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第一話『俺は姫じゃねぇ!』



ここは、とある廃棄施設の中にあるコンテナの中。

敵対している極道同士の抗争の場所に選ばれてしまった、悲しき場所である。


廃棄施設のある街の一帯を領土(シマ)としていた最大規模の極道組織・永嶋(えいじま)組。

その構成員は末端の枝も含めれば4000に到達すると言う。

街との関わりも重視され、悪い印象の話はほとんど聞くことはなく、困った事があればどこであれ誰であれ組員が率先して人助けもしていた。


だがしかし、その平和は長くは続かなかった。

永嶋組金庫番であった虎堂信末(こどうのぶすえ)に、組を乗っ取られてしまい、永嶋組組長である永嶋柳兵衛はたった一人で、総勢4000名の極道を相手に戦っていた。

そして現在、その廃棄施設にて逃げ道を失った。



薄暗い部屋の片隅。

拳を振り上げた男たちが怒号を飛ばす中、俺は床に血を垂らしながら笑っていた。


「くっ!なんだこいつ!」


「こんだけ殴って死なねぇなんて……!!」


「やっぱりマジモンのバケモンかよ!!」


老けた男は静かに笑う。


「……クク、バカヤロウ。お前ら、この『不死身の柳兵衛』をこの程度で終わらせられると思ってのか?」


倒れた体を無理やり引き起こし、震える手でタバコに火をつけた瞬間、銃声が響く。

鈍い痛みとともに視界が赤く染まり、意識が遠のいていく。


「なっ………。」


銃を持った男が柳兵衛を見つめながら歩いてくる。


「虎堂さん!」


「手負いの猛獣に手こずりやがって。グズ共が。」


サングラスをかけたロングコートの男は虎堂と呼ばれていた。

しかし、そんな光景を最期に柳兵衛は仰向けで地面に倒れた。

撃たれた場所から血が流れ、熱を感じさせた。

しかし同時に寒気がするという死に際特有の不快感が柳兵衛を襲った。


「あぁ……虎堂よ……。せめて、一発……テメェのムカつく面ァ……殴りたかったぜ……」



不死身の柳兵衛の伝説は、624名の道連れと共にそこで幕を閉じてしまった。


悪かねぇ……こんだけ地獄まで相乗りしてくれる連中がいりゃあな…………



ーーー



次に目を覚ましたのは、ふかふかのベッドの上だった。

柔らかいシーツに包まれた体は妙に軽く、視界には豪華絢爛な天井が広がっている。


「……なんだこれ? 極楽か? いや、地獄か?」


ぼんやりと呟くと、背後から控えめな声がした。


「お目覚めですか、リディア様?」


振り向くと、シワ一つない服を着たメイドが丁寧にお辞儀をしていた。その言葉に、頭が混乱する。


「リディア……? 誰だ、それ。」


「あの、リディア様……。本日は朝の礼拝がございますので、お召し物を整えさせていただきますね。」


メイドは何事もなかったかのように話を続けるが、俺の頭の中では警報が鳴り響いていた。


(ちょっと待て、リディアって誰だよ。俺には柳兵衛っつー最高にイカした名前があんだよ。)


