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Aurum Online [Shooter]  作者: 亜空間会話(以下略)
第五章 Señorita
118/120

#118 Volver

 やっっっと書けた……すいません、グレイブばっかり書いててリソースがなくて。


 三日連続更新です、どうぞ。

 神話めいた話だとは思ったが、まさかここまでとは思わない。


「あと、ワールドマップの未解明部分が大きすぎるのが問題ですね。おそらく大陸になっているはずなんですけど、海がいまだに見つかりません」

「ここにしかない、とかな」


「その可能性があったら困りますよ……資源が多いのは海か山かですから、両方がないと。地下も悪くないですが、準備が大変だしそうそう帰れませんし、探索が大変ですからねー」


 採取できるものの品質がいいとはいえ、ダンジョンにこもり続けるのはかなりきつい。消費MPを気にしなくていいようになった――というのもすぐ帰れる場所でのことだ。かなりデカいマップが必要になる地下ダンジョンは初期投資が大きいうえ、もとを取ろうと奥に入りすぎるとたくさんの難敵に出くわす。


 いちおう「固定ルート周回パーティー」というものがあるので、そうほいほい想定外の強大なモンスターに出くわすことはないが、ときたまボスよりはるかに強い野良レイドモンスターが来るので、離脱手段だけは整えておかなくちゃならない。


「そうか、海が出てこない世界観的な理由が……」

「やっぱり、あるんですかね?」


 あったらあったで膨大な量の水、海に入るために「遊泳」スキルとか必要になりそうだが、海のモンスターはけっこういいものを落とす。今回のイベントで確認できただけでもその質は高く、イベントだということを差し引いて考えても新しいエネミーとしてさまざまなことを学び取ることができそうだ。


「海なぁ。それ専用のスキルとかはともかく、装備は整えていかなくちゃな」

「こっちでも作っている最中なので、海のフィールドが出てきたら大々的に売り出す予定です。予定ですけど」


 アップデートが海と関係なかったらどうするんだろうか、と思ったがそういうものだろう。現実みたいに流行を作っているわけではないので、運営のさじ加減で大損もあり得る。夏イベントで水着に浴衣にドレスまでやるとは思ってなかったし、用意されているという予想すらなかった。アホほどコストがかかっているはずなのだが、そこで引っ込まなかったなすこさんたちの勇気はマジですごいと思う。


「そろそろイベントが終わっちゃうんですよねー……。終わりまで一緒にいられますよね、ゼルムさん?」

「もちろん。さっきの石ころ拾いながらでも、話そうぜ」


「ふふ、やっぱり日常がいちばんですよね」

「あんましロマンチックじゃない方の、な」


 一緒にいて楽しい時間を過ごせる、というのは結局そういうことなのだと思う。いつも素敵な時間を過ごせる相手にだって引き出しの限界はあるし、味わう方だって慣れてくる。いつも一緒でも、底が見えたって隣にいられるような相手の方がいい。




 魔眼メガネをかけつつ「解析」スキルを発動すると、けっこう遠くにあるアイテムまで見えた。俺の役に立つものもあるかもしれないので、全回収の方針で行こう。


「ほんと、この世界ってどうなってるんだろうな。こういう「知らず知らずこぼれた魔力のかけら」みたいな設定はけっこう面白いんだが」

「説明文を見たところ、いろんな種族がこぼした魔力の結晶みたいです。簡単に増えるものじゃなさそうですけど、ここってもうちょっとで消えるマップなので……」


 ゲームに「取ったらなくなるアイテム」はあると言えばあるのだが、アウルムオンラインは公平を重んじてのことなのだろう、時間経過での復活なんかの救済措置が多い。特に街中で取れるアイテムは誰もが拾えるようになっている――まあ、一人当たりの数はそんなに多くないが。


「ふつうの街中にもいちおうクズアイテムはあるんだよな?」

「ありますよ。ただ、小さすぎて役に立たないので、やっぱり精錬のお世話になってます」


 精錬をこなす専門の街角鍛冶屋がいるとは聞いていたが、こういうのも仕事に入っているのだろう。鍛冶スキル持ちから「この鉱石やっといて」とか、戦闘職から「これ使える大きさにして」というのが相次いだら、忙しそうではあるが食いっぱぐれはないに違いない。


