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サブエピソード:私も料理したい

──焚き火の上で、じゅうっと音を立てながら肉が焼かれている。


レオンの料理は、男らしく豪快だ。

大きくカットした肉をシンプルな味付けで焼いただけのそれは、噛みしめるほどに旨みが広がる。


一方、フェルの料理は見た目からして洗練されている。

細かい包丁捌き、華やかな盛り付け、思わず見惚れるような一皿だ。


 そんな二人の影響を受け、ユウも少しずつ料理の腕を上げようとしていた。

まだまだ未熟ながら、レオンから「なかなかやるな」と言われるほどにはなった事がユウにとっては最近のちょっとした自慢である。


そんな様子をじっと観察していたリリィが、突然、口を開いた。


「私も料理を習いたい。」


その瞬間だった。


「よし、じゃあ──」


レオンが言葉を発するより早く、フェルがすっと立ち上がる。


「じゃ、俺は材料集めに行くわ!」


「待て。」


「……はやくない?」


ユウが呆れた声を上げるが、すでにフェルの姿はそこにない。


地面に残されたのは、彼が座っていた跡だけである。


「アイツ、ほんとやりたくない事(面倒事)からは全力で逃げるな……。」


レオンはため息をつきながら、薪を一本くべた。


「しゃーねぇ、リリィ。包丁は使えるか?」


「問題ない。」


そう言うと、リリィは淡々と野菜を刻み始めた。

その手際は驚くほど正確で、厚みも均一。無駄な動きがない。


「……ほう」


均一に揃えられた野菜に、レオンは感心する。


「なら、次は味付け──」


しかし、その後の展開によってレオンは頭を抱える事となった。


「……なあ」


「なんだ?」


「なんで、肉をそんなに炙り続けてる?」


「内部の菌を死滅させるため」


「いや、もう十分焼けてるぞ」


「念には念を入れた」


リリィの手元では、すでに炭のようになった肉が転がっている。


「……いや、これ焦げたとかじゃなくて、もう……焼きすぎて原型がないんだけど…」


「焼きすぎることによる健康被害はないと確認済み」


「そういう話じゃねぇんだよ……。」


レオンは頭を抱えた。


──しかし、問題はそれだけではなかった。


「次はスープを作る」


そう言って、リリィは慎重に調味料を加えていく。

レオンが隣で味見をするが──


「……リリィさん」


「なに」


「これ、塩どこ行った?」


「減らした」


「なんで?」


「このレシピは健康に良くないと判断した」


「いや、いやいや、これは味付けに必要でな?」


「塩分の過剰摂取は、身体機能に悪影響を及ぼす。」


「だからって、こんなに薄くしなくても!?」


「栄養バランスは最適だ。」


「そうかもしれないけども!」


レオンはスープを再度すくって飲み込んだ。


──味が薄すぎる。


ほんのりと食材の風味はするが、決定的に何かが足りない。


「せめて仕上げくらい──」


「不要と判断した。」


「なぜ!!?」


「不必要な塩や油は長期的に考えると体に悪影響が出る可能性が高い。」


リリィは真顔でそう言い切る。


レオンは絶望的な表情でユウを見るが、ユウは「うーん……」と煮え切らない反応だ。


「……フェル、助けてくれー」


 レオンが天を仰ぎながらぼやいた、そのとき。


 「おー、そろそろ終わった?」


 木陰からひょっこりとフェルが顔を出した。


 「お前、いいタイミングで戻ってきたな……」


 レオンが疲れた声で呟くと、フェルは首を傾げる。


 「へへ、 そろそろ終わったころかなーって思ってさ」


ひょいっと焚き火のそばに近づき、スープを覗き込む。


「いいねぇ、スープ?」


「試作中」


リリィは自信満々に頷く。フェルは興味本位で一口飲んだ──そして、固まる。


「……」


「……?」


「……うん、まぁ、優しい味だよね!!」


「優しいっていうか……存在感がないっていうか……」


フェルがスープの入った器を手にしたまま、微妙な表情を浮かべる。


 ……問題は量だ。


 鍋の中には、まだたっぷりと数人前はありそうなスープが残っている。フェルの器にだって、なみなみと注がれていた。


 「……ユウ、これ塩入れちゃダメ?」


 ユウは器を見つめ、それから遠くをみた。


「うーん……リリィの味、だから、さ……」


「そっかぁ…」


フェルは、器の中で揺れるスープをじっと見つめ、そして諦めたようにあおった。

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