自分の顔を確かめるために手鏡を掴んだ瞬間、そこに映ったのは……金髪碧眼の美少女だった。


「……えっ、嘘だろ。」


慌てて顔を叩く。

痛みを感じる。

夢ではない。

俺のその行動を侍女が咄嗟に止めた。


ちょっと待てよ……よぉーく思い出せ。

俺は永嶋組組長、永嶋柳兵衛。

47歳独身で、この道30年の元極道……。

覚えてはいる……だが、その記憶とこの現状はどうも食い違っている。

目の前にいるこの少女は恐らく16歳程度。

俺と違い顔が潤い、シワはおろか、ニキビのようなものすらひとつない。

眼は青く、まつ毛も髪の毛と同様の金色だ。

おっさんの俺から見てもわかる。

それが美少女の顔だということは。


「……なんだこれ。俺が……姫様?」


混乱の中、豪華な部屋と侍女の存在を目にしながら、俺の現状がごちゃ混ぜになっていく。

だが、何がどうなっていようと、俺は俺だ。

俺らしく振る舞えばどうにか……


そう思った次の瞬間、部屋のドアが勢いよく開き、豪華な服を着た中年の男が入ってきた。


「リディア、また寝坊か! 次期王女としての自覚が足りん!」


男の迫力に一瞬怯むが、極道としての本能が勝る。


「……うるせぇな、そんなこと知るか!勝手に決めつけんなクソジジイ!」


怒鳴った瞬間、室内が凍りつく。侍女たちの顔が青ざめ、中年の男も目を丸くして固まった。


「あ、あの……リディア様?」


メイドが恐る恐る声をかける。

(やっべ、これはまずいパターンだ)前世で鍛えた口の悪さが、早速問題を引き起こした瞬間だった――。


「どうしたんだ、リディア。今日の貴様は"いつも"以上に……粗暴だな。」


中年の男――王の眉間に深いシワが刻まれる。どうやらこの男が、俺の“父親”という設定らしい。


(……いきなり姫なんて役、できるわけねぇだろ。だが、適当に乗り切るしかないか)

俺はふてぶてしく胸を張り、言葉を絞り出す。


「……なんだよ。お前に言われたくねぇよ。」


「なっ!?」


王は顔を真っ赤にして怒りを爆発させかけるが、その場にいたメイドが慌てて割って入る。


「陛下、リディア様はまだお目覚めになったばかりで、少々気分が優れないのでは……。」


(ナイスフォローだ、メイド)

心の中で礼を言いながら、俺はなんとかその場をやり過ごすことに成功した。

不服そうに王が退室すると、ようやく部屋の空気が緩む。

俺はすぐさま侍女を捕まえ、矢継ぎ早に質問をぶつける。


「なぁ、ここはどこだ? 俺……いや、私は誰だ?」


「……リディア様、それは……どういうことでしょう?」


メイドの顔が不安げに曇る。どうやら、本来のリディア姫はこんな質問をするようなキャラではないらしい。

だが、察してばかりでは埒が明かない。俺は強引に詰め寄る。


「いいから教えろ! リディアって奴が何者なのか、それをハッキリさせねぇと……こっちは動けねぇんだ!」


その威圧感に、メイドが思わず「ヒィッ」と声を上げる。


「リディア様は、この国の次期女王であり、王国民すべての希望の星でございます……」


「……は?」


次期女王? 希望の星? この俺が?

意味不明な情報に頭を抱えるが、そこで話は終わらない。


「加えて、4日後の昼には隣国の王子がいらっしゃる予定でございます。そのためのドレス選びを――」


「おい待て。誰だ、その王子ってのは?」


「……フィリップ殿下でございます。以前より婚約の話が進められておりまして――」


「婚約!? 冗談じゃねぇ!」


何処の馬の骨かも知らねぇ若造とこの俺が結婚だと?

そんなにこの国はピンチなのかよ。

部屋を飛び出した俺は、廊下の片隅で一人頭を抱えた。


「どうなってんだ。ったくよ……俺ァこのままここで暮らさなきゃならんのか……?」


そう呟き、柳兵衛は自分の体を見下ろす。

前世でのゴツイ体とは違う、しなやかな体のライン。

イカつい顔面からの、美少女の顔。

しかし不思議な事に、その現状を柳兵衛は受け入れ始めていた。


「だが、こうなっちまった以上仕方がねぇ……帰れねぇなら帰れねぇで、ここで俺流の生き方をしてみるのも悪かねぇな。……死んじまった訳だし。」


柳兵衛改め、リディアは呟いた。

拳を握りしめ、姫らしからぬ血管を手の甲に浮かべた。

握り拳を作った瞬間『パキッ』と音が鳴り、貧弱な体だということを思い知らされた。

この日より、“極道姫君”リディアの騒がしい日々が幕を開けることとなった――。


お読みいただきましてありがとうございます!!

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