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Aurum Online [Shooter]  作者: 亜空間会話(以下略)
第五章 Señorita
116/120

#116 Por la fuerza

 口調ひとつで性別を渡り歩いてるゼルムくんにいっさいのツッコミがないところを見ると、これって混乱しないかなと思ったのは杞憂だったようで。理解力よりは思考放棄にも見えますが、まあいいでしょう。


 ちょっと遅くなりましたが、どうぞ。

 投げ槍の材料は槍と同じで、持ち手になる木材と穂先を作る金属、これだけだ――といっても、持ち手に使う木材は案外デカい。彫り物をするにもいい大きさだと思うし、金属部分も色を入れやすいように調整してみた。


「これでやりやすくなったか?」

「ええ、とっても。さて、行きますよー!」


 初めて出会ったときのハイテンションで、リセイはあのときよりだいぶ高級そうな絵筆を取り出した。ウィンドウから色を選んでいるらしくあちこちとスライドしていたが、やがて選択も終わったのか絵筆を慎重にあてがい始める。


「――〈着彩〉」


 ……前回見たときのハイテンションなコールは、スキル発動の合図だったようだ。赤みがかったむき出しの木材に、絵の具がひとりでにまとわりつくように垂れていく。錆色の電子基板のような模様が描かれてゆき、穂先から侵食するような形ができあがった。


「なんだこれ……?」

「強度アップと衝撃力アップの色ですね」


 そうは見えない……というか真逆に見えるが、そうらしい。専門外のことにあれこれ言っても仕方ないので、いちばんやれるやつに任せることにしよう。


「じゃ、金属部分をいきますよ?」

「頼むぜ、リセイ」


 がんばります! と敬礼するのが面白い。


「どういう効果がいいですか? エニグマ種から落ちたものもいちおう使えますけど」

「いや、そこまでしなくていい」


 手に入れる手段が限定されすぎているものを使われても、それに見合った破壊力が得られるのはごく一瞬のことだ。後悔しない選択肢か、と言われると「消費アイテムに使ってしまうのは惜しい」と答えるほかない。


「そういうのは長く使えるものに入れるもんだろ? 投げ槍が使えるのはせいぜい十回だぜ、伸ばしても50パーセントが限界だ」

「どうして錬成で作った投げ武器よりも弱いんです」


「弱いんじゃない、投げに特化してるのと、来歴に関係があるんだよ」


 投げ武器で「投げナイフ」を作るとき、ザラルダイトとアリアル鉱石だとザラルダイトに軍配が上がる。重くて鋭くなるからだ。アリアル鉱石は鋭さに特化しているので、本当のことを言うと小太刀や生活用品のナイフを作るのがいちばん適している。武器にして弱くはならないが、少しだけ劣るのが現実だ。


 重いと衝撃力が大きくなるから、必然ダメージも極大化する。今まででも最大クラスの投げ槍は、大きくて重い――強いに決まっているのだ。


 ところが、変なところで現実に寄ったアウルムだと投げ槍の耐久度はそう高くない。もともとの投げ槍というものは使い捨て前提で、なんなら一回投げただけで壊れるようにできていたんだそうだ。それなりに素材もコストもあるから一回でというのはないだろうけど、十回というのはかなりひどい……まあ、威力からすればコストをつぎ込む意味があるといえばあるが、そうそう使えるものではない。テストとしてHPを多めに残してとどめに使ったが、威力はじゅうぶんだった。


「いくらでも使えるけどそこそこ強い……とかあればいいんだけどな」

「ありますよー。特技の基礎威力アップとか、どうでしょう」


「いいな。飛んでいく速度が上がるとか、あるか?」

「そっちはちょっと貴重です。集めるのを付き合ってくれるなら」


 じゃあ頼む、というと「ふっふっふ」と黒い笑いが見えた。


「着彩、っと……延びが悪いですね、スキルレベルがもうちょっとだけって感じですね。キャンセルしておきます」

「レベル上げしてからでもいいぞ」


「ありがたく……」

「なんか要るアイテムとかあったら言えよ?」


 着彩できそうなアイテムを聞いて、売り物にも試作品として色を入れてもいいかな、と鎧を出してみた。あと盾とか少なめの素材で作れる剣も出す。


「……失敗してもいい前提で出してませんか?」

「慢心と危険になる確信はしない、俺のポリシーだな」


「本当ですか?」

「ごく最近始めたばっかしだ」


 疑いの目が向けられているが、学んだことからやりたいことリストに入れているくらいの扱いであって、鋼のように実行できていることではない。ちなみに、最近やっとわかったことだから、まだまだ実行する段階にすら移っていなかったりする。


