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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
六章:

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93/127

頁:60 その【啓示】は神のものではなく。◆挿絵有り



硬い寝台で過ごした翌朝。

一同は身支度を整え、早朝から中央の大図書館へと足を運んでいた。


「わ、私、もう駄目かもしれません。 ニヴェイシア邸のベッドが恋しくて――

 昨晩も良く眠ることができず……っは! まさか、これは閣下の策略……?」


「わかっけど、多分違ーぞそれ。 でも分かる……朝食美味かったしねー。

 布団はふっかふかだし、至れり尽くせりじゃったもんねー?

 あたし、もうあのお屋敷に戻りてーもん」


女性たち二人の会話に、男性陣は苦笑を零し、大図書館へと向かう。

巨大な門を抜け、司書へと声を掛けるが、現在賢者は職務だそうだ。


禁書庫には居ないとの事で、仕方なく大図書館の一室を間借りする事に。

以前借りた学業部屋で、賢者を待つこととなった。


「ところで……バルタザールって一体何のお仕事をしてるのかな?

 禁書庫を任された司書さん……なんだよね?」


「僕、司書さんがどんなお仕事をしてるのかが分からなくって……」


ノアの疑問に、パルテオンとルルは答えることができず、二人して唸る。

そんな彼らに助け舟を出す形で、セラが口を開き、疑問に答えた。


「主に書物の在庫管理ですね。 学術都市の大図書館は――

 学生も在籍してらっしゃいますので、名簿の管理と確認もあると。

 そう、お聞きした覚えがあります。 すごく大変だと聞きましたっ……!」


“禁書庫の司書”の業務内容は知らなかったが“司書”の仕事なら分かると。

パルテオンがノアとルルの分からない組みに対し、補足し説明。


暫く司書の仕事の大変さについて語っていると、扉を鳴らす音が響く。

とても控えめに扉が鳴らされ、入室してきたのは【賢者】バルタザール。


彼は頬がこけ、目に濃い隈を携えており、とても不健康そうな見た目だった。


「朝のご挨拶を申し上げッ……皆々様ッ……殊の外お早いご登場でッ……。」


メガネを押し上げ、学者のような仕草で腰を掛けるが、驚くほどに張りがない。

一体何事か?と、皆が目を丸くするが、賢者は何処吹く風といった様子。


「ワ、ワタクシッ……司書の業務外にも仕事を抱えておりましてッ……。

 研究論文や、自然災害の年表を纏めるような仕事を兼任しておりッ……。

 あらためて各国で起こった災害録を纏めッ――昨晩は徹夜をッ、ヌゥ。」


賢者は青白い顔で懐から小瓶を取り出すと、それを一気に煽った。

ゴクゴクと喉を鳴らし飲み込み、すぐさまにシャッキリとした顔つきに。


(この間、市場でみたあの怪しすぎるお薬ではありませんか……。)

(まさか、ご自身で飲まれているだなんて……)


セラの脳内では例の謳い文句が脳内を支配していた。


「――ええ、ではッ! 昨日は時間が無かったゆえ、話し合いが不可能ッ!

 ですので、本日に持ち込んだと言う訳ですがッ! 先ず確認をッ――

 勇者ノア殿ッ!聖女セラフィーナ殿ッ! 魔道具の修理の依頼はッ?」


「その事なんだけどね、修理の完了は、明日頃になるって。

 それと、セラに見てほしくってさ! 昨日探し回って見つけた物で……

 えーっと、安眠とか快眠の指輪型の魔道具?だって!」


ノアは言いながら、革袋から箱に丁寧に入れられた指輪を取り出した。

机にぽんと、箱から取り出した指輪を見せ、セラを朗らかな微笑で見つめる。


「セラの瞳の色と、ルルの瞳の色の宝石が可愛らしくって!ほらっ!

