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Aurum Online [Shooter]  作者: 亜空間会話(以下略)
第五章 Señorita
114/120

#114 Sharp Maiden

 一週間に一回は更新したいなと思っているんですが、なかなか。これでも執筆速度かなり上がってる方なので、完結までちゃっと行きたいですね。今日って入学式シーズンでしょうか? 入社式は終わっていそうですが、皆様の新たなる門出に幸多くありますように、微力ながらお祈りしています。


 どうぞ。

 燕尾服の男が、黒いドレスの女に手を差し出した――なんとも絵になる光景なんじゃないかとは思うのだが、男が言い放ったことは。


「朝日まで、(ふね)でご一緒しませんか――お嬢さん」

「あ、……ら、いけないひと……」


 これミサがブチ切れるやつだなぁと思いつつ、でも手を取る。ミサの方を見ると、不思議とおだやかな顔をしていた。なんというか「味わいつくしたよ……!」みたいな顔に見える。……このイベント中、夜はずっと一緒に寝てたもんな。いい加減にしてもらおう。


「邪魔するものもいなくなりましたから……二人の時間を、楽しみましょうか」

「ええ」


 優しく手を引かれて、俺は会場から出ていく。手を引かれる乙女というのはけっこういろいろなところで使われているモチーフだから、なかにはうらやましそうに見ている人もいた。俺とリセイ両方がそんな目で見られているので、俺たちは顔を合わせて、ふっと苦笑いしてしまった。


 会場を出てすぐ、俺は装備を細身のワンピースに替える。リセイも燕尾服じゃなくてふつうのスーツみたいな装備に替えていた。


「ほんと、なんでも似合いますねー」

「リセイこそな」


 もう口調いいだろというと「ぼろが出るといけませんからね」と許してくれた。


「ちょっと高めの宿屋でも借りるか?」

「特殊クエストでいい場所を用意しておきました」


 ……女の子にイケメンムーブされると、こっちとしては立場がないな。ありがたいけど。


「豪邸の一部を借りられるんです。いい場所ですよ」

「ずっとそこを借りてたのか?」


「ええ、まあ。二日目からですけどね」


 特殊クエストはそこまでひどい難易度でもなかったが、キーを見つけるのが難しかったらしい。俺たちのように多数のモンスターと戦う防衛クエストとか、リセイが受けたのはかなり特殊な方……「ダンジョン走破クエスト」だった。


「なんだそりゃ」

「ソロでクエストのために用意されたダンジョンをクリアする、ですね。難易度はそれなりにある方でした」


 わりかし強い方のリセイがこういうのだから、俺には無理だろう。俺がダンジョンに挑むと肝心なとこであれこれ足りない――ボスを倒す火力や敵から離れる逃げ足、攻撃を防ぐ手段などなどだ。ステータスの極端な偏りは確かにないが、突き抜けた部分がないだけに困ることは多い。


 鍛冶なんかであれこれ作っているものが売れているのは値段設定の部分が大きくて、質だと専門のやつらには及ばないことが多い……まあ、そういうのに限って値段を吊り上げすぎて「ギルドの仲間に無償譲渡」なんて結果になりかねない。安くしたり試作品を使ってもらったり、安定した買い手をゲットしておかないと商売はできないのだ。


「じゃ、部屋はひとつだな?」

「ふたつ空いててもひとつにしてもらうつもりですけど」


 ……マジか。


「お城にはかなり近いので、もうすぐ着きますよ」

「ああ、豪邸だって言ってたもんな」


 もうすぐという言葉の具体性を示されることもなく、ふらふらと歩く。


「それにしても、着せ替えおもちゃにされすぎですよ」


 ……その通りすぎてぐうの音も出ない。


「水着パーカーに浴衣だろ、デートに着ていくようなふわっとした服とか、さっきのドレスもだな……。がんばったな」

「がんばったというよりは耐え抜いたといった方がいいのでは」


 リセイ、正論言い過ぎな。その通りだと思う。


「ま、……似合ってる服をきちんといただけたのはよかったですね」

「目的はそこ以外になかったんだけどな」


 欲しかったのは「撮影させてくれればお金を割引する」という文言の通りにもらえるアイテムで、支払った代償がデカすぎただけだ。というか、あんだけスクショ撮ってサーバーがびくともしないのがもう引くレベルというかなんというか、この圧縮された七日間にどれだけのデータが蓄積しているのか想像もできない。それでなおラグひとつ起こらないんだから、いったいどうなっているのだろうか。


