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分身の巻物

 馬車が草原をゆく。

 かっぽかっぽと馬が歩く音はしない。地面が草地だからだろう。


「暇だな……」


 退屈そうに夜菜さんがあくびをする。


「私は凄く忙しいですよ」


「なんで忙しいんだ。何もする事が無いのに」


 夜菜さんのスリーサイズを目視だけで測ろうと躍起になってるので凄く忙しいのだ。

 どれだけ考える時間があっても足りない。


「まぁいい。ところで朝菜、お前は料理が出来るか?」


「中学時代、私の通っていた学校にはお料理研究会がありまして、私はそこの副部長でした。和食が一番得意ですけど、それが何か?」


「割となんでもありだなお前……」


「惚れてもいいんですよ?」


「たわけ。料理が出来るのならばまぁいい。この馬車にあるもので食い物は作れるか?」


「どうでしょう? 穀物があるのはわかってますけど。ちょっと調べてみますね」


 夜菜さんにそう声をかけると、私は馬車のアレコレを調べる。

 ちなみに、催眠術で眠らされている子供たちは眠らせたままだ。

 起こして騒がれてもたまらんという事でそうなっている。

 まぁ、体がバキバキになると大変だろうという事で、袋から外に出してはいるが。


「ふむ、結構色々とありますね」


 大麦にトウモロコシ、樽詰めの塩漬け肉、瓶詰のピクルスがたくさん、樽一杯のワイン。袋詰めの岩塩。

 それから馬車を操っていた男のものだろう干し肉と黒パン。あと調理器具一式。


「割といろいろ作れると思いますけど、水が無いですよ」


「向こうに小川がある」


「じゃあ、そこで昼ご飯? にしましょうか」


 時刻が何時か分からないのでたぶん昼ご飯。影の高さからして、たぶん10時くらいだとは思うが。


「そうですねぇ。とりあえず、肉はそのまま焼けばいいですかね。常温だから解凍はいらないですし」


 肉は常温で寝かせてから焼くのが一番おいしく焼ける。

 まぁ、これは脂肪が殆どない赤身肉だから、硬さ云々はあまり変わらないだろうけど。


「麦は水少な目で麦粥にしますか。これ粗挽きですし。ポリッジ嫌いなんですけど、しょうがないですね」


 脱穀してあるものだったら手段はともかく押し麦にして、麦飯として炊くという手があったのだが……。

 そう言えばこの世界に白米はあるのだろうか? 日本人として白米は捨てがたい……。

 まぁ、大麦があれば麦飯は食べられるのでよしとしよう。麦100%の麦飯は体験したことが無いが……。


「……とりあえず一食は何とかなりますけど、ポリッジだけだと飽きますね」


「パンは作れないのか?」


「無発酵パンになりますけど、それでもいいですか? 仮に発酵できても美味しくないですよ、これ大麦ですから」


「なんでだ?」


「色々と知ってて詳しいんじゃないんですか?」


「ダウンロードした知識は味気ないんだ。自分で知識を習得したほうが楽しい。だから一般常識以外はあまりない」


「そんなもんですか……まぁいいですけど。大麦は小麦と違ってグルテンが殆どないので、発酵させても気泡が内部に残らないんですよ。だからふっくらとしたパンにならなくて、硬いパンになります。トルティーヤとかナンみたいな感じですね」


「なるほど」


「それに大麦は色々と利用方法がありますからね。主にポリッジですけど。トウモロコシが利用できればいいんですけど……」


 乾燥トウモロコシだから、焼いて食べたり出来ないし。

 さりとて水で戻して食べても、そもそもおいしい調理方法が無いし……。


「ポップコーンは?」


「ポップコーンは爆裂種のトウモロコシじゃないと作れないんです」


 これが爆裂種かどうかは分からないが、たぶん違うだろう。そもそもそれは食事か?


