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かつおぶし

「何か色々とあった気がしたがそんなことはなかったぜ……」


「いきなり何を言ってるんだお前」


「いや……こういったら面倒事が全部終わった後になってないかなぁ、ってそう言う希望を込めて言ってみたんですけど」


 もちろん私はそんな超能力とか魔法の使い手ではないので、面倒事が綺麗さっぱり片付いたりはしない。

 そして当然ながらこの先にラスボスが待ち構えてるとかそういう事も無い。


「はぁ……早く、村につきませんかねぇ……」


「そうだなぁ……」


 私と夜菜さんはちょっと気分が落ち込んでいた。ついでに言うとイライラもしていた。

 理由はというと、昨日お風呂に入れなかったから。ただそれだけだ。


 まぁ、野宿したんだからお風呂に入れるわけもないのだから仕方ないのだが……。

 それに、小川も水浴びが出来るほど深くないし。手を洗うのもギリギリってくらい水深が浅いのだ。


 私は女性に不快感を与えないために身嗜みには気を配ってるし、それに結構綺麗好きで風呂好きだ。

 夜菜さんは女性であとは言うに及ばず……ってところだろう、まぁ。


「……弥勒菩薩、って知っているか?」


「いきなりなんですか」


 夜菜さんがいきなり変な事を言い出すのは昨日一日で何度もあったが、今回は輪にかけて脈絡がない。


「まぁ、弥勒菩薩ならなんとなくは知っていますけど。それが何か?」


「弥勒菩薩って確か仏陀になって地球に戻ってくるのに57億年くらい必要だったよな。なんでなんだろな?」


「うーん……宇宙から降り注ぐブッダー線で、ブッダーロボから真ブッダードラゴンに進化させるにはそれくらい時間がかかるんじゃないですか?」


「……そうか……ブッダーとは……こんなにも簡単な事だったのか……! って、何を言わせるんだ馬鹿者」


 突っ込まれたが先に変な事を言い出したのはあなただと思う。


「ダメだな、お前とは哲学的な話とか、宗教解釈について議論は出来ん」


「失敬な。私は哲学部の所属でしたよ。ついでに言うと、副部長だった人と激論を交わし続けていたので色んな哲学について話せます」


「お前、色んな部活に入ってるな……」


「ええ、両手の指じゃ足らないくらい入ってました」


「というかお前、サッカー部のマネージャーじゃなかったのか?」


「ああ、兼部アリだったんですよ。サッカー部、バレー部、バスケ部、演劇部、手芸部、文学部、茶道部、華道部、囲碁部、コーラス部、美術部、児童文学研究会、哲学研究会、東洋医学研究会、お料理研究会、ロボット工学研究会に所属してましたよ」


 それ以外の外部協力者の形とかでの関連性で言えば、100をくだらない部活と関係していた。


「いくらなんでも兼部し過ぎだろう。というかお前の学校そんなに部活あったか?」


「いえ、うちの学校自体はそんなに多くありませんでしたよ。ただ、うちは大学部併設でしたから、入ろうと思えば中学生でも大学部の研究会に入れたんです」


「ああ……そう言えばそんなシステムもあったな」


「それに規模の小さい部活は周辺校で統合して、という感じだったので、手芸部は高等部のウルスラに行ってやってましたから」


「お前手芸部に入ったの完璧にソレ目当てだろう」


「そうですけど、それが何か?」


「ロボット工学研究会はおおかた大学部の研究会だな? 大学部に出入りするためだけに入ったろう」


「そうですよ。まぁ、その後に東洋医学研究会に実利目的で入ったので、ロボット工学研究会は抜けてもよかったんですけどね」


 しかし、私がエサをやらないと死にそうな先輩が何人かいたのでそのまま籍を残していた。

 それにエサをやると、女性の先輩が懐いてくれて嬉しかったのだ……。

 彼女たちと会話するためにロボットについて散々勉強したのもいい思い出だ。


「それだけ能力があって、その能力を全部女と交友を結ぶために使っていたのか……」


「何か問題でも?」


 私にとってはとてもとても大切な事だ。

 時間と能力の全てをそこに注いで何一つとして恥じる事はなかった。

 まぁ、何十足も草鞋を履いてるもんだから、1つ1つの習熟度はアレだが……ものによっては重点的に時間を注いだものもあるので十二分に通用するものもある。


「哲学部の活動はどの程度やっていたんだ? 幽霊部員とかじゃあるまいな」


「部室にはほとんど行きませんでしたね。入部してしばらくは顔を出して、積極的に議論をして……それから顔を出さずに、議論したい奴は電話かけてこいと言って電話番号を残す感じでした」