「さて、着きましたよ。ここです」

「お……ごほん。ずいぶん大きなところですね」


 ヤバい、門番が見てるな。


「む、リセイさん。その方は」

「意中の女性です……舞闘会で仕留められて(・・・)しまって」


「ほほう、それはそれは。すばらしいことですな」

「ゼルムです――お見知りおきを」


 この場所にワンピースでは格式が合わないかと思ったが、そんなこともなかった。にこにこ笑顔の門番さんは、すっと通してくれる。


「ふう……。通れてよかった」

「本当に」


 リセイの表情を見るに、通る確実な手段はなかったようだ。好感度はそれなりにあったようなので、無理ではなかったと思うが。


 舞踏会が開催されたお城とそう違わない、レベルの高い邸宅だ。尖塔がないだけで、ほぼお城だと思う。よく分からないが、尖塔を立てるのがステータスだったりするんだろうか。


 夜なのにあちこちにエレメンタルがふよふよ漂い、ロマンティックを保った程度にライトアップされている庭を通る。インスタントで召還を行う魔法装置があるんだそうで、それのメンテナンスもときたまクエストに出るらしい。


「いい場所でしょう? ささやかな食事なんてできるんですよ」

「素敵ね……あら、あれのことかしら?」


 小規模な食事会のようなものが開かれていた。食事用の服のはずなのだが、それでもかなり高級なものに見える。ここの人たち身分どうなってんだ。


「おお、こんばんはリセイくん――言っていたのは、そちらのお嬢さんかな?」

「そう、彼女です」


 微笑みながら会釈する。


 聞いたところによるとリセイはここのお嬢さんたちを袖にして「離れ離れになった彼女を探しているので」と言い訳した。男状態だと見た目はかなりいいから、いったいどんな人を連れてくるのかと今しがた話題になっていたそうだ――なんか注目されているのはそのせいらしい。


「素晴らしい美人ですわね……」「アンバランスな妖しさですのね、確かにわたくしたちには欠けています」「服装も整えていらっしゃる、髪もすっきり……。用意周到ね」


 四人くらいのお嬢様方が口々に評価してくれている。誰も男だとか疑わないあたりが純粋なのか俺の演技が通用してくれているのか、ありがたいところだ――NPCだからというクソオチは考えないことにして。


「さあ、来たのなら話は早い。食事を楽しみましょう」


 構えをしていなかったから面食らったが、夕食を摂ってないのは事実だ。けっこうおなかも空いていたから、ありがたくいただくことにした。




「――と。このような馴れ初めです」

「なるほど。情熱的な出会いですわね」


 わりかし正直に話したつもりなのだが、この世界だとそこそこよくあるくらいの話題らしい。さらわれた女の子を助けるクエストとか頻繁にあるから、あるんだろうとは思っていたが……もうちょっと平和になってくれていいと思う。いちおうフェイクとして俺とリセイのことを逆に言っておいたが、リセイの反応はとくにない。


「……それで。どのあたりが好きですの?」


 桃色のドレスを着ているのがサリア、オレンジのミニドレスがメティネ、マリンブルーのドレスに水色のショールをかけているのがクレシュらしい。


「このように金物臭い女でも愛していただけるところかしら」

「……たしかに、この数はたしなみの域を超えていますわね」


 サリアはかなり常識人っぽい。「戦いをたしなまれるなら武器を見せてほしいのですけど」というメティネ(彼女もけっこうやるらしい)のお願いに応じて、俺は投げ武器をずらずらと並べていた。五十を超えたあたりでクレシュの顔が引きつってきている。


「あなたもずいぶん強いみたいですけど……本当にリセイさんに?」

「ええ、勝ちましたけど」


 ……NPCにキャラクター構成(ビルド)の強弱とか相性を話して伝わるんだろうか。


「えっと……私、人を相手にする訓練を積んできましたから」

「あらあら、過酷な人生を送ってこられたのね」


 AGI型は速度で翻弄し、攻撃速度でダメージを重ねて敵を圧倒する。VIT型は防御力や耐性を固めて攻撃に耐え、相手をじわじわと削る。STR型はとにかく高い攻撃力にものを言わせて、数発で敵を葬る。だいたいそんな感じだ。対人キャラはというとだいたい速度と攻撃力に寄って、回避したり敵をもてあそんだりしつつガードをぶち抜く。


