表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/94

41.温泉と、羽

どうせなら、女の子の入浴シーンを描写したかった。

 夜の静寂に包まれた温泉の湯船に、湯気がふわりと漂う。


 三人の男達はその湯に浸かりながら、疲れを癒していた。


 「女湯もあったんだし、リリィも入れたら良かったのにね」


 ユウが肩まで湯に浸かりながら呟く。


 「硫黄泉で部品が故障する可能性があるんだろ?仕方ないんじゃないか」


 レオンが苦笑する。


 「街を回って服を試着してみるってさ。おしゃれに目覚めたのかな?」


 フェルは楽しげに笑った。


 「いや、それはどうかなぁ……精神の高揚が再現できるか試すとか言ってたけど…」


 ユウはぼんやりと湯面を眺めながら首を傾げる。


 湯船の縁から眼下を見下ろせば、ランタンを模した灯りが並び、夜の温泉街を優しく照らしていた。


 その光が中央を流れる川に映りこみ、時折行き交う人々に遮られながらもゆらゆらと揺れる。


それは温泉も同様だ。

湯船はもちろん、溢れた湯で濡れた岩は、灯籠と星明かりを反射し、キラキラとした光を網膜に伝える。


 そんな中、毛皮のある方はこちら、とかかれているらしい湯船を迷うことなく無視したフェル、そしてレオンとユウは、仲良く同じ湯に浸かっていた。


 「……まぁ、確かに毛皮じゃないんだけどさ」


 ユウはフェルの大きな羽を見る。


濡れた羽は艶やかに輝き、浴場の光をきらきらと反射する。


 「……それ、寝る前までにちゃんと乾くのか?」

 レオンが呆れたように言った。


 「乾く乾く。余裕だよ。問題はちょっと痒い事かな。」


 そういいながら、フェルは翼をもぞもぞと動かし、レオンの肩に羽を擦りつける。


 「おい、俺は孫の手じゃねぇぞ」


 そう言いながらも、レオンは慣れた手つきでフェルの羽をすいている。


 「わかってるよ、ついでに付け根の所もお願い」


 フェルは気持ちよさそうに目を細めると、ゴツゴツした湯船の縁に頭を預けた。


 「わかってねぇだろ。まったく……」


 不本意だ、という声とは裏腹に、レオンは羽をすき続ける。


 ──そういえば、フェルって、鳥の癖に鶏肉が好物だけど、あれは共食いになるんだろうか。


 そんな事を考えながら、二人のやり取りを眺めていたユウに、レオンが声をかけてきた。


 「そういや、お前たちは、この先どこへ行く予定なんだ?」


 ユウは少し考えたが、結局肩をすくめる。


 「何も決めてないんだよね。

というか、なんにも知らなくて。

あちこちの遺跡を見て回りたいって事しか決めてないんだ」


 「遺跡は、わざわざ探さなくても、割とあちこちにあるからな……。もし南に向ってもいいなら、一緒に行かないか?」


 それもいいかもしれない、と考えたユウは有ることに気づく。


 「そういえば、二人はなんで南を目指してるの?」


 レオンはあっけらかんと答えた。


 「フェルの仲間を探してるんだ」


 ユウは驚いてフェルを見る。しかし、当の本人は興味がなさそうに欠伸をしていた。


 「俺は別に探さなくてもいいって言ったんだけどね。レオンがどうしてもっていうからさ。付き合ってあげてるってわけ。」


 フェルの言葉にレオンは嘆息しつつ、ユウの方へと向き直る。


 「ったく……人の親切を無碍にしやがって……。


本当は、もっと小さい内から仲間の所で育ててやりたかったんだけどな。

フェルが戦えるようになるまでは南へ行くのは難しかったんだよ。」


 含みのある言い方に、ユウは首を傾げる。


 「南には何かあるの?」


 レオンは一瞬言葉を詰まらせたが、やがて静かに口を開いた。


 「あまり気持ちのいい話じゃないだけどな……ずっと南のネオサピエンスの中には、クロスヒューマンを捕らえて金にする奴らがいる」


 ──湯の温かさが急に遠のくような気がした。


 背中に冷たいものを感じながら、ユウは、思わず息を呑む。



 「金って…だって、同じ人間同士、だろ…?」



 レオンの瞳が、暗い緑に光る。



 「……同じ人間、か。だったら、あいつらはもう、とっくに人間をやめちまったんだろうな。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