第1話 パーティから抜けたい?!(1)
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物語は、とある国の賑やかなギルド酒場から幕を開けます。そこで繰り広げられるのは、少しばかり騒がしい冒険者たちの日常の一コマ。
真っ直ぐで頼れるリーダーのノア、博識で常に冷静な司令塔のハンナ、天真爛漫で周りを癒すユースティア。個性豊かな彼らが織りなす人間関係は、時にコミカルで、時に熱く、そして時に……骨が軋むほど痛かったりもします。
この物語は、ルクスがなぜパーティを抜けたいと思うのか、そして彼の言葉に隠された真意とは何なのかを探る旅路でもあります。ルクスの活躍や、彼が抱える葛藤を通して、「仲間」であることの意味、そして「自分の価値」とは何かを、読者の皆様と共に考えていけたらと思っています。
それでは、今日も彼らの騒がしい日常と、ちょっぴりシリアスな心の機微を、どうぞお楽しみください。温かい目で見守っていただけると嬉しいです。
とある国のギルド酒場──
「「「パーティを抜けたい?!」」」
ルクス「うん………」
ノア「ま、待ってくれ!パーティを抜ける?パーティを抜けるってのはそのパーティを抜けるってことで?えっと?パーティを抜けるって??ちょっと………え?」
ハンナ「ノアが現実を受け入れられなくて壊れちゃったね。」
ユースティア「どどど、どうしましょう?!」
ルクス「ハンナさんこれ契約解除のための書類です。一色揃っているので確認をお願いします。」
ハンナ「そうだな……ルクス君、まず契約解除にまで至った経緯を教えて欲しいな。待遇や報酬は悪くなかったと思……もしかして足りなかったのかい?」
ルクス「いや、報酬は多すぎるほど貰ってるので不満とかは一切ないんですけど……その──」
ノア「行かないでくれルクスゥゥ!!!」
ユースティア「行かないでくださいルクスさぁぁぁん!!」
ノアとユースティアは泣きながらルクスの足にしがみついた。ユースティアは力をこめすぎており、ルクスの骨はミシミシと悲鳴を上げている。
ルクス「ユースティアさんっ!足取れちゃう!ねぇ取れちゃう!!痛いっ!折れちゃうって!!」
ハンナ「はい、そこのバカたち一旦落ち着きなさい。リーダーであるノア君がこの契約解除用の書類に判を押さない限りはまだパーティ解除はされ「「行かないでぇーー!!」」
ルクス「(あっ……)」
ハンナがルクスの足にしがみついているふたりに近づくと…
ハンナ「ノア、ユースティアちゃん。私の話聞いて?ね?」ニコッ
「「すみません……(こっわぁ……)(顔が怖いです!!)」」
ハンナ「よろしい。さて、とりあえず場所変えよう。周りに迷惑だしね。」
酒を飲みに来た冒険者「なんだやけに騒がし……なんだこの状況。」
さっきから飲んでる戦士「いや〜いい酒のツマミだ!はっはっはっ!」
呆れ顔の弓使い「なぁ見ろよまたやってるぜ。」
仲間の剣士「またか。なぁおっさん、あいつら今度は何で騒いでるんだ?」
一部始終を見てたおっさん「なんかあの魔法使いがパーティを抜けるとかなんとか。」
仲間の剣士「え、あいつ抜けんのか?仲間割れでもしたのか?」
ハンナ「ほら、2人ともこれ以上醜態を晒したくなちならすぐにここから出るよ。」
ノア「そうだな!」
ユースティア「そ、そうですね///」
──場所は変わり、宿屋へ
ノア「ふぅ……それでルクス。どうしてパーティを抜けるなんて言い出したんだ。」
ユースティア「ノアさん、顔がしわくちゃです。」
ハンナ「すごい嫌そうな顔。」
ノア「そりゃそうだろ!!ゴホンッ……えーっとルクス。パーティから抜けたいってのはどうしてか、理由を教えてくれないか。色々気をつけてきたつもりなんだが……」
ユースティア「………」
ハンナ「………」
ルクス「その、パーティへの不満は本当に無くて……」
ノア「じゃ、じゃあどうして──」
ルクス「耐えられないんだ!自分がパーティの、みんなの役に立てていないのが………」
ノア「………」
ユースティア「………」
ハンナ「………」
「「「は?????」」」
ルクス「え?」
ノア「いや、ちょっと何言ってるのか分からないんだが。」