「錬金術で使うようなアイテムだとエッセンスを取り出すだけなので、やや小さくてもいいんですけどね。錬成なしで使おうとすると「豆金」以上のサイズは必要です」


 豆金は最小サイズ、棒金とか延べ棒とかインゴットとかあれこれがある中で豆金だけ使って作れるものを探すと、これがなかなかない。俺が持っているスキルだと「錬成」でなんとかあるかな、くらいで鍛冶スキルでは延べ棒以下のサイズは問題外みたいな扱いだ。逆に「細工」スキルだと豆金はかなり使うが、低級のうちは豆金を扱っているお店がなかなかなかったりする。その辺は世界観でも「アクセサリーは確かに重要だけど、まずは武装を揃えなきゃ話にならんだろが」的なことを言われているので、致し方ないことだろう。


 どこのお店でも「あの頃の苦労をもう一度!」とかいってわざわざ数十年前のクソ不便なものを置いていないのと一緒で、錬成必須の豆金は「うちじゃ鍛冶屋がメイン客層だからねぇ……」と言われてしまう。そういうものだ。


「デートの終わりがアイテム拾いって、しまらないな」

「デート終わりってだいたいそういうものだと思いますけど」


 リアルすぎること言うのやめろよなぁ、と思ってしまった。リセイはこういうかわいくないところがかわいいのだが、それにしてもちょっと困る。


「見える範囲にはなくなってきましたから、そろそろ切り上げましょうか」

「そ、そうだな」


 リセイはさっさと立ち上がって、ちょっとこっちを振り向いていた。


「最初はちょっと冒険というか……親に反抗してのことだったんですよ」

「何が?」


 最初――という言葉から、ある程度は察することができた。


「いやー……ゲーム内で出会って「リアルで会ってほしい」なんて、変じゃないですか」

「VRじゃそれなりにあるっていうから、こいつもその一人なのかなって思ってたよ」


 さすがに男女では少ないそうだが、だいたい同じ地方にいる人間が同じサーバーでプレイしているという仕組みからだろう、こっちで会った人とリア友になるということが増えているらしい。あとVRの仕様もあって、あんまり大きすぎるカスタムはできない……というか、本人の面影は残るので、リアルで出会ってもそれなりに「あ、こいつだな」というのが伝わる。


「両親も友達もそういう話ばっかりするから、私だってできるよって見せつけたかったっていうか。日野さん勢もうっとうしかったし……ちゃんとあちこち対策を張り巡らしてたから心配はなかったんです」

「やっぱそこに行き着くよな。前に見せてもらった写真も、相当いいとこみたいだったし……俺って、釣り合ってると思うか?」


 リセイが見える範囲ぎりぎりの速度で俺の後ろに回り込んで、背中をぺたっと合わせる。ステータスってこういう使い方をするものなんだろうか。


「雑に扱ってるようでちゃんと大事にしてくれてるから、大丈夫です」

「ふつうにしてると思うんだけどな」


 にやにやしているのが伝わってくる。


「これが普通なら、世の中の女の子はたいそう不幸ですねー。私はしあわせ独り占めです、なんて罪深いんでしょうね?」

「幸せは手に入れるもんだろ? なんだったか漫画で、背負えるなら手に入れていいんだって言ってたぞ。それこそ禁断の何かだって」


 急に背中から離れたリセイは、くるっと回って俺に絡みついた。


「ど、どうしたんだよ」

「やわらかくてあったかい女の子を満喫してます」


 真面目な話をしてたような気がするのだが、こいつの気まぐれに付き合うことにした。


「ただ歩いてるだけってのはダメか? ずっと抱きついててもいいから」

「どこかに座りましょう、そこからまたふにふにします」


「するのか……」

「しますよ」


 男は胸ばっかり見ているが、女子の感覚では脇腹とか全体的な柔らかさが好みらしい。太ももはどうなのかなと思ったが、よく考えたら人前で触れるところじゃない。近くの階段に座って、かなりたくさんいる恋人たちの群れに混じる。