「うーん……あ、トルティーヤ作りますか? 大麦のパンよりは美味しいですよ」


「よくわからんが作れ」


「問題はトルティーヤには石灰水処理が必須だという事ですね……」


 小麦粉があればそれを混ぜ合わせて作れるのだが、トウモロコシしかないなら石灰水処理が必須だ。

 石灰水処理が出来ないとトルティーヤにはならない。練って団子にでもして食べた方がまだマシだろう。


「まぁ、それは後で考えましょう。後は食器ですね。一つしかないので、ポリッジを食べるにしても食事に時間がかかっちゃいますよ」


 鍋から直接食べるという手もないではないが……。


「なんとかならんのか?」


「木材と鑿があれば造れますよ」


「本当に何でもありだなお前……」


「一応使える器にするだけですからね。素人でもなんとか作れますよ」


 鑿に関しても美術部で扱った事がある程度なのだし。

 それでも器くらいなら造れると思う。鑿の扱いには習熟したし。


「しかし木材か。この辺りにはないぞ」


 確かに草原が広がるばかりではそんなことは出来そうにない。

 馬車に使われてる木材を引っぺがして使うという荒業はやりたくないし。そもそも鑿がない。


「魔法とかでどうにかならないんですか?」


「なる……が、あまりやりたくない。戦闘以外ではあまり魔法を使いたくないんだ」


「それはまた何でです?」


「魔法にばかり頼ると人間がダメになる。魔法を使わないでどうにかなることならば魔法を使わない……そうしたほうが楽しく生きられる」


「なるほど……それは実にいい方針です。しかし、食器が無いのは魔法を使わないとどうにもならない事柄だと思います」


「鍋から直接食うと言うので代用できるのだろう?」


 それ込みか……要は魔法は極力使わないという事なのだな。


「まぁ、しょうがないですね。しかし、魔法にばかり頼ると人間がダメになる……ですか」


 確かに納得できる。魔法でどれだけの事が出来るかわからないが、手を使わずに遠くのものが動かせるというだけで凄く便利そうだ。


「ああ。実際にダメになるんだ。何千何万と生きているとな、自然と魔法に頼る事が増えていくのだが……すると、ベッドから動かないでも生きていけるようになる」


「そ、それは確かにダメ人間になりそうですね……」


 つまりパソコンとインターネット全般みたいなイメージか……。

 パソコンとインターネットが使えれば、お金はべらぼうにかかるがベッドから動かないでも生きていけてしまうし。


「夜菜さんがそう決めたのでしたらしょうがありませんね。食器はあの子に使ってもらうとして、鍋からは私と夜菜さんが……」


「ほら、出来たぞ」


 そういって夜菜さんが金属製の深皿を渡してくる。

 え? 魔法を出来るだけ使わないって方針は?


