表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

第四話『面会前日作戦会議』


リディアの命を狙ってきたダルバン……感情的な犯行に思われたそれには実は黒幕がいた。

その黒幕の名はアダム連盟。

田舎貴族が王族の権力に負けないようにと作った謎多き連盟。

ダルバンの事情を知ったリディアは、ダルバンを味方に引き入れ、理不尽を振りかざしたアダム連盟を潰す事に決めた。

手始めにリディアは、アダム連盟と関わり合いの深い隣国の国王に近づくため、彼の息子であるフィリップとの面会を前向きに検討することとなった。

そして今日、約束の日を向かえ、一時間もしないうちにフィリップが城に来るところまで、時間は進んだ。


面会前、控室でリディアは椅子に座りながら小さく呟いた。


「さぁ、どんとこいフィリップ!!お前がどんな嫌味な男だろうが俺に完璧に惚れさせてやるぜ……!!俺達の立てた完璧な作戦に失敗はない……!!」


自信満々に呟くリディアには根拠があった。



−−−



時は遡ること12時間程前。


「さて……明日この部屋にフィリップ殿下がいらっしゃる訳ですが……」


リディアの号令により、面会予定の部屋に集められた家臣たちは息を呑む。

これからリディアが何を言うのかを、それぞれ待っていた。


「アダム連盟に近づく為の架け橋として、フィリップ殿下を利用させて頂きます。しかし、フィリップ殿下は婚約に前向きではないと聞きます。無論、それは私も同感です。しかし今はそうは言ってられない状況です。そこで……!!」


リディアは天井から大きな紙を垂れさせた。

筒状にしていた紙がくるくると落下し、文字が現れる。

そして落ちきった紙を指し示しながら大声で言った。


「フィリップ殿下を惚れさせる作戦。名付けて………『殿下の無関心を打ち破り、恋の火種を灯そう大作戦』です!!」


リディアが作戦名を告げた途端、その場にいた全員が首を傾げ、「ん?」と言ったため、リディアはすかさず「おい。」と突っ込んだ。

すると一人、手を挙げる者がいた。

それはメイド長のザラックだった。


「リ、リディア様……。御考えの作戦から内容が全く想像がつかないのですが……」


ザラックの言葉にその場にいた全員がリディアの顔を見て頷いた。


「あれ、そうですか?いいでしょういいでしょう、でしたらご説明します!いいですか?我々の目的はフィリップ殿下との婚約……ではなく、婚約した後、フィリップ殿下の父上『ユグラス王』との接触。そして、その先にあるアダム連盟の壊滅です。婚約はそれを達成するための足がかりに過ぎません。」


それは理解していると全員が納得の表情を浮かべる。


「そして今回のこの作戦の内容としましては、段階別に分けておりまして、全部で5ステップあります。まず第1ステップ!温かい歓迎と興味を引く『さりげない第一印象』です。

フィリップ殿下が城に到着した際、歓迎の場で特別目立とうとせず、あくまで自然体で接するのです。

あいさつは控えめに丁寧に。「お会いできて光栄です」など、形式的ながらも柔らかい言葉を使います。

殿下が目を留めるよう、場にふさわしい控えめですが気品ある装いを選びます。

第1ステップのポイントは、初対面で過剰なアピールは避け、『気になる存在』として印象を残します。」


ほうほうと頷く。

リディアは話を続けた。


「第1ステップを上手くこなした後は第2ステップステップです。第2ステップは関心を引き出す『巧妙な会話作戦』です。

殿下との食事や会話の席で、あえてこちらから話題を引き出すよう努めます。

例えば……

「最近、そちら王国で話題になっていることは?」

「殿下が特に関心をお持ちの分野があればぜひお聞きしたいです。」

会話を振ると言っても、自分から話しすぎず、相手に『話す場』を与えます。適度に驚きや関心を示し、会話に彩りを持たせます。

こちらのポイントは、『自分に興味を持ってくれる人』と思わせることで、警戒心を解きほぐす事です。

興味が無い方には警戒心が多かれ少なかれあると思います。このステップでそれを緩和出来ればなと思っております。」


「その次は第3ステップ、殿下の心を揺さぶる『感情のスパイス作戦』です。

第1第2のステップが上手く行けば、あえて一筋縄ではいかない態度を見せるのも手だと思っております。

例えば、乗り気ではない殿下がやや無礼な態度を取ってきた場合、「殿下でも少し意地悪をなさるのですね」と微笑みながら軽く言い返します。

必要以上に媚びず、殿下に『自分と対等に話せる相手』と感じさせるのです。

こちらのポイントは、少しの挑発と焦らしが殿下の無関心を破るきっかけになると私は考えています。」


「ちょっとお待ちください。」


リディアの話を遮ったのはラザードだった。


「どうした……どうしましたラザード。」


リディアは咳払いをして丁寧な言葉に言い直した。

意識しないとたまに素が出てしまう事がここ数日多すぎた。


「お言葉ですが、フィリップ殿下は初対面の相手や知らない相手に不躾な態度を取るようなお方では無いように思われるのですが……。」


「それはどうしてですか?」


「フィリップ殿下は驚く程にお人柄が良いのです。常に冷静沈着で、誰にも怒らず、それどころか誰が相手でも優しく接し、困っている人がいれば見過ごせないともっぱらの噂です。しかも腕前も随一で、最年少で騎士に叙勲され、複数体の大型モンスターの討伐までも成し遂げています。その場合、この第3ステップというのはどうなるのでしょうか。」


