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2 先輩と私

 「なーるちゃんっ」

 「うわぁぁぁああああ」


 乙女らしからぬ悲鳴をあげ、私は持っていた弁当を投げ出しそうになった。ただ、変わったのはいつもより目を見開いたで、傍からみたら完全な仏頂面のままで。


 「ちぇっ、これでもダメかー」


 侵入者はひょいと窓枠を乗り越え、そのまま私のいる生徒会室に乗り込んだ。その拍子に、ふんわりしたブラウンの髪が目に広がる。…あぁ、いつ見ても可愛い。

 少しトリップしそうになり、慌てて頭から雑念を取り除いてその侵入者を睨みつけた。


 「…灯磨先輩。いつも言っていますが、窓は先輩の出入り口じゃありません」

 「ちちっ、その言い方には語弊があるよっ!使うのは入り口として、だけだからねー」


 人差し指をたて、にぱにぱと笑いながらこちらへ近づく先輩に、私は密かに臨戦態勢をとった。

 その様子に気づいたのか、先輩は可愛らしく小首を傾げた。

 その仕草は誰から見ても可愛らしい小動物そのもの。可愛いもの大好き連盟会長を自称する私も、それをみて恍惚としそうになるが、表面だけに惑わされてはいけない。

 ふわふわとした雰囲気をまとわせながら、先輩は口を開いた。


 「僕に反抗するだなんて…いい度胸してるね」



 ひぃぃぃいいいいブラック降臨されましたぁぁぁぁあああ


 先ほどまでの愛らしさが消え、同時に浮かべられた笑みは、黒々としていて、効果音をつけるならばニヤリって感じ。獲物見つけたぜっ覚悟しやがれふはははって言ってそうな。

 舌舐めずりする獰猛な肉食動物の姿を思い浮かべぶるりと震えると、またもやそれを目ざとく見つけた先輩はぐいっと私の顎を持ち上げた。


 「何を思ってるのかなー?失礼なことを考える脳みそはこれかなー?」

 「いいいい痛いです先輩ぃぃいい」


 片方の手は顎を押さえたまま、もう片方の手でぐいぐいと頭を押し付けられ、そのままハンバーガーのよろしく上と下からプレスされる。目が瞑れる、今横にめっちゃ広がってる、ついでに口は裂けそうです。


 「く、口裂け女になっちゃいますぅぅう」

 「いいじゃん。似合うと思うよ」


 似合うものかっ!

 そう叫びたくとも、むぐむぐと口がわずかに動くだけで、さらに押さえつけられた頭は動きそうになかった。

 少ししてやっと解放され、ぷはぁと息をつくと、目を細めて先輩はこちらを見つめた。


 「何がダメなのかなー…やっぱり愛情がまだ足りないとか?」

 「愛情の問題じゃないですよきっと…ていうかこれ愛情じゃないですよね?確実にいじめっ子要素満載ですよね?」

 「いじめっ子は実はいじめられっ子を愛しているという法則を、君は知らないのか?」


 そんな法則、聞いたことないですけど…


 まだ痛む頭を両手で押さえ、わずかに涙を浮かべた目で私の頭に乗っかったままの先輩を上目に睨む。すると、それを見てはぁ、とため息をつかれた。


 「何で、


 ―――君の仏頂面は治らないのかなぁ…」


 ため息をつきたいのはこっちです先輩。

 でもため息をつく仕草も可愛いです先輩。



 

 女装喫茶に引きずりこまれた後。私はこの可愛い灯磨先輩にいろいろな方法でもてなされた。可愛らしく小首をかしげるとか、にぱにぱと笑顔全開で話しかけられたりとか。

 しかし、それに反応する私の顔がずっと愛想のない仏頂面だったのが気に食わなかったらしい。後で聞くと、「僕の笑顔で落とせなかった奴は君が初めてだ」と不機嫌そうに言われた。私から言わせれば知らんがなーの一言なのだが、何が先輩に火をつけたのか、二年に進級した今でも、先輩からの襲撃を毎日受け続けている。

 可愛いモノ好きの弱みというか、後で腹真っ黒な本性を知っても、唯一の休息の時間のお弁当タイムを邪魔されても、邪険に追い払えないでいるのだ。



 「しょうがないですよ。これ、親でも直せなかった代物ですから」

 「ううううなんかこう、喉になんか詰まったような違和感があるぅぅぅう」


 先輩はうわぁぁと喉をかきむしり、そのまま私を睨みつける。


 「笑えとは言わない、君にはハードルが高すぎるだろうから。だけどせめて驚くときぐらい表情を変えてくれたっていいじゃないか!」

 「…変えたじゃないですか」

 「目をいつもより開けたのが変化というのか君は。全く、生徒会副会長だというのにその脳みそは綿でも詰まってんのか?あぁ?」


 「灯磨、それくらいにしておいてやれよ」


 ふいに現れた声に、私と先輩はそちらを振り向いた。

 苦笑した顔で、新参者は後ろ手で入り口を閉め、手にもっていた鍵をくるりと回した。


 「いつもいつも、お前は芦沢を追っかけまわして。せめてドアから入れドアから。窓は風の入り口であって、人がそこから出入りするものじゃないんだぞ」

 「うっさい馬鹿、脳筋族、死ね、阿保、」

 「…十年来の親友に、その言い草はないだろう」

 「かいちょぉぉおお良い所に!」


 へるぷみー!と両手を差し出すと、押しつぶされそうになった私はやっと救出され、解放感に包まれた。

 しかし眉をひそめたままの灯磨先輩に腰を後ろから抱かれ、ぐいっと会長から離される。


 「何でこんな可愛い僕より、お前みたいなバ会長になつくのか、全く分からないね」

 「そりゃぁ、灯磨先輩はお腹の中が真っ黒だから、」

 「………」


 無言でお腹に回された手に力を入れられる。このままだったら私、ウエストすごいことになるんじゃないのか。



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