない状況では進みようがないのだ。
「セントラルに初心者レクチャーしたのは俺なんだけどな、鎧づくりにはコネが必要だって勘違いしてるんだ。実際そうなのかは知らないけど、交換条件が魅力的すぎて断れないんだよな…… 投げナイフのレシピ」
「ほほう、新種の投げナイフなのね?」
「新種じゃないんだが…… 売れなくて取ってたレア素材の活かすところはここだろうと思ったんだよ。プラチナ・ターマイトって知ってるか?」
「ああ、称号持ちの」
倒しただけで称号がもらえるモンスターは「称号持ち」と呼ばれるらしい。
「もっとも最初以外は確認しないと持ってることすら分かんないけど」
「おう? 確認してみるか」
[Super-speed Star] ダンジョンボスを五分以内に倒した証。
[Colosseum Hero] 闘技場のボスを倒した証。
[Lucky Guy] レアアイテムを五個以上入手した証。
[Happiness Guy] レアアイテムを十個以上入手した証。
[Termite Buster] ターマイト族モンスターを三割倒した証。
「なんだ、けっこうあるんだな」
「え、ボスを五分以内に倒したってなに?」
ダンジョン「巨大白蟻の巣」ではボスが乱入ボスに倒されるという事態が起きたため、俺たちの手で倒したわけではないものの五分以内に倒したことになっている。それを説明するとネルカは「連れて行ってほしかったなー」とか言い出した。
「知らねえよお前らなんか」
「乱入ボスなんて滅多にいないし、判定が重なるなんて優遇すぎだわ…… ずいぶん運がいいのね」
そう言われてみればそうかもしれないが、ここはもう決まり文句を作るしかない。
「全部のステおんなじに上げてるからな」
「まあ…… よくそこまで勇気が持てるわね」
「そこまでか?」
VITが体力、STRが物理攻撃、AGIが素早さ、DEXが器用さ、INTが賢さ、LUKが運だと考えれば、何を使っているかとか何をしたいかで上げ方が変わってくる。
例えば「魔法使い」ならMPと魔法攻撃力が上がるINT優先でDEXも少しくらいは上げるがVITとLUKはほったらかしでも大丈夫、集団戦闘の時のためにわずかだけAGIを上げておく、くらいの考え方で行けるだろう。
全て同様に上げると言うのは、何をしたいか分からないような構成だということだ。
「勇者よね、ほんと。そのまま突き進んでほしいわ、こちらとしては」
「ああ、ネタ集団のリーダーなんだっけな。強い人はいるのか?」
「隠してるだけよ。インスタンスダンジョンにこもっていればそうそう何をしてるかなんて見つかるわけもないし。こそこそ育ててるこっちじゃなくてゼルムくんは外で公にやっちゃってるじゃない? すぐに有名人になると思うわ」
強い人を隠れて育てるとかどんだけやましいんだよ。
「公明正大にやろうぜ…… いや、それよりもだよ。こんな面白いもんを作ったんだ、何か見返りがあるって考えてもいいんだよな?」
「あらあら厚かましいことを。んー、レシピでもあげよっか、どうする?」
「おうそれだ。鎧のやつ」
セントラルに贈る鎧が必要だ。まあ俺が渡さなくても誰かにもらっているとは思うのだが、律儀に待っている可能性を考えると一刻も早くやる必要がある。
「高ランクのにする?」
「できれば20レベルくらいのやつがいいな、そんくらいありゃ足りるだろ」
「扱えるの?」
「また無茶狩りでもするよ。素材もたまるだろうし」
今度行くところの目星はだいたいついている。
「無茶狩りね。レベル、そんなに低かったっけ」
プレイヤースキルだけで狩ってるんだよというとそうねそうだったわと言われた。
「適正レベルには見合わないやつらばっかり狩ってるからな。それはそれで問題ないんだが、アイテムも高ランクのものを要求されるからやらざるを得ないんだよ」
たぶん戦闘に飽きた人用に生産スキルが用意されているのだろうが、溜め込んだ素材を全部放出しても生産スキルカンストまではいかないだろう。コンプリートしてから新しく取るような面倒なことをするくらいならレベル上げながら生産上げるほうがましだ。
「じゃあはい、アレンジ前提の鎧」
「アレンジ前提?」
追加素材がないと作れないということらしい。
「絶対何かの効果がつくようにできてるのよ。今からダンジョンに行くんでしょう、手伝ってあげましょうか?」
「いや…… そうだな、頼むぜ。あの「水晶の泉」に行くつもりだったんだよ」
「また難しいとこを……。あそこは物理ごり押しじゃ勝てないわよ」
攻略サイトには「優秀なプレイヤーをかなりの数で揃えるべき」だと書かれていたが、そういうのは一人でやってみたくなるのが俺だ。
「まあ確かに物理攻撃で出せる状態異常もあるけど……。おすすめはしないわ、出血はそこまでダメージ高くないし、スタンは効果時間短めだし。火属性か雷属性かで行くのがいいと思うけど、持ってるの」
「物理で行くつもりだけどな」
どんなに馬鹿げたことを言っているのか、という自覚はある。でも馬鹿げた進み方をしてきて、アホみたいな強さを手に入れたのも俺のアイデンティティーだ。
「ちょうど新しいのを試してみたいときだったんだよ」
「ほんとうに、あなたにはネタ集団に来てほしいわ。その根性、欲しい」
やめとけよと言いたい。
