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08 不思議な彼女




 弾丸は手を振り下ろそうとしたドラゴンの眉間を貫いていた。

 ドラゴンはおそらく最後の力を振り絞って俺たちを殺そうとしたのだろう。銃弾でドラゴンはあっけなく死に絶えた。

 子供が無事なのを確認した後、俺は銃弾が飛んできた方向を見る。

 そこにはたとえ何千里離れていようとも見つけることができるイヤリングを付けた人がいた。顔も表情も遠すぎて何もわからないが俺のイヤリングと色以外そっくりな、あのイヤリング。

 

 俺はあのイヤリングを三度、見たことがある。

 

 一度目はあの地獄のような戦場で逢った『殺戮人形』の耳に。

 二度目は男に襲われていた女の耳に。

 三度目はドラゴンにとどめをさした人の耳に。

 まるで五角花のような淡い、春を感じさせるピンク色の髪。まるで血のような、暁のような、夕焼けのような、そんな赤色の目をしたあの人。


 君は一体、誰だ?



「――、――ト。リヒト!」


「あ、……なんだ?」


「何だじゃねぇッス、この阿保!! 死んじまったらどうするつもりッスか!」


「悪ぃ。……なぁ、あの狙撃、誰かわかるか?」



 ヴェンは俺がいつも通りなのを確認した後、感情の波を抑えるように深呼吸した。

 


「さぁ。近くに狙撃に適したところがあるとしても、ものすごく遠いッス。白な訳ないッスし、紅は銃を使う奴はいないッス。大砲ならいるッスけど。あるとしたら蒼じゃないッスか?魔法を使ってならあの遠距離攻撃もできるッスよね」


「……ああ、そうだな」



 漠然としない気持ちを抱える。

 いくら蒼といっても銃を使う人はいなかったはずだ。それに蒼はお金を愛している人が多い。となると報酬目当てで倒しただろう。それなのに、こちらのほうに来ず、消えるのは変だ。

 あの人がいた方角に目をやると跡形もなく消えていた。

 

 そこまで考えた後、自分の下でなにかが動く感覚がした。それで自分がまだ、子供を庇ったままだ、ということを思い出した。



「あ、大丈夫か?」


「う、うん……」


「危ないッスよ!? 勝手に飛び出して何考えてるッスか!!」


「ご、ごめんなさい!! 体が勝手に、動いて……」



 ヴェンが男の子を怒っているのがわかった。まぁ、あの男の子はそれをしっかり受けてほしい。今回は助かったからいいものの、いつも助かるとは限らないからな。


 それを横目に見ながらあたりを見渡すとドラゴンの死骸は倒れているは、建物は斜めっているは、被害は甚大だった。

 すると、女の人がこちらのほうに駆け寄ってくるのがわかった。ヴェンがそれに気づいてお説教をやめる。



「あ……」


「ソティラス!!」



 その女の人はソティラスと呼ばれた子供をガシッと抱きしめた。そして次の瞬間、ソティラスの頬を平手打ちしていた。



「何考えてんの! 沢山の人に迷惑をかけて! 死ぬところだったのよ! なんで飛び出したの!!」


「う……うわぁぁ〜ん!」



 ソティラスはまん丸の瞳から大粒の涙を流して生きた喜びを実感していた。母親らしき人物はソティラスと呼ばれた子供を抱きかかえると俺たちに頭を深く下げた。



「本当にご迷惑をおかけしました」


「ああ、子供が無事で良かったな」


「こちらも悪かったッス。なにしろ騎士が止められなかったッスよ……。入場規制ができていなかったのはこちらの敗因ッス」



 それはそうだ。紅はいなかったにしても白や蒼は来てもおかしくない。それなのにあの子供が入ってこれたのはおかしい。

 

 騎士団の見直しが必要だな。

 

 母親はソティラスをとても叱っていた。母親も心配だったようでペンダントを無意識に弄りながら最終的にはソティラスを抱きしめていた。急いでやってきたのか服はボロボロで煤まみれだった。火傷の跡もあったしドラゴンの魔法を受けてしまったのだろう。



「一件落着」


「落着ッス」



 ほっとした気分で沈んでいく夕日を見る。

 


「一件落着……と、思うか?」



 その声を聞いた瞬間、背筋がピシッと伸びる。ヴェンと視線を交わすと彼も冷や汗をかいていた。

 恐る恐る後ろを振り返る。するとそこには額に血管が浮き出るほど怒りまくっている我らが【紅の騎士団長】がいた。



「お話を……聞こうか?」


 団長は親指で倒れかかった建物やら、なんやら俺たちが破壊してしまったものを指さした。

 

 今日は……徹夜だな。




 *   *   *




「ふぅ」


 