 俺はクリティカルでダメージの底上げを狙い、そのうえで弱点部位や防御が薄いところを攻撃して相手を確実にキルしていた……いや、対人戦の経験はそこまで多くないが。モンスターでも同じ方法が通用するものはそれで倒せたし、通用するものの方が多かったというだけの話だ。明確な弱点部位がない敵はかなり厄介な部類だから、俺じゃなくてもそうとう手ごわいと思う。


 なんか「俺なら楽勝」みたいな言い方をしているが、ぜんぜんそんなことはない。諦めが悪かったり、倒せたら「なんだ倒せたじゃん」とか言ってしまうタイプというだけで、じっさい味わった困難も成果には代えられないよね的発想だ。あんまし釣り合わないとさすがにもうやめようとは思うけど。


「ゼルムさん? こっちへ来て、一緒に食事しませんか」

「彼もああ言ってますから、行ってきますね」


 長話もそこまで得意ではないし、ちょっとぼろが出そうになったのを察知してくれたらしい。このワンピースもここでは装飾を省いた食事用という解釈らしいので、手を振りつつ三人と別れた。


「本物と並べて遜色ないあたり、いいですねー」

「でしょう?」


 もう素直に誇ることにしておこう。謙遜するだけ無駄に思えてきた。


「ああしてみると、投げ武器もなかなかすさまじいものがありますね」

「味わってから言うことですか……」


 いちおう完封勝ちしたはずだが、あれだけやられてもそんなには強く思ってなかったんだろうか。


「殺意といいますか、凶器感がすごいじゃないですか? まさしく倒すためにあるような、鋭さが……」

「錬成のレシピには、デザイン変更モデリングがありますから。より攻撃力が上がる工夫をしたりといったこともありますわ」


 重量バランスを変えたり、ソーピックだと継ぎ合わせる素材ぜんぶ形を変えることもできる……いや、コストと効率とバランスがひどいことになると思うが。




 いただきましょうか、と言った瞬間に料理が届いた。待機中でもなかったと思うんだが、どうなっていたんだろう。


「女性が多いので、それに配慮したメニューですよ」

「ふふ、ありがとうございます」


 見た目それっぽい方がいいだろう。細い乙女が肉をがっついてたら、俺だって何事かと思うだろうし。それからしばらくリセイのマナー講座になった。ニコニコ笑顔で鬼指導されている俺を皆さん微笑ましげに見ているが、だいぶきつい。見た目としては「玉の輿に乗ろうとしてるんだから、戦いに生きてきた君もマナーを身に付けなさい」といったところか。


「美味しいですね」

「ええ……」


 注意が少なくなってきたあたりで、リセイはふつうに口を開いた。


「ふつうに流通しているものもいいですけど、狩って取ってきたものは新鮮さが違います。業者を連れていったりスキル持ちがいると、落ちる食材も質が向上するんですよ」

「そうですのね……ほかのアイテムにはないから、検証したのかしら?」


「もちろんです。私たちはそういう動機で協力し合って、仲良くなったクチですから」

「生産組合、というわけね」


 出会ったときも生産ギルドホールだかにいたので、だいたいそんなところだろうとは思っていた。素材を取るのと生産するのを両方こなす女性プレイヤーの集まり、その中にリセイも参加しているらしい。


「あなたの服は誰にもらったんですか?」

「なすこさんという方ですけど」


 表情がちょっと硬くなった。


「あの人ですか。まあ、……悪い人ではないんですが」

「そうですね、悪い人ではないから困るんです」


 リアルでも出会ったことがあるが、純粋に「かわいい服を着たかわいい女の子が好き」という人で、そのためにデパートに入ったショップの店長にまで上り詰めている。好きなこと一本をそこまで極めていてゲームの中でも同じように、というんだから相当だ。作るアイテムの質もどんどん上がっているうえにレアアイテム消費にためらいがないものだから、服関係ではトップクラスだろう。


「暴走気味のところがありますからね……」

「そうですね……」


 食事は、そうして静かに過ぎていった。

 終わりが見えてきたこの作品、作者からすると黒歴史の闇黒塊だけど消さずに残しておこうと思っています。過去の自分がどんなだったか振り返るいい材料になるので。


 最近読んで面白かったのはブクマした「不定形な呪術騎士は『VR』を探し求める」という作品。やっぱ異形×ゲームっていいよね……アウルムいったん完結のち、再開するときに路線変更したので異形にする予定になっています。まあ、その前にハザードと玉散レを集中更新しないといけないんですけども。主人公いじめを加速しなくちゃいけないんだ……。

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