「扱える連中を集めてるんだろ? 俺はめんどくせえぞ」
「いいのよそれでも。いいから行きましょう、時間なくなっちゃうわよ」
「おう」
目標の「水晶の泉」は街の東の方にかなり行って、ダンジョンの奥から入らないといけない。しかも恐ろしいくらい強い敵が大量にいるらしいのだ。これはもう行くしかない。
「ダンジョンの奥なんだっけな?」
「ええ、清き水の洞窟ね」
水属性ダンジョンの、今のところ一番難しいやつだ。水棲生物や水の近くに住む高レベルのモンスターが大量にいて、しかも広い。ちょろちょろ流れてるだけの水に最悪の相手であるスライムが潜んでいる可能性もあるわ、エビやカニのたぐいは甲羅が固いわという俺をいじめるためにあるような洞窟なのだ。
念のために作った鉄球をひもでくくった鉄製ボーラやら、魔法効果ブーストの性能が付いた銀のいがぐりやらもあるが、正直に言うと心許ない。
「スライムとかスラッグとか出てこないだろうな?」
「スラッグはもうちょっと乾燥した洞窟にいるけど、スライムは出るわね」
「嫌だな……。スライムに対抗できるもの持ってるか?」
「一応魔法をね。生産もそれなりにできるけど」
どこまでも底が見えない。戦う力もそれなりにあって、生産力もそれなりにあるとなると実在のはっきりしない「ネタ集団」も警戒すべきだろうか。まあおとなしくしているなら警戒するも何もないのだが。
洞窟の入り口が見えてきたくらいには、よいこはおねんねするじかんになっていた。
「ここか…… クリアしたやつはいるんだよな?」
「例によってオーシャンズの精鋭だけど、いるわ。八人のパーティーだったかしら」
「ネトゲのお仲間ならソロで回せるようにしてくれよな……」
「レベルじゃないかしら。格上の相手が大好きだものね、みんな」
生産特化の倉庫キャラでもない限り相性が悪くないダンジョンならソロで行けるのが普通だ。それどころか大して難しくないはずで、最低限の時間でクリアすれば何度でも必要なもののために周回できるはずなのだ。
まあネルカの指摘もあながち間違ってはいないだろう。クリア可能レベルと安定してクリアできるレベルは大きく違うので、できると言われていてもできないことの方が多い。俺が持っている投げ武器の大半が最低ランクのものなのもそういう理屈だ。レシピもスキルレベルも低すぎて、まともに生産に打ち込めないのだろう。
「にしても、凄まじいなこりゃ」
ぼかりと、子供が砂遊びで作った洞のようなものが口を開けている。さすがにダンジョンの中を入り口から見ることは不可能なので、モンスターも見えない。
「でしょう? レベル25くらいで安定してクリアできるらしいわ」
「まだ15なんだけどな…… まあいいだろ」
器用貧乏とは言わせないために努力してはいるが、相性の悪そうな相手に挑むのも努力のうちに入るだろう。
洞窟の壁はあからさまに青っぽい色だったりはしないが、緑色がかったコケがへばりついていたり壁が削れたところに鉄の沈澱そっくりなオレンジの模様が浮いていたりした。清き水という名前だったはずだがわりと普通の水分多めの洞窟だ。
とはいえ足元に溜まっている水は濁りもなく、深いところは緑に澄んでいる。ぱしゃぱしゃと水を蹴散らしても泥が入ったりする様子もない。
「モンスターを探してくれる? こっちも目的があるの」
「おう。ちょっと待て」
ちょっと見渡しただけで見つかった。
「おい、こりゃなんだ?」
「どういうこと?」
「周り全部が敵だぞ。前に入ったやつ、どうやってクリアしたんだ?」
「意味が分からないけど……」
まだまだ使える銅の投げナイフを手元に右手に五本呼び出して、適当に投げる。すると素晴らしいくらいの反応があった。
「きゃっ!? こんな数が……!?」
エメラルド・プローンというエビが固まって五体ほど、そしてタンザナイト・シェルというタニシの化け物が壁に三匹も張り付いている。八匹くらい大したことがない、と思うかもしれないが、その後ろにも大量に控えている。
「エメラルド・プローン、タンザナイト・シェル、スピネル・クラブ…… 今のところ三種類だけだ。ただこの数は…… さすがにメチャクチャすぎるだろ」
「なるほど、敵が無限リンクするのね? 流れ弾がどこかに行くたびに新しい敵が現れるって寸法かしら…… まあいいわ、やるわよ」
俺の手から、正確さを捨てた全てがしぶきのように飛び散った。
コロッセウムはスペルそのままですが、英語ではColiseum(カリジウム?)というつづりと読みで大きな劇場みたいな意味もあるみたいです。神たるWordさまが赤い下線で「そのスペルちがうで」とおっしゃるので調べたらこれですからね。神とは何なのか。
それにしてもモンスターの名前やらがワンパターンでいかん。和風も出したいなあとかもっと遠くの外国語にしちゃるかなんて考えたりもしますが、どうなんでしょうね。というか周り全部モンスターでも普通のネトゲだとスキルスキルで倒せちゃったりするんですよね……。たぶんVRMMOは手の届く範囲しか攻撃できないんだろうな、とは思うんですが、本当にどうなるんでしょうね?
大晦日にここをのぞいてみたら、いつもと同じで安心しました。やっぱりここはいつまでも同じような感じですよね。変革者が現れない限りは。
今年もよろしくお願いいたします。