 これまでそういう失敗ばかりしてきたので、いい加減に学ばなくてはならなかった。チャレンジはチャレンジとして、本当にやらなくてはならないときに無理や無茶をしてはいけないのだ。対策はやりすぎるくらいがちょうどいい。


 武器に、鎧に、盾に、リセイの手持ちらしい服なんかも――色づいていく。もともと色がついていたアイテムにさらなる改造が加わったり、俺の持っていたアイテムにいろいろな美しい模様が書き込まれたりといった作業の途中、リセイはずっと笑顔でぺたぺたやっていた。


「楽しいか?」

「楽しいですよ」


 俺も「作る楽しみ」というものは知っているつもりだが、ちょっと詰まったり思うようにいかないときはわりかし多くて、いつも笑顔で生産なんてのはちょっと無理だ。リセイはそういう悩みとは無縁に見えるくらい、ずっと笑顔でやっている。


「できていくのって楽しいじゃないですか。うまくいかないなんて日常茶飯事だから、そんなに気になりませんし。それにね、ほら!」


 リセイは、これって大丈夫なんだろうか、と思うくらいのちょっと崩れた模様を差し出す。


「失敗作ですけど……私はこれでもいいかなって。そんなに嫌いに思えないんです」

「妥協してるわけじゃないんだな」


 俺の言葉を聞いて――彼女はとても優しく微笑んだ。


「ぜんぶうまくいくなんて、簡単にはできませんよ。やろうとしてるなら、やめたほうがいいです」

「どうしたんだよ、いきなり……」


 俺はそう言ったが、リセイの表情はそういうふうではなかった。「諦めろ」ではない。


「失敗を認められない人って、大変ですからねー。ゲームだと、失敗でもいちおうスキルレベルの糧にはなるじゃないですか? そういうところでちゃんと分かる人になりたいなって思うんです」

「リセイにゃ敵わねーな、ほんとに……」


 母さんも「女の子の方が成長が早い」と言ってはいた。こういう意味なんだなぁ、といまさらながら思い知る。


「そうだな……でも、俺は積み上げるものを怠けたりしないぜ」

「当然ですよー。何もかもやってできなかったのは悔しいですけど、それでも受け入れられるくらい強くならなきゃって」


「いいんだけどさ。あんまし強くなろうとしすぎないでくれよ?」

「弱くなっちゃうからですか?」


 リセイもまだ、完璧じゃない。年齢から言って仕方がないんだろうし、だからこそ支え合えるのだろうけど。


「逃げられなくなったり、引き下がれなくなっちゃダメだぜ」

「む、そこについてはちょっと考えてなかったですね」


 ダメだとは思うのだが――リセイのそばにいたいから、彼女が完璧になってはいけないような思いに囚われていた。あんまりに完璧じゃそばにいられない……いる意味がなくて、つながりが消えていくように思える。だが、足を引っ張ったりなんてしない。俺の方が追いつけばいいだけのことだ。


「さて、どうでしょう? レベルがひとつ上がっただけで太刀打ちできるものでしょうか」

「そういうときは、「絶対にやるんだ」って気合い入れるもんだろが」


 それもそうですね、とリセイは笑った。


「さて、さて? 成功させてみせますよ、このリセイ、全力です」

「全部任せる……肩を支えるとかやろうか?」


「じゃあ後ろから抱き締めていてもらいましょう」

「マジか……」


 こいつはこういうからかい方をするやつだ、仕方ない。


「お願いしますわね、リセイさん?」

「任せてください」


 本気トーンだとふつうにかっこいいのが余計にアレだ。


「ちゃんとロールプレイすると美しいんですけどねー」


 ……同じこと考えてる! と喜ぶところじゃなくて、両方ともなんでこんなに決まってるんだろうと思うところだ。後ろから首に手を回して耳元からリセイの手元あたりを見ると、見やすいが緊張する。