「お前と同じ鍋から物を食うとなると、お前が何かやらかす気がしてならない」


「失敬ですね……私は食べ物に対しては決してそんなことはしません。それは、食材に対しての侮辱であり、私が身に着けた料理の腕への疑心です」


 こればかりは真剣な想いだ。

 確かに私は不真面目だし、女好きだ。

 自分に対して誇れるものはあまりないし、プライドもさしてない。

 だが、自分の身に着けた技術に対しては誇りとプライドを持っている。

 私の作った料理で喜んでくれた人が居た。それに私が自身の腕を卑下し、汚すような真似をしたとき、それは喜んでくれた人の心をも汚す事に他ならない。

 だから、私はそれを汚すような事は決してしない。


「む……そうか。すまなかった。お前の誇りを傷つけてしまった。礼を失したな。すまない」


「あ、いえ、分かっていただければ……」


 夜菜さんが真剣に謝ってくれた。

 どうやら、夜菜さんにも通じるものがあったのか、本気で悪いことをしてしまったと思ったらしい。


 こうまで真剣に謝ってもらうと、食べ物に対して何もするつもりはなかったが、間接キスを期待していた事がとても心苦しく感じる。


「しかし、食糧問題は切実ですねぇ……この世界に米ってあるんでしょうか?」


「……確かに重要だな。私は米が食べたいぞ」


「仮にあったとしても、私の知ってるそれと同じかどうかという問題が……」


 単に米と言っても種の時点で、ジャポニカ、インディカ、ジャバニカと三種類もある。

 基本的に日本人はジャポニカ米以外は食べ慣れていないし、ジャポニカ米にしても現代のそれと違うものは不味くて食えたものじゃないのが多い。

 古代から栽培されていたもので有名なのが赤米や黒米などだが、赤米などはとても食えたものじゃないと評されるほどに不味いらしい。


「……最悪、申請して美味い米を送ってもらうか?」


「至れり尽くせりですね……何があるんですか? 私、ササニシキが一番好きなんですけど」


 粘りが強いと比例して熱が舌に伝わりやすい。おかゆが凄まじく熱く感じるのと一緒だ。

 基本的に私は猫舌なので、粘り気の少ないササニシキが好みなのである。


「ササニシキも探せばあるだろう。色々な研究をしているから美味な米も作っているはずだ」


「へぇー、野菜とかも研究してるんですか?」


「ああ、してるぞ」


「農協?」


「……そう言う部門もあるかもしれん」


 あるんだ、部門が。


「説明していなかったと思うから説明するが、私の本体は朝菜だ。とある並行世界、それも相当な大昔に生まれた朝菜だ。その朝菜は神とも言える存在となり、暗黒の叡智と称されるようになった」


 いきなりなんだ?

 しかし、暗黒の叡智……。


「右腕がうずきそうな名前ですね」


「いいから黙って聞け。成長し切った朝菜は巨大な情報概念体だ。巨大にして強大すぎる存在であるが故に、うかつに世界に干渉するとその世界が滅ぶ。だからこそ、世界に影響がない形で干渉しなくてはならない」


「なんとなくわかりました。その干渉するための存在が夜菜さんであり、同様に私のような姿をした朝菜なのですね?」


「そうだ。はじまりの夜菜は雑用その他をやらせるゴーレムの発展形として朝菜が自身の肉体から生み出した人造人間だった。それは全く別の意志を持ちながら、様々な点で基礎を同じくする限りなく同一人物に近しい別人だった」


「ふむ、今は違うんですか?」


「今はな。やがて暗黒の叡智に至った朝菜は自らの顕現を無数に構成した。その顕現の一つにアサナが存在する。人間であれ、と願われる顕現はどこまで行っても人間だ。であるがゆえに世界に干渉しやすい」


「なるほど。そのアサナという顕現の亜種のようなものが夜菜さんなんですね?」


「うむ、理解の早い奴には説明してて楽だな。勉強を教える時にはそういう奴ほどつまらんことはないが」


 そんなことを言われても困るのだが……。


「さて、そのアサナという顕現は暗黒の叡智そのものであり、触角とも言える存在だ。無制限に数を増やす事が出来るというのは、手足や眼を無制限に増やせるに等しい。そう言った無制限の人海戦術で暗黒の叡智は様々な事を研究している」


「私がここにいるのもその一環ですね」


「まあな。ただ、アサナという顕現は統一された意志……即ち暗黒の叡智の意志によって全てが動いている。だが、同時に一人一人が全く独立した人格を持っている」


「ん? んん? 全員同じ意志があるのに、人格は別……なんですか?」


「ああ。多重人格に例えると分かりやすいな。多重人格の人間は人格ごとに別の意志を持ってるだろ? 私たちの場合、一つの意志しか持たない多重人格の人間なんだ」


「……なんとなくわかったような」


「分かりにくいならこういういい方も出来る。私たちはある目的を有するチームに所属する研究員なんだよ。目的を達成しようとする意志は共通しているからな」


 なるほど、それなら分かりやすいかもしれない。

 つまり暗黒の叡智の持つ意志が研究チームの目的であり、彼らは研究チームに属する研究者なのだ。

 研究者も人間であるからして、個々に趣味嗜好を持っているように。


「つまり、あなたたちはまったく同じ目的意識を有する普通の人間たちなんですね」


「普通かどうかはさておき、そう言う感じだな。まぁ、人格が絶無の朝菜や夜菜も居る事は居るがな。そう言うのは大抵捨て駒に使われる。危険な毒物がばら撒かれてるところの調査員とか」


