0.私はリリィ
AI不使用、自分で絵を描いています。
(ここは……どこだ?)
ユウは、黒く輝く石に覆われた空間で目を覚ました。
よくみれば、石の間に光の筋が複数走っており、時折それらがぶつかるとさらに強い光を放つ。
音はしない。ただただ、静かで広さのある空間だ。
でも、それらすべてがどうでもいい。
頭の中は霧のようにぼんやりとしていて、瞬きを行う事すら煩わしい。
もう一度眠ってしまおうか。
意識を手放しかけた、次の瞬間だった。
「目が覚めた?」
抑揚のない声が静かに響く。
ユウは驚き、目を見開いた。
無意識に体を起こそうとしたが、自身の重さに耐えきれない。
感電でもしたかのように、びくりと体を曲げ、そして再び天井を見上げる、という醜態を晒してしまう。
なんとか声の方向に視線を動かすと、目の前に立っていたのは、不気味なほど静かな存在だった。
彼女は人形のようで、同時に明らかに人形ではない。
柔らかそうでありながら球体関節を持ち、無機質な肌に包まれている。
左右で異なる色の瞳が、瞬きもせずこちらを捉えていた。
思わずじっと見れば、目の中でちらりと光が揺れる。下から上に上るように光るそれは、例えるなら、スキャニングでもしているようで。
全てを見透かされているような不安が胸を掴む。
少しの沈黙の後、彼女は口を開いた。
「あなたは旧人類。コールドスリープから目覚めた。」
その言葉に、ユウは思わず声を絞り出す。
「なんて、言った…?」
声帯が震え、ひどい風邪でも引いたような、かすれた自身の声が酷く耳障りだ、とユウは眉をしかめる。
しかし、球体人形はそれを気にすることもなく、淡々と続けた。
「あなたから見て、今は約一万年後。旧人類はすでに滅び、この世界には新人類が生きている」
── 一万年。
脳が拒絶反応を示す。想像を絶するスケールに、ユウの思考がぐちゃぐちゃと塗りつぶされる。
そんなわけがない、そう思うのに、知らない壁が、人形が、なにより知らない大気の匂いがここがユウの知る世界ではないとつきつけた。
叫びたい。
叫んで、叫びたかった。
唾液なのか体液なのか、何かが顔を濡らす感触があって、ユウは無意識に顔を拭う。
息を吸えば身体いっぱいに知らない空気が詰められる。
冷たくもしっとりとしたその大気が肺にまとわりついて離れない。
同時に、自分は生きている、とユウは感じた。
不快である、というその体感こそが、ユウに生を突きつけてくれる。
複数回深呼吸し、そして横を見れば。
いつからだろう、転がる、錆びた古いランタンの先から、色の違う一対の瞳が覗いていた。
「私はリリィ」
彼女の名が、空気を震わせる。
ユウはリリィの瞳をじっと見つめる。
感情を持たないような瞳の奥で、一瞬だけ何かが揺らいだ。
何かに迷うように。躊躇っているように。
やや間を開け、リリィは口を開く。
「私は、君を知りたい」
あぁ、そうなのか、と、何かがユウの胸にストン落ちた。
自分だってそう思っていた。
彼女の事がしりたい。
だから、まずは自分のことを話さなくては。
そう、思ったのに。
自分がどんな人間だったのか、思い出せない。その事に、ユウは愕然とした。
ただ、ぼんやりとした記憶の断片が浮かんでは消える。
それすらももやの中に消えてしまい、存在すらかききえてしまう。
唯一、確かな事は。
「……僕は、ユウ」
自分の名前、それ一つだった。
【リリィ設定画】