「そうですね……その場合は後半部分の『自分と対等に話せる相手』の方を意識して会話を円滑に進めていこうかと思います。」


今の説明にラザードは納得していない様子で「分かりました」と手を下げた。

しかしそれも無理はない。

作戦を立てておいて結局臨機応変に対応するというのが結論では説得力に欠ける。

だったらその分、作戦の内容で納得させるしかない。


「それでは次です。そろそろ終盤に差し掛かります。第4ステップは、二人きりの場をつくる『特別感の演出』です。

交流の中で、殿下と自然に二人きりになる場を計画しています。

今のところ、城の庭園で「ここは王子にぜひお見せしたい場所です」と案内する予定です。

しかし話題によっては殿下が興味を持ちそうな内容に合わせて差し替え、あえて自分の話は最小限にします。

ここのポイントは二人きりの場を演出しつつも、特別な雰囲気を作り出すことで、印象を深められるところです。」


第4ステップまで話し終えたリディアは遂に最終段階の第5ステップについて話し始めた。


「そして最後の第5ステップは名残惜しさを演出する『別れ際の焦らし』です。

殿下が席を立つタイミングで、何気なく感謝と少しの期待を伝えます。

「お時間をいただきありがとうございました。またお話できる機会があれば幸いです」……等と。

微笑んで言葉を残し、さっと退くことで殿下の心に余韻を与えます。

何よりも大事な最終段階のポイントは、立ち去る瞬間に殿下が「また会いたい」と思えるような印象を残す事です。それが出来なければ次へは進めません。」


リーマンだった兄貴が言っていた。

名刺を渡し忘れればその先の取引は無い……最後に相手へ印象を残すのは一番重要というわけだ。


一通りの説明が終わり、部屋の全員がリディアの方を向いた。

リディアは何か質問や疑問が無いか待っていると、一人手を挙げた。


「なぁリディア。」


言葉を発したのはダルバンだった。

リディアはダルバンの方へ顔を向け発言を促した。


「親父には伝えねぇのか?結婚にゃ賛成してんだろ?」


それは皆思っている疑問であった。


「はい、お父上は婚約に乗り気ですが、私のこの計画には反対なさるでしょう。相応しき時……アダム連盟を崩壊させた後にしっかりと私の口からお伝えします。それまではどうか悟られぬように遂行しなくてはなりませんが……皆様、今更ではありますが、御協力頂けますでしょうか。」


俺はその場にいる全員を見回してから頭を下げた。

誰に頼むにも礼儀は必要だ。

これは命令ではなくこちらから頼んでいることなのだ。

俺だけでは成し得ない。

ならばここにいる皆の力を借りるしかない。


「今回の作戦、どれか一つでも失敗すれば計画性のあったものが崩れ去り、土壇場の臨機応変な対応が求められるものに変わってしまいます。私一人ではそうなりかねない。だから皆様の力を借りたいと考えています。」


俺のお辞儀を止める家臣達だったが、途中からその行為は止んだ。

そしてメイド長のザラックが俺の元へ歩み寄ってきた。


「リディア様はずるいお方です……。こんな話を聞いてしまっては断れないではないですか。」


「………そうですね。なんの覚悟も無しに聞かせるべきではありませんでした。」


俺は身勝手な自分の考えを押し付けた事を悪く思った。

これでは無理やり逃げられないようにしているようでならない。

これは断られても仕方がない。

なんせ親父とユグラス王にこの事がバレれば恐らく全員打首、俺だって姫だから殺されないだけで監禁、軟禁くらいされるかもしれねぇ。

コイツらに命をかけさせるのは俺の身勝手だよな。


そう思っていたが、ザラックの反応は違っていた。


「……いえ、覚悟ならこの城に使えた頃よりしてまいりました。」


「え?」


俺は顔を上げてザラックの顔を見た後周りを見回す。

すると全員が俺を笑顔や自信に満ちた表情で見つめてくる。


「そうですよリディア様!俺達護衛隊にお任せ下さい!今度こそ失態は致しません!」


護衛隊の一同が「おう!」と声を上げる。


「我々メイド一同も協力させていただきます。」


部屋にいる十人程のメイドもスカートを軽く持ち上げお辞儀する。


「皆………へっ………馬鹿な連中ばっかだぜ………。」


馬鹿な連中の馬鹿な行動に少し感動してしまった。

女になったからだろうか、少し涙腺が緩んじまったみてぇだ。


「……んで、お前はどうすんだ、ダルバン。」


俺は溢れそうな何かを飲み込み、隣に座っているダルバンを見た。


「あ?愚問だろ。そもそも俺が火種みてぇなとこあんだからよ。俺が出なくてどうする。手伝うことがあったらなんでも言ってくれや『大将』。」


何故俺が大将なのか、そんなのはもうどうでもいい。

俺がコイツらの命を預かるんなら、それくらいの称号背負ってやらねぇとな。


「よし……!この場にいる全員の決は取れた!後は明日の本番で各々全力を尽くしてくれ!」


一同は「はい!!」と大きな声で返事を返した。



ーーー



そして現在に至る訳だ。

昨日の作戦会議の事もあり、リディアは自信満々だったのだ。

そして、フィリップが現れるまで残り数分を切った。

リディアは控室から出て歩き出し、城の玄関口まで向かった。


「さぁ……待ってろよフィリップ……!!『殿下の無関心を打ち破り、恋の火種を灯そう大作戦』スタートだっ……!!」


歩きながらそう呟き、リディアは意思を固めた。

お読みいただきましてありがとうございます!!

この作品が面白いと感じていただけたのなら是非ブックマークや評価、いいねの方をどうぞよろしくお願いいたします!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