 非道だけど自分だからいいんだろうか、それは。


「そういうわけだから、生み出された目的を達した者は自由となる。だから死なない限り好き勝手にやりたい研究に従事する」


「……ああ、だから野菜の品種改良なんか研究してる奴が居るんですね」


 いきなり何を話し始めてるんだろうと思ったが、そこに繋がるのか……。

 あ、分かった。この人説明好きなんだ……。


「そういう事だな。ちなみに私は生み出された目的を達した後は、並行世界を渡ってグルメツアーをする事にしている」


 楽しみそうな顔で笑う夜菜さん。グルメツアーか……ちょっとうらやましい……。


「しかし、その意志って何ですか?」


「うん? ああ、とある存在を生み出す事だよ。もともと、夜菜という存在もその目的の過程で生まれた実験結果の一つだ」


「なんかとんでもない目的っぽいですけど」


 夜菜さんという人間が目的の過程で生まれた結果の一つ。生命、延いては人間の創造など、神の領域に手をかける行いだ。

 それが過程の一つに過ぎない目的とは、一体どんな大それた目的なのやら。


「とある存在ってなんなんですか?」


「神だよ。お前も知っているはずだ。究極の存在と言えるそれ」


 ……あれか。あの、何なのかすらもよくわからない存在。

 ただ、とかくにして究極にして至高であるという事が分かる、そんな存在。

 あんなものを創り出そうとするなんて、正気か?


「正気じゃない、と思っているだろう。まぁその通りだ。正気じゃない」


「……それでもやるんですね」


「そうだ。お前は私たちからしてみればスピンアウトした朝菜だ。お前はミス・ハシドイに出会わなかった。そこから分岐して、お前はアレを目指さない朝菜になった」


「アレを目指す朝菜は多いんですか?」


「アレを覚えてる朝菜のうち、実現の可能性を勘違いと言えども見いだせた者は大半がそうなる。お前は実現の可能性を見いだせなかった……違うか?」


「違いません」


 確かに、私はアレを目指していない。ただできる事なら、もう一度見てみたい……そう思うだけだ。

 きっと彼らは、そのもう一度見てみたいという想いが高じて、自ら作り出そうという考えに至ったのだろう。

 そう考えれば、私と彼らの違いなんてほんの些細なものなのだ。


「しかし、あなたたちの意志はその神とやらを創り出す事にあるのでしょう? それなのに好き勝手に研究をしたり、グルメツアーをするんですか?」


「愉しみは必要だろう? 目的を達した後、自らの意志で神を創り出すための研究に従事し続ける者も居る」


「意志は統一されているのでは?」


「統一されているが、暗黒の叡智だとて元は人間だぞ。人間は表面的な意思以外にも深層的な部分で意志を持つ。言ってみれば無意識というような部分だ」


「無数の体と無数の人格は多面的に意志が発露する土壌があるに過ぎない、って事ですか」


「ああ。無数に存在する朝菜と夜菜は途方もなく似通っているが、それぞれに個性が存在する。お前のように女好きも居れば、探求心が旺盛な奴、人形作りが好きな奴と多彩だ」


 うーむ……なんだか複雑なように見えるが、それはむしろ単純なのかもしれない。


「……あ、そうだ。最初に生み出された夜菜さんが、意志を別にする限りなく同一人物に近い別人だった、というように……今のあなたたちは同一の意志を持った限りなく同一人物に近い別人たちなんですか?」


「ああ、そうだな。意志と一口に言っても無数のそれがあるのだから。記憶が共有できる事や、他の顕現の権能を使う事などを除けば普通の人間とさして変わらんさ」


「なるほどー……」


 ようやく納得がいった。

 要するにクローン人間だ。たとえクローンでも生まれた後の経験で様々な人格を持つだろう。

 行動基準が限りなく似通っているのが意志だというのであれば、そういう形になるのだろう。

 統一された意志を持っていると言っても、その意志の発露の仕方はさまざま。実質的に、至上目的が同一なだけで他は全然違うのかもしれない。

 最初に夜菜さんがクローン人間のようなものと言っていたから、それはまるっきり当たっていたんだ……。


「……しかしまぁ、なんか私たち会話するとたびたびやたらと長い解説話になりますよね」


 主に解説されてるのは私なのだが。


「しょうがあるまい。暗黒の叡智という存在、延いては私という存在。それは人間には理解しがたいような存在なのだからな」


 まぁ確かにそれもその通りではあるのだが……。

 しかし、その解説が終わったという事は今後はこういう事が無いという事だ。

 つまり、真面目じゃないのでセクハラをしても許される!