 効果も、セラには丁度良いかな?って思ったんだぁっ!」


ノアは、知らなかった――煌陽国では、男性から女性に指輪を送る行為。

それは“あなたの事をもっと知りたい”“親密になりたい”という暗喩。

この場で意味を理解しているのは、騎士、聖女、賢者の三人。


彼ら三人は、それぞれ違った色の目でノアの顔を見つめていた。

ルルとノアの二人は、勿論意味を理解しておらず、二人で顔を見合わせる。


何故目の前の三人は、これほどまで、怪訝な目を向けているのか?と。

疑問符を浮かべている様子で、実にあっけらかんとしていた。


「き、気を遣わせてしまいまして……ごめんなさい、ノア。

 その、あ、有難うございますね……? えっと、これは私に……?」


問われたノアは、あまりに輝く笑顔でセラの手を取り――


挿絵(By みてみん)


とても自然な流れで指輪をセラの指に嵌め、朗らかな笑みを向ける。


「セラにもっとちゃんと眠ってほしくって買ったものだからっ!

 ほら!とっても似合ってる! ふふっ! ちゃんと眠るんだよー?」


唐突の出来事に、セラの思考は追いつかず、引きつった笑みを返した。

やっと出てきた言葉は、小さくか細い「あ、ありがとう。」と、一言のみ。


気を取り直しセラは目を瞑り、呼吸を落ち着かせると、自身の鞄を漁る。

昨日の市場で、格安で譲ってもらった狐面を机に置いた。


白地に、濃い赤紫色の模様が走る、愛嬌が多少感じられる神秘的な狐面。


「私はこれを。 昨日格安でお譲り頂いたものなのですが……。

 店主様曰く、神子がどうのと……。 あと北方の国で造られたとも……!

 不思議な魅力を感じて、是非賢者様に見ていただきたくて――」


セラの購入した狐面に、賢者は興奮の面持ちで、食い入るように見つめる。


慎重に両手で狐面を持ち上げ、メガネをギラつかせ、唐突に声を上げた。


「こ、コレはッ!! この細かな模様――独特の形状ッ!

 動物を模した面ッ!! 間違い、有りませぬッ! これはッ――」


「かの北の大山脈――ラメルノートを越えた先ッ!! 幻の国と名高いッ!

 ハクレン国の工芸品でありましょうッ!! なんとッ!!

 かの北の国の品物は流通があまりされないのデスッ!!!」


賢者は「おおッ!」と興奮した様子で、狐面を気持ちの悪い手つきで触れる。

その迫力と圧力に、狐面の方がびくりと震えるようにも見える程。


あまりにも煩い賢者に、その場に居た全員が賢者から距離を取った。


「あのッ!興奮しているところ申し訳ないのですが!

 賢者様はその国についてご存知ではありませんか?」


語気を強め、賢者へと質問を投げるセラだったが、賢者は肩を竦めた。

申し訳なさそうに縮み上がり、弱々しい声でセラへと返答を返す。


「スミマセヌッ……かの国の記録は秘匿されておりましてッ……!

 ワタクシも知るところでは有りませぬっ……お役に立てず……。

 誠――誠謝罪の極みでッ!!」


賢者は机の上に膝を乗せ、身を机に投げ出さんとする勢いだった。

土下座でもするような気迫に、ルルが慌てて止めに入る。


「ばきゃろうー、机の上に乗っちゃ駄目じゃろ? はしたねーぞ賢者ちゃんよ。

 ほれみんさい。 皆賢者ちゃんに大注目しとるよー?」


ルルの言葉に賢者は「ハッ!」と顔を上げ、乗せていた膝を戻す。

軽く咳払いをした後、恥ずかしそうに大人しく椅子に腰を下ろした。


落ち着いた賢者を尻目に、ルルが安堵の息を洩らし、言葉を続けた。


「んじゃお次はあたし。 短杖(ワンド)じゃけど、無事に頼めたぜー?

 んで、制作にちょい時間かかるみたいで、三、四日後くらいに――

 また来いって話なんよ。 それまでこっから動けん。 めんごー」


その時、セラの脳内に突如として流れてきた映像。


……それは魔法少女のワンドを、可愛らしく振りかざすルルの姿。


無表情で、フリルたっぷりの際どい衣装に身を包み、強大な敵と戦う彼女の姿。


(???? ……?????)

(どういう事なのですかっ!? これは……神の啓示!?そうなんですね!)