 あのドラゴンの大暴れ事件から三日程が経過した。

 騎士団長からはどうして応援を呼ばなかったのか、とか被害をもう少し抑えんか、とかドラゴンくらいさっさと倒せ、とか。

 応援についてはヴェンが呼んでると思ったし、被害にしては俺らの魔法で増やさないようにと思ったし、ドラゴンを秒殺できるのはあなただけです、と口答えしているとボコボコにされた。

 なんならドラゴンと戦った時より、騎士団長と戦った時の方が重症を負った気がする。


 事件を調査すると今回の事件は色々ときな臭いことがわかったらしい。

 

 まず、ドラゴンが王都に運ばれていると言うことからおかしかった。ドラゴンは魔物だ。従魔契約をしているドラゴンなら入れるが野生のドラゴンは入ることすらできない。

 それに加えドラゴンの死体を調査した結果、重度の栄養失調ということがわかった。首には締め付けられた首輪の痕、そして四足のどれにも拘束された痕があった。だからあんなに大暴れをしていたのだろう。

 ドラゴンは突然現れたらしい。あの巨体な体で門をくぐり抜けたことから体を小さくする魔法がかかっていたのだろう。その魔法が突如、解け、まだは誰かが解いてこの事件が発生した。

 

 そして最も不可解なこと。


 それはあのドラゴンが逆鱗を砕いてもなかなか死ななかったことだ。通常、逆鱗を砕くと即死する。俺の攻撃する場所がずれた、と思っていたが検査したところ明確に逆鱗を砕いていた。

 稀に、逆鱗が2つ存在するドラゴンもいるがこのドラゴンは1つだけだった。

 このドラゴンが逆鱗を砕かれてもしばらくは生きることができる特殊変異魔物、なのかそれともまたは別の思惑が動いているのか、騎士団は警戒を強めている。


 騎士団長のお説教によりなかなかあの女性が待っているところへ行けなかった。時間も遅かったし、もういないだろう、と思っていたが案の定、いなかった。


 それにしても男性3人に囲まれてもあの落ち着きよう、……なかなか珍しい女性だ。何なら攻撃しようとしていたしな。

 最近、考えることが多すぎる。あのドラゴンにしろ、あのイヤリングにしろ。俺は考えることが苦手なんだ。一旦外に出て、訓練でもするか。

 

 そう思い、屋敷の階段を降りていくと使用人が騒がしいことに気づいた。



「どうした?」


「リヒト様。いや、実はパテル先生の使いだと名乗る女性がここを訪ねていて……。持ってきた手紙も直筆だと思われるのですが……。あのパテル先生が人をここに派遣するとは思われなくて……」



 確かに。

 俺の主治医だがパテルがここに人を寄越すとは考えにくい。なぜならあの温厚そうな表情に見えてあの腹は真っ黒だ。あの表情に何度騙されたことか。


 苦々しい思い出が沸き上がる。

 


「その人は今どこだ?」


「念のため応接間に待たせております。旦那様には手紙を今、渡しております」


「公爵が来るまで俺が対応する。パテルは俺の主治医だ。もしかしたらその女性を見たことがあるかもしれねぇし」


「そうですね……。では、ご案内しましょう」

 


 執事の背後に従って歩く。とある応接間の前で止まった。万が一、怪しいものだと困るため、扉の前には騎士が2人ほど、待機していた。


 

「御子息様がお顔を拝見したいと申しております。今、よろしいでしょうか?」


「……はい」



 その声はどこかで聞いたことがあった。

 執事が扉を開けると、そこは見覚えのある女性がいた。左耳には星屑を纏ったかのような片耳イヤリングが輝いていた。そのイヤリングは、金色の縁が繊細に装飾され、紺色の大きな宝石が中心に据えられていた。その宝石は、深い夜空のような色合いを放ち、見る者の心を引きつける。さらに、周囲には赤色の小さな宝石がまばゆく散りばめられ、夜の静けさを表しているようだ。そのシンプルながらも洗練されたデザインは、俺のイヤリングによく似ていた。

 髪はピンク色で女性にしては短く、目の色は透き通るような紅色。

 あの事件に巻き込まれなかったようで、火傷の跡もなかった。だけど街では気づかなかった体の歪を感じた。体に義足や義手を付けているのだろうか。

 女性は俺に気づき目を見開いた。



「……また、会ったな。遅くなってわりぃ」



 待っていろと言ったのになかなか、来なかったことを謝る。



「……いえ、元々待っていませんでした」


「まぁ、だろうな。……改めて俺の名前はリヒト・フォン・ヴォレガートだ。お前は?」


「……ルーチェです」


「ルーチェか」



 長年、待っていた。

 長年、探していた。

 そんな何かに、やっと出会えたと心が叫んでいた。


 だけど俺はルーチェに見覚えはなく、頭は混乱するばかりだった。





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