05. 付き合ったら
ステップ5。
お付き合いした場合のメリットを語り、素敵なセールストークをしましょう。
【1】
「どうして夏川くんは女の子と付き会えるチャンスをふいにするの」
「適当に彼女をつくる気はないんだ」
「人が何故、男と女に分かれたか。それは互いに足りないところを補うため。だからこそ男女はくっついていなければならないのに、夏川くんはその機会を無視して一人のまま」
「仕方ないよ」
「仕方なくなんかない。これじゃあ性別なんかある必要はないじゃない。ということは夏川くんは雌雄同体も同然。つまり」
「つまり?」
「夏川くんはミミズと同じ……夏川くんはミミズだよ!!」
「俺はカタツムリ派だ……!」
【2】
「彼女をつくらないということは、彼女を紹介する機会もつくれないということだよ。夏川くん」
「別に今はいいよ」
「だめ。今のうちだけだよ。これが俺のガールフレンド(仮)です、って言えるのは」
「(仮)って何……」
検索してみよう。
【3】
「私と付き合ったら、夏川くんにもメリットがあるの」
「例えば?」
「掃除、料理、洗濯、戸締まり、更にはネクタイまで結んであげる」
「結婚する気?」
【4】
「夏川くん、私と付き合ったら……」
「付き合ったら?」
「世界の全てを 貴様にやろう」
「魔王……!?」
【5】
「夏川くんは時間を大切にする人だから、私はきちんとそれを優先しようと思うの」
「ほんと?」
「例えばデートも時短でサクサク進める。近場のデートスポットにまっすぐ行って、素早く目的を遂行し、帰宅。午前中に帰れるように心がけるよ!」
「そのデート、楽しくなさそう……」
「それは否定できない」
【6】
「夏川くんが肩を外したとき、他の女の子なら一緒に病院に行くだろうけど、私は行かない」
「冷たいなあ」
「私といたら病院になんて行かなくてもいいの。だって私は、関節の取り外しも行える女」
「それはすごいかも」
「どう? 私と付き合ったら、いつでも関節が外せるの。外し放題だよ」
「そんな特殊な状況に自ら陥る気はないから」
【7】
「お喋りしたいときには話しかければいいだけ! 楽しい会話ができます!」
「更に、偉人の名言吹き替え機能までついています! 落ち込んだとき、悩んだときに是非お使い下さい! 他にはアラーム、朗読、道案内など、便利な機能が盛り沢山!」
「でも、お高いんでしょう?」
「いえいえ、それが何とっ、無料なんです!」
「しかも今なら、特典として可愛い弟が!」
「どうぞこの沢井をお求め下さい!!」
「……売り込み方、間違ってると思う。沢井さん」
【8】
動物好きな彼のために、ちょっと鳥を獲ってきた。
「私達が付き合えたら、記念として夏川くんにはこれをあげようと思うの」
可愛い鳥を見た夏川くんは、ぽかんと口を開けた。そんなに驚かなくてもいいのに。
「沢井さん、これは……?」
「四神の一つ、朱雀。……考えておいてね、夏川くん。それじゃ」
「待って……! それどうやって手に入れたの……!?」
【9】
あるところに身寄りのない兄弟がいたの。
兄は真面目なしっかり者、弟は病弱な子だった。
慎ましい生活を送っていたけど、ある日弟の体調が悪化して寝込んでしまった。日に日に具合が悪くなっていく弟を見て、彼の死を予感した兄は、なけなしのお金で医者に相談したけど、とても足りなかった。
そうしたら医者は、兄の綺麗な目を見て、こう言ったの。あんたの目玉をくれたらただで弟を治してやると。
実はその医者、腕はいいものの、人の身体を実験に使ったり、死体を弄くることから、気味が悪い医者として有名だった。
兄は悩んだ末、それに承諾した。
その日から、兄は光を失った。
だけど弟が元気になってくれるならよかった。唯一の家族が、彼にとって何より大事だったから。
……治療を終えた弟に、兄はこう言った。
ああよかった、お前が元気になってくれて、私は嬉しいよ。
包帯を巻いた兄の顔を見ると、弟はひどく驚いた。
兄は、弟が気に病んでしまってはいけないと思い、本当の事情を隠した。
兄さん、目が見えなくなってしまったんだね、と寂しそうに呟く弟。
兄は、気にしないでおくれ、それにお前が長生きしてくれさえすればこんなこと苦でもないさ、と優しい言葉をかけた。
そんな彼に、弟は言った。
──目が見えないからそんなことが言えるのさ。だって僕の体は、あの狂った医者のせいで、もうこんなに……。
「…………」
「続きは、夏川くんが私の彼氏になった後にね」
「……気になるから今話して!」