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Aurum Online [Shooter]  作者: 亜空間会話(以下略)
第一章 ヴァーチャル事始め
13/120

#013 闇

 RPGのボス戦って、一回で勝ったためしがないんですよね。一回負けて特技とか見てから少しレベル上げして装備更新、それでやっと勝つっていうような戦略も何もない戦い方してました。


 どうぞ。

 腕が引きちぎれそうになり、少しのダメージと引き換えに俺は地割れから救い出された。


「ミサ、悪い」

「いいよ、お兄ちゃんだから!」


「……そうだな。やるぞ」

「うん」


 毒を使おうと思ったが、今の三ヶ日さんは毒にかかっている。デス・ウィングは効果範囲全員を巻き込むので、今のところ毒でボス討伐に貢献するのは無理だ。


 投げ武器を大量に召喚し、全てがクリティカルポイントに当たるように狙いを調整した。幸いなことに今日は一回もMPを消費していない、スキルの特技はいくらでも使える。そもそもが補助的な投げ武器だけあって、スキルレベルが高くないと習得できないようなハイレベル特技でも消費MPは少ないのだろう。もちろん俺の投げ武器のスキルレベルはそこまで高いわけじゃないが、そこそこのMPをちょっとのINTで底上げした今のステータスだけでも十分持つ。


 三ヶ日さんはレイピアの耐久値が減るのが早いのに気付いたか渋い顔だし、ミサはいつもと同じような顔だ。魔法と杖の耐久値は関係ないのかなすこさんは平気な顔だが、槍は特に損耗が早いらしく、にゃんさんは険しい顔になっている。


 それでも戦いをやめるわけではなく、全員の特技が順々に炸裂する。みんなが特技を終わったタイミングで、攻撃を止めるべく俺は特技を発動した。


「〈ピアースシュート〉」


 手に持っていたピックは恐ろしい勢いで飛翔、石のガーゴイルのような怪物の肩にある微妙な関節の隙間を寸分違わず貫く。激しい衝撃音と共に、刺したままのピックとは別に戻した投げナイフの耐久値が二回分も減っていることに気が付いた。


「くそ、二回分減ってやがる……」


 となると、刺さりっぱなしで放っておかないとダメージが出ないソーピックは使うことをためらわれる。ボス戦だからいいか、とも思うが、途中でぽきっと逝ってしまったりしたらどうすればいいというのだろう。


 使える武器は意外と少ない。


「小石が拾えたらな……」


 解析で足元を見てみるが、残念ながら武器になるような小石が落ちているのは砂地だけらしく、草原にはそれらしいものは落ちていない。


「お兄ちゃん、魔法!」


 よけようとした瞬間に、雷が全身を破壊したかと思われるほどの激痛、いやそれそのものだろう威力が俺に命中した。


「ぐ…… あ」


 体が残ってもいないような、ひどい感覚だ。


「麻痺してるだけ! しばらく置いとけば治るよ、ミサちゃん!」


 赤い装備のランサーであるにゃんさんがミサを叱咤し、ミサはそれに従って強引に雷球を盾で弾いて消した。全員が攻撃を防ぐ手段をそれなりに持っているらしく、俺も初期装備だったら死んでいたかもしれないダメージを受けながら、青鈴石の防具による若干の魔法耐性でそれを死なない範囲で防ぎ切った。


 動けない中でも出来ることは、と俺は気付き、「解析」の緑で目を光らせた。



 石ころ

 ……基本的な投擲アイテム。成分的にも投げる以外の用途はない。



 雷の逆属性が土だとすれば、大ダメージのチャンスだ。しかも。


「ど、どこ見ても、か」


 めぼしい大きさの石ころ、全てが投擲アイテムだ。どれもこれも、有用なアイテムではない。つまり鍛冶アイテムに使用できない、拾っても投げる以外に用途のないアイテムなのだ。解析スキルのレベルが上がれば更なる有用性が表示されるのかもしれないが、今はというとただのゴミ、いいや俺のメインウェポンの一つに成り得る使えるゴミだ。資源ごみと言ったところだろうか。


 ようやく状態異常アイコンの表示が消え、俺はゆっくり立ち上がる。それと同時にせこせこと駆けずり回って、足元に金をばらまかれたハゲおやじさながらに醜く石ころを拾い集め続けた。多ければ多いほどいい。俺のインベントリにいやになるほど大量の、本当にどうでもいいはずの「石ころ」が大量に詰まった。投げられる回数は最低の十回だ。


