15.事実と伝え方
夜の帳が降り始めた街を背に、四人は小さな高台へと歩を進めていた。遠くに見える灯りが、街のざわめきをぼんやりと映し出している。風が頬を撫で、マルコの小さな肩がわずかに震えた。
「……ごめんなさい」
ぽつりとこぼれた謝罪の言葉は、夜気に溶けるように儚かった。
それでも、彼の声は震えながらも真っ直ぐだった。
「もう、お金は使っちゃった……。どうしても、お母さんに薬を買ってあげたかったんだ」
マルコの拳がぎゅっと握りしめられる。
小さな手の中には何もない。
そして、だからこそ、その思いの強さが伝わってくるようだった。
「薬代が高すぎて……僕が少し働くくらいじゃ、全然足りなくて……。
どうすればいいのか分からなくなって……」
レオンは黙って頷いていた。時折、眉間に皺を寄せる。
彼の表情には、言葉にはしない苦しさがにじんでいた。
それでも彼は、マルコの言葉を最後まで遮らず、ただ聞いていた。
聞くことで救われると信じているように。
──少し離れた場所で、その様子を見つめながらリリィはユウに問いかける。
「何故、母親に説明をしないの?」
リリィの瞳は、月明かりの下で静かな光を宿していた。その問いに、ユウは少し息を吐き、考え込むように視線を彷徨わせる。
「……レオンたちは、お母さんの体調に心労が影響することを考えたんだと思う。
それに、マルコはきっと、お母さんを心配させたくなかった。
それを確かめる為に、まずはマルコの話を聞いたんじゃないかな」
リリィはじっとユウを見つめる。
「……理解不可能」
はっきりとした口調だった。
「事実は事実。彼が何を思おうと、母親は事実を知るべき。問題を共有せず、解決は難しい」
ユウは静かにリリィを見返す。
「……それは、そうだと思う。
間違ってない、正しいよ。
でも、だからこそ伝え方を考えてるんじゃないかな?」
風が吹き、リリィのアッシュグレーの髪が揺れた。
「事実を伝えるってことは、ただ言葉をぶつけるのとは違うんだ。
真実だから、より深く人を傷つけてしまう事もある。
それでも伝えないといけない事だし、受け取れる状態にして渡さないといけない。
レオンたちは、ただ、それを考えてるんだと思う」
ユウの言葉には、どこか自身への反省も混じっていた。
「僕には……できなかった。
だって、僕は自分のお金のことばかり気にしてた。
だけど、レオンにもあの子にも、もっと大事なことがあったんだ」
少し恥ずかしそうに、ユウは目を伏せた。
「すごいな、と思う。それから、少しだけ視界の広さに嫉妬もしてる。
だから次こそは気付けるようになりたいなって。
僕はそう思うんだ」
リリィには、その感情はよく分からない。
でも——
「学習した。貴方達は事実の伝え方を重視する。」
ユウたちにとって、大切なことだという事は、確かに感じ取ることができたから。
静かに見守ろう、とリリィは瞬きする。
月光が柔らかく4人を照らしていた。