最終話 お別れ
私は、元小説家でもあり、古銭に詳しい叔父さんの所へ相談をしに行った。
「これは珍しい硬貨だな」
叔父さんはしばらく、その百円玉を眺めていた。
あの……、信じられないかも知れませんがその百円玉が話し掛けてきました」
私がそう切実に言うと、叔父さんは暫く考えてこう言った。
「お前は運がいいぞ! 俺に出会えた事が! とか言われただろ?」
「そうなんです。意味がわからなくて……。でも、なぜそれを?」
叔父さんは笑みを浮かべながら話し始めた。
「おじさんも昔、同じような事があったよ。おじさんの時は切手の絵柄が話し掛けてきたな」
「切手ですか……」
「一週間以内に良い事に使えよと言われたよ」
私と同じだ……。
「当時は色々な事がありすぎて、ただ疲れているだけだと思っていたし、ぐっすり眠れば大丈夫と思っていたが……」
「それで、どうなったのですか?」
私は少し緊張した。
「良い事に使ったよ」
叔父さんはそう言って百円玉を返した。
「良い事って何ですか?」
私がそう聞いても叔父さんは黙ったままだった。家に帰り、机の上に百円玉を置き、執筆の続きをした。駄目だ。何も思い浮かばない。
このままでは締め切りに間に合わない。連載小説の仕事が終わってしまう。左手で頭皮を数回すばやくかき、悩み苦しんでいると、あの偉そうな声が聞こえてきた。
「何もそんなに思い詰めなくてもいいと思うぜ。たまには気楽に終わってもいいと思うけどな……」
恵比寿顔の絵柄は満面の笑顔だった。私はそう言われて、何かが吹っ切れた感じがした。
止まっていた手が嘘の様に動いていく。最後のオチを書き上げる前に、私は百円玉にお礼を言おうとしたが恵比寿顔の絵柄はなく、普通の百円玉になっていた。
私はなぜか幸せな気持ちになり、春のあの高揚感を少し感じつつ、煙草に火を付け〝最後のオチ〟を書き上げた。
完
使い方にも色々とありますね。