「さて、美少女のお願いに応えるために、この私が死力を尽くしましょう」


 にこりと笑う顔は、危険なほど魅力的だった。


 絵筆をあてがい、さらりと滑らせる。スキルによる自動化に頼らない、腕前をかけて行う戦いめいた着彩だ。すべてが終わるまで結果が出ることはなく、キャンセルはできるものの、この集中力を幾度も連続して、というのは少々難しい。


 はたから見ればなんとも奇妙な光景だったとは思うのだが、俺が後ろにひっついているだけでリセイの集中力は上がっているらしかった。


「できましたよ。着彩、完了です」


 名前――「ザラルダイトの投げ槍」に、「着彩[朽ちた寂麦]-砕壊麗紋」という追加効果が加わっていた。もの寂しげに錆びたような金色が、黒い穂先にひび割れのように染みている。


「やっぱ、専門家に任せるに限るよな。リセイも、小太刀のことならなんだって言ってくれていいんだぜ」

「いえいえ、ザラルダイトの小太刀なんてもらっちゃった後だとなかなかね……。メンテナンスとか強化だと、こっちでもできちゃいますから」


「そこは俺に頼んでくれよ……」


 リセイのいる女子の連合は、戦闘力もそうだが生産力も高い。というか乙女たち本気出さなくてもそこそこ強いとかおかしくないか。


「この売り物、どうしましょうか」

「儲けの分配か……三割上げて、その分を渡すくらいでどうだ?」


「まあ、そうしておきましょう。もっと上げるべきですけど」

「客は安い値段に慣れちまってるからなぁ……現実的じゃねえな」


 買い叩かれているわけではないし、採算が取れないほどの安売りではない。しかし、値段を上げるとなると不満が出始めたり、ライバルが客を取ろうとしたりするのが商売だ。


「まあ、レベル上げの素材に使うってなら「試作品につき値引き中」ってんでいつもの値段、自信をもって送り出せるなら三割増しで「付与効果のおまけ付き」だろ」

「おまけ付き、でお願いします。効果は確認できるんでしょう? なら相応の値段をつけなくちゃいけませんから」


「決まりだな」


 ……まあ、すぐに売るわけじゃない。露店の状況なんかを確認してから、やれそうならやってもいい、くらいの話だ。今からだとちょっと日が高いかもしれない。


「じゃあ、メシ……おほん、ご飯でも一緒にどうかしら?」

「キャラが崩れてますねー? 慌てずに……ご一緒しますよ」


 リセイの真似をしてからかおうとしても、これがなかなか難しい。ちょっと演技を混ぜるくらいがちょうどいいのだろうか。


「大丈夫、デートプランは完璧です」

「ああ、うん……」


 ……しょうがない、素直に負けることにしよう。

 昔は「やっぱ女の子ってすごいなぁ……!」と思ってたけど、今となっては「ピンキリですよね」に気付いてしまったあとだったり。上位陣を見れば果てしないけど、下の方は残酷なくらいなんにもできませんし、フィクションの中なら成敗されてざまぁ見ろってところを世渡りで相手になすりつけたりするし……。恨みに満ちてるから具体例は挙げませんけど。


 ちなみにクッソ適当に書いてるので、ゲーム内でものを売るときにどうするかとかいっさい考えてません。あ、ここで作ればいいのか。




「露店をやる流れ」


1、おっ開いてんじゃーん!(開店)

2、兄ちゃん俺らも混ぜてくれよ(横並び競合)


3、ピンキリですよね(価格競争)

4、やっぱり僕は王道を行く……(不正釣り上げor異常値下げ)

5、出そうと思えば(品質で勝負)

6、ブッチッパ!(そのうちひどいのも並び始める)


7、アーイキソ(売れないから狩りに)

8、やめろォ(建前)ナイスぅ(本音)

9、こんなんじゃ売れないよね?(店が減って客も減る)

10、じゃ、お願いします……(いつものとこで、いつものものを)



 露店とは言いますが、にわか商売とはいえ「信頼できる○○さん」を探す人が多いようです。あとギルド直属の放出品とか「レベル上げで作ったから壊してくれていいよ」の投げ売り品。投げ武器なんかだと「数クッソあるし、修理出すのめんどくさくね?」はわりとありそうなので、需要と供給としては成り立っているかなと。


 個人経営だと大変そうなのは「今日は狩りに行ってます」「今日は露店やってるよ」のバランスを保つことでしょうか。露店のシステムがどうなっているかにもよりますが……そいつを作るのは、おそらくもっと先のことになると思うので……。

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