「割と横暴だな……」


「でもけっこーかけてくる人はいましたよ。もともと哲学部なんてマイナーな部に入るやついませんし」


 相手がいないんだからしょうがねぇ、と言わんばかりにたびたびかけてくる相手が居たのだ。

 あと、私は自宅通学で自宅住まいだったのでみんな割と遠慮がなかった。休みの日は押しかけてきて議論大会とかやらかしてたし。

 自宅と言えば、あの学校全寮制になるらしい。時代の流れに逆行してる気がする。そのうち制服に冬季の制服にマントが入るかもしれない。


「まぁ、そういうわけなので、私ほど哲学を語れる男子高校生は滅多にいませんよ」


「じゃ、試しに……人はなぜ孤独を感じるのかについて語ってみろ」


「ふむ、中々面白いテーマですね……今まで考えたことがないので考えつつ言いますよ。そうですね、人は……外部からの刺激によって成り立ち、精神の平衡を保っていることはご存知でしょう。それと同様に、人は自らの心の感覚を共有する人物がいないと、心に対する刺激を失うのです。この場合の精神とはEsであり、心とはIdoです。精神の平衡は無意識のうちに欲する外部刺激によって保たれ、心は意識的に欲する外部刺激によって保たれる。人は他者と感覚を共有できなくとも、Idoを強く刺激する光景を見る事で一時的に孤独を忘れ……」


 その後、人はなぜ孤独を感じるのか? についての持論を語り、夜菜さんがそれについて突っ込んだ質問をし、私がそこから更に持論を展開する。

 そうして私の持論を語り終えると夜菜さんの持論が始まり、私が質問をし……。

 そんな会話をしているとあっという間に時間は過ぎ去っていき、気づいた時にはもう夕方。


「なにかこう……一般的な男子高校生のそれとは全く違う時間の過ごし方をした気がする……」


「それもそうだが、楽しかったからいいじゃないか」


「まー、そーなんですけどねー」


 頭を使ったので頭が茹ってるような気分がする。

 しかし、夜菜さんの持論は凄かったなぁ……夜菜さんの色んな概念への持論を聞きたくなってしまう。

 何万人も自分が居て、なおかつ殆どの概念をほぼ哲学しきっているのだろうという事を考えると、完璧に思える完成度を誇っているのは当然のような気がしないでもないが。


「ついでだ、人はなぜ生き急ぐのか? それを端的に言ってみろ」


 ふむ、これはまた信念や何やらが混じりそうな……。

 人はなぜ生きるのか? ならばまだ語れるが、生き急ぐ、とまでくると信念の方にまで来そうだ。

 これは哲学と言うよりも、信念の領域で語る方が私にはしっくりくる。


「そうですねぇ。私たちは生まれてきたとき、ちっぽけな命だけを手に生まれてくるんですよ。そのなけなしの命を握りしめて、私たちは生きていく。だから、生き急ぐくらいで十分なんですよ」


「ふん……長生きしたいとは思わんのか」


「ただ長生きだけしたってしょうがない。人生は刺激がなくちゃ楽しくない。徒花の命を咲かせて儚く潔く散っていく方が綺麗なんですよ」


 ただ無意味に命にしがみついて何が楽しい?

