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01. 幸せにする

ステップ1。

彼を一生幸せにしてあげるくらいの覚悟で臨みましょう。


【1】


「私なら夏川くんを幸せにできる」

 私にはその自信があった。

 でも彼は、胡散臭いと言わんばかりの表情で聞き返す。


「幸せ……? じゃあ、どのくらい幸せにしてくれるんだ?」

「ひたすらほっぺたに猫の肉球がぷにぷに当たり続けるくらいの幸せ」

「……おおっ!?」

 夏川くんは三十分悩み続けた末に、私を振った。






【2】


「私なら夏川くんを幸せにできる」

「どうやって?」

「夏川くんが認めるまで、あなたは幸せなんだと囁き続ける」

「洗脳による幸せなんてごめんだ……!」


 努力なしの幸せなんてないんだよ。






【3】


「私なら夏川くんを幸せにできる」

「幸せ……? じゃあ幸せって一体何なんだ?」

「そうだね。それは人間にとって、いわば究極な課題とも言えるよね。これの答えが見つかれば私たちも幸せになれるかも。一般的に幸せとは満ち足りることを意味する言葉だけど、何によって人が満たされるのか明確な定義はされていないが故よく挙げられるのはカネになる。だけれどもそれすら必ずしも幸福に繋がるとは限らない。というのも、国民総幸福量の高さ順に国を並べると、GDPの高い国が上位にあるというわけではないから。更にうつ病患者は先進国に多い傾向があるというデータもある。つまり、高度な社会はまた別の負の感情、ひいては不幸の源になるものが生まれて、幸せから遠ざかることになるというのこと。重要なのは安心感と充足感、GDPの高さでは計れない心理的な幸福が──」

「もうやめて! 幸せの在り処がわかる前に頭がおかしくなるよ!!」


 夏川くんはその日一日、元気がなかった。不思議な人だ。








【4】


「私なら夏川くんを幸せにできる」

「幸せ……? じゃあ辛いことがない人生にしてくれるの?」

「辛いことがあったとき、笑顔にしてあげる」

「沢井さんが……?」

「ううん。お笑いライブのブルーレイディスク」

「そんな投げやりな笑わせ方は嫌だよ……!」


 夏川くんは逃げた。

 臆病者め。






【5】


「私なら夏川くんを幸せにできる」

「幸せ……? 前回、放置プレイな笑わせ方を提示しておいて何を今更」

「あのときはごめんなさい。でも今なら言える。私自身で夏川くんを笑わせてみせるよ」

「沢井さん」

「そう。どんな手を使っても……何を犠牲にしても、確実に笑わせてみせる……くくく……」

「なんか非合法的な手段を使いそうだから嫌だよ……!」


 夏川くんは脱兎と化した。






【6】


「私なら夏川くんを幸せにできる。この壷で幸せにしてみせる!」

「騙されてるよ沢井さん!」

 クーリングオフがきいてよかった。






【7】


「私なら夏川くんを幸せにできる」

「…………。幸せなら手を叩こ」

「…………」

「……手を叩こうよ沢井さん!」


 遠慮しておく。






【8】


「私なら夏川くんを幸せにできる」

「……お手手のしわとしわを合わせて、」

「馬鹿!」

「え……っ!?」

「そんなことで人間が幸せになれると思ったら大間違い! 幸せを甘く見ないでくれる!?」

「ご、ごめん……」






【9】


「私なら以下略」

「以下略って言っている時点で、幸せにしてもらえそうにはないよ……」

 それもそうかもしれないね。



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