27.命を守れ
それからもユウの特訓は続いた。
最初の三日間は足が鉛のように重く、歩くことすら辛かった。
一週間で、最後まで走る、といえる速度を維持できるようになった。
最近はユウ自身、慣れてきたな、と感じている。夕食時に談笑できる程度には体力が残るようになってきたからだ。
そんなユウの様子を見て、レオンは新たな訓練を追加することを決める。
「よし、次の段階だ」
ユウは訝しげにレオンを見上げた。
「走る時間増やすとか?」
「もちろん、走り込みも続けるが、今日は足さばきを教える」
そう言うと、レオンはユウに木の枝を手渡した。
「これを持って、斜めに動け。
前だけじゃなく、後ろにも、な」
「斜め?」
ユウは枝を握りしめ、言われた通りに動いてみる。しかし、なにをすればいいのかわからず、その動きにはためらいがあった。
「違う、そうじゃねぇ。膝を柔らかくして、腰を落とす。地面を蹴って体を運べ」
レオンの指摘を受けながら、ユウは何度も動きを繰り返す。
右に。左に。後ろに。
「……これ、何のためにやるの?」
ユウは数十回程繰り返した後、首を捻った。
まさか、戦うために次はダンスが必要とでも言うのだろうか。
ユウの胡乱な眼差しに、レオンは薄く笑い、構えを取る。
「やってみりゃわかる」
次の瞬間、レオンがユウへ向かって木の枝を振り下ろした。
「うわっ!」
ユウは本能的に飛び退く。
しかし、レオンの棒は一瞬で軌道を変える。
振り下ろした体勢からの振り上げ。
木の枝はユウの脇腹を叩く。
「いたっ」
「ほい、今ので一回死んだな」
レオンが淡々と言い放つ。
「ちょ、いきなりはズルいって!」
ユウの抗議にレオンは苦笑した。
「おいおい……。
お前、敵が‘これから攻撃しますよ〜’って教えてくれるとでも思ってんのか?」
ユウは口を開きかけ、しかし反論できず、唇を噛む。
「そもそも、今の避け方が悪い」
レオンはユウの前に立ち、再度棒を構える。
「真後ろに下がったら、もう次はねぇぞ」
そして、構えた棒を振り下ろし、そのまま、一歩、前に出る。
「さらに敵は踏み込んで、お前の動きを殺す。次の瞬間には首をはねられてるってわけだ。
相手の攻撃の軌道をずらして、反撃できる位置に動かねぇとな」
「……それが、斜めの動き?」
「そういうことだ」
レオンが再び枝を構える。
「今度はしっかり動けよ」
ユウは緊張しながらも、さっき教えられた通りに腰を落とし、膝を柔らかく使うことを意識する。
再び振り下ろされる棒。
今度は、ユウは斜め後ろに素早く動いた。
レオンの棒が空を切る。
「おっ、いいじゃねぇか」
瞬間、ユウの心にちょっとした悪戯心が芽生える。
ちょっとした意趣返しである。
振り下ろした態勢のレオンに向かって、自身の棒をふり下ろす。
狙いは肩である。
いける……!と思った瞬間。
カツッ。
レオンの棒がユウの棒を受け止めていた。
「……なるほど、確かに攻撃しやすいね」
お見通しか、とユウは苦笑した。
「だろ?」
レオンは頷く。
「この動きを身体に覚え込ませろ。戦う上で、一番の基本で、最も大事な技術だからな」
ユウは仕切り直し、と言わんばかりの真剣な表情で頷き、再び構えを取る。
それを見ながら、レオンは口を開いた。
「そうそう」
「なに?」
きょとん、と首を傾げるユウをみながら、レオンはニヤリと笑う。
「それはそうと、教官に攻撃してくるなんざ、いい度胸だ。
これが終わったら追加でもう一周走ってこい」
その後、一周どころか三周はさせられ、気軽に反抗するものじゃないな、とユウは嘆息するのだった。