「ミサ! ダメ上げる!」

「分かった!」


 ヘイトを維持するための奇妙な色を纏った攻撃を加えるミサを見ながら、ちょうどいい頃合いを計って石ころをいやというほど投げて投げて投げまくる。


 にゃんさんのスピアがズガッと敵に衝撃を与えたすきにどどどっと十連続で小石がヒットした。恐ろしいほどの勢いで体力ゲージが減っていき、なるほど、正解だったかと俺は納得して、さらに投げる速度と回収する速度を倍に上げる。


 無限にウィンドウを作り出すウィルスよりもたちが悪いほど、投げ武器の回収は手こずるのだが、片っ端から投げて回収してを繰り返せば大した問題ではない。ずっとやってきたことなのだから、いい加減慣れていなければおかしいころだ。


『ぐははは…… そこに気付くとはやりおるな、人間よ。だが、所詮は人間だ』


 イベントなのか、俺にヘイトが向けられる。盾で吹き飛ばそうとしたミサを無視してこっちに飛びかかってきたガーゴイルへ、俺は石ころを乱射して迎え撃った。敵の体力が恐ろしいほどの勢いで減っていくが、突進が止まるわけではない。


「ちょ、誰か!」


 そう言ってから、俺は攻略サイトの一節を思い出した。


『見た目の地味さと効果の少なさ、自分で技を開発しなければならないため――』


 土属性魔法の使い手は、もちろんこのパーティーにはいない。


 巻き込まれる危険があることを除けば強力かつ見た目が派手な火属性魔法はいくらでも使われているし、水属性魔法もやや難があるものの人気自体は決して低くない。雷属性魔法はハイレベルの人たちがコストを気にせずに戦うとき使われる。


 ここからはもう人気がない、マイナー魔法なのだ。


 阻害魔法は最強だが、ソロプレイでは役に立ちにくい。光魔法と闇魔法はものの保存やダンジョンに潜るときくらいしか役に立たず、氷魔法はコストの高さからあまり用いられていない。最たるものが土魔法で、コストは中くらいなのに威力は弱く、まともな攻撃呪文はと言えば塊をぶつけるか土の槍を出すくらいだ。


 そんなことを考えながら俺は、突き出された爪を必死に回避した。解析を使っても少しだけ回避が遅れるほどの素早い攻撃で、俺はダメージを受けずに後ろに逃げるのが精いっぱいだ。とても逃げる隙に攻撃することなど……


「えああっ!」


 白い光をまとった盾が石像に激突する。


「おりゃあ!」


 黄色いオーラをまとった槍が敵の大きな腹をえぐる。


「〈赤花火〉!」


 種々に色を変えながら火球がガーゴイルにヒットし、ドカンと炸裂する。


「〈ホワイト・クロス〉!」


 極限まで白い光を帯びた二つの剣が、鋭く四回突き込まれる。


 俺以外の全員の総攻撃が、ガーゴイルを弾き飛ばした。そして俺は、両手に握れるだけの石ころを握り締めて叫んだ。


「〈ランダムシュート〉!!」


 機関銃と散弾銃を同時にぶちかましたような、雨だれの音を千倍に拡大でもしたような音がバリバリと響き渡る。一割ほどまで減っていた体力はずんずん減っていき、そして完全にゼロになった。ランダムシュートを特技に頼らず命中率百パーセントで出せるなら、どれだけ攻撃力になるだろうか、と俺は考えてしまう。


『く、く、く…… 我如き使い捨ての尖兵を倒したところで、我らの進行を止めることなどできぬ…… ククク、ごはあっ!』


 頭部にひびが入った。


『われらは名を持たぬ者…… 恐怖せよ、我らが威光に!! 名を持たぬ者どもが、今すぐにでも貴様らを殺しに来ような…… が、はっ』


 ごろりと翼が砕け、腕が落ち足が取れ腹が二つに割れ、石像は粉々に風化して消える。


「終わったか……」

「続編があるような言い方だけど…… 終わりましたね」


 三ヶ日さんは懐疑的だが、俺は終わった方に賭けたい。こんなに疲れる上に痛い戦いをもっと何度も続けるとなると、だるいとかいう言葉では済まない。


「ふー…… お兄ちゃん、疲れた」

「……俺も疲れてんだぞ」


 座った俺に背中合わせをしようとするミサを、今日は振り払わないで受け止めた。


「あらあら仲のよろしいことで、ってあれ、もしかして兄弟じゃなくて彼氏彼女?」


「違いますなすこさん、兄です」

「ただの妹だ」


 同時に否定する俺たちを見て、草がはじけ飛んだ地面に座り込んでいるにゃんさんもどうしてか笑った。いや俺も察しが悪い方じゃない、理由は分かるが、悪ノリが過ぎると言うものだろう。