ユースティア「あの、私も分からなくて……」
ハンナ「私もだ……」
3人は頭を抱えて唸った。
ノア「ルクス、その逆に聞くんだが君はどんなところが役に立っていないと感じたんだ?」
ルクス「野外依頼の際の食事の用意以外、依頼では自分の役割を全うできていな「「「はぁ〜〜〜~???」」」
ノア「そうか、分かった。自分の活躍を知らないんだな。ハンナ、俺たちの最近の活動の振り返りをしよう。」
ハンナ「はい。私たちがここ最近でこなした依頼は全34件です。内訳はモンスターの討伐依頼が18件、採取依頼が9件、護衛の依頼が4件、街のお手伝い等の依頼が3件となっています。これらのなかからいくつかピックアップして振り返っていきたいと思います。」
ノア、ユースティア「「よろしく(お願いします)」」
ルクス「お、お願いします……」
ハンナ「まずこちら。」
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討伐依頼
討伐対象:変異種ジャイアントワーム
依頼者:ザラク
内容:変異したジャイアントワームが農場の家畜や作物を食い荒らし被害甚大。至急、討伐を要請する。
※変異種のサンプルをギルドへ持ち帰った場合追加報酬あり。
報酬:60万G
ギルド追加報酬:80万G
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ハンナ「変異種のジャイアントワームの討伐では我々はかなり手を焼きましたね。」
ノア「表皮が硬くて物理攻撃が効かなかったかやつか……」
ユースティア「私、逃げるので精一杯でした……」
ハンナ「物理攻撃が効かず、通常個体よりも数倍の大きさなこともあり攻撃手段を魔法攻撃に頼らざるを得ない状況でした。」
──変異種ジャイアントワーム戦回想
キィィィインッ
ノア「くっ!物理攻撃は通らなそうだ!!同じ部位に攻撃を続けても表皮は欠けもしない!!ただ動きは少しだけ通常個体より遅い!!」
ハンナ「分かりました!それではもう少しの間引き付けておいてください!」
ノア「了解!!ほらほらこっちだ!あ、やべ!!つるに引っかかった!やばい!!ハンナ!!ハンナァァァ!!」
ハンナ「ユースティアちゃん私の後ろに。」
ユースティア「ふぅ………助かりましたぁ~」
ハンナ「まさかユースティアちゃんを追いかけてくるなんてね。」
ユースティア「さすがの…はぁ私でも…ふぅこれだけ…走ったら…はぁ、疲れますね。」
ハンナ「お疲れ様。」
ルクス「………」
ユースティア「ルクスさん?」
ルクス「あのジャイアントワーム……表皮が金属質に変化して…動きは通常個体より鈍化…表皮は鉱石というより………魔石か。それに、体表に薄く魔力の層…物理攻撃は……効かない……でも体表の魔力層が邪魔をするから攻撃は……」ブツブツ
ハンナ「口内への攻撃は通りそうですか?」
ルクス「難しいですね。体表にまで魔力が漏れ出しているということは、体内で蓄えきれない魔力が溢れているということなので、物理攻撃は通りませんし、魔法攻撃でも有効打になりえるかどうか分かりません。」
ハンナ「そうですか……」
ルクス「でも、やりようはあります。ハンナさんユースティアさんのことは頼みます。『飛行』」
ハンナ「分かりました。」
ユースティア「お気をつけて!」
ルクス「ノアさん!交た、い……」
ノア「は、早く助けっ!あ、やばい食べられる!!は、早く!!お願い!!」
そこにはジャイアントワームの口で大の字になり、口を抑え、力を少しでも緩めたらすぐに食べられてしまいそうなノアがいた。
ルクス「『魔法範囲拡大』『魔力増幅』『効果向上』!!」
魔法によりジャイアントワームの体内に蓄積した魔石は急激に成長する。そして、魔石は内側から突き破るように飛び出し──
ゴオォォォォォオッ!!!!
ジャイアントワームはもがくように体をうねらせ暴れ始める。
ノア「うわぁぁぁぁぁあ!!」
ジャイアントワームが暴れたせいでノアは飛んでいってしまった。
ルクス「?!」
加えて──
ルクス「まずい!(このままだとジャイアントワームがハンナさんたちの方へ行ってしまう!!)」
ガゴオォオォォォオッ!!!!
