13.警戒するのはお互い様
夕暮れの中、石畳の上に、フェルの影がひときわ大きく落ちる。最たる理由は紫に染まり、時に広げる大きな翼だ。
ユウたち四人は、少年マルコの家へと歩き出していた。角や耳、爪など、特徴的なクロスヒューマンが多いこの街でも、フェルほど目を引く存在は少ない。光を受けて艶やかに輝く紫の羽は、まるで異国の特別な工芸品のようだった。
しかし、本人は周囲の視線など気にも留めていない様子で、道端の露店に並ぶ串焼きを眺め、隣を歩くレオンにねだる。
「利子は、あれ5本でいいよ」
「報酬が入ってからな」
フェルの軽い声に、レオンは呆れたように肩をすくめる。そんな二人のやりとりを見ながら、ユウは無意識のうちに眉をひそめていた。
リリィはそんなユウの微妙な表情を見逃さず、歩きながら静かに問いかける。
「ユウ、あなたは警戒しているように見える。何故?」
「だって、この人たち、最初は襲ってきたし……」
ユウは半目になりながら小さくぼやく。が、その声を拾ったのか、レオンが笑いながら振り返った。
「おっと。改めて言っとかないとな。その説は悪かった」
「……聞こえてたの?」
ユウは驚き、レオンを見る。喧騒の中、それほど大きな声ではなかったはずとユウが思い返しているのを察したのか、レオンはふ、と息をもらして笑う。
「警戒してるのはお互い様ってね」
そのままレオンは片目を閉じてウインクした。
その仕草に、ユウは調子を崩されたのを感じた。
盗み聞きしていたことを悪びれる様子もなく、からから笑う様子は悪人にはみえない。かといって、襲ってきたあの様子から、善人とも言い難い。
その掴みどころのなさに、どう距離を取ればいいのかユウは判断に迷った。
隣では、リリィが興味深そうに二人のやりとりを眺めている。
「なんだか調子が狂うなぁ」
ユウが改めてぼやくと、フェルはクスクスと笑う。
「あんまり真面目に考えない方がいいよ。
こいつはそこまで真面目に考えてないから。
今は半分くらいからかってる」
そうだよね、とフェルが笑うと、レオンは若者をからかうのは楽しいんだぜ~、と笑い返した。
「うーん…リリィ、どう思う?僕たちなんか騙されてたりするかな?」
こうなれば、頼みの綱はリリィ先生、一人である。
客観的にどう見えるか、という事に関して、彼女の右にでるものはいないだろう、とユウは思い始めていた。
そんなことを知ってか知らずか、リリィはまばたきをしてから、返答する。
「どちらでも構わない」
「えぇ……」
結構大問題では?と困った顔をするユウに対して、リリィは平坦な口調のまま再度発言をした。
「どちらであっても、あなたの事は私が守るから」
風が吹き抜ける。
喧騒が遠く響く。
全員はただ、押し黙る他ない。
そして。
「……さすかに、かっこよすぎない?」
フェルは誰もが思い、そして口にできなかった事を代表して呟くのだった。




