18.気のいい奴ら
結局、ユウは傷について何も聞くことができなかった。
それとなく話を振ってみたものの、レオンははぐらかすばかりで、まるで答える気がない。
「戦ってりゃ、こういうのはできるもんさ」
この話は終わり、と言わんばかりに酒を煽ったレオンは、ユウに早く寝るように、と促した。
どこか煙に巻かれたような気持ちを抱えながらも、疲れが勝ったのか、ユウはいつの間にか眠りに落ち。
──そして目を覚ましたとき、部屋には誰もいなかった。
「……え?」
昨日の狭苦しい部屋の記憶が瞬時に蘇る。しかし、そこにいるはずのレオンもフェルも、どこにも見当たらない。
寝過ごして置いていかれたのでは、という考えが一瞬頭をよぎる。
慌てて荷物をまとめ、階段を駆け降りると、ちょうど宿の扉が開いた。
「よく寝てたな」
レオンが肩をすくめ、手に持っていた包みをユウに渡した。
包みを開くと、挟まれているのは何かの葉、そして厚めのハムとチーズ。 皮がパリッと焼かれたパンからは、香ばしい小麦の香りが立ち上る。
「おいしそう」
口にしたとたん、ユウの腹がぐぅ、と主張する。
どうにも昨日からこの腹は鳴りっぱなしである、と所有者は苦笑した。
恥ずかしさを隠すようにユウはサンドイッチを一口かじる。パリパリとした皮に塩気のきいたハムとチーズの味が乗り、とても美味しいサンドイッチだった。強いていえば少しぱさついており、口内の水分を奪い取られる為、飲み込みにくい所はあるが。
パンを口に入れすぎて飲み込めなくなったユウをみて、二人は笑う。
「それだけじゃ喉が詰まるだろ」
フェルは皮袋をユウに渡す。白い液体がいっぱいに入ったそれは暖かく、入れたばかりという事がわかる。
慌てて飲んでみると、動物の乳特有のまろやかな甘みが広がり、口の中のぱさつきを流してくれた。
「おいしい……」
食べながら、ユウはふとレオンを見る。
「これ、いくらだった?」
「出世払いだ」
レオンは軽く笑い、気にする様子もない。
「俺の金だぞ」
隣でフェルがひじでレオンを小突く。
「そこは俺の出世に期待してなって」
レオンはニヤリ、と笑い、フェルの翼で顔をはたかれる。
ユウは慌ててフェルにお礼を伝える。
「フェル、ありがとう」
言われてフェルは照れくさそうに羽をもぞもぞさせた。
「別に。今日仕事中に倒れられて困るのはこっちだし。気にしなくていいよ」
昨日から薄々思っていたが、とユウはひとりごちる。
「二人って、思ってたよりいい奴…なんだね?」
それを聞いた二人は顔を見合わせて笑った。