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2.記憶がない

ユウは息を整え、戦闘の余韻を振り払おうとする。

しかし、頭の中では先ほどみた全てが反響し続けていた。


深呼吸したユウは、ランタンを指差す。


「これって、…………何?」


リリィは一瞬だけ視線を落とし、それから答える。


「旧人類が作った道具。光で物をデータ化して、カードとして保管、必要な時に取り出す技術……らしい」


「らしい?」


「私は旧人類ではない。詳細は不明」


ユウはその言葉に少し眉をあげ、再度ランタンをじっと見つめた。


「すごいな、それ。めちゃくちゃ便利だよ。それじゃあ、さっき飛んでいた人も?」


リリィはその質問に首を振る。


「違う。あれはクロスヒューマン。鳥の遺伝子を持つ者だと推察される」


「クロスヒューマン?」


そう、とユウの疑問に対し、リリィは頷いた。


「現在、この世界には三つの主要な人類がいる。ネオサピエンス、クロスヒューマン、そしてオムニス」


ユウはそれに興味深く耳を傾ける。


「どう違うの?」


リリィは、淡々とした声で続けた。


「現在、この世界には三つの主要な人類がいる。

ネオサピエンス、クロスヒューマン、そしてオムニス。


理解はしなくていい。そういうもの」


「さすがにもう少し説明してよ…」


ユウは苦笑する。

リリィはその言葉に瞬きし、言葉を続けた、


「簡単に言うならば、ネオサピエンスは人類の遺伝子強化者の末裔。

クロスヒューマンは他生物の遺伝子保持者の末裔。

そして、オムニスは脳を機械や他生物に移した者。」


「えっと……。強い人類と、他の動物の特徴がある人類と、メカ……みたいな感じ……?」


ユウは心の中で混乱が渦巻いているのを感じた。わけのわからない世界で、過去の記憶がないことが、彼の胸に重くのしかかる。


リリィはそれに対し、微かに眉をひそめ、何か考え込むような仕草を見せた。


「新人類も、ランタン(人類の灯)も、元はといえばあなたたちの時代で発生したもの。特に、ランタンは、一万年前でも一般的だったと考えられている。」


ユウは自らの記憶を思い出そうと、目を閉じた。

頭の奥に手を伸ばすように。

けれどやはり、靄がかかっているように記憶が遠のき、何も思い出す事ができない。


「……覚えて、ないんだ。」


 言葉が、空虚に響く。


リリィはその言葉に一瞬驚きの色を浮かべた。

しかし、何も言わず、ただ静かに待つ。


ユウはその沈黙を受けて、さらに続けた。


「目が覚めたときから、何も思い出せなくて。ここにいる理由も、何をしていたのかも、まったくわからない。ただ、名前だけが残っている。」


リリィは、瞬きもせず、じっと彼を見つめていた。

オムニスである彼女には呼吸や瞬きすら必要ないのだろう。


静かにその言葉を処理し、再度確認するように言った。


「記憶がない?」


「うん。ランタンも、あの飛んでいた人も、全然わからない。」


絞り出された言葉を認識しながら、リリィの瞳孔がユウをとらえるように小さくなる。


「そう……。


では今後について。あなたの意見が知りたい。」


ユウは視線を落とす。


「……わからない。でも……」


 口を開いた言葉が、一度途切れる。

言葉にする事を少し迷う。

それは決意になってしまうような気がした。


とんでもない事になるような。


しかし、ユウは話す事を選んだ。


「旧人類を探してみたい。何か、思い出せるかもしれないから。それに……目覚めた時一人じゃ、寂しいだろ」


それくらいしか、思いつかないほど、ユウの中に残っているものは少ない。


けれど、確かにそれは小さな希望だった。


その言葉にリリィは頷く。


「了承した。船が必要。私はオムニスのため、食料は不要。機能維持のための資源を準備する。」


その言葉にユウは驚きの表情を見せた。


「君も…ついてきてくれるの?」


リリィからは相変わらず、感情のようなものを感じない。


「私は、オムニスが失った感情に興味がある。」


 リリィの言葉に、ユウは少し驚いた。


彼女の目は、何かを探し求めるようにきらめく。


「オムニスは、肉体を捨てた事で、体から本来与えられるはずの刺激が極端に薄い、と分析している。

それにより、感情の大半を喪失しているようだ。」


リリィは言葉を選びながら説明する。


「あなたは旧人類。もっとも原初のオムニスに近い。あなたを観察することは、私の研究にとって重要だと考える。」


ユウはしばらく黙ったまま、リリィを見つめる。彼女の言葉が頭の中で反響し、視線が自然と下がる。無意識に手のひらを擦っていた。


リリィはその仕草を認識し、しかし何も言わずに歩き始める。


「船をつくるための資材も必要。採取に向かう。」


ユウはその言葉を噛み締める。


そして無言で、無心で、ただ歩調を合わせる。

動かす事に集中しなければ、すぐに倒れてしまいそうな気がしたから。


それにしても。

リリィの後ろ姿は、少女のようで、どこか頼りない。


ユウは無意識に息を吐き、心の中の曇りを振り払うように歩みを進めた。

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