20.見えた未来
森の枯葉に擬態していた虫たちは、カサカサと不気味な音を立てながら、鋭い前脚を振り上げ、四人を襲った。
「結構な数がいるな……でも、これくらいなら問題ない」
レオンは槍を軽く回し、踏み込むと同時に一直線に突きを繰り出した。槍が閃光のように走り、一匹の甲虫を貫く。甲殻が弾けるような音と共に、黒い体液が飛び散った。その途端に他の甲虫たちが反応し、レオンへと一斉に跳びかかる。
「上にもご注意、ってね」
フェルは高所から、手早く矢を構え、狙いを定める。全体がはっきりと見えているのだろう。
フェルは矢を放つと同時に次の矢を手にし、まるで雨のように正確に射落とした。次々と矢が落ち、跳びかかる虫たちを正確に撃ち落とす。
ユウは一歩後ずさり、動きを観察していた。武器を持たない彼にとって、下手に動けば逆に危険になる。
「ユウ、後ろだ!」
レオンが指示を飛ばす。ユウは慌てて避けながら、虫たちの行動を観察した。
それにしても――何かがおかしい。
レオンや、リリィに向かって飛びかかる虫たちの勢いに比べて、自分に向かってくる数が少ないような気がする。距離のあるフェルはともかく、自分が襲われない理由など、ない。
もちろん完全に襲われないわけではないものの、その動作はどこか緩慢だと感じた。
(なんで僕だけ……?)
一瞬、足元を見てしまう。何か違いがあるとすれば――装備? 立ち位置?
そこで、ふと気づいた。
レオンとフェルも腰にランタンをつけている。リリィは、ユウを守るため、ランタンを使い壁を作り出している。一方、ユウは光源を持っていなかった。
(もしかして……光?)
ユウは脳裏を映像がよぎる。光に引き寄せられる虫たち。降り注ぐ矢。
「リリィ、少し離れた場所でランタンを強く光らせてくれ!」
しかし、リリィは動かない。
「ランタン? でも、これは」
今もランタンを使い防御していたリリィにとって、ランタンを手放すというのは、命に関わる…とまではいかないにせよ、相応に危ない行為である。
「大丈夫! うまくいくから!」
ユウの声が鋭く響く。迷いのないその言葉に、リリィは一瞬だけ視線を揺らし――そして決断した。
「……承知した」
意を決し、リリィはランタンを放る。
もっとも高い位置で明るい光が甲虫たちを照らすと、一瞬、その動きが鈍り――次の瞬間、一斉に光へと群がり始めた。
「今だ!」
フェルがランタンから大量の矢を同時に放出、その隙間を縫うようにレオンが槍を振るう。一カ所に集まった事により虫たちは次々と倒されていく。
「……終わったか」
最後の一匹を仕留めると、レオンは槍を引き、地面を見下ろした。甲虫の残骸の間に、緑色の花がいくつも、慎ましげに咲いている。
リリィが静かに近づき、翡翠花を手に取った。
「これで……回収完了」
彼女が回収用の袋を出した事を確認し、フェルが木から降りる。
「いやあ、簡単だったな!」
そう笑うフェルを、レオンが槍を肩に担ぎながら軽く息をつくと同時にこずく。
「調子に乗りすぎるなよ」
それらを意に介さず、ユウは、静かに地面に転がる虫の亡骸を見つめた。
静寂が戻った森の中、リリィの手の中の翡翠花は、戦いの跡を悼むように揺れている。
「……さて、一本じゃ足りないでしょ。もっと回収しなくちゃ。」
ユウの言葉に全員が頷くのだった。




