第五話 猫の玉座と実況者な友。再生回数:1
ガチャガチャ、バタン。
がさがさ……ナァーン。
おはよー猫ちゃーん。今日も最高に猫ちゃんだねー。
ナァーン? がさがさ。
猫ちゃんのおやつもあるよー。
うたた寝をしていた男の耳に、愛しき猫の疑問形の鳴き声が聞こえてきた。
友人の声もしたような気がする。
どうやって入った。と湧いた疑問に、ああ、そういえばとすぐに思い至った。
合鍵を渡したんだった。
平日でも休日でもほぼ毎日来るのだから、友人はどれだけ暇なのか。
残業で行けなくなった、なんて話は聞いたことがない。
定時に帰れるなら優秀なのか?
と一瞬浮かぶも、仕事のことを考えたせいだろう。
友人の仕事よりも自分の仕事だ。
『やべぇ俺データ保存したっけ?』の重要案件で、友人が優秀か否かは思考の右クリックで削除された。
がさがさ、ニャー、がさがさがさ。
あ、入っちゃう感じ? 袋入っちゃう? 入っちゃうのかー、そうかー。
そろそろ起きるかと思っていると、友人の猫実況が聞こえてきた。
がさ……。
お、出るの? 今度は出ちゃうの?
がさ……。
戻っちゃうのか~。そっか~。
そうか……。と共に感じ入り、愛しき猫を思い浮かべた。
白いビニール素材から透ける猫も、さぞかし愛らしいのだろうなぁ。
背を向けているのか、それともこちらを見ているのか。
未だがさがさと音を立てるその袋には、いったい何が入っているのか。
先ほどからパキパキペキペキ聞こえる不穏な音は何の音なのだろうか。
もしも卵だとしたら過重により何かが兆しているのではないか。
そう。まるで空に走る稲妻のようにギザギザとした亀裂が、白くて儚い外殻に。
あの神が創りたもう究極の芸術のごとき猫の足が、命にほど近い白玉が封印されしA-PET素材の透明パックを、あの愛らしき体重で踏み抜かんとするその様子は、思うにスポーツ新聞の一面を飾ってしまうほど躍動感に溢れているのだろうなぁ。
あれ? ねぇ何かやっちゃってない? 今ちょっとグシャっていったよね?
気のせいじゃなくない? 食べるときジャリってなるやつじゃないの?
俺のオムライス変な歯ごたえ出ちゃう感じじゃない?
ニャーという甘やかな話し声に、薄れゆく意識のなか男は思った。
あの愛しき猫の鳴き声を楽曲として世に放てば、たちまちすべてのオリコンチャートで首位を独占してしまうのだろうなぁ。
そうなったら友人は『俺あの猫ちゃんに卵踏まれたことあるんだぜ』なんて幸せそうに自慢をしてまわるのだろうなぁ。
あの、猫ちゃんそこちょっとだけ退いてもらっていいっすか、ちょっとだけでいいんで。
あ、駄目なの? そっかぁ……駄目なんだぁ。
そっかぁ……。