「たまにはこういうのも……できれば二人きりがいいんですけど、たまには」

「未練たらたらじゃねーか」


 肩を寄せると、手がくるっと腰に回ってきた。


「やっぱりふにふにしてますね」

「料理の再現は実際に味わってやったって聞いてるから、これも同じように作ったのかもな。どうするんだよって話だけど」


 再現性はかなり高いので、料理と同じような方法でスキャンしたのだろう。運営側の事情に突っ込むのもネトゲの醍醐味だとは思うが、こういう根元の根元みたいなところまで入っていくと深い話になってくると思うので、せいぜいBAN祭りを楽しむくらいしかしていない。


「離れ離れで寂しかったですけど……ほんとは、ちょっと良かったと思ってます」

「めちゃくちゃ会いたがってたってわけでもなさそうだけど……なんでだ?」


 ふっふっふまだまだですね、とリセイは笑った。


「ずっと一緒にいなかったから、この一日足らずの時間がすっごく楽しいんです!」

「ああ、そっか……。それもそうだよな」


 じゃあくっついてようぜと言ってひざの上に乗ると、添い寝したときのようにぎゅっと抱き締められた。


「きゅう……」

「なんだ今の声」


「す、すみませんちょっとだけ、こう……大好きだなーって」

「かわいいやつめ」


 のどを鳴らすみたいな声だった。


 性別なんて関係ない、俺はリセイと一緒にいる時間が愛おしかった。


「イベント、もう終わっちまうな……」

「それまでこのままでいましょうか」


 言葉ではなく行動で表した答えに、その答えももちろん行動で返ってきた。


『まもなくイベント終了時刻となります。現実時間対応シークエンスを行いますので、安定した姿勢をとり、座ってお待ちください』


 入るときはなんともなかったのだが、出るときはめまいの心配なんかがあるのだという説明も同時に流れる。急激に時間がゆっくりになるという感覚はあんまり味わえるものじゃないから、安定しているのに越したことはないだろう。


『現実時間対応シークエンス、のち強制ログアウトとキャラクターデータ再生を行います。しばらくそのまま待機してください』


 言葉から数分も経たないうちに、ログアウトするときの光がオーロラのように降り注いで俺たちを包んでいく。光に当たったプレイヤーたちはさらさらと消えていくので、正直少しばかりビビった。


「夏休み明けにでも会おうぜ、リセイ」

「少し経ったら連絡しますよ、ゼルムさん」


 いつものあいつとは違う、ふんわりとやわらかな微笑みを見ながら――俺はオーロラに包まれて、ログアウトした。

 ふぅ……最近は生命力が枯渇してきてるんで、肉を食わないと……。それもそうだけど設定の解説をしなくちゃ……



「VRIDの機能」


 仮想空間現実感覚化デバイス(以下、略称として用いられる「VRID」とする)にはいくつかの機能がある。主には「人間を仮想現実へと誘う」「簡単なセキュリティー突破」「脳の演算加速」である。今日はこの機能について簡潔に説明する。



「人間を仮想現実へと誘う」

 各部神経から脳へとつながる電気信号の受け渡しを疑似的に作り出し「五感があり、意識がある夢」といったような状態を再現する。旧型がベッド、新型でもヘルメット型なのは脳と電気信号の受け渡しをしているからである。制作側としてはもっと効率的に行うため延髄近くにチップを埋め込む実験がしたい考えだが、許可はいっこうに出ない。


「簡単なセキュリティー突破」

 認証を省略したりするためにセキュリティー突破機能がついている。社会問題になった機能だが、あの事件以後もやや制限がついた程度である模様。


「脳の演算加速」

 体内から入ってきた信号をカットする過程で発見された。脳の演算速度には基準となるクロックが存在し、そのクロックが取り除かれたことで思考速度が不安定になる現象が観測されている。つまり、新たにクロックを設定すれば演算速度=思考速度を自在にコントロールできるということ。本編5章において実験が行われ、クロック24倍×7時間程度であれば「一日の肉体労働を終えた程度」の疑似疲労、加えて脳のダメージはほとんどないことが確認されている。

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