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1 プロローグ

 fall in love ―フォーリンラブ―


 読んで字のごとく、私はある日突然、恋をした。



   X X X




 始めて彼を見たのは高校1年の文化祭だった。

 中学でイベントが少なかったため、初めての文化祭はとても楽しみにしていたのに幸か不幸か、生徒会役員の私は見回りという肩書付きで校内を回る羽目になっていた。

 生徒会役員と太文字で強調された腕章を填めていると、当然買い食いなどできない。いろいろ見て回れるのは役得なのだが、和気あいあいとおしゃべりするのも憚られ、この日は見回りに徹していた。


 そして、ゆっくりとした足取りで2階に向かったとき、一際目立つ外装と、教室の外にまで溢れ出た列に目を見張った。驚くのはその列の長さ、さらに並んでいる客がすべて女子、という異様な光景だった。


 「…2-C?喫茶店だっけ、やってるの」


 普通の喫茶店とはちょっと違った珍しい内容だとかで、文化祭が始まる前から生徒達に注目を受けていると評判のクラスだった。といっても出し物の申請の受理を担当したのは自分ではないため、人づてに聞いてぼんやり相槌を打っただけである。


 すると列の間から見知った顔を受付に見つけ、これ幸いと周りを見渡しながら話しかけた。


 「―――随分と盛況なんですね」

 「おぉ、芦沢。見回りか?今日も目つき悪いなー」

 「…一言余計です。何の店なんですか?並んでるの女子ばっかですけど…」


 人懐こい笑顔で、一つ上のトオル先輩はでかでかと煌びやかな文字の看板を指し示した。


 「女装喫茶!メイドか、眼鏡か、はたまた執事かでちょっとした論争が起きたんだけど、結局女装に落ち着いたんだ~」


 どうやったらそのゴールに辿り着くのか、訳が分からない。


 ニヘラ、と笑う先輩は、その間にも続々と店内へ押し寄せる客の相手をしながら、くいっと親指を入り口に向けた。


 「どう、お前も入ってく?その仏頂面も解消されるかもよ~?」

 「いえ、見回りがありますので、」


 遠慮しときます、と続く言葉は、女の子の甲高い黄色い声に遮られた。

 すると先輩はここぞとばかりに私の腕を引っ張って店の入り口へ導いた。


 「ほらぁ、こういうときに権限をフルに活用しなきゃ~


 ――1名様入りまぁーす!」


 「え、ちょ、先輩!?」


 あれよあれよという内に、いつの間にやら店の中。呆然と立ち尽くす目の前で、可愛らしい装いをした男の(オトコノコ)たちが出迎えてくれる。


 「「「いらっしゃいませ、お嬢様」」」

 「い、いらっしゃいました…?」


 顔の筋肉をフル活動させるが、結局は口の端がひくつく程度の苦笑いになってしまう。第一、声が野太い。様々なコスプレはすべて可愛いが、所詮それは女の子が着たときの場合である。がっしりした肩は部活で鍛えに鍛えたのだろうと思われる奴もいる。はっきりいって、苦手だった。

 

 …はやく帰りたい。コーヒーか何か、軽いものをパッと頼んでパッと飲んでさっさと帰ろう。


 早々に見切りをつけた私は、目の前にちんまりと現れたメイドさんに気づくのが遅れた。


 「――いらっしゃいませ。どのウェイターを御指名ですか?」

 「え、指名するんですか!?…もう誰でもいいです。とりあえず座って、コーヒー飲んだら帰るつもりなんで」


 我ながら失礼なことを言ってるな、と頭の隅で思ったが、そこは目をつぶってほしい。

 

そう言って、沈んだ顔をよろよろとあげ、そして、目を見張った。


 「それでは、僕を指名してください。生徒会のお仕事、とても大変そうなので、とっておきのコーヒーを淹れてあげますよ」


 にぱっと華のような笑顔に、私は茫然と目を見開いた。


 ふんわりとしたブラウンの髪がおそろいの目の色によく映えていて、そのぱっちりした瞳は全世界の人々を魅了するためにあるかのよう。口元に浮かんだ笑みが、一層その魅力を掻き立てている。そして完全に女子用に設えられたヒラヒラしたメイド服は、性別を感じさせないくらいよく似合っていた。その男の子は、それくらい可愛かった。


 ふぉーりんらぶ。

 目つきが悪く、万年仏頂面と歌われた私は、実は無類のかわいいもの好きで、そしてその先輩は、


 私の好みにドンピシャの可愛さだったのだ。




 


ちょこちょこ更新していきます。本命は「H O P E」です。浮気じゃないよちょっとした寄り道だよ!

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