ユースティア「ハ、ハ、ハ、ハンナさん!!ジャイアントワームがこちらに来ているみたいなのですが?!」
ハンナ「なるほど…これは思いつきませんでした。体内の魔石を無理やり成長させることで内側から……魔法使いならではのやり方ですね。」
ユースティア「あの!ハンナさん!私たち押しつぶされちゃわないですか?!」
ハンナ「ユースティアちゃん。しっかり私の後ろにいてくださいね。」
ユースティア「あぁ神よぉぉ……」
ルクス「『魔力鎖』!」
何本もの鎖がジャイアントワームの体を捕らえるが、あまりにも巨大な体躯により鎖はいとも簡単にちぎられる。
ルクス「魔力の層のせいで魔法が安定しない……クソッ!このままじゃ!」
ノア「よっと!」
先程飛ばされたノアがジャイアントワームの体の上を走りながら戻ってきた。
ノア「助かったぜルクス!!おっとっと……後はまかせろ!ハンナーー!!一応備えといてくれ!!」
ハンナ「ちょっと揺れるよ。」
ユースティア「ノアさん?!」
ノア「魔石が内側から出てきたおかげで今なら攻撃が通るな!おらぁっ!『穿杭』!!」
ガグゥオァオォォオッ!!
ノアの一撃がジャイアントワームの頭部に直撃し、
ドォォォンッ!!!
巨大な体躯はそのまま頭から地面へ縫い付けられるように倒れる。そのままジャイアントワームの死体は次第に体全体が魔石へと変化していった。
ノア「ハンナー!ユースティアー!無事かーー?」
ハンナ「2人とも無事です。」
ユースティア「ノアさん助かりました!」
ハンナ「ジャイアントワームが全身魔石の塊に……この魔石は利用できるのでしょうか?」カンカンッガンッ
ハンナ「この魔石とさっき集めた肉、表皮、牙等のサンプルは持って帰ってギルドに提出します。それでノア──」
ノア「んっ!ふんーーーっ!!俺の剣抜けなくなっちゃった……」
ハンナ「………」
───回想終了
ハンナ「あの時は、ルクス君の機転をきかせた対応のおかげで討伐することができましたね。」
ノア「さすがルクスだ!」ウンウン
ユースティア「ルクスさんがいなければ勝てませんでした!」ウンウン
ルクス「他の魔法使いでも同じことをしたと思いますが………」
ハンナ「あのねルクス君。一般の魔法使いはともかく、ギルドの精鋭クラスでもあの巨体の全てに魔法の効果を行き渡らせることは難しいはずよ。」
ルクス「でも、師匠や兄弟子たちはあれくらい普通にこなしていましたし……」
ハンナ「それは師匠さんたちがおかしいの。」
ルクス「そう…なんですかね………でも、俺はあの時魔法で魔石を成長させることまでしか考えていませんでした。あれで倒せると楽観してたんです。ジャイアントワームが暴れだしてからは何もできず、俺の判断が甘かったせいで2人を危険に晒しました……」
ノア「ルクス、俺たちは冒険者だ。皆、危険は覚悟のうえで支え合って戦ってる。だから自分を責める必要はないぞ。それにあのままジャイアントワームが突っ込んでもハンナの馬鹿力で──」
ハンナ「ノア?」ニコッ
ノア「あーー、そのまぁ……ハンナはとっっっても力があるからあのまま突っ込まれても防げたと思うし………」
ユースティア「ルクスさん、全部ひとりで背負っちゃだめですよ?協力し合ってこそのパーティですからね!誰かのミスを他のみんなでカバーするのは当たり前のことだと思います!誰かが間違えても、皆で助け合うために、一緒にいるんですから。ね!ハンナさん!」
ノア「(ユースティア、ナイスカバー!いい子すぎる……)」
ハンナ「はぁ……まぁそうね。誰だってミスはするわ。同じようなミスを繰り返すことがないように気をつけることが大事ね。」チラッ
ノア「ナンデオレヲミタンデスカネ。」
ルクス「……」
ユースティア「ハンナさん!次の振り返りお願いします!」
ハンナ「そうしましょう。次は──」
今回の物語では、パーティを抜けたいというルクスと彼の言葉に戸惑うノア、ハンナ、ユースティアの反応を描きました。また、ジャイアントワームとの戦いの回想を通して、ルクスの、冷静な分析力と大胆な行動力が垣間見えたのではないでしょうか。
相変わらずルクス自身は自分の働きを過小評価しているようですが……
しかし、ルクスが「役に立てていない」と感じる根本的な原因は、まだ明らかになっていません。彼の過去や、師匠との関係など、今後の物語で分かってきますのでお楽しみに。
ノアの頼りがいのある一面や、ユースティアの優しさ、そしてハンナの見せる仲間への想いも、この物語の魅力の一つだと思います。彼らのやりとりを通して、読者の皆様にも温かい気持ちが届けられたら嬉しいです。また、引き続き彼らの行く末を見守っていただけると幸いです。
最後に、ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。次回の物語でお会いしましょう。