「新しい短杖(ワンド)、とても楽しみですね……! どんな物が出来上がるのか……。

 私、とーっても興味があります……っ!」


そして、全員の視線は騎士へと注がれのだが、彼はどこか気まずそうだった。

珍しく筋肉を縮こませ、こころなしか、若干身体が小さくなったような――

そんな錯覚さえ覚えるような騎士の姿に、一同は首をひねる。


「わ、ワリィ……俺はその、いろいろ探した後、肉を……ずっと探しててよ。

 特になんもねぇんだ……。」


そんな事だろうと肩を落とす勇者一同。何も分かっていない賢者。


その後、ルルが散歩をしたいとの事で断りを入れ、部屋を後に。

ルルが部屋から出ていき、セラも教会と神殿に顔を出しに行くと言い――


部屋の中から華やかさが消え、残されたのは男ばかり三人。

三人で顔を見合わせるが、ノアが「ふう」と一息付き、語りかけた。


「さてっ! 僕たちはどうしよっか? 本当は色々と調べたいんだけど――

 僕は文字が読めないからね……あはは。」


「この大図書館って学び舎もあるんだろ? ならよ……。

 聞き込みとかしたら良いんじゃねえか? って思ったけど……ウーム。

 んな事、賢者がもうやってるだろうしなぁ。 普通に駄弁るんじゃダメか?」


「こうしてワタクシたちだけになるのも、中々訪れない機会ッ!

 この賢者バルタザールめがッ!何か疑問があれば、お答え致しましょうッ!」


そういった賢者は、視線を鞄へと向け、やがて鞄を漁りランタンを取り出した。

以前使用した、防音、遮音の効果がある魔道具のそれ。


賢者がおもむろにつまみを回すと、周囲に緑色の光の膜が広がった。


「これで周囲に音が漏れる心配は有りませぬぞッ!

 聞きにくい事、何でも仰って下さいませッ!!」


すると、パルテオンが唐突に真剣な眼差しをノアへと向けた。

やけに声を低くし、大真面目に、勇者の彼に対して疑問を投げる。


「なぁ、ノア。 ぶっちゃけた話すんだけどよ……セラの事、どう思ってんだ?」


騎士の落とした言葉に、賢者は椅子から転げ落ちそうになっていた。

ずり落ちそうになる身体を起こし、体勢を整えた後、軽い咳払い。


ゆったりすぎる動作の後、視線を騎士と勇者へと向け、勇者の言葉を待つ。


ノアはいつもの朗らかな明るい微笑で、首を傾げパルテオンの疑問に答えた。


「え?何が?セラの事? えーと、大事な仲間、だよ? それに――

 パルたちも同じ気持ちだよね? うーん……そうだね、しいていうなら……。

 セラはいつも何か抱えてて、僕たちに言わないから心配だなって……。」


パルテオンの期待していた返答とは違っていたらしく、ガックシと肩を落とす。

「お、おう。」と小さく唸り、続けてバルタザールへと熱い視線を注ぐ。


「じゃあよ、バルタザールはどうだ? 随分とルルに懐かれてねぇか……?

 ぶっちゃけよ、ルルの事どう思ってんだ?」


唐突に振られた話に、バルタザールの整えられた眼鏡がずれ落ちた。

頬を若干染め、手指をもじもじと組みながら、やたらと乙女ぶる賢者。


「どう思っているも何もッ! 気にかけて頂いているだけのように感じマスッ!

 それよりもデスッ! ワタクシ、ニヴェイシア子爵に興味がありましてッ!

 ワタクシも是非に――同行を願いたいのデスッ!」


強引に話しを逸らし、ノアに助けを求めるように視線を向ける賢者。

天然が爆発している勇者は、露骨な話題逸らしには気が付かない。


「良いねっ! バルタザールがきてくれたら、アメトさん何か喋るかも!

 凄いんだよバルタザール! アメトさんって……半魔さんなんだけどね――

 とっても良い身体で、手つきがすっごく良いんだ!」


「細身だけど筋肉の付き方も綺麗で、一緒にお風呂に入った時なんて……。

 僕、思わず見惚れちゃって! 沢山触らせてもらったんだっ!」


バルタザールは、彼は後悔していた。


何故なら、その様な話しを聞いても、どう返答を返せば良いのか――

彼の知識を以てしても、理解に及ぶことは無かったのだから。


賢者は騎士へと視線を向けるのだが、彼は、視線を逸らしていた。

話について行けなかったのか、はたまた別の理由があるのか、賢者には不明。


意味不明な勇者ノアの言葉に、二人はただ聞き流し続ける他無かった。





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