表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/94

17.知らない奴らとの同室

ユウ、フェル、レオンの三人は、ようやく宿の部屋に落ち着いた。


ここに至るまでが長かったのだ。



「後で払えよ」

レオンは、ユウとリリィを見て、渋々財布を取り出す。


それを見て、ユウは腕を組み、口元を持ち上げた。


「ちょっと待って。レオンに襲われたお詫びがまだなんだけど。」


レオンは呆れ顔でため息をつく。

「財布を探すのに協力しただろ」


「それはフェルからのお詫びでしょ」

ユウは肩をすくめ、ちらりとフェルを見やる。


フェルは苦笑しながら翼を揺らした。「まあ、そうだったね」


ユウは目を細め、不遜な笑みを浮かべる。

「一泊分くらい、罪滅ぼしに払ってくれてもいいんじゃない?」


レオンは短く唸ると、しばし考え込み──やれやれと両手を挙げた。


「負けたよ。払えばいいんだろ?」


そうして宿代問題は解決した……と思いきや、新たな問題が浮上する。


レオンが、最低限の硬貨しか持っていなかったのだ。


財布をひっくり返すと、赤銅色に輝く一枚がちんまりと転がる。


「……え?」


「お金は?」


リリィはまばたきを一つする。


レオンは苦笑し、後頭部を掻いた。


「まあ……ちょっと負けが込んじまってたみてぇだな」


自然と、全員の視線がフェルに集中する。


「てなわけで、お前のとこから、なんとか…」


瞬間、フェルの視線がレオンに突き刺さる。


「俺の金だよ。余分なんてない」


そう言いながら、フェルは財布をぎゅっと握りしめた。


沈黙が場を支配する。


その間、全員の視線がフェルの手元に集中し、それはフェルが根をあげるまで続いた。


「…わかったよ!みんなで同じ部屋に泊まろう」


「リリィは女性だぜ?」


レオンが即座に反発する。


それにたいしてリリィは静かに反論した。


「オムニスに性別はない」


「見た目の話だ」


「関係ない」


互いに譲らず、緊迫した空気が漂う。


決裂しかねない状況を止めるように、フェルは大きく手を動かし間に入った。


「ちゃんと二部屋取るよ」


リリィはまだ納得していない様子だったが、フェルが、元々二部屋取るつもりだったことを打ち明けると、不可解そうな表情をしながらも、了承したのだった。



◆◆


そして今、ユウ・レオン・フェルの三人と、リリィの二部屋に分かれることになったのだが。


実際に部屋に入ると、新たな問題が浮上した。


狭い。


フェルがとことんケチった結果、三人で泊まるには手狭な部屋になっていたのだ。

家具も最小限で、申し訳程度のベッドが一つ、布を引いた長椅子が一つ、そして床には粗末な敷布が一枚。

歩くの床がギシギシと音を立て、壁をみればどこから入り込んだのやら、小さな蟻──とはいえ、ユウからすれば、標準サイズの中でも大きい方ではある──が数匹我が物顔で行進している。


どこかに穴が開いているのは間違ってないだろう。


そんな確認をしている間に。ベッドにはすでにフェルが陣取っていた。


「待って。話し合おう。」


ユウが慌てて言うが、すでに遅い。


「だって、俺が一番疲れてるし?」


フェルは悪びれもせず、ふわりと翼を揺らして応じる。


「僕も疲れてるよ!?」


「飛ぶのって、すっごく体力使うんだよね」


適当なことを言いながら、フェルは毛布にくるまり、すっかりくつろいでいた。

譲る気は毛頭ないらしい。


今日ばかりは床は嫌だ、ユウが抗議の声をあげようとした、そのとき。


「お前は長椅子使え」


レオンがぽん、と長椅子を叩く。


「…え?いいの?」


「気にすんな。なれてる」


そう言いながら、レオンは持っていた外套を丸めてそこに座る。


「ほんとにいいの?」


ユウが改めて問うと、レオンは肩をすくめた。


「お前、俺の隣で寝るか?」


「……遠慮しとく」


ユウは小さくため息をつくと、長椅子に腰を下ろした。


固い。


なにより狭い。

足を屈めないと入らないくらいに。


寝心地が悪いのは間違いないが、とはいえ床よりはマシ。


そう考えながらユウは布を被る。


稼いだらベッドで寝ることを誓いながら。


「まあまあ、仲良くしようぜ?」


レオンは服を緩め、笑いながら荷物を漁る。


ゴトリ、と大きな音を立てて取り出したのは酒瓶だ。


まだ飲めるのか、とレオンを見たユウは、息を飲む。


その右肩に古い傷跡が刻まれていた。


胸元から肩にかけてまでつながる痕は、戦いに詳しくない素人がみても十分に痛々しい。


致命傷に、なりかねないものだったのではないだろうか。


ユウが直感的にそう思うくらいに、その傷には威圧感のようなものが存在していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