「……何か今不埒な感情を感じた気がする」


「気のせいじゃないですかね?」


 なんて勘の鋭い人なんだ……。


「まぁいい。……そう言えば、何の話をしていたんだっけ?」


「えーと……あ、そうそう、お米の話です」


「ああ、そうだったな。どうする?」


「どうするもこうするも、今は調理器具が無いですよ。鍋で炊くにも、他の調理に使いますし……」


「どうにかならんのか?」


「幾ら私が宇宙的美少年でも不可能がありますよ」


「すまん、宇宙……なんだって?」


「なんでもないです。設備があれば飯盒を作るくらいは簡単ですけど……」


「その設備とやらは?」


「最低1.2ギガパスカルの圧力を生み出せるハンマーですね」


「確か鉄材のユゴニオ弾性限界が1.2ギガパスカルだと思ったが」


「コールドハンマー加工をやります。本音を言えばアルミですけど、アルミがこの世界で手に入るかどうか……」


 アルミニウムはボーキサイトからアルミナを取り出して、アルミナを氷晶石と共に溶解して電気分解をする必要がある。

 そんな難易度の高い加工がこの世界で出来るとは思えない。


「そんな贅沢な設備があったらお前に頼らんでも作れるわ……」


 それもそうだ。


「ちっ、仕方あるまい。米は大事だからな。魔法で作ろう」


「ぽんぽん使われますね、魔法……」


「米は大事だからな」


 どれだけ米が大好きなんだこの人は。

 そんなことを考えてるうちに夜菜さんがちゃっちゃか飯盒を3つ創り出した。

 空中から突然現れるように見えるけど、一体どうやってるんだろう……。


「これだけあれば足りるか?」


「夜菜さんってご飯どれくらい食べます?」


「どれくらいと言われても困るが……まぁ、日に1合くらいは食べるな」


 1合が150グラム程度で、炊くと大体300グラムと言ったところ。

 日に1合という事は、1食で100グラム。かなり小さいお茶碗に1杯か。見た目通り小食だ。


「私も日に1合で足りますし、お腹が空いてても2人で3合食べるかどうかというくらいですかね。あの子を合わせても日に4合で足りるでしょう」


「まぁそうだろうな」


「そして飯盒は1つで4合は炊けるようになってます」


「では予備としても2つで十分か」


「鍋としても使えますから1個は鍋ですね」


「うむ、それでよかろう」


 飯盒を受け取って中を見ておく。内部に線も刻印されてるし、ちゃんと使えるだろう。

 素材もアルミニウムのようだ。軽くていい。

 形状はキドニー型、あるいはソラマメ型だ。


「で、米は?」


「荷台の中に出しておいた」


 後ろを振り向くと確かにいつの間にか新しい布袋が増えている。

 近寄って開けてみると、精米済みの白米が入っていた。


「これだけあればしばらくもちますね」


 目算だが20キロくらいあるだろう。

 日に4合消費するとした場合、4合はおよそ600グラムなので33日保つ計算になる。


「しかし、米だけだといかにも淋しい……」


 やはり味噌汁が欲しい……でも味噌があるのだろうか?

 無ければ自分で味噌を作るべきなのだろうか。どうやって?

 味噌が米麹を使って作るものなのは知っているが、米麹をどうやって作るのか知らない。

 麹が黴なのは知っているが、米をただ放置して黴させればいいのか?


「…………まぁ、あとで考えますか」


 食生活は前途多難だ。

 ……しかし、この苦労って夜菜さんのせいだよな。

 私は米食にさほどこだわりはない。無ければラーメンだけで1か月生きる自信がある。この世界ならパン食になるだろうが。

 しかし、米があるとなると味噌汁が飲みたくなってしまうのは日本人のサガであろう。

 まぁ、夜菜さんが米を食べたいというのならば応えるのが男の甲斐性かな。

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