「ほんっと兄弟とは思えないくらい仲いいよね。一人っ子だしうらやましい」

「にゃんさんは兄弟、どんな人がいいですか?」


「見ててうらやましくなったし、兄貴かな。一緒に過ごしてても嫌じゃない兄貴」


 俺がそうかという保証はないわけなんだが、にゃんさんは分かっているだろうか。


「いい兄ですよ。紳士的だし優しいし。兄弟じゃなかったら、やっぱり恋人がいいです」


「おいミサ……」

「あはは、それくらいの兄貴がいいよね。ま、今ならいても弟になっちゃうけど」


 兄が妹より後に生まれるとすれば、双子だけだ。義理の兄弟は兄弟じゃない気がする。



(ごめんなさい)



「ちくしょう……」


 頬に冷たさが生まれる。


「お兄ちゃん」

「ああ、分かってる」


 何がごめんなさいだ。何がすみませんだ。


「どうかした?」

「いいや…… なんでもない」


「泣いてる」

「……なんでもないんだ」


 これ以上言われたら本当に泣いてしまいそうだった。


「それよかアイテムとかどうなんだよ」

「あ、そうだよね」


 ボスからは特殊なアイテムが出ると聞いた。そんなことくらいしか今の俺をごまかせるような情報はないだろう、と思ってインベントリを確認すると、新着アイテムは錚々たるものが大量に並んでいた。


「おお…… すげえ」

「ボスドロップの剣があるなんて! これは変えちゃいそうですね」


 わりと落ち着いていると思っていた三ヶ日さんですらにこにこしてすごく喜んでいる。ミサも「見て見て、すごいよ」と俺に出して見せる。


「エレメントクリスタルだって!」

「土のエレメントか…… 俺の方にも一個あるな」


 どういう使い方をするのかはわからないが、恐らく土属性の魔法効果なんかのエンチャントに使うのだろう。使用アイテムではないので、齧ったりするわけではないようだ。


「けっこうまともな収穫があったな…… これでなんかするか」

「お兄ちゃんは街に戻るの?」


「クエストってあのキキョウさんを何とかして終わりじゃないのか」

「あっ、そうでしたね」


 三ヶ日さんキャラ崩壊までしてるのか。そこまで嬉しいのかそうか。


 たたっと駆けだしたにゃんさんになすこさんが続き、俺たちもついていった。




 宿屋に着いた俺たちが見たのは、白にクリーム色の紋章が入ったローブを着たキキョウさんが、ふらふらと立ち上がったところだった。


「キキョウさん!」

「ああ…… 帰ってきたんですね」


 かすかな笑み。


「キキョウさん、もうすっかりいいんですか」


 ミサが言ったセリフに、キキョウさんはひどく悲しそうな顔で答えた。


「知らぬ間とはいえ体を闇に喰われていたのですから…… 無事ではすみません。光の力で人を救うためにあなたたちについていこうと思っていたのに」


 差し出された手は、すでに黒いもやに変わっている。


「治す手立ては、ないの?」


「残念ながら、ないでしょう。あなたたちが倒した怪物が生きていれば、補強するように直したかもしれませんが……。ごめんなさい、責めるようなことを言って」


 俺たちは絶句した。


「でも、過ぎる力は闇のものだったのです。いずれ私は、闇そのものに変じる運命にあった。その前に光に生まれ変わるチャンスをいただけて、とてもありがたく思います」


「光に…… キキョウさん、まさか……」


 三ヶ日さんが剣を抜こうとするが、武器を使うことができない宿屋では腰に付けたものはまさに飾りだ。見た目はあり触れるが、ないに等しい。


「ごめんなさい…… なんど謝っても足りないけれど」


 優しい微笑みは何よりも残酷だった。


「キキョウさん!」


 ミサの叫びも、手も、届かない。すり抜けた手を見て、すぐにミサはキキョウさんを見直した。そこにいたはずのキキョウさんは、もうほとんど光の粒に変わっている。


「人助けをさせてくれて、ありがとう」


 大きな音もなく、派手な光もなく、ささやかに、キキョウさんは消えた。

 人が死ぬの嫌だなあ。


 そういえばどうしようもない矛盾を発見したので修正しておきました。というか将来的に矛盾になってしまうところを発見したという方が正しいのですが、矛盾に対してやけに食いつく人っていますからね。


 ま、食いつく人が現れるほど人気じゃないんですが。

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