 自分の思うように、楽しく生きていきたい。それが私の信念。

 だから咲いてすぐ散る、そんな徒花のような人生を送りたいと思うのだ。


「なるほど、お前の信念は分かった。楽しくいきたいという事でいいのだな」


「ええ。楽しけりゃそれでいいです。他の人に楽しさをお分けしてもいいですよ」


「はぴはぴするのか?」


「にゃっほー! アサにゃんだよー! アサナがみんなをはぴはぴ☆にしてあげゆ! 今日も明日もばっちし☆ ヨルちゃんもアサナと一緒にはぴはぴすゆ?」


「……お前頭大丈夫か?」


「あなたが最初にはぴはぴとか言い出したんじゃないですか……」


 ジョークに乗ってあげたのになんでかわいそうな人を見る目で見られなくてはいけないのか。


「なんなら本当にはぴはぴにしてあげましょうか! お前もはぴはぴ人形にしてやる!」


「うるさい黙れ、マンガの実写版映画をノンストップで鑑賞させるぞ」


「残虐プレイやめましょう!」


 何そのよくわかんない残虐罰ゲーム。

 原作を知ってる方が大ダメージを喰らうという恐ろしいゲームだ。


「ま、冗談はさておき。その信念を踏まえた上で、この世界でどういう風に生きて行きたいのかを聞いておこう。やはりあれか、ハーレムか」


「肉体関係無しならそれもいいですけど……」


「ハーレムの意味が崩壊している」


 いやまぁそうなんですけどね。でも昨今のアニメでは肉体関係無しのそう言うのもあるし。


「現実問題として、奥さんが何十人もいても体がもたないんですよね」


「何人、ではなくて何十と言うあたりにお前の欲が透けて見えるな」


「細かいことを気にしないでください。私は見ての通りの貧弱ボーイですからね、学校の体育の授業もしょっちゅう休んでましたよ」


 睡眠不足などその他もろもろの影響もあったのだが、実際に体は貧弱で弱い。

 肉も薄いし、すぐに風邪を引くし。


「たぶん、ハーレムを作っても1週間で腎虚で死にます」


「お前根本的に主人公に向いてないな」


 知ってる。


「ではあれか、ハーレムが無理だとすれば……ドラゴン討伐とかそう言うアレか」


「黒焦げの肉塊になる未来しか見えませんね……と言うか、それはハーレムより困難では?」


 私みたいな貧弱な小僧にドラゴン倒すとかほぼ不可能だろう。

 そのドラゴンが小学生の子供より弱いとかなら不可能ではないかもしれないが。


「お前には夢がないな。男なら世界一強くなりたいとか思わんのか?」


「世界一モテたいとは思いますけどねぇ……」


 私は現実をちゃんと見据えられるので、そんな不可能な事には挑戦しないと決めている。

 それを可能に出来るほどに強い肉体を持っていたら挑戦してもよかったんですけどね。


「私だって1人でドラゴンとか倒して姫様的なアレに惚れられて、許嫁(想像上の生き物)に「きっと帰ってきて……お願い……!」とか言われつつ魔王的なサムシングを倒しに行きたいんですけどね」


「まぁ、お前はそこらの小学生に喧嘩で負けるくらい弱そうだしな」


「たぶん小学6年生相手なら負けますね」


 小賢しい戦い方が出来るので勝てる場合もあるかもしれないが、たぶん負ける。

 まぁ、目突き喉突きなどの急所攻撃をやれば勝てるとは思うが。私は手足が小さいので急所攻撃が実に効くのである。


「まぁ、なんにせよ、今の目的を達しない限りは何にもできませんね。早く村につきませんかねえ……」


「そうだな……」


 とにもかくにもあの子達をどうにかしなければ私たちは何も出来ないのである。

 見捨てればよかったかな、と思わないでもないが、私は宇宙的美少年かつ宇宙的好青年なのだから仕方ない。




 さて、その後も哲学してみたり、夜菜さんのスリーサイズを目測で全力で看破してみたりした。

 上から順に、およそ68~72、46~51、61~65だと看破できたが、これ以上の計測は難しい……。

 その悔しさに歯噛みするうちに日にちは過ぎて、ようやっと村に到着していた。


 さて、連れていた女の子が言うには、馬車にいた4人全員がこの村の人間だという事で……。

 村はずれで眠っていた子も叩き起こして、全員解放して逃げてきた。


「ふぅ……ここまでくればもう大丈夫ですかね」


「ああ、大丈夫だろう」


 逃げてきた理由は単純だ。最初に馬車を操っていた男を消してしまった私たちは、あの男が何らかの組織に属していたら追われる立場になりかねない。

 だから、村人に私たちの顔を知られるのは拙いのである。

 なんで私たちは盗賊みたいにせこせこやらなくちゃいけないんだろう。


「さて、それではなんかもうしょっぱなからぐっだぐだの異世界生活を始めていくとしましょう」


「ああ。さっさと行こう」


 さあ、ぐだぐだの異世界生活、初めて参りますか。

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