エピローグ
朝一番、クロから叩き込まれた依頼。
気が付けば昼を回り、報酬を受け取る頃には、蒼の体力はほぼ底を尽きていた。
何より――腹が減った。
極度の空腹は、超大型魂食よりも容赦がない。
「肉、食べたい……」
「食べればいいじゃない?」
「焼肉、焼肉」
「小遣い、くれ」
蒼の一言に、紗羅の眉がぴくりと動く。
「え? もう使い切ってたの? この前渡したばかりじゃない」
「ミチルと外食して、空っぽになった」
「空っぽ、空っぽ」
「いやいや、一週間前に1Dコイン渡したわよね? 24Hコイン分もあるのよ?」
「えっ……と、その……」
「何、隠してるのよ」
「そーちゃん、かくしてる?」
追い詰められる蒼。
その時。
ピーンポーン。
救いの鐘のようなチャイムが鳴った。
「……!」
蒼は弾かれたように立ち上がり、慌てて玄関へ向かう。
「逃げたわね」
「にげた、にげた」
数分後、蒼は薄い箱を抱えて戻ってきた。
机に置くと、見た目より重みがある。
「紗羅へのプレゼント。ちょうど届いたよ」
「な、何よ?」
「いつも大変だろうと思って。あまり高くないけど」
箱を開けた紗羅が、息を呑む。
中に収まっていたのは、真新しいノートパソコン。
「蒼、これって……」
「帳簿とか依頼の整理、ずっと紙だったろ? 少しは楽になるかなって」
紗羅の指が、そっとキーボードに触れる。
「大切なお金、こんなのに使っちゃって……バカ」
そう言いながらも、ノートパソコンを胸に抱きしめ、目を潤ませる。
隣では、意味は分からないが空気で察したミチルがにこにこしている。
蒼は視線を逸らし、頭をかいた。
「ぐぅぅぅ~……」
盛大な腹の音。
一瞬の静寂のあと、三人は吹き出した。
「外食にしましょうか」
涙を拭きながら、紗羅が言う。
声は、これ以上ないほど機嫌がいい。
「おーっ!!」
「やきにく!」
二人の声が重なる。
財布は軽い。
それでも足取りは、驚くほど軽かった。
魂楽界。
危険も理不尽も、笑えない出来事も山ほどある。
けれど。
空腹を笑い飛ばし、誰かのために金を使い、並んで飯を食う。
そんな当たり前が、ここにはある。
夕暮れの路地を抜け、三人はいつもの定食屋へ向かう。
今日もまた、騒がしくて、少しだけ幸せな一日が終わろうとしていた。




