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16.大事な事を忘れてる

マルコと共に家へ戻ると、フェルが母親のそばに座っていた。


「今、寝たところだよ」


フェルは静かに言った。


「ずいぶん衰弱してる。食事もろくにとれてないみたいだ」


レオンは泣き疲れたマルコをそっと母親の隣に寝かせ、毛布をかけてやった。少年は小さく身じろぎしたが、すぐに落ち着いた寝息を立てる。


それを確認した後、4人は静かに家を後にした。


蝶番が極力軋まないように丁寧に扉を締めた後、ユウが腕を組んで考え込んだ。


「お母さんの病気、なんなんだろう」


「わからねぇな」


レオンも眉間に皺を寄せる。


「わかった所で、治療方法なんざ、さっぱりなんだが。

俺たちでできることがあるなら、何とかしてやりたいけどねぇ……」


フェルは壁にもたれかかりながら、軽くため息をついた。


「お金もないし、医者を呼ぶのは難しいよ」


3人が話す中、リリィは無言で端末を操作していた。淡い光が彼女の顔を照らす。


「喉の炎症、発熱、倦怠感、皮膚の紅斑……溶連菌感染症だと推察する」


リリィは淡々と言った。


「ヨウレンキン?」ユウが聞き返す。


「細菌による感染。放置すると合併症を引き起こす。ペニシリンで治療可能」


「でも、そんな薬、今はないだろ?オレは聞いた事がないぜ」


レオンが眉をひそめる。


「ある。ペニシリンを生成する植物はこの世界にいくつも残ってる」


リリィは光を指で弾く。


「旧人類が遺伝子改良した植物。


青カビよりもはるかに効率よく、そして簡単にペニシリンを抽出できる。


それら植物は周りの細胞を壊して群生地を作り出す傾向がある。


私は過去にそれを使って薬を作った。」


「じゃあ、その植物を見つければ……」


ユウの表情が明るくなった。


「十分可能と推測する。

この地方なら、森に行けば手に入る。マルコが購入した薬は滋養強壮の漢方。

感染症には効かない」


リリィが会話をするたび、静かな機械音が響く。

大量の情報を処理しながら話しているのかもしれなかった。


「薬草が手に入れば、治せるんだね?」ユウが確認する。


「溶連菌なら、できる」リリィは短く答えた。


レオンとフェルは顔を見合わせる。


「お前ら、すごいな……」


レオンが感心したように言う。


「俺なんて、具合悪くなったら飯食って寝ることしか考えたことなかったぞ」


「俺も」


フェルも苦笑する。


「そうそう。キミら、金ないんだろ? 俺たちもちょうど薬草採集の依頼受けててさ。


もし二人さえよければ、一緒にいこうよ。報酬、山分けでさ」


「え、本当?」


ユウが驚いたように目を見開く。


「それ、すごく助かるよ……!」


なにせユウ達には先立つものがない。

昼食だって、腹を鳴らすユウを見かねたフェルが骨付きの肉一つにパン一塊を買い与えてくれなければ、口にする事はできなかっただろう。


「戦える人数が増えるのは悪くない」


リリィも静かに頷く。


「はは、決まりだな。


それじゃあ、早朝に門で待ってる」


レオンが軽く手を上げる。


4人は別れようとした――が、フェルがふと足を止めた。


「……ねぇ。あのさ」


迷うように。失礼がないように。最大限に配慮しながら。


「二人ってさ……、宿代あるの?」


ユウとリリィは固まった。


完全に沈黙する二人を見て、レオンとフェルはため息をつく。


「やっぱりな」



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