表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

02. 好きなところ

ステップ2。

彼の好きなところを、ふわふわとした感じで具体的に挙げましょう。



【1】


「夏川くん、好き。夏川くんの全部が好き」

「そう言ってくれる人はたくさんいたけど、みんな俺の顔しか見てなかったよ」

「私は顔だけじゃなくて、他のとこも見てる」

「他のとこって?」

「全身……全身の、肌」

「えっ」

「あなたのお肌が好き」

「俺って美肌だったんだ!」


 夏川くんが自信をつけたみたい。





【2】


「夏川くんの健康的に焼けた肌が好き」

「はは」

「しみも毛穴もない、キメ細やかな、すべすべの肌が好き」

「……うん」

「このパウダーファンデを塗って、ハイライトで小顔効果を付け加えたら、もっと好き……!」

「化粧品売り場のカウンターみたいになってるよ、沢井さん!」





【3】


「夏川くんの髪さらさらでいいなあ。私、夏川くんの髪も好き」

「ありがとう」

「……筆にしたらどうなるかな」

「そこは動物の毛を使おうよ……!」





【4】


「私、夏川くんの目が好き。生き生きとしてて」

「でも俺、疲れてるときとか死んだ魚みたいな目をしてるって言われるよ」

「えー、ひどーい。それは失礼だよ」

「やっぱりそう思う?」

「うん。魚も種類がいっぱいあるんだから、ちゃんと具体的に言わないと」

「えっ」

「そうだなあ。夏川くんの場合は……金目鯛」

「鯛」

「金目鯛の煮付けみたいな目をしてるね」

「…………」

「金目鯛の煮付けみたいな目」

「……やめて! 金目鯛の煮付け食べたくなってきたからやめて……!」


 その日の夕食のおかずは鮭でした。





【5】


「夏川くんの耳、魅力的だね」

「そうかな」

「うん。色々なものが聞こえそう」

「いや普通だよ?」

「またまたご謙遜を。本当は聞き取れるんでしょ、超音波」

「あははっ、そんなわけないじゃん」

「本当は聞き取れるんでしょ。宇宙人の交信や、死者の囁き、人間の醜い本音、環境破壊に苦しむ生物の呻き声なんかが……」

「そんな耳じゃノイローゼになるよ………!」





【6】


「私、夏川くんの唇が好き」

「何かちょっとエロいよそれ」

「だって夏川くんの唇って……薄いのに下唇はちょっとふっくらしてて……」

「…………」

「…………」

「……唇といえば、石原さとみの唇って、どうしてあんなにぷるんぷるんなのかな」

「俺の唇と石原さとみの唇、どっちが大事なの?」


 石原。





【7】


「夏川くんの背中って、いいよね」

「背中? 俺の背中って、そんなに広くないし、いい要素があるようには思えないけど」

「そんなことないよー。吸い込まれるように見ちゃうもん」

「そう?」

「見ていると、なんか……綿矢りさと芥川賞を思い出すんだ」

「俺の背中蹴りたいの?」





【8】


「夏川くんの足が好き」

「そんなこと初めて言われた」

「だって夏川くんって足が速いでしょ」

「そこが好きなの?」

「うん。夏川くんの足を見ていると、何だか……五輪、五輪を思い浮かべちゃうの」

「俺の足にそんな大きな夢を託さないで……!」


 2020年は東京オリンピック開催です。






【9】


「夏川くんの足が好きって、前に言ったけど、もう一つ理由があるんだ」

「もう一つ?」

「うん。夏川くんの足は、二本あるでしょ。そこも大事なの」

「何それ。それはみんな同じじゃん」

「過去に私が好きになった男の子は、一本しかなかったから……」

「え……そうなの……?」


 夏川くんの気遣うような表情に気付いて、慌てて謝った。

 湿っぽくなっちゃう。



「いきなりごめんね、こんな話」

「いや、構わないけど……そっか。事故か何か?」

「多分、生まれつき」

「本人から聞いてないの?」

「話したことがなかったから」

「片思い?」

「かな……甘酸っぱい恋だったな」

 あのときの自分を思い出すと、自然と笑みがこぼれる。

 ふふ、子供だったなあ、あのときは。



「沢井さんが好きになる人って気になるな。どんな人?」

「傘を……」

 いつも見ていた赤い傘を頭に浮かべる。


「傘? 日傘を差してたの?」

「ううん。本体が傘」

「え?」

「からかさ小僧だったから」

「からかさ」

「私が好きになったのは、からかさ小僧……」

「……俺は人間! 俺は人間!」


 夏川くんの顔色が若干悪い。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