第五話『殿下の無関心を打ち破り、恋の火種を灯そう大作戦、実行!!』
「『殿下の無関心を打ち破り、恋の火種を灯そう大作戦』スタートだっ……!!」
リディアは玄関まで到着し、隣りにいる自分の父親、『ルドルフ』王の横に立った。
そして厳格な瞳でリディアを見下ろした恰幅のいい男は言葉を発した。
「リディアよ。何を企んでいるかは知らないが、最近の貴様は何かおかしい。くれぐれも粗相の内容にな。」
ルドルフのその言葉にリディアは半目になってルドルフを見つめた。
どうやらこの男は何かを察しているらしい。
流石に一国の主というだけはあるか。
だがまだバレてはいないだろう。
バレているのならば俺の隣りにいるメイド長のザラックも、護衛隊長のラザードもいないだろう。
ここに来る途中にダルバンとも会った。
まぁ今日が終わったら罰せられる可能性は否定できないが、その場合は面会終了後に考えるしか無い。
「はいお父様。必ずや先方によい印象を残してみせます。」
「うむ、善処するのだぞ。『バルファラス』との同盟は我が国としても念願だ。この国の命運はリディア、お主にかかっておる。」
バルファラス……隣国の名前だ。
なるほど……初日にこの国の希望とか言われたのはこの事があったからか。
にしてもこのジジイ、勝手な責任押し付けてくれるよな。
俺じゃなきゃ投げてたんじゃねェかな。
そうこう考えている間に玄関の巨大な扉が開く。
光が差し込んでくるその扉から、護衛と思しき人物が四人、そしてその四人の前を歩く長身で単発の男がいた。
家臣達の情報から顔は知っていた。
あれが例の男だ。
フィリップは連れている護衛より前を歩き、入ってきて早々リディアとルドルフに挨拶をした。
「お初にお目にかかります。私がバルファラスの第一王子の『フィリップ=ゼル=バルファス』です。」
爽やかに名乗ったその男こそが、リディアの婚約者で、隣国の王子であるフィリップだった。
「ルドルフ陛下……そして、リディア姫、お会いできて光栄です。」
フィリップはリディアの手を取り、膝をついて手の甲に接吻をした。
リディアは心の中で嫌な顔をしたが、この行為が王族の礼儀なのだとザラックに教えられていた為、納得せざるを得なかった。
やっぱり礼儀正しいな。
礼儀が5割の極道の世界で30年生きてきた俺が断言する。
礼儀だけならその世界でも生きていける、それ程には礼儀正しいと俺は感じた。
きっと煙草を出しただけでもライターを差し出せるくらいの反応はできるだろう。
「私もお会いできて光栄ですフィリップ殿下。」
立ち上がったフィリップに声をかける。
男を見上げるというのは、ガタイのいい男だった身からすると、少し変な感じがした。
「良くおいでなさった。立ち話も何です、ささこちらに。」
「はい、失礼致します。」
ルドルフが手で階段への道を促した。
その先には複数人のメイドが立っており、一斉にお辞儀した。 メイドに案内されるフィリップの後ろをルドルフに続いてリディアも歩いた。
ーーー
昨日、リディアとその意思に賛同した家臣達が作戦会議をした部屋に到着し、その部屋の無数の椅子にリディア、フィリップ、ルドルフが座った。
家臣や護衛は別室で待機となっていた。
「改めまして、私がフィリップです。噂に違わぬお美しさですね。リディア姫。」
と社交辞令……とは到底思えぬような言い方をフィリップはする。
誰にでもこの態度なのか、心の底からなのか、女性経験の無い俺からすればよく分からん。
「殿下もお噂以上の御方で、私も驚いております。」
微笑み合う二人を見て察したのか、ルドルフは「ほっほっほ、私が居てはお邪魔かな。」と言って部屋を出ていった。
リディアとフィリップは部屋で二人きりになった。
さぁて、作戦遂行の為にコイツが一体どんな腹の中をしてやがんのか見るとしよう。
親父からなんかしら指示を受けている可能性も否定できねェし、最悪の場合コイツが黒幕の可能性すらある。
俺のスキルでお前の情報引きずり出してやる。
リディアはスキルを使用するために、ズイっとフィリップの目の前に迫った。
真面目になりすぎていたため普段の柔らかい表情をするのを忘れ、少し鋭い目つきになってしまっているのにリディアは気が付かない。
そしてそんな目でフィリップの顔を間近でマジマジと見た。
「リ、リディア姫?」
突然近づかれ、顔を見つめられたことで困惑するフィリップ。
流石に肝の座った隣国の王子でも、目の前の美少女に見つめられてはうろたえる他なかった。
しかしリディアはそんな事全く気にしていなかった。
それにしたってイケメンだなこの野郎。
俺等がガキの頃は強くてゴツくて男気のある奴が人気だったってのに、最近はこんな感じのヒョロガリが皆好みなのか。
……そういや兄貴の子供もパソコンに映し出されてたこんな感じのイケメンを好きだって言ってたな。
確か推し活?みたいな感じのことを言ってたのを覚えてる。
しかもパソコンの中に映されていたのは人間ではなく頭身の高いキラキラした絵だった。
この目の前の男もその絵そっくりの見た目だ。
だから多分この男もイケメンで人気も凄いのだろう。
ザラック達の話を聞く限り、騎士としての腕前も抜群、多趣味多才の天才児。
国内ではすでに英雄扱いらしい。
そりゃ人気も出るわな。
そう考えているとリディアの中で一つの疑問が生じた。
……あれ、こんだけ見つめてりゃそろそろ情報が頭ン中に流れてくるハズ何だけどな。
これじゃただ見つめあってるだけの虚無な時間じゃねェか。
ちょっともっかい見てみるか。
不思議に思ったリディアは一度目と少しだけ変え、目をよく見ることにした。
今度はより深く、より目を凝らした。
するとリディアの目から脳へ流れ込んできたのはフィリップの情報ではなく、悍ましく禍々しい黒い謎の威圧感だった。
リディアはその威圧感の悪寒を感じる前に本能的に飛び退いた。
それは、元武闘派極道として培われた危機感知能力と、それを見た後反射的に行動に移す経験値のなせる技であった。
飛び退いた後は、悪寒による震えを隠すのに必死だった。
「リ、リディア姫!どうしたのですか!?」
フィリップが心配の声をかけるが、リディアにそれは届かない。
なっ、なんだ!?今の黒い影……!!とんでもねぇプレッシャーだった……。それに俺のスキルが通用しねェ……いや、通用しねぇというか……あの黒いオーラのせいで………”何も見えねェ”……!!
くそ……一体どうなってやがる……!!
リディアは一瞬顔をしかめ、臨戦態勢に近しくなっていた体を起こした。
そしてフィリップの方へと向き直った。
「リディア姫、大丈夫ですか?とても顔色が優れないように見えるのですが……」
「御心配をおかけして申し訳ありません。……あのフィリップ殿下のご尊顔を拝見できて、恥ずかしながら少々興奮してしまいました……。」
とリディアは咄嗟に返す。
ここでリディアの見たものの話はできない。
それがなんなのか、どういったものなのか、それは今後明らかにしていく他ない。
「そ、そうですか。いやはや、少し照れますね。」
この男の腹ン中は分からない……。
だが作戦に変わりは無ェ。
こっから全部上手くいかせてやる……。
リディアは心の中で拳を握り締め、決意を固めた。
彼女と、その家臣達のアダム同盟を打ち倒す為の作戦が今、始まろうとしていた。
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