3.初めての素材回収とすごい技術
ナタの刃が幹に食い込む。
湿った木の香りがふわりと立ちのぼり、ユウはもう一度力を込めた。乾いた音とともに、木がゆっくりと傾き、地面に倒れる。
「問題なし」
二人は船に使う木材を入手するため、森の入り口にたっていた。
リリィが木の倒れる方向を確認しながら言う。
ユウの想定より、木材の回収は簡単だった。
リリィのランタンの中には、様々な道具がまとまって収納されていたし、なにより。
リリィはかなりの力持ちだったのだ。
自身の身長の五倍はある木材でも、苦もなく持ち上げまとめる。
例え本調子だったとしても、ユウにはできない事だ。
うまく行くのは、それだけで気分がいい。
「じゃあ、もう少し奥に入って……」
調子に乗ったユウがそう言いかけたとき、リリィが首を横に振る。
「やめたほうがいい」
「なぜ?」
リリィは視線を周囲に巡らせた。潮風に混じるわずかな鼻をつくような匂い。彼女は、その匂いを知っていた。
「蟻がそばにいるかもしれない」
ユウは眉をひそめた。
「蟻?」
「そう」
リリィは少し辺りを見渡すと、近くに転がる倒木に目を留め、近づいていった。
「これを見て」
そう言って、指をさした部分を見た瞬間、ユウの顔がこわばった。
木の表面が、抉れたようにえぐり取られていた。刃物で削ったのではない、何かに食いちぎられた跡だ。しかも、その傷跡が根元まで続いている。
「これ……まさか、蟻が?」
「そう」
リリィは平然と答え、足元の土を軽く蹴った。すると、土の中から小さな光沢を持つ物体が顔を出す。
拾い上げてみれば、それは蟻の大顎の一部だった。
「推定。群れ同士の争いで落ちたもの」
ユウは思わず大顎をまじまじと見つめた。指ほどの長さがある硬質なパーツ。もし、これが自分の腕に食い込んだら──。
「……なるほど、奥へ行くのはやめておこう」
リリィは小さく頷くと、無言でランタンを取り出し、木材に触る。それらは光の粒子となってカードに変わった。残滓がキラキラと彼女の周囲を舞う。
ユウも肩に担いだ木材を持ち直し──とはいえ、もっとも小さく、軽い一本だけではある──、軽く息をついた。
「それ便利だね」
リリィは数度瞳孔の中の光を拡縮させ、答える。
「ランタンは、欠かせないもの。あなたにも必要だと推察している」
その言葉にユウは目を開いた。
「僕のもあるの?」
「今はない。でも手に入れる事は、簡単」
リリィは無機質な声で、しかしどこか誇らしげな音で語る。
「貴方の目的地である、旧人類の遺跡の中には、ランタン製造装置が組み込まれている事も多い。
材料さえ揃えれば、一人一つまで、作成できる。」
「……一人一つまで? なんでそんな制限があるの?」
ユウは首を傾げた。
「理由はわからない。」
その言葉を聞いたユウは、無意識に入れていた体の力を抜いた。
「そっか…。ランタンは、さっきまでいた建物でも作れるの?」
リリィは静かな波打ち際のその向こうを指差す。
「できない。もっとも近くの製造装置は海を越えた先。
該当遺跡内は探索されつくしており、コールドスリープした旧人類のランタンが残っている可能性は、僅か」
ユウは同じ方向に目を向け、顔を引き締める。
「はは、でも僅かか。
でも僅かでもあるなら行かないと。それじゃあ、早く船を作らないとね。
これで十分?」
「十分。でも、加工が必要。海岸に向かう」
リリィは頷き、静かに歩き出した。